第365話 紋章を作ろう

「20人前追加だぞ。どんどん作れ」


パリス達は大工の料理を大量に作らされていた。



「へぇ、そのような事があったのですか。ゲイル様達相手に命知らずな者どもですね」


ハンバーグを食べながらホーリック達に今日ギルドでの出来事を話していた。


「冒険者ギルドに行くと毎回なんかあるんだよね。ディノスレイヤはギルマスがしっかりしてるからまだいいけど、王都の副ギルマスはいきなり俺達が悪いみたいな言い方してさ。普通は何があったか先に聞くよね?」


「ギルドは冒険者を守る義務もあるからな」


「ダンはそういうけど、その前に教育する義務があるんじゃない?あいつらがシルバーにちょっかいかけなければ何もおこらなかったわけでさ、それに剣を抜いてなければ話し合いで済んだじゃん」


「そりゃそうだな」


「王都は街中で剣を抜くのは許されるの?」


「基本はダメですよ。剣を抜いた相手にはこちらも実力行使する権利が生まれます。なのでゲイル様達の行為は合法ですね」


ホーリックが言うなら間違いないな。俺達は悪くない。


「ぼっちゃん、あいつらの拘束解除されたかな?」


「さぁ、無理なんじゃない?前の盗賊達も解除出来ないって呼び出されたじゃん。エイブリックさんが言ってくるってことは宮廷魔導士でも解除出来なかったってことだからね」


「どうすんだ?」


「知らない。そのうち俺達のこと調べてなんか言って来るでしょ。その時の態度で決める」


「調べられなかったらどうすんだ?」


「王都ギルドが無能って事が証明されるだけだ。冒険者を守る義務があるならギルドで一生面倒見てやればいい。ろくでもない冒険者をのばなしにしてるんだからな」


「ゲイル様、このような面倒事に巻き込まれるのを防ぐのに馬達に貴章を付けておくのをお勧め致します」


「貴章?」


「はい、馬車等にも紋章を付けますので馬達にも必要かと」


「普通は付けてるの?」


「普通は貴族が庶民街をウロウロする事がございませんからね。ゲイル様のような方はおられないのです」


なるほど、俺の落ち度はそこか。ちょっかいかけられないように魔除けみたいに付けておく方がいいんだな。


「ぼっちゃん、紋章屋に行って紋章作る予定だったろ?ちょうどいいんじゃねぇか?」


あ、すっかり忘れてた。デザインなんも考えてなかったわ。


「そうだったね。ミサにデザイン頼もうかな。あれ?ミサは?」


「あいつは店が忙しくなってたみたいでな、置いて来たぞ」


おぉぅ、バッドタイミングだ。先に頼んでおけば良かった・・・


「なんか良いのないかな?何にも思い付かないや」


「紋章屋に任せるというのも宜しいのでは?」


「父さん達が言うには恥ずかしいデザインになるから自分で考えた方がいいぞと言われたんだよね」


「そうですか?ディノスレイヤ家の紋章は良いデザインだと思いますよ。一目でディノスレイヤ家だとわかりますし」


この世界の人のセンスは中二病的な所があるからな。良い歳して恥ずかしいってのは無いらしい。


「分かりやすくシンプルなのでいいから。明日行ってくるよ」


もう日の丸でいいや。農作物には太陽が必要だしな。西の街を象徴するのにも分かりやすい。



ー紋章屋を探して移動ー


アーノルドに教えられた紋章屋ってこの辺だったよな?


