第369話 ないものねだり
翌朝ダンが南の街の業務用服店のショールを迎えに行き、俺とシルフィードは肉屋で仕入れというか昼飯用の肉を買う。
「そんな少しでいいのか?」
「門の外で食べるからこれくらいで」
「何しに行くんだ?」
「コボルト狩りだよ。王都近くのコボルトとか殲滅しておこうと思って」
「そりゃ街のやつらは助かるけどよ、何の為にやるんだ?」
「修行だよ。春に冒険に出るからシルフィードの実戦訓練」
「嬢ちゃんがやるってのか?」
「まだ修行中だけどね、この娘は結構強いんだよ。コボルト相手なら問題ないんだけど、難しいやり方で倒す訓練してるんだよ」
「へぇ、こんな小さい嬢ちゃんがねぇ。まぁぼっちゃん見てたら歳は関係ねぇってのは確かだな」
「まぁね。じゃあこの牛肉とフランクフルト買っていくよ」
肉屋で昼飯の肉を調達してから小熊亭でしばらく待っているとダン達が帰って来た。
「ダンさんありがとうございました。チッチャ、これあげる」
ショールはチッチャにメイド服を渡した。
「これは?」
「メイド服。動きやすいの選んで来たからね。お揃いだよ!」
「貰っていいの?」
「大丈夫よ。私がデザインして私が作ったやつだから」
ショールは服の職人だったのか。
「職人なのに父親の店出て来てよかったのか?」
「他にもいるから大丈夫ですよ」
ならいいか。
「ブリック、おやっさん達はもうすぐディノスレイヤに戻るけどお前どうする?もうしばらくここで料理を教えてるか?今帰ったら中途半端だろ」
「そうなんですが、屋敷の食事が・・・」
「俺から父さんに手紙書いておくから、残るか帰るかどっちか選べ」
「の、残りたいです」
「わかった。じゃあ小熊亭でしっかり研修してやってくれ。ディノスレイヤに戻ってからのお前の仕事になるからな。お前自身の研修のつもりでな」
「わかりました。ありがとうございます」
小熊亭の事はブリックに任せて俺達は北の森へ向かった。
「この辺でやろうか。コボルトが出たらシルフィードの稽古、他の動きのノロいやつなら剣でというのはどう?」
「いいぞ。気配探りながら行くか」
シルバー達を連れて森に入ると危険なので土魔法で壁を作って中に入れておく。5mくらいの壁で大丈夫だな。草と水を用意してと。
「シルバー、この壁の中に閉じ込めるけど、ちゃんと帰ってくるから大人しくしててね」
ヒヒンと返事したので壁を閉じた。うろうろ出来るスペースもあるし大丈夫だろ。
「ゴブリンが2匹いるからシルフィードが倒して来て」
ススッとシルフィードがゴブリンに向かって行き剣で倒した。もうゴブリンならシルフィードに倒させる必要ないな。見つけたら適当に狩ろう。
数匹倒した所で集めて燃やす。依頼を受けてる訳ではないので耳を切る必要も無い。
「ぼっちゃん、コボルトだ。昨日より多いな」
「ダン、王都からそんなに離れてないのに魔物多くない?」
「冬だから餌が少ないから街に集まってくるし、冒険者の活動も下がるからだろ」
「結構ヤバいよね」
「ディノスレイヤなら冬でも遠出はしないが近くの魔物退治はしてるからな。街の近くにはあまりいねぇな」
「そういや冒険者もコボルト持って帰ったやつらしか見てないね」
ディノスレイヤなら途中で冒険者を見かけることが多い。
「王都は壁と門があるからな。街を守るのはディノスレイヤより簡単だ。金か食うものに困ったら狩りに来るんだろ」
なるほどね。
「じゃ、シルフィード、コボルト退治頑張って。森の中だから昨日より難しいからね。木とか燃えたら俺が消すから気にせずやっておいで」
昨日役に立てなかったと気落ちしていたシルフィードの名誉挽回だ。
