第370話 王都のギルドその1

今日は朝から狩りだ。シュミレ達に昼飯用のサンドイッチを作ってもらい、土魔法の水筒にベーコンとジャガイモのカレースープを入れて貰う。


昨日より少し奥まで入り狩りの開始だ。


王都周辺ってコボルトが多い。まるで都会の住宅地の河川敷とかに野犬が集まって繁盛してるみたいだ。誰か餌やってんじゃないだろうな?


シルフィードが何も言わない間に高速移動しながらファイアボールを撃っていく。始めに比べるとかなりマシになってきてるがまだまだ荒い。せっせと消火活動しながらその様子を見ている。


あっ、


「シルフィード撃つなっ!」


俺とダンが同時に叫んだ。攻撃をやめたシルフィード。その隙に倒した損ねたコボルトに逃げられてしまった。


「どうしたんですか?」


「まだ先だけど、昨日の冒険者達がこっちに近付いて来てる。あのままだと巻き込むからな」


取りあえず倒したコボルトを集めておく。



「おーい おーーい!」


ガラカラガラガラと荷車を引いて走ってきた。


ハァハァハァハァっ


「ず、随分と離れた所でやってたんだな」


「近いところでやってたらお前らの獲物がいなくなるだろ。だから離れたんだよ」


「そ、そうか。そりゃ気を使わせたな」


「馬で来てるからあまり変わらないから別にいいよ」


「そういや馬はどこにいるんだ?」


「危ないから安全な所で待機させてるよ。コボルトをそこに置いてあるけど持って帰るの?ファイアボールで倒したから毛皮の価値は無いけど」


「あぁ、ありがたく頂く」


「肉だけ必要ならここで解体したら?」


「自分達で?」


「そうだよ」


「ぼっちゃん、解体はギルドに頼む奴も多いんだよ」


「へぇ、じゃそのままでいいね」


森の中にまた入り、ゴブリンを狩っていく。


「さ、コボルトが来たぞ」


ゴブリンを狩っていると周りを取り囲むようにコボルトの群れが現れた。


「コボルトにもゴブリンの巣みたいなのあるの?」


「デカイ群れはいるがゴブリンみたいに巣があるわけじゃねぇぞ」


じゃあなんでこんなに多いんだろ?


そんな会話をしている間にシルフィードがコボルトを倒していく。外れた場所が延焼しないようにじゅーっと消すのが続き、シルフィードの魔力がヤバくなったので残りは俺が倒す。


「なかなか上手くいきません」


「まだ始めたばっかりだしね。稽古を続けていけば大丈夫だよ。剣もすぐに上手くなったわけじゃないだろ?」


倒したコボルトを持って冒険者達のいる場所戻る。


「まだ必要?」


「あぁ、積めるだけ貰って帰る」


「俺達今からご飯食べるんだけどなんか持って来てる?」


「い、いや、いつも食ってねぇ」


「ダン、この辺に食えるやついた?」


「あんだけファイアボール撃ってんだ、いるわけねぇだろ」


だよねぇ。


「お前らってコボルト食う人?」


「あ、あぁ、金がねぇ時は食うぞ」


「じゃあスープやるからそれにコボルトの肉いれるか。1匹解体しよう」


俺達3人でちゃっちゃと捌いていく。肩周りのと背中でいいか。赤身の固そうな肉だな。土魔法でこん棒を作って叩いて身をほぐしてと。


「なぁ、あんたら何もんなんだよ。水とかどっから出してんだよ」


「ぼっちゃんとシルフィードは魔法使いだ。気にすんな」


「ま、魔法って、詠唱なんかしてなかったじゃねーかっ!?」


「だから気にすんなって」


なんかごちゃごちゃ言ってるけど無視だ。


叩いてもまだ固そうだから薄切りにして、気休めだけど臭み抜きに水で洗い、鍋作って湯がいて灰汁を抜く。


「あ、あの鍋とか火とかなんなんだよっ!?」


「だから気にすんなって言ってるだろ。黙って見とけ」


お湯を全部捨てて3人分のカレースープで煮込む。スープがコボルトの肉だらけだな。あいつら6人とダンとシルフィードの8人分に対してカレースープ3人分だからな。仕方がない。


