第367話 魔導ライトと風呂完成

「え?お留守番ですか?」


ミーシャはお留守番と言われてしょんぼりする。


「この辺の危険度がわからないからね。スライムを捕まえたらすぐに帰って来るよ」


「わかりました」


お留守番と言われてしゅんとするミーシャ。シルフィードは行くのに自分は連れて行って貰えないのが寂しいようだが仕方がない。



西門から出て確保した土地に向かう。柵をかなり広く張り巡らせたので一部解除して中を通る。


「これ、今まで誰も通ってないのかな?通ってた人いると迷惑だよね?」


「まぁ、足跡がねぇから大丈夫じゃねぇか?問題が出るようならそんとき考えようや。今日はスライム探しが先決だ」


「そうだね」


雑木林が有るところを目指して走ると、


「居やがるな」


コボルトの気配だ。10数匹の群だな。


「あいつらが領地に来るかもしれないから討伐しておこうか?」


「よし、シルフィード。お前やれ。魔法でも剣でもいいぞ。俺達はバックアップに入るから」


シルフィードを馬から下ろして一人でやらせてみる。高速移動しながらのファイアボールだ。止まってる的でなく動く的はかなり難しいみたいでなかなか当たらない。


初めはシルフィードを獲物と認識していたコボルトが形勢不利とふんだのか逃走態勢に入った。時間切れだな。


「シルフィード、下がれっ」


他の所なら見逃してもいいけど、こっちに来るかもしれないから討伐しておかないと。


シルフィードが下がったのを確認して雷をバリバリっと。勝手に当たってくれる雷魔法って便利。シャキールに感謝だ。


感電死したコボルトを集めて燃やそうとしたら冒険者らしき奴らが走って来やがった。


「お前らそのコボルトどうするつもりだ」


「焼いておくんだよ。そうしないと他の魔物が寄ってくるかもしんないだろ。素人かお前らは?」


「いらないならくれないか」


「お前ら冒険者だろ?自分の稼ぎは自分でやれ」


「違うっ、金になる毛皮はいらん。肉が欲しいんだ。燃やしちまうなら食わないんだろ?」


「コボルトは不味いって聞いたことあるぞ。ダン、コボルトって旨いのか?」


「食えなくはないって所だ。ぼっちゃんには無理だと思うぞ」


あぁ、臭い肉なんだな。


「別にいいけど、オークとかの方が旨いんじゃないのか?」


「そりゃそうだけどよ、コボルトの肉でも喜んで食う奴らがいるんだよ。こんだけいりゃ腹いっぱい食わせてやれる」


「誰に食わすんだ?」


「孤児とか食えねぇやつらがたくさんいるからな。そいつらの飯だ」


ふーん、なかなかいい奴らじゃないか。


「お前らも孤児だったのか?」


「そうだ。だから冒険者になった奴らでそいつらを食わすんだ。俺達もそうして貰って来たからな」


「お前ら王都本部所属の冒険者か?」


「それがどうした」


「いや、別に。これをくれてやる条件だが」


「な、なんだ。悪ぃが金ならねぇぞ」


「いや、スライムがいる場所を教えてくれ」


「スライム?それならギルドで売ってるぞ。こいつら燃やそうとしたぐらいだから金はあるんだろ?」


「自分で捕まえるからいいよ。場所だけ教えてくれ」


「そ、それならあの林の向こうに水辺があるからそこ行きゃたくさんいるぞ」


「わかった。じゃその死体ちゃんと持って帰れよ」


「もちろんだ」


「じゃな」


「おい、毛皮はどうすんだ?」


「全部持ってけ。ちょっとは金になるんだろ?」


「あ、ああ。本当にいいのか?」


「どうせ燃やすつもりだったからな。持って帰ってくれりゃこっちも楽だ」


そう言い残してスライムのいる場所に向かった。


「ぼっちゃん、どれにする?」


「小さいの5匹くらい持って帰ろう。大きくするのも簡単だし」


「じゃ、土の箱に入れてくれ。冬場で腹減ってるかもしれんからあまり近寄らん方がいい」


