第371話 王都ギルドその2
「ぼっちゃん、名前付けねぇとダメなんじゃねえのか?馬の時そうしたろ?」
そうだった。魔力流しながら名付けしたらテイムできたんだったよな。なんでこいつら名前付けなくても懐いたんだ?愛らしいと思って魔力流したからだろうか?
しっぽ振りながら舌を出して俺の顔を見上げる子コボルト達。もう懐いてるけど名前付けておくか。しかし、6匹も名前考えるの大変だな。単純なのでいいか。
もう一度魔力を流しながら名前を付けていく。
「コボイチ、コボニ、コボサン、コボヨン、コボゴ、コボロク」
順番に名前を付けていくとさっきより明るく光った。さっきのはテイムしたというより魔力、つまりご飯をくれる人と認識しただけなのかもしれないな。今のでちゃんとテイム出来ただろう。
「コボイチ」
「きゃうっ」
順番に名前を呼ぶとちゃんと返事をした。
「ダン、ディノスレイヤでも冒険者登録と魔獣登録出来るよね?おやっさん達と一度戻ろうか」
「ディノスレイヤにそいつら置いてくるならそれでもいいぞ。しかし王都に連れて入るならどっちみち王都のギルドに登録しておく必要がある。こことディノスレイヤのギルドは別だからな」
国と冒険者ギルドは別物だけど、魔物に関することは冒険者ギルドが管轄しているらしい。
「なら、二度手間ってことだね」
「そういうこった。それにあいつらのこともあるし一度顔出した方がいいだろ。あん時のやつは副ギルマスって言ってたろ。ギルマスと直接話した方がいいんじゃねぇか?ギルマスまでクソならまた考えればいい」
「そうだね。俺達の事を探し出せないみたいだし、そうするか」
洞穴の外で待たせていた冒険者達はせっせとコボルトを集めていた。
「な、何ですか、そのちっこいコボルトは・・・?」
「飼うことにした。魔獣の登録するからギルドに行くわ」
「飼う・・・?まさかテイムしたんですか?ちっこいとはいえ一度に6匹も・・・?」
「そうだけど、俺のやり方は他のテイマーと違うみたいなんだよね」
「そ、そうですか」
「もうそれ以上持てないだろ?残りは焼くぞ」
「は、はい」
コボイチ達は元の仲間と理解してるのかしてないのかよくわからないが俺がコボルトの死体を焼くのをじっと見ていた。
コボルトを木にくくりつけて運ぶ冒険者達と荷車の所まで戻り、土魔法を解除して運んで来たコボルトの死体を乗せていく。
「すぐ追い付くから先に行ってて」
シルバーの所に行き子コボルト達を紹介する
「シルバー、こいつらは今日から仲間だ。仲良くしろよ」
お互いフンフンと匂いを嗅ぎ合い、首としっぽを振った。コボルト達が獣臭いのでクリーン魔法をかけて箱に入れてシルバーにくくりつける。
「シルフィード、ダンと馬に乗って」
シルバーがゆっくり歩いてても冒険者達に追い付いた。30匹くらいコボルトを乗せた荷車は重そうだ。
荷車の後ろをゆっくり付いていきようやく門までたどり着いた。
「じゃあ俺達は先にこいつらを解体所に持って行くからギルドで待っててくれ。これまでの礼をしたいから奢らせてくれ」
そういって先に行く冒険者達。俺達は門番に止められる。
「その箱に入ってるのはコボルトか?」
「テイムしてきたからギルドに登録しにいくよ」
「初めて見る顔だが冒険者か?」
「それも今から登録する」
「では何か身分を証明するものを出してくれ」
「はい」
「こ、これは・・・。大変失礼を致しました。どうぞお通り下さいませ」
「お仕事ご苦労様」
「はい、ありがとうございます」
ギルドに到着するとざわっと冒険者達がたじろぐ。
ダンにコボルト達の箱を持ってもらいざわつくギルド内をつかつかと歩いていく。
誰かが走って行ったから副ギルマスを呼びに行ったのだろう。
受付に冒険者登録と魔獣登録したいと伝えるとそのままお待ち下さいと顔がこわばっていた。
どすどすと大きないかつい顔の男と副ギルマスが現れた。さてどう出るかな?
