第362話 住民説明会と人材発掘
住民説明は寒い畑で行ったが結構な人数が集まってくれた。
「ぼっちゃん、小麦の育ちが悪いってのはそれが原因なのか?」
「そうだよ。今年は俺がいないから本格的には来年からやるけど、取りあえず畑と小麦畑を入れ換えて植えてみて。あと春になったら壁に門付けるから。もう外に柵付けて土地は用意してあって牛とかの牧草植えるね」
「柵があるって言ってもよ、時々魔物が出るだろ。牛が襲われたらたまったもんじゃねーぞ」
「じゃあ、冒険者雇うよ。その費用は街から出すから」
「新しい作物があるとか言ってたけどそれも来年か?」
「家畜用の餌からやるよ。今牧草育ててる所に植えて試そう」
「水やりがもっと楽になりゃいいんだけどよ」
「用水路ってのを作るよ。川の水を畑の周りに流れるようにしていくから。これはみんなも手伝ってね」
それぞれ自分が開拓した土地の面積の権利を残し、作付けしていく場所を入れ換えていくことを説明していく。遠くなるとかの不満は出るものの収穫が上がるということで納得はしてくれた。ソドム達は大体の測量をしていかなければならないので大変だ。人を雇って今年中に終えるように指示してあるので、皆も協力するようにと伝えた。
通りに近い土地はそのうち買い上げることも事前告知をする。他の畑を手伝うか、再開発される店で雇うとか選択肢を増やしておいた。
「次は質問なんだけど、国で決まってる義務教育前に学校に通わせたいんだけどみんな困るかな?」
「なんでそんなの必要なんだ?」
「いまやってる義務教育の内容を前倒しでやるんだよ。この街の義務教育はもう少し難しいものと専門的な事を教えたいんだ。6歳から文字を教えはじめて、義務教育は商売に役立つ内容を教える。もっと詳しく学びたい物はより専門的なもの教える学校も作るから」
「家の手伝いどうするんだよ?」
「いま使ってる農機具より効率の良いものを売るからそれでなんとかなると思うよ。あと耕したりするのは馬にさせる。街の予算でその馬を買うから」
「馬?」
「そう、馬。ディノスレイヤではもうやり始めてるけど人でやるよりめちゃめちゃ効率がいいから。今年は数が少ないけど、毎年増やして行くよ」
「新しい農機具ってなんだ?」
「今使ってるの木の鍬だろ?鉄と組み合わせて、用途にあった物を用意する。ただにはならないけど、住民には安く売るようにするよ」
「いつから販売すんだ?」
「春までには準備するから。あと子供たちが他の街に働きに行ってる人とかこれから働きに行かそうとしてる人でコックとかお菓子作るの職人とかをやってみたい人とかいるかな?街の再開発で食べ物屋とか宿を沢山作る予定なんだけど」
「コックやお菓子を作るのは男だけしかダメなのか?」
「いや、男でも女でもどっちでもいいよ。やりたい人がやればいいから」
「女だったら子供生んだら仕事になんねぇだろ?」
「子供産む前後に3年くらい休んで復帰すればいいじゃん」
「復帰なんて出来んのか?」
「したければね。別に辞めろとか言わないから。さっきの学校の事にも関係してくるんだけど、3歳くらいから子供を預けられる所も作ろうと思うんだ。小さい子供が好きな人とか雇うからそこでお母さんが働いている間面倒を見てもらうよ」
「なんだそりゃ?そんなの聞いたことねぇぞ」
「今までに無いからね。どんどん新しいことやっていくから」
ざわざわざわと個々に話し出す住民達。
「いきなり全部は無理だけど、どれもやっていくから宜しくね」
「ぼっちゃん、そんなのやる金はどっから出るんだ?まさか税率を上げるってんじゃないだろうな?」
「いや税率は今のままでやっていくよ。最終的にどうなるかまだわかんないけど、今言ったことをやっていったら税収は上がるから。ある程度投資が終わって余裕が出来たら税率を下げられる可能性もある。全体的に下げるか累進課税にするかはわからないけど」
「累進課税ってなんだ?」
「ここまでの稼ぎはこれだけの税率、これを越えた分はこれだけの税率って段階的に税率を変える方式だよ。まぁ一律の税率より損はしないから」
「なんだかわかんねぇけど、今より損はしねぇってことだな?」
「そうそう。ちゃんと働いてる人の稼ぎが増えて家族で外食したり、旅行に行ったり出来るようにしていくよ。だから皆協力宜しくね」
「家族で旅行?そんな事が出来るようになるのか?」
「稼ぎが増えたら出来るでしょ。自分たちばっかり飲みにお金使ってたらそのうち奥さんにクビ絞められてもしらないよ」
俺がそういうと奥さん連中がどっと笑った。
「ぼっちゃん、もっと言ってやって!ろくでなし亭主はちっとも家でご飯食べずに自分だけ飲みに行くんだからさ」