小さめのに目星を付けて土魔法で閉じ込めた。2匹と3匹入りだ。


「じゃ、帰ろうか」


目的の物をゲットして帰ろうとしたらシルフィードの元気が無い。


「どうした?」


「何も役に立てませんでした」


「高速移動しながら動く的に攻撃魔法当てるの難しいだろ?」


「はい」


「ぼっちゃん、明日からシルフィードの稽古をここらでやるか。より実戦に近い方がいいだろ?」


「そうだね。ここならギャラリーもいないから集中できるしね。シルフィードもそうしようか」


「はいっ」


「じゃ、取りあえず今日は帰ろうか。スライムを持って帰らないと」


思ったより早く帰れたので小熊亭に顔を出してから帰ることにした。


「あ、ぼっちゃん」


「どう?人雇えた?」


「うん、友達が働いてくれるって」


「そうか良かったな。料理人は増えそう?」


「それはまだみたい」


「そっかぁ。ブリックもいつまでもここに置いとけないからなぁ。ジロンさんとチッチャにちゃんと覚えてもらって新しく人が来た時に教えられるようになってね」


「うん、頑張るよ」


ジロンはブリックと集中して料理を作ってるようで俺達が来たのに気付かなかったようなのでそのまま帰った。



ミゲルに言われた所にスライムを入れていく。1匹余ったので厨房から出る排水の所に足しておいた。



「これで今日から風呂に入れるぞ。後はトイレの交換をして終わりじゃ。魔導ライトの事は兄貴に聞いてくれ」


ミゲルもめちゃくちゃ仕事早ぇな。


「おやっさん、魔道ライトの方はどう?」


「もう終わりじゃ。こっちへ来い」


案内された所に魔石入れとスイッチが付いている箱がある。


「これが大本のスイッチじゃ。各箇所にもスイッチは付けてある。魔石はこことここに入れてある。片方が無くなればもう片方の魔石から魔力が流れる仕組みにしてあるから、両方一度に外さん限りライトは消えん」


素晴らしい。こんな改良までしてくれてあるのか。


「改良型の魔道ライトじゃから前の奴より魔石の減りはマシじゃがなんせ数が多いからな。全部つけっぱなしにするとあっという間に無くなるぞ」


「わかった」


「魔力がほとんど残ってない魔石を大量に集めて来てやったから勝手に補充しといてくれ」


結構大きい魔石がゴロゴロある。取りあえず魔力有る分だけ補充しておこう。



魔力を補充した魔石をセットして各部屋のスイッチを入れて確認していく。


そしてソドム達の部屋に来た。


「仕事中にごめんね。魔道ライトのテストするから」


パチンとスイッチを入れたらちゃんと点灯した。


「暗くなったらここのスイッチを入れて、誰も使わない時は消してね。結構魔石の消費が激しいから」


「あ、ありがとうございます」


「まぁ、ライト点けなくていい時間で仕事終わらせてね。あとちゃんと休みも取ってね。いちいち管理しないから自己管理で」


最後は厨房だ。


「お邪魔するよー」


「いかがなさいました?」


「ライトの点検」


パチンとスイッチをいれると厨房がとても明るくなった。ここはずっとつけっぱなしでもいいな。


「ものすごく見やすいですね。こんな物があるんですか?」


「ディノスレイヤの屋敷とチュールのバルはもうこんな感じだよ。帰る時は消して帰ってね」


「あ、ありがとうございます」


「あと、浸けておいた大豆を煮るのにちょっと厨房使わせてね」


「何を作られるんですか?」


「リンスだよ」


「どんな食べ物ですか?」


「食べても害はないけど、これは髪の毛用だね」


「髪の毛?」


「そうそう。髪の毛を石鹸で洗ったらごわごわになるでしょ?それを元に戻す為の物なんだよ。今日から温泉にはいれるから皆はいってから帰りな。この温泉は街の再開発をした時に高級宿にも取り入れるから。リンスもそこに置いておくからね。出来たら使い方を説明するよ」



