第363話 南の街でお買い物

「街の住人の料理教室ですか?」


食事が終わり、副コック長のシュミレ、フンボルト、ホーリックを交えて今後やっていくことの1つとして料理人と接客係の教育をしていく話をする。


「そう、俺がやってもいいんだけど、そうすると来年とかになっちゃうんだよね」


「いや、ゲイル殿は他に色々とやって頂く事があるでしょうから、私がやりましょう。シュミレにお任せ下さい」


「本当?ありがとう助かるよ」


但し厳しいですよと言われたがそれでへこたれるようなら料理人は諦めてもらおう。


「フンボルト、学校なんだけどね」


将来の学校の展望を伝える。


「そんな早くから文字を教えて行くのですか?」


「文字を覚えるなんて早い方がいいんだよ。遊びながら覚えられる物を作るから。学校は楽しいと思ってもらえたらいいし。それには教師の教育からしないといけないんだよね。義務教育は九九も教えたいんだけど、教師やりたくて賢い人とか居ないかな?」


「わかりました。それはソドムさんに相談してみます。文官の中には仕事に疲れて辞めたがってるものもおりますので」


「中央の文官から庶民街の教師とか嫌がるんじゃない?ほら家の名前とか掛かってんでしょ」


「それはそうですが、文官で燻ってダメになって行くよりいいと思いますよ。西の街の学校は最先端の教育をするのでしょう?」


九九が最先端って・・・


「まぁ、やってくれるならいいけど。頼んでおいていい?」


「お任せ下さい」


「治安の方は何か問題がありますかな?」


「今の所は無いよ」


「それは良かった。何かありましたらいつでもお申し付け下さい」



明日あたりにドワン達は帰ってくるだろうか?帰って来たらまず基礎工事と温泉掘りだな。



翌日、エイブリック邸に魔道具を返却してロドリゲス商会に調理器具を発注しておく。包丁は多めに頼んでおいた。


再開発工事が一番最後に入る所で接客教室が出来そうな空き物件をソドム達に見繕うように指示しておいた。



小熊亭でご飯を食べ終わる頃に昨日の女の子達がやって来た。


11人だな。


「皆、親御さんの許可取れたの?」


「はい。ぼっちゃんのところならと言われました」


「了解。これから毎日朝から日暮れまでみっちり料理を教えていくけど相当厳しいよ。教えてくれる人かなり怖いから。それでも大丈夫?」


「は、ははい。頑張ります」


「そこで料理を覚えたら、実際に料理を作ってお客さんに出す訓練をしていくよ。料理より接客の方が向いてるなと思ったらそれでもいいから。同じ場所で接客も教えていくからね。場合によっては料理も接客もしてもらう。それでいい?」


「はいっ」


「それから料理を覚えたら次に料理人になりたい人の先生にもなってもらうよ。そこで学んだ人がまた次の先生になれるようにしてね」


「はいっ」


「じゃあ、今から場所を教えるから付いてきて。本番は明日から。今日は料理を教える場所と先生を紹介するから」


女の子達をぞろぞろと引き連れて屋敷に向かう。


「ぼ、ぼっちゃん・・・。ここ貴族街ですよね。入っていいんですか?」


「別にいいよ。街からすぐだし。ここより奥には行かないでね」



「お帰りなさいませゲイル様」


「カンリム、この娘達にここで料理を教えるから。顔覚えておいて。ほぼ毎日来ることになるから」


「かしこまりました。ただお召し物が少々・・・」


ボロじゃないけど汚れてるな。


全員にクリーン魔法を掛けるとマシになった。


「これでいい?」


「はい。ではご案内致します」


何が起こったのかわからない娘達。しかもお屋敷。売られた娘達みたいに怯えながら使用人達が使う通路を通り厨房へ。こんな通路もあるんだな。そのうちちゃんと屋敷の中も確認しよう。



「シュミレさん、連れて来たよ」


「かしこまりました。今からやりますか?」


「いや、明日から。今日は顔合わせに連れて来ただけ」


「では私から一言宜しいですか?」


「いいよ。」


「厳しいコックの道へようこそ。私はシュミレ。おまえ達は名乗らなくてよい。1ヶ月後、まだやる気があってここに残ってたら名前を聞こう。嫌ならいつ辞めてもらっても構わない。ただ最後まで付いて来れるなら一人前のコックにしてやる。そこから一流になれるかどうかはお前達次第だ。以上」