「お前達がうちの冒険者の脚を拘束したやつらで間違いないな?」
「そうだけど」
「俺は王都ギルドのギルマスをしているドルーキンだ。うちに登録している冒険者が申し訳無いことをした。すまなかった」
意外にも素直に謝ってくれるギルマス。
「俺達は疑われたんだけど、謝ってくれるって事は疑いが晴れたってことでいいか?」
「副ギルマスの早とちりという事が他の奴等の証言でわかった。詳細を説明するからこちらに来てくれないか」
俺達はギルマスの部屋に案内される。
事の発端は繋いでいない馬を盗もうとしたがシルバーにやられ、近くに居た冒険者はいきなり馬が暴れたので剣を抜いたらしい。そいつらはシルバーに何もしていなかったらしい。
「馬を盗もうとしたやつは処罰する。剣を抜いたやつらは許してやってくれると助かる。いきなり馬が暴れて危ないと思ったらしい」
「わかった。まだ拘束されたままなんだね。ここへ連れて来て。解除するから」
「いいのか?」
「理由もわかったし、盗みをやろうとした奴をそちらで処分してくれるならかまわない」
副ギルマスも頭を下げて謝る。
4人が運ばれて来たので拘束を解除した。
「ありがとうよ。あとはこちらでやる」
「2日くらいで俺達を探し出せるかと思ったけど無理だったみたいだね」
「ちなみにどこに居たんだ?」
「西の街だよ」
「それで見つけられなかったのか」
「ん?」
「西の街はギルドの支部がないから情報が入りにくいんだ」
なるほどね。
「で、お前達は何者なんだ?王都の人じゃないだろ?」
「去年の感謝祭の時に来て、1月から住民って事になるのかな」
「そうか。最近西の街の住人になったのか。冒険者じゃないんだな」
「今日、そこのコボルトをテイムしてきたから登録したいんだけど冒険者にならないと魔獣の登録が出来ないんだよね」
「そうだ。坊主はまだ小さいから登録はするが活動はさせられんぞ」
「いいよそれで。こいつらを働かせたいだけだから」
「わかった。3人とも登録でいいか?」
「いや俺だけ」
「じゃ名前を教えてくれ。」
「ゲイル・ディノスレイヤ」
「は? もう一度言ってくれねぇか」
「ゲイル・ディノスレイヤ」
「ま、ままさか、あのディノスレイヤ家の者じゃねぇだろな?」
「あのかどうかは知らないけど、ディノスレイヤ領のディノスレイヤだよ。アーノルドは俺の父さん。ディノスレイヤのギルマスのマーベリックさんは知り合いだよ」
ギルマスはバッと立ち上がり腰が折れるかと思うぐらい頭を下げる。
「まさか、英雄アーノルド様のご子息とは知らずに大変なご無礼を致しましたっっっ」
「ギルマス、頭を上げて。それはもういいから。誤解も解けたし処分も約束してくれた事で終わり。あとは登録だけしてくれたらいいから」
「すまね・・・すいません」
「普通にしゃべってくれていいから。冒険者は敬語とか苦手でしょ。俺も普通にしゃべってくれる方が楽だから」
「ならそうさせてもらうが本当にいいんだな?」
「いいよ」
「すぐに冒険者証を発行させるからその間話を聞かせて欲しい」
「いいよ」
「最近うちの冒険者がコボルトやらオークやらを貰ったと報告があがってたが、それはぼっちゃん達か?」
「そうだよ。孤児達に肉を食わせるって言ったから持って帰ってもらったんだ。北の街は孤児が多いの?」
「そうだな。他の街より孤児は多い。一度孤児になると貧しさからかっぱらいやひったくりとか犯罪するやつも出てくる。成人するまで他の街に引っ越す事も出来ん。成人しても働き口はなく冒険者くらいしかなれんからな」
負のスパイラルだな。
「それで孤児出身の冒険者が肉とか差し入れるんだ」
「コボルトの肉は売れんからな。それでも腹を減らしているやつにはご馳走だ」
「やたらコボルトとかゴブリンとか多いけど討伐依頼って出ないの?」
「討伐依頼は王都に近い村からは出るが王都からはほぼ無い。壁があるからな。魔石捕りと護衛、素材採取が主な仕事だから、魔石の取れないゴブリンやコボルトを狩るやつは少ない。仕事の行き帰りに見かけたり襲われたりしたら狩るくらいだ」
「街に近いのにやたらゴブリンやコボルトが多いのはそういうわけなんだね。取りあえずこの辺のコボルトは殲滅してきたから新しい群れが居着くまでは出ないと思うよ。洞穴が繁殖場になっててね。全部倒したらこいつらが居たんだよ」
「殺さずに連れて来て何をさせるつもりだ?」
「西の街で牛や羊の誘導させようと思って」
「そんな事が出来るのか?」
「教えたら出来ると思うよ。コボルトって賢いし。見ててね。コボイチおいで」
呼ばれたコボイチは箱から飛び出して俺の所に来る。続いてコボニ、コボサンと呼んでいく。
「ね、まだ何も教えてないのに名前呼んだら来るくらいは出来る。ちゃんと訓練したら出来るようになるよ」
「ぼっちゃんテイマーなのか?」
「うーん、なんだろね。魔法は色々使えるよ」
「ギルマス、ぼっちゃんは剣も魔法も何でも出来る。テイマーって訳じゃねぇ」
「さすがアーノルド様のご子息様だな。さっきは登録だけと言ったけど依頼を受けて貰ってもいいぞ」
「バタバタして忙しいから冒険者してる暇は無いかな」
「何をやってるんだ?」
「西の街の再開発だよ。1月から西の街の権限委譲されてね。コボルトの活用もその一環なんだ」
「え?街の権限委譲された?アーノルド様じゃなくぼっちゃんが?」
「そうだよ。そのうち店とか宿とか新しく出来るからね。忙しいんだよ」
「その歳ですげぇな」
「お待たせ致しました」
冒険者証と魔獣登録証が出来てきた。
コボルトのどこかにこの登録証を付けておいてくれと言われたので仮の土の首輪を作って登録証をくくり付ける。
「今のは拘束に使った土魔法か?無詠唱でそんな事が出来るとは驚きだ」
それから、副ギルマスから改めてお詫びを言われて冒険者ギルドと和解した。
ギルマスの部屋を出ると冒険者が待っていた。
「もう帰っちまったのかと思ったぜ。さ、奢るぜ」
「気持ちだけ貰っておくよ。こいつらのちゃんとした首輪とか作らないといけないから帰るね。そっちも肉を持って行くんだろ。早く持ってってやりなよ」
「そうか、急ぐならまた今度奢るわ。俺達は捨てられた原石ってパーティーだ。お前達の名前を教えてくれ」
「ゲイルだよ。コボルト殲滅しちゃったからしばらく狩りに行かないけどまたどっかで会うだろ。それまで死ぬなよ」
「わかった。またなゲイル」
捨てられた原石か。そのうち磨かれて光るといいな。
ゲイル達はざわつくギルドを後にしてから屋敷に戻ることにしたのだった。
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