木がある分難易度は上がるがスピードが落ちて当てやすくはなる。動きのパターンが読めるようになったら楽勝だね。
ダンは周りを警戒し、俺は木々が燃え広がらないようにこまめに消火していく。
まだコボルト残ってるけどシルフィードの残り魔力やばそうだな。残り2匹をゲイルが土魔法で撃ち抜いて休憩に入った。
コボルトを集めて燃やしながら休憩。
「シルフィードは広い所より森の中の方が向いてるね」
「はい、木の間をすり抜けたりするのは得意です」
小さくて軽いからそれがメリットになるんだな。
「このままお昼にする?それとももう一狩りしてからにする?」
「コボルトもまだ全部焼けてねぇし、飯食おうや」
「了解。肉とフランクフルト買ってきたからそれを焼いて食べよう」
枯れ木を集めて燃やす。肉もフランクフルトも洗った枯れ枝に刺して焚き火で炙った。
「こんな風に食べるの久しぶりだね」
「そうだな。食堂や屋敷で食うのも旨いがこういう飯も必要だな」
「エルフの里探しに出たらずっとこんな飯になるから、そうなったら屋敷の飯が恋しくなるよ」
「そりゃそうだろうな。そう考えるとディノスレイヤの屋敷で飯食って、小屋で狩りして食って、釣りして食ってが一番いいな」
「そうだね。ここはここで楽しいけど、あっちの生活の方がいいね」
「ぼっちゃん、いつまでここの当主やるんだ?」
「ある程度発展して軌道に乗ったら誰かに任せようと思ってるんだけど、最低5年はやらないと無理だろうね。実際には成人するまでやることになるだろうけど」
「5年から10年か。長いような短いようだな。その後どうすんだ?」
「冒険に出ようかと思ってる。遺跡と海を探しに行きたいんだよ。前にも言わなかったっけ?」
「そういやそんな事を言ってたな」
「さ、まだ先の話だ。お客さん来たみたいだしね。休憩終わりっ」
肉を焼いた匂いに釣られたのかゴブリンの気配がぞろぞろとやってくる。そいつらをサクサク片付けていった。
ゴブリンを燃やしたあと、もう一狩りして帰ろうと思ってたらオークだ。
「結構デカイね」
「あぁ、豚肉だ」
やめろ、豚まで食えなくなるじゃないか。
3匹居たので、一人一匹ずつ倒すことにする。狙いは首だ。血抜きを兼ねて倒そう。
剣で首を斬ると、どばーーーっ血が吹き出てオークの巨体が倒れる。
シルフィードは脚を斬って倒れたオークの首を斬って倒した。
「これ、北門の近くまで持って行こうか。それなら誰かいるだろうからあげちゃえばいいよね」
「オークは金になるから孤児の飯になるとは限らんぞ」
「あ、そっか。じゃあ門番に渡そうか。孤児に寄付するからって」
「それも怪しいがしょうがねぇな」
オークを魔法でフワフワ浮かしてシルバーの元へ戻り、ロープで引っ張っていくフリをして北門の近くまで来た。
「あっ!」
コボルトの時の冒険者だ。
「おーい、こっちに来てくれ」
そいつらを呼び寄せる。
「こんな大きなオークを3体も倒したのか?すげぇな。俺達は獲物を見つける事すら出来なかったぜ」
「あ、俺達がコボルトやゴブリンをたくさん倒したからかもしれん。お詫びにこのオークあげるよ。孤児達もたまには違う肉食いたいだろ?」
「ま、まさか、こんな立派なオークをくれるってのか?」
「いらないのか?せっかく血抜きもして持って来てやったのに」
「え?」
「森で燃やしてきても良かったんだけど、孤児達が食うかなと思って持って来たんだよ。ここに置いとくからあと宜しくね」
「ほ、他の素材どうすんだ?」
「売ればいいよ。俺達は金目的で倒してるわけじゃないから。あと明日からはもう少し離れた場所でやるよ。お前らの獲物まで倒したら悪いからね」
「あ、明日も来るのか?」