大豆をことこと煮て撹拌して絞り、ダンにレモンを皮ごと絞ってもらう。


オリーブオイルを加えながら魔法を使って高速撹拌していく。


乳液状になって完成。レモンを皮ごと絞って入れたのでほんのり爽やかな香りもしている。


「ぼっちゃん、腹減ったぞ」


そういや昼も食べてなかったな。


「なんか食べたいものある?」


「カレーが食いてぇ」


「今からだと時間掛かるよ」


じゃあなんでもいいと言われたのでオムレツにしておこう。


「シュミレさん。もうみんなお昼ご飯食べたんだよね?」


「あ、ゲイル殿はまだでしたか、すぐに何か作りますので」


「いいよ、みんなに料理を教えるのに注力してて。パンはある?」


「はい、それは大丈夫です」


「なら、それだけ貰うよ。後は勝手にやるから」


「新作ですか?」


「どうだっけ?簡単な奴だから作ってないかも」


玉子に生クリームを入れて混ぜる。そこにチーズをちょいちょいと入れて、塩胡椒で味付け。ベーコンと玉ねぎを炒めて粗熱とったら卵液の中へ。


バターをフライパンに入れて、卵液を入れてカシャカシャ、よっ、ほっ、トントントン


「はい完成。ミーシャ食堂に持ってって。ダンとシルフィードに先食べろって言って。ミーシャも食べる?」


そう聞くとにっこり笑ってスキップしていった


次のを焼いてるとシュミレが見ている。


「食べる?」


「宜しいのですか?」


「二つ分余るように用意してあるから味見用ね」


シルフィード達の分を焼いてからシュミレ達の分を焼く。


「どんどん味が落ちていくから気にせず食べて」


俺に気を使って食べようとしないので早く食えと伝えてから自分のを焼いた。ミーシャは戻って来ないのでもう食ってんだな。


自分で作って自分で持っていく。


「ぼっちゃま美味しいです」


「ミーシャ昼飯食ったんだろ?」


「はい、だからパンは我慢します」


「晩飯食えるならパンも食べたら?」


そういうとパンにハチミツかけやがった。


「ぼっちゃん、旨ぇけど食い足りねぇぞ」


「もうすぐ晩飯だろ?我慢しろよ。それより食ったら風呂に入ろう。ミーシャもシルフィードもリンス作ったからそれを試して」


もう俺の気分は飯より風呂なのだ。


食べ終わった食器をミーシャとシルフィードが片付けている間に温泉を溜めていく。


「ダン、今日はもうこのままダラダラするからね。風呂上がりにエール飲むか?」


「おっ、いいねぇ」


「じゃあ準備してくるからお湯の量を見といて。いっぱいになったら止めて温度調整宜しく」



大豆を庭に植えて水をやりながら育てていく。もう面倒だから魔法で湯がいてザルに上げておこう。


ミーシャ達が来たので、リンスの使い方を説明して、屋敷用の風呂に男湯と女湯に別れて入る


「ミーシャ、シャワーの使い方わかるか?」


「シャワーって何ですか?」


「身体を洗う所に水やりの先みたいなの付いてるだろ?」


「はい」


「そこのレバーをゆっくり下げてみろ」


「キャッ わ、お湯が出ました」


「それで頭とか洗うと楽だぞ」


「わかりましたぁ」


男湯と女湯は壁で仕切られてるが上は空いてる銭湯みたいな感じだ。


ミーシャに説明した後俺達もシャワーで身体と頭を洗う。おお、炭酸泉で頭を洗うと物凄くすっきりする。


洗った後はリンスだ。髪に馴染ませてる間に身体を洗ってリンスを流す。髪の毛もツルツルだ。


熱めの温泉に浸かるとめちゃくちゃ気持ちいい。


「ぼっちゃん、この風呂いいな」


「本当だねぇ。身体の中にお湯が染み込んでいく感じがするよ」


王都に来てからダンも俺も休みなくずっと何かをしてきた。その疲れがどんどんほぐれて行く。


「ぼっちゃま、もう出ます」


「俺達も湯あたりしないように出ようか」



着替えて出るとミーシャ達も出て来たので温風で髪の毛を乾かしてやる


「髪の毛どうだ?」


「はい、つるつるフワフワです」


二人とも火照った顔にフワフワな髪の毛がとても可愛らしい。


「食堂で炭酸水でも飲もうか」



「ぼっちゃん、気が利くねぇ。」


枝豆と冷えたエールに喜ぶダン。たまにはゆっくりしてくれ。


「炭酸水だけでも美味しいですね」


「そこにハチミツとレモン絞っても美味しいぞ」


それを聞いたミーシャとシルフィードがいそいそとレモンを持って来たのでダンが絞ってやる。


「すっごく美味しいです」


「甘いものはいいですねぇ」


二人とも幸せそうだ。



「なんじゃ、先に飲んどるのか?」


ドワーフ兄弟がやってくる。


「おやっさん達も風呂入って来なよ。早くしないと枝豆全部なくなるよ」


「ミゲル行くぞ」


ちゃんと身体洗ってから入ってねと言うとわかっとるわいと言われた。一応リンスの使い方を説明しておく。


この調子だとみんな枝豆食うな。


追加で大量に育てて茹でていく。ミーシャ達に使用人の食堂にも運んで貰い、厨房にも持って行ってもらった。



ドワン達の髪の毛を乾かすとフワフワの髪の毛のドワーフが完成だ。皆でその姿を見て大笑いした。


「随分と楽しそうですね」


シュミレ達が晩御飯のカレーを持って来てくれる。


「お、カレーじゃねぇか」


「ダン殿がお昼に希望されてたのを耳にしましたのでカレーにしましたよ」


ドワン達も大好きなカレーだ。


「カレーなら後は俺たちが勝手にやるからお風呂に入って来なよ。研修生達も入らせてから帰って」


ミーシャとシルフィードが研修生達と他の使用人達に風呂の使い方とリンスの使い方を説明しに行ってくれた。


ソドム達やカンリム、ホーリックが帰って来る度に同じ説明をして入れ代わり立ち代わり絶賛しながら戻って来る。


やっぱり温泉は正義だな。





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