第360話 王都の庶民街

「ジロンさん、じゃあ屋台まで案内してくれる?」


学校が休みのベントも連れて屋台にやって来た。まだ早い時間なのでやってる屋台もまばらだ。


「ここだ」


しばらく使って無かったので埃っぽい。さっとクリーン魔法を掛ける。


「串焼屋台だからこのままいけるね」


「そうだな、炭と材料だけ持って来たらこのままいけるな」


材料を運ぶ為の小さめの荷車もあるからベント一人でやっていけそうだ。


「いつからやる?」


「今日からやる」


「もうやるの?」


「今日だとジロンに手伝ってもらえるからね」


「じゃあ任せていい?俺達他の街を視察してくるから」


「ぼっちゃん、任された。他のやつらにもよく言っておくぜ」



それぞれが自分のやらないといけないことをやりだしていく。ベントの屋台が軌道に乗ることを祈りつつ東の街まで移動。



「めちゃくちゃ栄えてるなぁ。めっちゃ店あるやん」


「本当ですね。人ってこんなにたくさんいるんですね」


「ぼっちゃま、こんな街にしていくんですか?」


「ここまでは無理かなぁ。何十年か先はわかんないけど。農業と畜産とかに従事している人が多いからね。商売は食と娯楽が中心かな」


「自然が少ないと息苦しく感じます」


シルフィードがそう言うと皆がうんうんと頷いた。全員田舎者だから人酔いするかもしれない。


「なんか食べて南の街を通って戻ろうか」


少しずつ食べては流行ってる店を試すが大したことはなかった。こ洒落た感じはあるけどそれだけだ。値段も比較的高い。


「バルと比べもんにならんな。なんでこんなに人が入ってんのやろ」


「そうですね。盛り付けとかは参考になりましたけどそれだけですね」


「並んでると美味しいのかなと思うから仕方がないよね。他の領から王都に来たら何も分からないし」


「ふーん、店が多いのも考えもんやな」


「これだけ人がいたらオシャレってだけで十分やっていけるよ。次から次に人が来るから。西はちゃんと中身で勝負しないとダメだろうね。田舎から王都に来たら華やかな場所に行きたくなるのは当然だから、西は何か目的を持って行こうと思わせないと来ないだろうね」


南の街を通って西に戻る。北は参考にするような物は無いみたいなので今度ダンと二人で行こう。あまりミーシャやシルフィードを連れて行くような場所じゃないみたいだからな


南の街も東に近い所は栄えていて西へ向かって行くと住宅街やら畑やらが出てくる普通の街だ。卸関係の商会が多いみたいだな。外から入ってくる農作物とかはここからの物が多いのかもな。鍛冶屋みたいな所も結構あるし、ここで作って運ばれて販売とかなのか。


庶民街は概ね

東:高級/繁華街

南:やや高級/住宅街と商人と製造

西:下町/農業と畜産

北:貧民街/不明


こんな感じなんだな。



「あちこちブラブラ見てるだけでも疲れるね。小腹も減ったしベントの屋台で食べてから帰ろうか」


さんせーっ!



「ぼ、ぼっちゃん、なんだよこれ・・・」


一つの屋台にずらーっと並んだ客・・・


「ゲイル、いいところに帰ってきた。ちょっとここ頼むわ。追加で仕入れて来る」


「ベント、なんだこれ?」


「悪い、ちょっと行列をなんとかしてくれないか。他の屋台の人から怒られてるんだよ」


そりゃ自分の屋台の前で他の屋台の客が並んで防いでたら怒るわな。


「ミーシャ、シルフィード。商品と金の受け渡しを頼む、ダンとミケは並んでる客が他の屋台の迷惑にならないように誘導してくれ。俺とブリックは焼くのを手伝う」


「ゲイル、すまん。こんな事になるとは思ってなかった」


焼きながらなぜこんな事になってるか聞いてみる。


「初めはぜんぜん売れなかったんだよ。それで小熊亭の常連が来てくれて、めちゃくちゃ旨いとか大声で宣伝してくれたんだ」


「それで?」


焼けたやつをミーシャが客に渡してシルフィードが金の受け渡しをする。


「そしたらどんどん客が増えてこんな状態に」


なるほど、なかなか売れないようならサクラも必要かと思ったけど、常連がその役目をやってくれたのか。


「ぼっちゃん、誘導するにも限界があるぞ」


「ベント、並んでる客の半分くらいを小熊亭に誘導するけどいいか?」


「そうしてくれ。近くの屋台の人が怖いんだ」



「仕入れて来たぞ」


「ジロンさん、それ半分頂戴。並んでる客を小熊亭で引き受けるよ。今日はそれ売ったら終わりにして。ブリック、ミーシャ、シルフィードはこのままここを手伝って。ダンは小熊亭に来て。ミケは少ししたら並んでる客を小熊亭に誘導お願い」