おお、指導者って感じがするな。単なる憧れだけで来たならビビって辞めるだろう。それならそれで仕方がない。


「シュミレ師匠。女でもコックは出来ますか」


「私の知る限り本当のコックと呼べる女はいない。街の食堂の料理を作るもの、助手をするものはいるだろう。だがゲイル殿はコックが男だろうが女だろうがどちらでも良いとおっしゃった。私はその言葉に従う。よってお前達も女扱いもしない。その覚悟があるものだけ明日から来い」


「はいっ」


この歳からしごきに耐えられたらいいコックになりそうだな。


「カンリム、女性用の使用人室って空きある?」


「ございます」


「じゃ、この子達の着替える部屋にするよ。案内して」


シュミレに挨拶して使用人室に向かう。何も無くてがらんとしていた。着替えるだけなら十分だな。


「着替えは用意して置くから、厨房に入る前にここで着替えてね」


「えっ?」


「こっちで洗い替えも用意しておくから、洗濯は自分達でしてね」


「そんな事までして下さるんですか?」


「研修中は給料も出せないからね。服と材料費はこっちで持つよ。君達にはこの街の発展に協力してもらわないといけないから頑張ってね」


「は、はいっ」


ミーシャに女の子達の大体のサイズを測ってもらった。


庶民街に出るところまで送って後は勝手に帰ってもらう。


「たしか南の街に料理人の服とかエプロンとか売ってる店あったよね。あそこに買いに行こう」


視察しておいて良かった。貴族街にも服屋があるけどめちゃめちゃ高いからな。




「ここら辺だったよな?」


キョロキョロと探すとこの前見た店があった。作業服の店だ。


「こんちはー」


「へいらっしゃい」


「コック服欲しいんだけどすぐに着れるやつ売ってる?」


それならこちらですと案内された。


「ぼっちゃま、男物ばかりですね。どれもサイズが大きいです」


「女物のやつない?」


「コック服に女物はどこにも無いと思うぞ」


シュミレの言った通り女性コックっていないのか。特注で作ることも出来ると言われたが今すぐ欲しいのだ。


「メイド服でもいいんじゃ無いですか?胸元まであるエプロンすればいいと思います」


もうそれでいいか。接客にも流用出来るしな。


「ミーシャ、そうするからサイズ見繕って。一人2枚ずつ」


みんなまだ子供なので小さめのを買うがすぐに着れなくなるかもしれん。しかしブカブカの服は料理するのに危ないからな。


一度にたくさん買ったから値引きとエプロンをサービスしてくれた。しめて金貨1枚。メイド服って結構高いよね。


「どこに届けりゃいい?」


「西の貴族街に入ったとこすぐなんだけど、今日中に届けられる?無理なら持って帰るよ」


「えっ? ご、ご貴族様の使いの方でございましたか。これは知らなかったとはいえとんだご無礼を」


「ぼっちゃんは使いの者じゃねーぞ。西の街の当主だ」


「こ、これは大変なご無礼を。申し訳ごさまいません。お代はお返しいたしますので何卒ご容赦を」


「何もご無礼なことされてないよ。お金もちゃんと払うから。俺みたいな子供が当主とか言われても信じられないだろうし、こんな格好してるからね」


「お、お許し頂けるので・・・?」


「許すも何も別に気に触るようなことされてないから。他の貴族ってこんなことで怒るの?」


「滅多にこのような店に来られることはございません。ましてやご貴族様ご本人がお越しになるのは初めてでございます。時折使いの方がお越しになりますが・・・中にはその・・・」


虎の威を借りる使いが無茶を言ったりするのか。


「わかった。まぁ普通、貴族は貴族街で買うだろうしね。ごめんね驚かせて。配達は出来そう? 明日から使うから今日中の配達が必要なんだよ。無理なら馬にくくりつけて帰るし」


