第358話 街の帳簿は裏帳簿?

屋敷の工事のスケジュールはだいたい決まったな。バルブも作って持ってきてくれるみたいだし。シャワーヘッドも作ってとお願いしておいた。



「ソドムさん、この街の帳簿ってある?」


「ございますよ。こちらになります」


大量の書類を持って来てくれる。


ざーっと目を通していく。


なんだこれ?めちゃくちゃ資産あるじゃん。残高金貨5万枚? 円換算で500億円も貯まってんの?


「こんなにあるんだね」


「ずいぶんと溜め込まれてましたね」


「これって街の資産だよね?」


「そうとも言えますが、ベンジャミン家の資産でもありました」


「男爵家ってこんなにお金持ってるの?」


「いえ、侯爵家や伯爵家の一部ならわかりますが、男爵家でここまで持っているところは無いと思われます」


街の資産ということだが、これとは別にベンジャミン家個人の帳簿があるらしいからカンリムに確認する必要があるな。


支出はと・・・

中央への税の支払いがこれで、このデカイ支出はなんだ?


「これ、なんのお金?ずいぶんと額が大きいけど」


「庶民街を統括している伯爵家への上納金だと思われます。」


年間の税収がざっくり平均100億円、半分の50億円が中央への支払、またその半分が伯爵家に・・・。ベンジャミン家の取り分は5億円ほどか。残り20億円が街の運営費という名の裏資金。


「上納金は払わないといけないものなの?」


「特にそのような決まりはございません」


「なんで払ってんの?」


「伯爵家の庇護下に入るためでしょうね」


「庇護下に入るといいことあるの?」


「こういった直接税収がある貴族は領主以外にほとんどおりません。慣習というか利権と言われてもおかしくありませんが、そのようなものです」


エイブリックが誰もやりたがらねぇと言ったのはやっぱり嘘だったんだな。ほとんど何もせずとも勝手に大金が転がりこんでくる担当をやりたがらない貴族なんていないだろう。庶民街の管轄なんて誰がやっても王家に取ってはどうでもいいはずだ。俺にやらせる為にあんな風に言ったのか。


他の支出で街の為に使ったと思われるのは道路整備とか街の文官の運営費とかか。市役所みたいなのがあるんだな。ここに結構使ってる。


「おかしなところは無いんだよね?」


「はい。すべて合法です」


「わかった。今回再開発する土地が結構あるけど、あの土地や建物は街のものなんだよね」


「いえ、ゲイル様個人所有となっております。ゴーア商会が購入した土地でしたので今回没収されて自動的に所有者が変更されておりますよ」


没収したなら街の土地になるんじゃないのか?まぁこれもエイブリックの差し金だな。


「それなら街の予算で再開発とか出来ないじゃん」


「なぜですか?」


「いや、個人所有の土地を公費を使って開発するのおかしいでしょ?」


「いえ、街の予算もゲイル様の予算と考えて問題ありません。初めに申し上げた通り、街の資産もゲイル様の資産と同じであり、税収が上がれば良いのです」


「じゃあなんで街の帳簿とベンジャミン家の帳簿を分けてあるの?」


「建前です。街の資産としておくと何かと便利なのです。例えばもう少し金を回せとか派閥の費用負担を増やされますので」


「ということは街の帳簿は他の貴族や国には分からないってこと?」


「はい。税収総額と中央への納税だけ解れば良いので、このような詳細な帳簿は出て参りません。この度不正があり出てきたものなのです」


中央への税額から税収がわかるから上納金はそれを元に算出。個人の収入は相場程度に押さえてあるのか。


元々少しオツムが少し足りない世界だからこんなずさんなやり方でも問題が出ないんだな。



「なんとなくわかったよ。街の再開発費用はどれくらいかかりそうかな?」


「ゲイル様のお考えをすべて実現するとおよそ金貨3万枚程度かと。」


「ぜんぜん足りるね。じゃあ、裏通りにすべて屋根付けて雨が降っても大丈夫なようにしても足りる?」


「は、はい、あと金貨1万枚は必要になるかと・・・」


「じゃあそれも予定入れておいて」


「資産のほとんどを使われるおつもりですか?」


「足りなければ補助出すとか言われてたけど、少し余らせて予備費として置いとけばいいしね。あと上納金は払わないからまた予算がプール出来るよ」


「慣習の支払いを無くされるのですか?」


「庇護下に入る必要も無いし、派閥にも入らないし、今回の任命はエイブリックさんだから向こうもどうしようも無いでしょ?」


「軋轢を生むかもしれません」


「軋轢生まれてもいいんじゃない?何か問題ある?」


・・・

・・・・

・・・・・


「ありませんね・・・」


「でしょ?だから不必要な費用は払わないよ。住民の為に使われているなら払うけど、伯爵家の懐に入るだけならいらないよね」


「かしこまりました。では正式な試算を致します」


「もう一つ質問なんだけど、大通りと大通りに面している土地は伯爵家の管轄なんだよね。」


「そうですね」


「裏通りを表通りより賑やかにするから通りを増やそうか。農民から農地を買い取りすることも可能だよね?」


「はい、農民達が応じれば」


「了解。それは次のステップで考えるよ」




取りあえず貴族達と発生するであろうゴタゴタは考えないことにしよう。どうせ発展し始めたら誰か近付いて来たり、仕入れ先とか調べに来るだろうけど、レシピも商品も大元はぶちょー商会だし、温泉も俺にしか掘れない。農作物は多少真似されてもかまわないしな。実力行使されても衛兵は指揮下にあるし、騎士達の繋がりもある。


こうやって考えるとすべてエイブリックの読み通りだな。さすがは次期王様だ。


いつもわがままで言い出したら聞かないけどキレ者だよなぁ・・・・次は何を言い出して来るんだろか?


ゴタゴタよりそっちの方が不安だ。


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