第368話 人ゲット
「ぼっちゃま、お屋敷のメイド達が新しいメイド服を欲しいなぁとか言ってましたよ」
「そうなの?じゃあ明日買いに行こうか。ちょっとあそこの店に聞きたい事があったんだよ」
「何かあるのか?」
「いや、店主の娘が料理人になりたいって言ってただろ?小熊亭で働くかなって」
「どんな奴かもわからないのに声掛けるのか?」
「お試しで来てもらえばいいじゃん。ぜんぜんダメならごめんねってことで」
「まぁ、雇ってみないと分からんってのもあるな」
「だろ?」
「あっこから徒歩で通うのしんどくねーか?」
「小熊亭に住み込みでもいいと思うんだよね。休みの日なら家にも帰れるでしょ」
「小熊亭の宿はどうすんだ?」
「宿やるにはまだ人が足らないでしょ。あれだけ食べに来る人がいるならしばらく食堂で頑張った方がいいよ」
「そうだな。なら声かけてみるか」
「じゃあ屋敷の使用人の服を全部新調するか。カンリム、男物の使用人の服のサイズ聞いといて。ミーシャは女性達の聞いといて明日買いにいくから」
「ゲイル様、そのような雑用を当主自ら行うなどと・・・」
「だって貴族御用達の店ってぼったくりじゃん。右から左へ流すだけの店に払うなら庶民街でたくさん買うよ。同じものなんだからね」
「しかし・・・」
「その店の人に用事もあるし、他の街の様子も知っておきたいからね」
ー使用人達の風呂ー
「お風呂って気持ちいいねぇ」
「あんた達、いつまで研修するの?」
使用人とコック見習いの娘達が風呂に入りながら話をしている。
「はい、1ヶ月耐えたら名前を覚えると言われてます。それから本当の研修だそうです」
「はぁ?何それ?」
「ここで合格貰えたら料理学校の先生をして、次の料理人を育てたら新しく出来る店で雇って貰えると言われています」
「厳しいわねぇ。そこまでして料理人になりたいの?」
「女がコックになれるなんて夢にも思ってみませんでした。だから頑張ります」
「本当になれるの?」
「そうなれるように頑張ります。今日もぼっちゃんが作ったオムレツっていう卵料理もめちゃくちゃ美味しくてあんなのがサッサと作れたらいいなと思います」
「へぇ。そんなに美味しかったんだ」
「今日の晩御飯食べました?」
「まだよ」
「師匠が作ってくれたんですけど、初めて食べる味でやみつきになりますよ。庶民街ではまず食べられない高級料理なんだそうです。それもぼっちゃんが考えた料理だって言ってました」
「そんなの私達にも食べさせるの?」
「ご実家のディノスレイヤ家は領主様も使用人も同じご飯を食べてるそうです。だからここも同じになるみたいです」
「変わってるねぇ。私達は当主が変わってラッキーだったってことかな?」
「ぼっちゃんは言った事を必ずして下さいます。街の住民達にこれからこうやって発展させて、家族揃って外食したり旅行出来るくらい収入を上げると言ってました。男も女もやりたい仕事をすればいいって。だから思いきってコックになりたいってお願いしたんです」
「それでここに来たの?」
「はい。親の許可取れたらいいよって。まさかお屋敷で研修してもらえるとは思ってませんでしたから」
「そういや、食堂も風呂もあっという間に作ってくれたのよね。ボンボンのお遊びかと思ってたけど」
「ぼっちゃんはもうディノスレイヤ家から独立されたみたいですよ」
「そうなの?」
「はい、潰れかけてた宿も半月程で一番人気店にしましたし。凄いですよ」
「へぇ、そういやあんた達いい匂いするわね?」
「あれ?髪の毛に塗る薬置いてませんでしたか?髪の毛を洗った後にそれを付けてしばらくしてから洗い流したらつるつるになるんです。これもぼっちゃんが作ったんですよ」