「店が出来てきたら奥さん達もおしゃれしたり美容したりしてもっと綺麗になればいいじゃん。家に居ないと他の男に取られちゃうよって」
「やだよっ、こんなオバサンなんか他の男が相手にするもんかっ」
「今度、髪の毛が艶々になるやつ売るから試してみればいいよ。それに温泉っていう風呂を作っていく予定にしてるからそこに入ってればお肌も綺麗になるし、モテモテだね」
「そんな事まで出来るのかい?」
「温泉は掘ってみないとわからないけどほぼ間違いない。住民専用のやつをいくつか作るつもり。無料で使えるようにするから掃除とかの管理は自分達でしてね」
「あら、そうなの?綺麗になったら東の街へ行ってみようかしら」
「おいおいかぁちゃん・・・」
バシッ
「あんたもショボくれた汚ならしい男からしゃんとしたいい男になれば済む話だろっ!捨てられたくなかったら努力しなっ」
その夫婦の会話にドッと沸く住民。この二人は
こうして住民説明会が終わり、この街の方針を理解してくれたようだ。西の街の住人は口は悪いけどいい人ばっかりだよな。
説明会が終わり片付けをしていると数人の女の子がこっちへ来た。
「あ、あの・・・、女でも料理人になれるって本当ですか?」
「やる気があるなら大丈夫だよ」
「私達やってみたいんですっ」
「親御さんの手伝いとかいいの?」
「説得しますから」
ざっと10人くらいいるな。畑仕事より華やかな仕事に就きたいってのはどこの世界も同じか。
「料理人の仕事は思ってるより厳しいよ。大丈夫?」
「はいっ、頑張って覚えますっ」
「じゃあ、親御さんがOK出したら、明日の昼に小熊亭に来てくれる?」
わかりましたと走って帰って行った。チッチャより少し歳上かな?12~13歳ってところだな。シュミレに相談して屋敷でパリス達と一緒に教えて貰えばいいかな。帰ったら相談しよう。
「ぼっちゃま、料理を覚えたい人たくさんいますね」
「そうだね。センスも必要だから全員がなれるわけじゃないけどね。接客する人も必要だからそれもやってみようか?ミーシャが先生やってみる?」
「えっ?私がですか?接客ならミケさんの方が向いてますよ」
「あんなの教えても出来ないよ。メイドをやるみたいに教えてくれたらいいよ」
「出来ますかね?」
「ミーシャなら大丈夫だよ」
料理はシュミレに、接客教室はミーシャにやって貰おう。シュミレに教えてもらった料理を復習を兼ねて近くの店で作り、それを接客する見習いのお店ってやつだ。全員のメイド服を作ってやるか。
初めの生徒が育ったらそいつらに給料払って先生をさせる。開発した店が出来たら実戦配備して、次の生徒が先生をやる。うん、これでいこう。街営の専門学校だな。
小熊亭に戻るとベントが焼き鳥を仕込み、ブリックがジロンとチッチャに料理を教えていた。
「お帰りなさいませ、ぼっちゃん」
セレナは帳簿を万年筆でまとめていた。
「万年筆の使い心地はどう?」
「とても使いやすいです。字も書きやすいのでとても楽です」
羽ペンとか木のペンよりペン先が滑らかだからな。
「なぁゲイル。なんかすることない?店休みやから暇やねん」
昼飯の時間は過ぎてるし、厨房は仕込みと料理の勉強で使ってるしな。
「屋台になんか食べに行こうか?」
賛成!
ダン、ミーシャ、ミケと4人で屋台の所にいく。ベント屋台に出された看板に、えー、マジかよとか言ってる人がいるな。そりゃいきなり倍の値段だからな。
「おう、今日は休みなんじゃねーのか?」
声を掛けて来たのは隣の屋台の親父だった。
「今日は食べに来たんだよ。おっちゃんらなんの肉焼いてんの?」
「焼き鳥だ。2本で銅貨3枚だ」
「他の店より安いんじゃない?」
「まぁそれぞれだな。」
「じゃあ8本頂戴」
ダンが銅貨12枚渡そうとすると、おっちゃんはひーふーみーよーとまだ数えてる。毎日やってんだからそれくらい覚えとけよ・・・
「銅貨11枚だ」
「おっちゃん、12枚だよ」
なんで素数になるんだよっ。
あれ?と言いながら銅貨を受け取った
普通に旨い塩の焼き鳥だ。
「おっちゃん、旨いよ。焼き方上手だね」
「へん、こんなのずっとやってりゃ誰でも焼ける。どこも似たようなもんだ。最近はタレの焼き鳥は無いのかとか聞かれるんだがなんだか知ってるか?」
「ジロンさんが働いてる小熊亭でタレの焼き鳥出してんだよ。王都にはそこしかないと思うよ」
「それもジロンのとこか。あいつ上手い具合に儲け口を見つけやがって」
ジロンはセレナを助けたい一心で小熊亭で働き出しただけだ。別に儲けようと思ったてたわけじゃないけどそんな説明する必要ないな。
「おっちゃん、隣の屋台でフランクフルト焼いてるの俺の兄貴なんだよ。なんか困ってたら助けてやってくれないかな?助けてくれるなら小熊亭と違うタレを売ってもいいよ」
「どんなタレだ?」