「他に用事が出来なければね」
「俺達も行っていいか?」
「邪魔しないなら良いけど、絶対来るかどうかはわかんないよ。来てたらファイアボールが飛んでる所にいるから。巻き込まれないようにしてね」
「わ、わかった」
「倒した獲物持って帰るなら荷車とか持ってこいよ。持って帰れないやつは燃やすからな」
そう伝えて今日は終了。屋敷に戻ろう。
「お帰りなさいませ、ゲイル様」
「ただいま。メイド服は届いた?」
「はい、すでに配りました」
「うん、ありがとうね。想像してたより値段安かっただろ?」
「はい、前の物より質も良く、値段は1/5以下でございました」
「な、貴族街の商会で買ったら、買い付けて来てそのまま売るだけで5倍以上の値段を付けるんだ。倍くらいまでなら許容範囲だけど、ぼったくり過ぎなんだよ」
「しかし、こうやって経済が回るという仕組みもありますので・・・」
「それなら庶民街の店で5倍買えばいいじゃん。そっから税収もあがるし金が世の中でぐるぐる回ることには変わらない。なんの工夫もせず貴族街に店を出せた特権にあぐらをかいて金だけ高く付けるような商会のことなんか考えてやる必要ないんだよ。それだけの利益を取るならそれだけの価値を付けてくれないと」
「か、かしこまりました。そのように伝えます」
ん?
「伝える?」
「はい、今まで贔屓にしていた商会から今後の取引はどうなるのかと聞かれましたので」
「そこを使わないと何か問題があるの?何かお世話になってたとか?」
ロドリゲス商会みたいに色々と世話になってたのなら、当主が変わってそれがご破算というのは申し訳ないな。
「いえ、こちらが注文した物を持ってくるだけでございます」
「なら別にいいよね?」
「取引のあった商会は伯爵家から紹介された所でございましたもので」
なるほどね・・・
「じゃあ問題ないね。さっき言った通りの事を言っておいて。俺の名前を出していいから。うちは値段と価値の釣り合った物しか買わないって」
「かしこまりました。当主様のお言葉を伝えます」
ーオークを貰った冒険者達ー
「おいおい、こんなデカイオークをお前らが狩って来たのか?」
「いや、コボルトをくれた奴がまたくれたんだ。孤児達にも違う肉を食わせてやれって。それより運ぶの手伝ってくれ」
「よし、他の奴らも呼んで来る。俺達だけじゃ無理だろ」
手伝いを頼まれた冒険者は自分達だけでは無理と判断してほかの冒険者を呼びに行った。
「何?この前のやつらがまたくれただと?」
「あぁ、素材もくれた」
「どこの奴かわかったのか?」
「いや、それを聞く前に馬で走り去ったよ。明日からもまた狩りしてるから欲しい物があれば全部やるから荷車持って来いと言われてる」
「何を目的に狩りをしてやがんだ?」
「金目的ではないと言っていた」
「そうか。なら明日は何者なのか聞いてきてくれ。それとこのオークを見てみろ。2体は首を斬ってある。1体は足と首だ。おそらく足を斬って倒してから首を狙ったんだ」
「血抜きしておいたと言ってたのはこの事か・・・」
「それでか。他には傷がねぇ。完璧なオークの倒し方だ。ここまでやってくれてりゃ解体も楽だ。肉も高値が付く。どうする肉も売るか?」
「いや、これは孤児達にくれたもんだ。それを売る訳にはいかん」
「そうか。なら肉はもっていけ。他の素材はギルドに売るのでいいな?」
「あぁ、頼む」
ギルドの解体所にオークを持ち込んだ孤児出身の冒険者はレンタル荷車の手配をして、明日は早くから狩場に行くことにしたのであった。
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