「さ、出来たぞ。味見してないからどんなのかわからんけど、ただ塩で焼くよりましだろ」


お椀と匙を土魔法で作ってよそっていき、まずダンが一口食べる。


「ぼっちゃんは無理だな。シルフィードはいけるだろ。カレー味だと結構食えるぞ」


他の冒険者達も食べ出すと、


「う、旨いっ。コボルトがこんなに旨くなるなんて・・・。それにいつもより柔らかい」


「本当ですね。固い羊肉みたいです」


だったら俺は無理だな。サンドイッチだけ食べておこう。


冒険者達は旨い旨いとコボルトのカレー味を食べきった。



「ここはいつもこんなにコボルトが多いのか?」


「冬と夏に数が増える。夏は他の冒険者もいるからマシだが、冬はこんな感じだ」


数が増える時期が決まってるなら繁殖してる可能性があるな。


「ダン、魔物ってどっかから沸いてくるんじゃなかったっけ?」


「どうだろうな。魔物によって違うんじゃねーか?」


「増える時期が決まってるなら繁殖してる可能性があるんだよね。どっかに巣みたいな所あるんじゃない?」


「かもしれんな。ちょっと探してみるか?」


「そうだね。そこ潰したら少しマシになるかもしれないね。コボルト減ったらボアとかウサギとかも増えるんじゃない?」


「そうだな。お前らコボルトよりボアとかウサギの方が旨いだろ?」


「そりゃそうだけど」


「じゃ殲滅しに行こうか」


「つ、付いて行っていいか?」


「いいけど、自分の身は自分で守れよ」


「ぼっちゃん、荷車に積んだコボルトどうすんだ?このままほっとくとゴブリンとか来るかもしんねぇぞ」


「土で囲っておくよ」


土の箱で荷車を閉じ込めた。これで大丈夫。


「な、な、な、何したんだっ」


「だから、ぼっちゃんのする事は気にすんなって。ほら行くぞ」


し、しかしとか言ってる冒険者をスルーしてスタスタとコボルトが出て来てた方角へ気配を探りながら進んで行く。



「ま、待ってくれ・・・」


「これくらい付いて来いよ。ぜんぜんスピード上げてないんだからね」


「そ、そんな事言ったって・・・」


「ぼっちゃん、先見てくるわ。ここで休憩しといてくれ」


ダンはそういうとスッと消えて行った。


「あ、あんたらどこの冒険者なんだ?」


「ダンは元冒険者だけど俺達は違うよ」


「冒険者じゃない?なら何で魔物狩れたり解体とかあんなに簡単に出来るんだよっ?」


「そういう訓練とかしてきたしね。それより冒険者の癖に鍛え方足りないんじゃないの?剣士4人に盾1人、弓1人ってバランスも良くないんだから体力とスピード無いとすぐに死ぬよ」


「あ、あぁそうだな・・・」



「ぼっちゃんあったぜ。ぞろぞろ出て来る穴がある。お前らも付いて来るなら覚悟しておけよ」


しばらく走るとコボルトがあちこちから襲ってくる。


「シルフィード、冒険者に当たるかもしれないから剣だけでやるよ」


襲って来るコボルトをバンバン斬っていく。しかしえらく単純に襲ってくるな?囲んだり奇襲を掛けてくる様子もない。


あらかた片付けたところで巣穴らしき所に入るとまだ何匹か出てきた。それを倒したあと魔法でライトを点けて中の確認だ。・・・嫌な予感がする。


シンプルな洞窟というか奥行きのある洞穴といった方が近いかもしれない。最奥の広場に到着後すると嫌な予感が当たった。



小さなコボルトが6匹・・・


キュンキュンと怯えながら鳴いている。コボルトの単純な攻撃は俺達を狩るのではなく巣穴に近付けない為の攻撃だったのか。若そうなコボルトが多かったからそいつらが先に生まれた奴で、この子コボルトが最後に産まれたやつなんだな。


こうやって見るとまんま子犬だ。これを殺すのは気が引けるな・・・ そう思ってダンが剣を振り降ろそうとしたのを思わず止めてしまう。


「ダン、ちょっと待て」


「ぼっちゃん、小さくても魔物は魔物だ。へんな情け心出すなよ」


「いや、試したい事があるんだ。それがダメだったら斬ってくれ」


ダンにそう言うと剣を鞘に納めた。


子コボルトに近付くといっちょまえにうーーっと唸る。


俺は6匹の子コボルトに魔力を流した。ポウッと光った後唸るのを止めてしっぽを振りだした。


「おいで」


タッと走って俺の足元に来てしっぽをブンブン振る。


「テイムしたのか?」


「上手く行ったよ」


「コボルトなんてテイムしてどうすんだ?」


「牛とか羊の誘導をさせてみようかと思って。牧草地に連れてったり小屋に連れて帰ったりしてくれたら楽だろ?」


「そんな事が出来るのか?」


「教えたら出来るよ」


多分・・・


「なら良いけどよ、街には連れてけねぇぞ」


「え?何で?」


「コボルトは討伐対象だ。魔獣登録しないとダメだ」


「どこでやるの?」


「冒険者ギルドだ。それに魔獣登録するにはぼっちゃんも冒険者登録しないとダメだぞ」


マジかよ・・・


足元には俺の顔を見上げてしっぽを振る子コボルト。こんな顔されたらもう討伐なんて無理だ。



はぁ、ギルドに行くしかないか・・・

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