マヨネーズだよとは言わない。マヨネーズはほとんど腐らないし、売れ出したら頻繁に無くなるから品質管理も楽だろう。
「ダン、悪いけどひとっ走り小熊亭に行ってマヨネーズ取ってきてくんない?一壺分」
ダンにひとっ走り行ってもらってる間にに隣のおっちゃんと話を続ける。
「タレ付けただけでそんなに変わると思わんがな」
「どこも似たような味ならいい場所で買っちゃうでしょ。差別化ってのが必要なんだよ。全員が好きっていう味は無いけど、ここでしか食べられない味はあるから。そうすればここで買う理由が出来るんだよ。タレのが売れなかったら元に戻せばいいし」
食べ足りないミーシャとミケの追加も焼いて貰う。お金はダンが持ってるので後払いだ。
「ぼっちゃん、取って来たぞ」
おっちゃんに塩を薄味で焼くようにお願いして焼き上がったら匙でマヨを塗って少し焦がす。
「ミケ、屋台の中から呼び込みやってくれ」
屋台の外で呼び込みするのは禁止らしいので中から客に声を掛けさせる。
「ソコのにーちゃん、外から来たん?」
「街に住んでるぞ」
「ほならマヨ焼きって知ってる?」
「なんだそりゃ?」
「かーっ、都会の人がそんな田舎もんみたいな事言うてたら笑われんで。ほら1本銅貨2枚や、不味かったらタダでええわ。田舎者もんっと笑われん間に食べとき」
ミケが1本声を掛けた若い奴にマヨ焼きを渡す。
「不味かったら金払わねーからな」
「ほなら旨かったらようけ買って行きや。まぁあんたが買わんでもすぐに売り切れるけどな」
人を田舎者扱いしやがってとかいいながらマヨ焼きを一口で食べる
「どや、旨いやろ」
「・・・なんだよこんなの食ったことねーぞ」
「さっすが都会の人やなぁ、ええ舌してはるわ。実はな、これにーちゃんがここの第一号やねん。つまり流行の最先端のお人って奴や。皆に自慢出来るで」
「おまえさっき皆が知ってるような言い方だったろ」
「ちゃうちゃう、今からそうなんねん。残り9本買って友達に自慢してき、たった銅貨20枚でマヨ焼きを広めた人になれんで。子供出来たら自慢出来るでぇ、俺がマヨ焼きを初めて食った男やてな」
ごくっ 最初の人間・・・
「そや、最初っちゅうのはな、ここで一人しかおらんのや。それが銅貨たった20枚で手に入るんやで。ロマンやと思うけどなぁ。まぁ、そのロマンがいらんかったらそれタダでええわ。無かった事にして他の分かる人に声かけるから。よっ、そこのにーちゃん・・・」
「まてまてまてまてっ、俺が残り9本買う。銅貨20枚だな」
「買うだけやったらアカンで。ちゃんと広めてくれな」
「わかった。今から知り合いに食べさせる」
俺は土のコップを2つ作り4本と5本に分けて入れ手渡した。
「そのコップ返さんでええで、最初の人の特典や」
マヨ焼き10本買った若者は喜んで帰って行った。
「ゲイル、あんなもんでええか?」
「上等だ。さすがミケだな」
「なんだあの売り方は・・・。それに1本銅貨2枚って値上げしてんじゃねーか」
「当たり前やん。マヨ付いてんねんで。おんなじ値段で売ったら損するやん」
さっきの10本で銅貨20枚と計算したことといいミケも成長したなぁ
「おっちゃん、さっきの人の知り合いとか今のやり取り見てて興味持ってる人がいるから焼き始めた方がいいよ。あと自分でも食べて味を確かめておいてね」
そう言われたおっちゃんは20本程乗せて焼き始めると次々と客が集まり出した。
いきなり繁盛し始めたのでパニックになるおっちゃん。仕方がないので手伝ってやる。
「仕込んだ分が無くなっちまった」
「並んでくれた人ごめんやでぇ。今日はもう売り切れや」
ベントの時と同じく行列が出来て他の屋台からクレームが来てしまった。
「おっちゃんごめん、やり過ぎたね」
「お前らなんなんだよ。こんなに早い時間に売り切れたことなかったぞ」
「初めて食べる味だし、まだどこにも無いからね。どうする?このタレ買う?一壺銅貨20枚でいいよ。本当はもっと高いんだけどね。うちの兄貴の面倒を見てくれるお礼に格安にしておくけど」
「買う。いや売ってくれ。銅貨20枚でいいんだな。ほらこれ」
「今日のはお試しだからいいよ。明日からうちの兄貴に注文して。作るのに時間掛かるから早めにね」
「明日は1日屋台は閉めて仕込みやるから明後日買えるようにしておいてくれ」
了解と返事して小熊亭に帰った。
今日の出来事をベント達に話して隣のおっちゃんにマヨ販売をすることにしたことを伝える。売上は小熊亭にしてマヨ作りもして貰う。おっちゃん以外がもし買いにきたら銀貨1枚で販売してもらおう。
次はシュミレに料理教室のお願いだな。
帰って晩飯の時に話そう。
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