「いえ、配達させて頂きます」


「西門から入った大通りの突き当たり。元ベンジャミン家の屋敷だよ。今はディノスレイヤ家の屋敷になってるから」


「西の街はディノスレイヤ家が管轄される事になったのでございますか?」


「父さんはディノスレイヤ領の領主だから。ディノスレイヤ家っていうのも間違いではないけど、父さんとは関係無いよ」


「いらぬことをお尋ねして申し訳ございません」


「だからそんなに気を使わなくていいってば。南の街は俺の管轄じゃないし。西の街の住人は俺と普通にしゃべってるから」


「普通にしゃべる・・・?」


「そう、住民達と一緒に改革していくからね。この服も住民の女の子達のコック見習い用に使うんだよ。そのうちちゃんとしたコックになったら女物のコック服発注するから宜しくね」


「女のコック・・・」


「まだいないみたいだね。まぁうちはやりたい人にやってもらうから男でも女でもいいんだよ」


「う、うちにも娘がいるのですがコックになれますかっ?」


「ごめん、西の街の税金で研修してるから違う街の住民は無理かな」


「そ、そうですか・・・」


「来年には色々店が出来るから、働きながら研修とかならいけると思うよ」


「本当ですかっ?」


「うん、ただそこで覚えた料理は他の街で作れないよ。レシピ買うなら別だけど。数年はレシピ外に出さないから」


「わかりました。娘にも話しておきます」


「娘さんコック目指してんの?」


「はい、ただそんな働き口は無く・・・」


「そっか。じゃまたちょくちょく買いに来るよ。来年の今ごろは色々と店が出来てると思うから声を掛けるね」


「よ、宜しくお願い致します」




「コックになりたい女の人けっこういるんだね」


「女性は色々と働けるところが決まってきますから」


ふーん。コックは力仕事もあるけど別にどっちでもいいのにね。


「ダン、王都の冒険者ギルドってどこにあるか知ってる?」


「確か、北だぞ。他にもあるかもしれんがそこが本部だ。何しに行くんだ?」


「すぐには頼まないけど、春になったら門の外の警備頼まないといけないだろ?ちょっと様子を見に行こうかと思ってね」


ここから真逆だけど馬だしいいよね。



北の街に行き、人に冒険者ギルドの場所を聞きながら探した。ギルドは大通りに面した北門の近くにあり、さすが王都の本部だった。かなり大きい。


近くには屋台やら安宿やらごちゃっとあり、ものすごく雑多な街だ。ディノスレイヤのギルド近くの雰囲気とそっくりだ。柄の悪そうなやつらも大勢いる。コリャ観光客も来ないわな。


馬を前に停めて中に入るとジロジロ見られる。まぁ女子供が来るとこんな感じだな。ディノスレイヤなら俺を見たら目を反らすやつらも多いけど。


「ようこそ冒険者ギルド王都本部へ。ご登録ですかそれともご依頼ですか?」


「いや、まだ先なんだけどよ、壁の外の警備を何人か常駐で雇いたいんだが相場はどれくらいだ?」


ダンに聞いて貰う。


「壁の外ですね。危険度はどれくらいですか?」


「西の庶民街の壁の裏側だ。コボルトとか出るらしいから、そいつらから牛を守ってもらいたいんだ」


ギャーハッハッハッ 牛の護衛だとよ。


飲んでる冒険者からヤジが飛ぶ


「その辺りは危険度ランクが最低になりますので新人でも受けられる仕事になります。一人当たり夜明けから日没までで銅貨50枚~になります」


安いっちゃぁ安いけど、6人を毎日雇うと年間で金貨10枚は最低必要か。


「ダン、どう思う?」


「その値段で雇えるやつがコボルトを討伐出来るとは思えねぇな。一度狩りに成功させちまったら次から餌場にされちまうぞ。討伐出来る奴ならその4~5倍は必要だな」


来るか来ないかわからないコボルト達に年間金貨50枚とか払いたくないな。


「お姉さんありがとう。予算もあるから考え直すよ」


「はい、又のご利用をお願い致します」



ヒヒーーンっ!


シルバーの鳴き声だ。またこの展開かよ・・・








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