第366話 閑話:それぞれの出来事
「坊主、炭酸水が出たんだってな」
ドワンが飯の時に炭酸水が出たことを聞いて来る。
「うん、泡もきめ細かくて美味しいんだよ。料理にも使えるしラッキーだったね。温泉も炭酸泉だから疲労回復に効くよ」
「バルの後ろに出た温泉と違うのか?」
「お湯そのものは同じみたいだけどね。それに炭酸が含まれてるって感じ」
「そうか、こっちの方がいいのか・・・」
ドワン拗ねんなよ・・・
「あ、そうだ。ミーシャ。俺のことちょっと名前で呼んでみてくんない?」
「名前でですか? ではゲイル様」
あ・・・うん、なんとなくサラ感が出るから嫌だな。
「ミーシャ、成人するまでぼっちゃまでいいや・・・」
「はい・・・?」
「こちら新作のアテでございます」
シュミレがネギ入りの卵焼きを持っ来てくれた。味見してみると鶏ガラスープで下味を付けてあるみたいだ。やや膨らみが足りないけど甘いのより美味しい。
「なぁ、ダン。酒のアテって意味分かるよな?」
「つまみのこったろ?ぼっちゃんが良く言ってるからわかってるぞ」
「そうじゃな。坊主はいつもアテと言っとるな。初めは何か分からんかったが慣れたわい」
ん?
「ミケ、酒のアテって言うよな?」
「チュールとかには通じへんかったで」
知らなかった、アテって関西弁だったのかもしれない・・・
まぁええ。その内みんなアテって言うようになるやろ。
ーコック見習いの着替室ー
「ゲイル様ってやっぱり凄いんだね」
「うん、あの卵焼きっていうの美味しかったなぁ」
「あんな簡単にぱっぱっと作ったの師匠は何回も練習してたもんね」
「私達もあんな風に作れるようになるかな?」
「頑張れば絶対になれる!そう思ってないと心が折れるよね」
「めちゃくちゃ怒られたしね」
「あれはあんたが指切ったからでしょ」
「お薬飲んだらすぐに治ったのもびっくりした」
「あれ、ポーションっていって凄い高いらしいよ」
「あのメイド服もそうだよね。それも2枚も」
「そんな物を私達に用意しててくれるなんてねぇ」
「うん、ゲイル様の期待に応えられるように第一目標は師匠に名前を名乗れるようになること」
「そうだね。明日からも頑張ろう!」
ー屋台街ー
「なんでお前らの店ばっかり客が並ぶんだよ」
「仕方がないじゃないか。フランクフルトを食べたい人が多いんだから。売る数も減らしたし、値段も上げたしこれ以上何をしろっていうんだよ」
「俺らの所でも売ってやるから仕入れ先を教えろ」
「やめろっ、子供相手にみっともない。仕入れ先は自分で開拓するもんだろ。それにそのフランクフルトは坊主達が考えて特別に作って貰ってるやつだとよ。他のやつは仕入れられん」
「うるせぇぞ、たまたま隣の屋台ってだけで新しいタレを教えて貰いやがって。それならそのタレを俺らにも売ってくれよ」
「お前ら坊主と何も関係ねぇだろ、こっちは坊主の面倒をみる代わりにこれを売って貰ってんだ。関係ねぇやつは引っ込んでろ」
「なんだとこのやろうっ。自分さえ良けりゃいいってか?」
「なんの騒ぎだっ!」
「ちっ、衛兵かよ。なんだよ、屋台街に衛兵なんていつも来ねぇだろ」
「騒ぎがあれば屋台でもなんでも関係ない。何を騒いでいた?」
「こいつの屋台が売れないから俺達にいちゃもんを付けて来やがったんだ」
と、ベントの屋台の隣のおっちゃんが衛兵に説明をする。
「いちゃもんなんかじゃねぇっ!こいつが来てからおかしくなっちまったんだよ。変わった物を売り出してあっと言う間に行列の出来る屋台になりやがってよ」
衛兵はベントの屋台をちらっと見ると前に詰所で食べたものだった。団長から街の支配者からの差し入れだと教えられたものだ。
「この屋台に行列が出来ることとお前が文句を言うのになんの関係があるのだ?」
「こいつらばっかり儲かって俺らの屋台の売上が下がったんだよっ」
「それはお前の屋台がまずいからだろ。自分の力不足を人のせいにするな」
「不味いわけねぇだろっ、俺んとこは人気店だったんだぞ」
「何を売っている?」
「豚の串焼きだよ」
「お前達は?」
「フランクフルトです」
「焼き鳥だ」
「よし、金を払ってやるから1本ずつ焼いて持ってこい。俺が確かめてやる」
「豚と焼き鳥が1本銅貨2枚、フランクフルトというのは銅貨10枚か。串焼きにしては高いな」
「この坊主はな、売れ過ぎて他の屋台に迷惑をかけるからって倍に値上げして客をわざと減らしたんだ。その上1日に売る数を1/3以下まで減らして配慮したんだ。それをこのボケがいちゃもん付けて来やがって」
衛兵はまず豚串を食べた。シンプルな塩焼きだ。
「旨いがどこにでもあるやつだな」
「串焼きなんてそんなもんだろうがっ」
次は焼き鳥だ。変わったタレが塗られている。
「お、これは初めて食べる味だな。こってりした味が旨い」
「この坊主に卸して貰ったタレが塗ってある。こいつをやりだしてから客が一気に増えた」