追加仕入れした物を半分持って小熊亭に向かう。



急いで炭に火を入れて焼きだすと常連客がやって来た。


「お、今日は休みじゃねーのか?」


「休みだよ。今から屋台の客がこっちに来るから準備してるんだよ」


「へぇ、屋台の客がねぇ。それ新作だよな」


「そうだけど今日は我慢してね。先に並んでるお客さんの分だから」


「冷てぇこと言うなよ。1本いくらだ?」


「ホントにダメ。足りないかもしれないから」


「じゃあ、そいつらの後ろに並べばいいんだな?」


「それならいいけど、多分並んでも無駄だよ。これ無くなったら終わりだから。明日屋台に並んで。ここの営業時間と同じくらいに始めるから」


ちぇっケチとか言ってる間にミケがぞろぞろと客を連れて来た。ハーメルンの笛吹みたいだな。


「こっちやでー。今日は休みやけどな、焼き鳥とエールがめっちゃ旨い店やねんで」


「こんなとこの店が旨いのか?」


「チッチッチ!おっちゃんらさては素人やな。今は焼き鳥だけやけどな、そのうちもっと旨いもん出るで。まぁ混んでて入れんようになるかも知れんけどな。ゲイルー、連れて来たで」


「わかった。今来てくれた人で打ち止めにして。後から来た人には売り切れだから並んでも無駄だと言っておいて」


ミケなら上手くさばいてくれるだろう。


俺とダンで焼きながらお金の受け渡しをやっていく。在庫は100本くらいだからすぐに終わるな。


最後の客にフランクフルトを渡して終了。セレナとチッチャも手伝ってくれてこちらはスムーズに終わった。



「セレナさん、蒸留酒を貰うね。使った分はちゃんと補充するから」


中瓶に蒸留酒を入れて、残った在庫と共に屋台に戻る。全部の在庫を確認すると並んでる人の分は足りそうだ。ダンとミケに並ぶのを止めて貰う。


「いま並んでる人で終わりだから」


「助かったよゲイル」


最後の客に渡して終了。


「ジロンさん、迷惑かけた屋台にベントを連れてお詫びに行って。これお詫びの品だから」


「高級酒を渡すのか?」


「後々のこともあるからね。俺が行くよりジロンさんの方がいいでしょ。このお酒の飲み方と価値もさりげなく伝えて。ベント、片付けは俺達でやるからちゃんと謝ってこい。ベントが悪いわけじゃないけど迷惑かけたのは事実だから」


行列が出来ていた方面の屋台にジロンとベントが謝りに行く。



「よう、お前らジロンの知り合いなのか?」


「そうだよ。迷惑かけてごめんね」


「ずっと屋台閉めてたからと思ったらこれだ。なんだお前らが売ってたのは?」


「フランクフルトって奴だよ」


「どっから仕入れてんだ?」


「俺達が開発して作って貰ってる奴で一般販売してないから教えられないよ」


「自分等で考えたって?」


「そうだよ。数もそんなに作れないから、明日からはこれ程迷惑かけないと思う。ごめんね」


「おう。まぁ坊主達が悪いわけじゃねーが、こっちの商売の邪魔にならないようにしてくれ」


片付けが終わる頃、ジロンとベントが帰ってきた。さっき話し掛けてきた隣の屋台の人と何やら話して酒を渡していた。


「どうだった?」


「あぁ、酒渡したらみんな喜んで許してくれたぜ」


「そりゃ良かった。帰って明日からの打ち合わせしとこうか。毎日こんな事になったらさすがにまずいからね」



しばらく客足が収まるまで、1日100本売り切ったら終わることにした。マスタードを塗らなくてもいけそうだし、特製トマトソースだけにしてスピードアップでやる。ちなみに今日売ったのは400本弱だ。閑散期でこれなら春になったらえらい事になるな。



「ベント、20本くらい残ってるだろ?それ今から焼いて」


「どうするんだ?」


「衛兵の詰所に持って挨拶にいく。そのうちいざこざとか客同士が揉めたりするだろうから、見回りお願いしておこう」


衛兵にベントの顔を覚えておいて貰った方がいいからな。


ホーリックは居なかったが、副団長にベントを紹介してフランクフルトを渡しておいた。パトロールは治安維持の為に問題ないとのこと。これで安心だ。


「ベント、屋台に100本限定と書いて在庫確認しながら並んでる人に売り切れそうなら早めに並んでる人に言えよ」



明日からはベント一人で頑張ってみてくれ。揉め事も経験だ。



「結局なんも食べられへんかったな」


「もうちょっと我慢しろ、屋敷でなんか作ってくれてるからな」



明日はエイブリック邸にいかないとな。そのあとは住民説明会か。それが終わったらちょっと休もう・・・


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