「そういやそんな説明されたわね。後で試してみるわ」
「じゃそろそろ私達は出ますね」
「じゃあまたねー」
ー南の街の作業服屋ー
「こんちはー」
「これはこれはようこそ。先日はありがとうございました。何か不具合でもありましたでしょうか?」
「いや、うちの使用人達の服を全部新調しようと思って。ミーシャ、必要なサイズを教えてあげて」
「こんなにお買い上げ頂けるのですか?」
「取りあえず1着ずつは必要なんだけど、数が揃わないようなら後でもいいよ」
「いえ、このサイズならすぐにご用意させて頂きます。お屋敷にお届けすれば宜しいのですか」
「うん、お願いね。カンリムっていう執事から代金貰って」
「かしこまりました」
「後さぁ、娘さん料理人になりたいんだよね?試しに宿の食堂で働いてみる?いま焼き鳥だけ出してるんだけど、新しい料理出したいんだよね。いま教えてる最中なんだけど人手が無くてまだ客に出せないんだよ」
「えっ?うちの娘を雇って頂けるんですか?」
「料理は向き不向きがあるから1ヶ月くらいお試しになるけどね。それでお互いが良ければ本採用になるけど。給与も初めはあまり高く出せないかもしれないけど」
「ちょっと娘を呼んで来ます」
「初めましてっ!ショールといいます。本当に雇って頂けるんですか?」
「俺が経営してる所じゃないけどね。お客さんもいい人だけど口が悪かったりするし、食堂も小さいよ。ただ常に満員だから忙しい店なんだ」
「やりますっ!」
「ここから通うの遠いから住み込みにする?週に一度休みがあるからその時帰れるけど」
「決まった休みがあるんですか?」
「西の街はどこもそうしていくつもり。働いてもらいたい小熊亭ってのは宿屋と食堂をやってるんだけど、宿はしばらくやらないから、休み取れるよ」
「いつから働けますか?」
「あと2日くらいはうちのコックが教えてるけど、その後は小熊亭の人から教えて貰うことになるよ」
「今から行っていいですか」
「今から?」
この娘は小柄だからシルバーに3人乗りで連れていけるか
「店主さん、娘さんこう言ってるけど大丈夫なの?」
「宜しければお願いします。場所はどの辺りでしょうか?」
「西門から入った裏通りの入り口近くなんだけどね」
「かしこまりした。では娘を向かわせますので」
「俺達も行くから馬で一緒に行くよ。娘さん小柄だから俺とシルフィードと3人乗れるから」
「えっ?当主様の馬にうちの娘を乗せる?」
「うちの馬は賢いから暴れることもないから安全だよ」
「いえいえ、そのような事では無く、平民の娘を当主様の馬に乗せるなどと・・・」
「あぁ、そんなの気にしなくていいよ。取りあえず一度連れていくけど店主も一度食べに来て。どんな所かわからないと不安でしょ。住民達が毎日来るような店だから安いし」
「かしこまりました。ぜひ伺わせて頂きます」
「じゃあ配達お願いね。じゃ行こうか」
シルフィードとショールと3人乗りだ。
「う、馬ってこんなに高いんですね」
「初めは怖いけど慣れると気持ちいいよ。ゆっくり歩くけど落ちないように掴まっててね」
カッコカッコとゆっくりシルバーが歩き小熊亭に着いた。
「ぼっちゃんお帰りなさーい。そちらの人は?」
「料理人希望の人。セレナさん呼んで来て」
ジロンとブリックも来て全員集合だ。
「うちで働いてくれるなら助かります」
「住み込みでもいける?」
「はい大丈夫です。」
「じゃあ1ヶ月お試しで宜しくね」
「着替えとかは・・・?」
「あっ・・・」
「ダン、店が終わったら一度送ってあげて。それで明日の朝もう一度迎えに行くよ」
「も、申し訳ございません」
取りあえず今日からブリックが教える事になった。ドワン達と一緒に帰るとなるとあと2日くらいか・・・