「自分だけそんなもん用意して貰いやがって」
「黙れ」
最後がフランクフルトか。焼きたてはこれ程まで旨いのか・・・
「フランクフルトと初めてのタレを塗った焼き鳥は抜群に旨い。これなら行列が出来るのは当然だろう。別に違法行為を犯しているわけではない。お前が言い掛かりを付けているだけだ。これ以上騒ぐなら詰所で詳しく話を聞いてやるぞ」
「けっ、潰れちまえお前らの屋台なんかすぐに飽きられるわっ」
言い掛かりを付けて来た豚串屋はそう捨てセリフを吐いて帰って行った。
「衛兵さんありがとう」
「いや、治安を守るのが衛兵の仕事だ。このフランクフルトは自分で考えたのか?」
「弟が考えた奴だ。俺と弟が考えた焼き鳥は小熊亭で焼いてるから違う物をここで焼きだしたんだ」
「そっちの焼き鳥のタレは?」
「これはそのフランクフルトを考えた奴が兄貴の面倒を見てくれるならって条件で特別に卸して貰ったんだ」
「そうか。ならちゃんと面倒を見てやれ。この歳で屋台をやってると色々あるだろうからな。今みたいに問題になるようなら遠慮なく衛兵を呼べ」
「おぅ、助かったぜ衛兵さんよ」
あのフランクフルトの屋台は支配者の兄がやってるのか。そんな事をせずとも金はあるだろうから他に目的があるのか?その事を公にしていないようだからそうなのだろうな。これは見廻りを増やしておく方が良さそうだな。
ー南の街 作業服屋ー
「おい、西の街はこれからコックを増やしていくみたいだぞ。男でも女でもどっちでもいいらしい」
「本当?お父さん?」
「今から研修をするって言ってメイド服を買って行ってくれたんだ。まだ小さいのに立派なご貴族様だったよ」
「その研修って私でも受けられるの?」
「街の税金で研修するから西の住人しか無理だとよ」
「なぁんだ。ぬか喜びじゃん」
「ただ店が出来はじめたらそこで働きながら覚えたらいいとも言ってたぞ」
「うっそ、それいつから?」
「来年の今頃には店が出来はじめるらしい」
「ありがとう父さん、それが出来るまではここを手伝うからね」
「じゃあ、女物のコック服を作れ。その内売れるだろうからな」
「まっかせといて!」
ー王都ゲイル邸の使用人食堂ー
「ねぇ、本当に風呂が出来てるよ」
「どこから来た大工だろう?新しい食堂ももうすぐ出来るって。なんかあっと言う間にどんどん出来ていくよね」
「あの風呂、温泉っていうんだとよ。薪も魔道具もいらない勝手に出てくる湯だと」
「そんな便利なものあるんだね」
「あ、ロンド、イタリお疲れ~。どう研修は?なんか人がいっぱい来てたけど」
「料理研修生だって。そのうち街に出来る食堂のコックになるらしいよ」
「メイドじゃなく?」
「さぁ?あたしらの所の部屋のひとつが着替え部屋になっててそこに服が用意されてたんだって」
「へぇいいなぁ。私たちも新しいメイド服欲しいなぁ」
「あのぼっちゃんに言ってみれば?ポンって買ってくれんじゃない?」
「買ってくれるかな?」
「だってあの子達の服も新品だったよ」
「ええぇ?中古じゃないの?」
「違う違う。全部新品」
「ねぇ、ロンド言っておいてよ。私ら直接話せる機会ないしさ」
「私達もないよ。あのコックと話してるから。パリスは時々話してるからパリスに言ってもらえば?」
「あいつなんか最近怖いんだもん。真剣な目付きでここでもずっとなんか作ってるし。まぁどれも旨いんだけど」
「そうそう、今日ぼっちゃんが卵焼きってのをパパって作ったのよ。それがめちゃくちゃ美味しくてさぁ」
「卵焼いただけのがそんなに美味しいの?」
「ちょっと甘くてフワッフワでさぁ、先生してるコックも作ったけどあんな風にならないの。何回もやり直してたわよ」
「ちょっとあんたそれ作りなさいよ」
「無理無理、やってみたらぜんぜん上手くいかないの。パリスが出来るようになるまで何度も失敗品食べることになるわよ」
ーフンボルトの部屋ー
「えー、願いましては、銅貨1枚なーり、5枚なーり、12枚なーり」
パチパチ パチパチ
「なるほど、これならメモを取らずに計算が出来る。万年筆を右手でもってソロバンを左手で出来るようになれば格段に計算が早くなるな。よし、練習あるのみ」
10枚なーり、7枚なーり・・・・
ー紋章屋ー
「あの英雄アーノルド様とアイナ様のご子息が王家の一員。その紋章をお任せ頂けるとはなんたる
ーゲイル達ー
「ダン、明日スライム捕まえに行かない?あれがいないと風呂出来ても入れないんだよね」
「そうだな。どの辺にいるか探さなきゃならんな。北門から出る方面になるだろうけどどうする?」
「あいつらと顔合わせるの嫌だから西門から出て北へ向かおう」
「そうだな」
ミーシャはお留守番にしてシルフィードを連れて狩りに行こう。まぁスライムなら水辺を探したらどこにでもいるだろ。
狩りも久しぶりだな・・・
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