「ぼっちゃん、あそこじゃねぇか?」


ダンが指を差した店がそうだろう。


「こんにちはー」


「はい、いらっしゃいませ」


「ここって紋章屋?」


「そうです」


「ディノスレイヤ家の紋章作ったのここ?」


「はいっ!あれは渾身のデザインだったと自負しております」


ベラベラと嬉しそうにうちの紋章のレリーフを見せながらあれこれ説明を始める。


「もう一つのデザインも捨て難くて、それがこちらなんですけどね」


・・・アーノルドがアイナを抱き上げてるデザインとか恥ずかし過ぎる。この2択だとあっちを選ぶわな。


「わかったわかった。俺も紋章作らないといけないんだけど、シンプルなのを考えてるんだ。こんなやつなんだけどね」


「白地に赤丸だけですか?」


「そう、太陽のイメージ」


「赤い太陽ですか?太陽なら黄色とかの方が宜しいかと思いますが」


あー、太陽を赤で描くのって日本人だけだとか聞いたことあったな。


「白地に黄色だと見えにくいから赤でいいよ」


「わかりました。後はお任せでも宜しいですか?」


「いいよ。急いで作りたいんだけど」


「登録とかはいかがなさいますか?お急ぎなら代行も致しますが」


「登録?」


「はい、貴族章はどの家のものかを国に登録する決まりになっております。お名前と爵位を教えて頂きましたらすべてこちらで行いますので」


「じゃあ頼むよ。身分証明書に付けるのと馬に付ける貴章を作ってもらいたいんだよ。馬に付けるのは2つ欲しい」


「かしこまりました。ではお名前と爵位を教えて頂けますか?」


「名前はゲイル・ディノスレイヤ。爵位は・・・、ダン、俺の爵位って何?」


「なんになるんだろな?」


「ゲイル・ディノスレイヤ様・・・?ディノスレイヤ領のディノスレイヤ家とまた違うディノスレイヤ家ですか?」


「いや、アーノルド・ディノスレイヤは俺の父さんだよ。同じディノスレイヤ家」


「えーーーーーっ、こ、これは大変失礼を致しました。使いの方だと勘違いしておりました。私の不敬なる態度を何卒・・・・」


「いや、そんなの気にしないから。父さん達もそんな事何も気にしなかったでしょ?うちはそういう家系だから」


「はいっ、アーノルド様とアイナ様ご夫妻はとても素晴らしいお方で私達にも気さくに べらべらべら」


こいつアーノルド達の信者だったか・・・


「はいはい、父さん達の話はいいから。今回、ディノスレイヤ家とは別に俺個人に身分をもらったんだよ。だから紋章を作りに来たんだけどね」


「そのお歳で別に爵位を持たれているとはさすがアーノルド様のご子息様でいらっしゃいます。その紋章を私にお任せ頂けるとはなんたる光栄!」


「いや、もうそれはいいから、俺の爵位って何かよくわからないんだよね」


「爵位がわからない・・・?身分証を拝見させていただいて宜しいですか?」


エイブリックに貰ったものを見せる。


「こ、これは・・・?王家の・・・」


「なんか準王家とか言われたんだけど、新しく作ってくれた身分なんだよ。だから爵位って言われてもよく分かんなくて」


「王家は王家でございます。爵位ではございません・・・」


「準って付いてるから正式な王家じゃないよ。王位継承権とかもないし」


「始めて拝見いたしましたので・・・。しいて言えば公爵家に該当するのでしょうか・・・・。そのような身分の方が私に紋章を依頼されるのは・・・」


「え?無理なの? 困ったな、他の紋章屋とか知らないんだよね」


「指定された紋章屋がございませんでしたか?」


「何にも言われてないよ。作っとけと言われただけで」


「どなた様にでしょうか?」


「エイブリックさん」


「だ、第一王子のエイブリック殿下であられますかっ?」


「父さんと友達なんだよね。殿下って呼んだ方が良かった?」


「あ、いえ。アーノルド様とエイブリック殿下のご関係は存じあげておりますので。あの・・・本当に私に紋章をお任せ頂けるのですか?」


「そっちが問題なければね。頼める?」


「はっ、この紋章屋のロンが確かにゲイル殿下の紋章を承りました。一目でゲイル殿下のご威光が分かるデザインに致します」


殿下とかじゃないから・・・


バランスよく日の丸を配置してくれるだけならこのまま任せておこう。


「じゃあ登録と身分証に付けるやつ、馬の貴章を2つお願いね。いつ頃来たらいい?」


「一週間後でお願い致します。お屋敷にお持ち致します」


「いや、しょっちゅう出掛けてるからまた一週間後にまた来るね」


「この命にかけてやり遂げますっ」


いちいち大袈裟な・・・




「ぼっちゃん、殿下だとよ」


「やめろよ。様付けで呼ばれるのも嫌なのに」


「俺もぼっちゃん呼びすんの止めた方がいいかもな」


「もう定着してるからそれでいいよ。まぁ成人する頃にはぼっちゃんは恥ずかしいかな」


「そうか、ならこのまま呼ぶわ。俺が名前で呼んだら、ミーシャも名前で呼ぶだろうからな。ミーシャにぼっちゃまと呼ばれてんの気に入ってるだろ?」


確かに・・・、ミーシャにそう呼ばれるのは呼ばれ心地がいいかもしれん。言葉そのものよりイントネーションというか声の質というかなんだろね?なんかほっとするんだよな。それなら名前呼びでも変わらなさそうな気もするけど。



屋敷に戻るとなんかどんどん出来て来ているな。


「坊主、温泉掘れ」


はいはい。


大きめのバルブを元にして屋敷用と使用人用を分けるのか。


まずバルブの穴を掘りセットして貰い土魔法でガチガチに固定。バルブを少し開けながら掘り進めていくと初めに水が出て止まる。ディノスレイヤと同じパターンだな。そのまま掘り進めるとまた水が出てきたけど・・・? ん?