アーノルド達に迎えに来てもらうのも手だな。
その日は全員で小熊亭を手伝った。俺はもちろん足湯で。途中からベントも加わり小熊亭は大いに賑わったのだった。
ー南の街の作業服屋ー
「お父さんただいま」
「もう帰って来たのか?」
「着替え持ってくの忘れたの。それとメイド服持って行っていい?」
「お前が着るのか?」
「チッチャっていう宿屋の女の子が居てね。私より3つも下なのに凄いのよ。今日はぼっちゃんも店を手伝っててもうスッゴい人気だったよ。小さい食堂なのに人がたくさん来ててね。あ、これお土産。温め直してから食べて」
「これだけで店やってるのか?」
「今はね。新しい料理だすからって、試しに唐揚げとか食べさせてもらったの。めちゃくちゃ美味しいのよ。あんなの店で出してるのわかったらみんな西の街に行っちゃうと思うよ。取りあえずそれ食べてみて。初めて食べる味よ」
「こりゃ旨い。客がたくさん来る訳だな」
「あたし絶対あそこで正式採用してもらうから」
「じゃあメイド服を持っていけ。お前とその女の子の分だな」
「うん、また明日の朝迎えに来てくれるの」
「そうか。西の街は良いご貴族様が管理されるんだな」
「うちも引っ越せばいいのに。こんな服屋無いみたいだし、どんどん店が出来るみたいだからいいと思うよ」
「そうだな。少し考えてみるか」
「これからは西の街だよ。明日ダンさんに聞いてみるね」
ー1日前の王都ギルドー
「お前達随分とたくさんのコボルトを狩って来たんだな」
「いや、俺たちが狩ったわけじゃねぇよ。馬に乗った大きな奴と子供二人が全部倒したみたいだ。ファイアーボールがバンバン飛んでたから何事かと思って見に行ったら倒したコボルト集めて燃やそうとしてたから貰ったんだ」
「金払ったのか?」
「燃やすつもりだったから丸ごと持って帰るならやるって言われて、その後、スライムのいる場所を聞かれた」
「倒した魔物をちゃんと焼こうとしてたなら素人じゃないな。どこの冒険者だ?」
「見たことねぇやつらだ」
「お前さっきファイアボールが飛んでたと言ってたがこのコボルトは焦げてねぇぞ。どうやって倒したんだ?斬った痕もねぇし、やたら綺麗だぞ」
「そういやそうだな・・・」
「おい、今度そいつらに会ったらどこの冒険者か聞いておいてくれ」
「わかった」
ーゲイル邸使用人の食堂ー
「このリンスって凄くない?ほら見てよ私の髪。こんなにフワフワになったの初めてよ」
「本当だな。それめちゃくちゃ高い薬なんじゃねーか?」
「風呂にたくさん置いてくれてあるわよ」
「使用人にそんな高いもの与えるとかなんか企んでるんじゃねーか?お前らどっかに売られるんじゃねぇのか?」
「えっ?」
「考えてもみろよ。俺達にそんな良い目させてなんの得があるんだよ」
「だって男風呂にも置いてあるんでしょ?それならあんた達も売られるんじゃないの?男が好きな奴っているらしいし」
「やめろよっ、俺はそっちの気はねぇぞ」
「料理の研修生が言ってたけど、あのぼっちゃんの実家は使用人も当主も同じご飯を食べてるって言ってたわよ。だからここもそうするって。昨日食べたカレーってめちゃくちゃ美味しかったじゃない?あれも超高級品で庶民の口に入らない食べ物なんだって」
「なぁ、やっぱり俺達売られるんじゃねーか?最後に旨いもんでも食わせてやろうとか・・・・」
ーゲイル邸の風呂ー
はー、風呂はいい。皆で入るのもいいけど誰にも邪魔されずに一人の風呂は格別だよな。
ゲイルは一人で仰向けになって温泉にふよふよ浮いて身体がシュワシュワするのを楽しんでいるのであった。
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