シュワシュワしてんじゃん


掘るのを止めてその水を鑑定


【強炭酸水】飲用可


素晴らしい。天然炭酸水じゃんっ!


「坊主、なんだそりゃ?」


「天然の炭酸水だよ。こういうの出る所があるのは知ってるけどここまでシュワシュワが強いの初めて見たよ」


「ディノスレイヤでは出なかったのか?」


「出なかったから、別の水脈かもしれないね」


炭酸水のやつは別に掘る事にして先に温泉だな。そのまま掘り進めていくけどなかなか温泉が出ない。


「まだか?」


「想像で掘ってるからよくわからないけどディノスレイヤより深く掘ってると思うんだけどね。絶対出るわけじゃないから」


途中で炭酸水が出たからディノスレイヤと違う水脈なのかもしれない。てっきり同じだと思ってたからがっかりだ。


せっかく掘ったのでもう少し掘ってみる。これで出なければこの屋敷の温泉は無理だな。それに万が一石油なんか出たら最悪だ。使えない石油なんて汚染物質でしかない。


そんな事を考えながらもう少し、もう少しと掘り進めるとフシューーと湯気が出始めた。やった!


そのままもう少し掘るとバルブがガタガタ揺れだした。ヤバいっ!


慌てて周りの土を強化してパイプ代わりの土の配管をトゲトゲにするとバルブの震えが止まった。ディノスレイヤより相当圧力が掛かってるみたいだ。


「親方、少しずつバルブ開けるから離れて。吹き出すかもしれない」


ゆっくりゆっくり少しずつバルブを捻るとお湯がどーーーっと出だした。


鑑定っと。


【湯】地下深くで温められた水。高濃度の二酸化炭素が含まれる。高い回復効果とわずかな治癒効能有り。打ち身、筋肉痛、関節痛、擦り傷、あかぎれ、肌荒れ等が治癒される。


素晴らしい。炭酸泉だけの事があるな。回復効果が高いってのが追加されてる。


「親方、これでOKだね」


「なら配管繋ぐぞ」


風呂の近くに水のバルブを設置して温度調節を可能にする。混合した湯をこうするとシャワーが出るのか。シャワーは固定式だけどね



やったぁ!これで温泉ライフが楽しめるぞ。旨い飯と良い風呂。QOLが大幅に上がったな。


ミゲルが風呂の最終工事をしてくれている間に厨房へ向かう。


コック見習いに来た女の子達がシュミレに泣きそうなくらい怒られてんな。危ない包丁の使い方をしたみたいだ。


「シュミレさん、ちょっといいかな?」


「ゲイル殿どうされました?」


「いや、面白い水が出たから厨房にも掘るけどどの辺がいいかな?」


シンクの所がいいと言われたのでそこにバルブを差して掘っていく。まず水が出たあと少ししてから炭酸水が出た。


「ゲイル殿これは?」


「天然の炭酸水。このまま飲んでもいいし、料理にも使えるよ。肉とか煮込む時これを使うと柔らかくなるしね。卵焼きとかもふわっと仕上がるよ」


「卵焼き?」


そういや鰹出汁がないから作ってなかったな。甘い玉子焼き作ってみるか。


卵を混ぜてよく濾す。塩、砂糖、マヨネーズ少々を入れてさらに混ぜて濾す。炭酸水をちょっぴり入れてと


調理器具に卵焼き器もあるけど使ってないな。十分熱したら油を入れて卵液投入。気泡を素早く潰してくるっとな。


よし、ふわふわ卵焼きの完成だ。粗熱を取ってから切り分ける。


「はい、卵焼き。味のバリエーションはいくつかあるけど今回は甘いやつね」


「うわっ、フワフワで美味しいです」


「ゲイル殿、これは新作レシピですか?」


「ちょっとしたコツはあるけど卵焼いただけだからね。レシピ作るほどのものでもないよ」


「あと棒で作られてましたが?」


「これは箸っていってね、使い慣れたら便利なんだよ」


「やはりこちらに来て良かった。ゲイル殿が何気なく作られるものが新しいレシピなのですよ。この調理器具はこの為のものだったんですね」


「そう、こうやって巻くのにコツがいるけど、慣れたら簡単に出来るよ。卵にネギ入れたり、大葉いれたりとかアレンジも出来るし、すぐ出来るからお酒のアテにもなるでしょ」


「アテとは?」


ん?


「お酒と共に食べる物」


「あぁ、つまみのことですか」


「そうそう。つまみと同じ」


「わかりました。今晩作りますから楽しみにしていて下さい」




あれ?酒のアテとは何ですかと初めて聞かれたな。


ん?


まぁいいか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る