第356話 エイブリックの援護

小熊亭に戻るともう店が始まってた。


「お、ぼっちゃんのお帰りだぁ。馬に乗る姿も様になってんなぁ」


「早くから乗ってるからね。」


がーはっはっはっ


シルバー達を庭に連れていくとドワンの笑い声が聞こえてくる。


焼き鳥の準備をし始めるとドワンは足湯に浸かりながら常連に誉めまくられてる。


「おい坊主、ちょっとそこで剣を振れ」


「なんでだよ?」


「ワシの作った剣を見せてやってくれ。この焼き鳥を投げるから縦に斬れ」


あんた魔剣でなにやらすんだよ?


「食べ物で遊んじゃダメだよ」


「ちゃんと食うからやれ」


そう言ってポイッと焼き鳥を投げられる。それをヒュパッと斬ると皿の上で二つに別れた


「おおぉ、すげぇぇ」


「なんだよその剣」


「魔剣じゃよ。坊主が魔法を纏わせて使えばこの辺の建物なんかイチコロよ」


あんた魔剣とか言いふらすなよ。


「ぼっちゃん、魔法も剣もいけるのかよ。軍に入りゃ無双出来るじゃねーか」


「やだよ軍なんて」


「そうですぞ。ゲイル様を軍なんてとんでもない」


「あ、ホーリックさんお疲れ様。中でも外でも好きな方にどうぞ」


「ではこちらで」


「お、あんちゃん見ねぇ顔だな。どこのヤツだ?」


「おっちゃん、新しく来た衛兵団長だよ。偉いさんだから失礼の無いようにね」


「何っ?衛兵団長がこんな所に食いにくるのかっ?」


こんな所とか言うな。


「ゲイル様のお作りになる料理はこの世界で一番旨いのです。当たり前ではないですか」


「俺は焼いてるだけだよ。仕込んだのはベントとジロンさん」


「坊主、蒸留酒は無いのか?」


「この前父さんの奢りで全部飲んだんだよ。明日仕入れて来るよ」


「今回持ってきたじゃろが」


「あれは仕入れじゃないからね。販売用はちゃんと仕入れた奴を売るよ。高いからあまり数でないけど」


「ならお前には安く卸してやるから数を売れ。ロドリゲス商会にお前の所の分は違う値段で卸すように言っておいてやる」


「ズルじゃん」


「構わん。エイブリックのせいで数が溜まっとるんじゃ。差額は奴に請求するわい」


まぁ売るのを制限してたからな。それならいいか。


「わかった。じゃあ戻ったらそれで話付けて送っておいて。明日からの分は取りあえず持ってきたやつ出すよ」


しばらくするとミーシャとシルフィードがこっちに来た。もう中はミケのヘルプだけでいいらしい。


「じゃあ二人ともそこで一緒に食べなよ」


「おぉー可愛い娘ちゃんが二人も来たぜ」


「おっちゃん達、話し掛けてもいいけど触ったらファイアボールお見舞いするからね」


ボウぅと火の玉を出して見せる。


「さ、触らねぇよ。そんなおっかない顔すんなよ」


ミーシャはこういうノリ慣れてるけどシルフィードはダメだからな。


「おい、お前らこの二人に手を出したら坊主は本当にやるからな。絶対触るんじゃねーぞ」


ドワンが真剣な顔で念を押してくれた。


閉店までドンチャン騒ぎが続いて終了。



「お疲れ様。ブリックも手伝いありがとうな」


「いえ、充実感があります。小屋の宴会みたいですね」


「みんなに紹介しておくよ、衛兵団長のホーリックさん。近々あの屋敷に引っ越して貰うから。ホーリックさん、小熊亭のセレナさん、ジロンさん、チッチャだよ」


「ホーリックです。ゲイル様の配下となりました。衛兵団長としてこの街を守りますので宜しくお願い致します」


配下?


「ん?衛兵団は街と違う組織だよね?」


「いえ、西の衛兵団はゲイル様直属とエイブリック殿下より伺っております」


「どういうこと?」


「衛兵の給料等は今まで通りですが、指揮系統はゲイル様にあります。何なりとご命令を」


「聞いてないよ?」


「いえ間違いありません」


・・・・


『ホーリックを頼みますぞ』

『後は勝手に打ち合わせてくれ』


あれはこういうことだったのか・・・


「俺は衛兵の指揮とかわからないよ」


「いえ、詳細はお任せ下さい。方針さえお示し下されば良いのです」


「それなら別に俺の指揮下でなくて良くない?」


「他の衛兵団から人を抜かれることも押し付けられる事もございませんのでこちらの方が安心です」


そういうことか。


「じゃあ、明日文官連れて詰所に行くよ。そこで打ち合わせしよう」


ぞろぞろと小熊亭から帰る。



「ブリック、明日出るときにさパリスも連れて仕入れに行ってくれない?使用人達の食材も仕入れて欲しいんだ。俺はロドリゲス商会に行ってスパイス各種を頼んでくるよ。ミートの所みたいに下処理が完璧じゃないから下ごしらえも教えてあげて。それからその内エイブリックさんとこのコックが屋敷のコックに研修にくるから、交代して小熊亭のジロンさんの研修をして。屋敷よりメインはそっちなんだ」


「ぼっちゃんがいるとやること一気に増えますね」


「悪いね」


「いえ、こういうのが楽しいんだと実感しました」


「ディノスレイヤに戻ったら料理教室頼むぞ。どうすればいいか一人で悩まずにバルのチュールにも相談しろ。あいつも同レベルで料理作れる奴がいないからしんどいんじゃないかな」


「わかりました」


うん、話の合う友達がいた方がいいからな。


「ホーリックさん、ここだよ。」


「本当に宜しいのですか?」


「お帰りなさいませ」


「カンリム、こちら王家護衛騎士のホーリックさん。西の街の衛兵団の立て直しの為に衛兵団長になってくれたんだ。ここに住んで貰うから宜しくね」


「かしこまりました。ご準備が整われましたらいつでもお申し付け下さい」


「宜しく頼む」


ここでホーリックとお別れ。



食堂で明日からの打ち合わせを行う。

ドワン、ミゲル、ミサはどれくらいの工事になるか屋敷を確認してくれる。女性の部屋があるのでミサがそこを担当する。ミーシャとシルフィードは俺達と同行。ブリックはコックと仕入れだ。ミケは小熊亭の手伝いを任せて俺たちは街の仕事に取りかかる。


「ぼっちゃま、王都の方が忙しいですね」


「冒険に行くまでに色々やっておかないとね。冒険にはミーシャを連れていけないからディノスレイヤに戻るだろ」


「えーっと。ぼっちゃまがいない間、もし良かったら小熊亭のお手伝いしてましょうか?」


「いいの?それは助かるけど」


「はい。ディノスレイヤのお屋敷であまりすることないんです」


「分かった。じゃあそうしようか」


「はい」


俺もシルフィードもいなくなるから寂しいだろうしな。チッチャと居てくれる方がいいかもしれん。帰り道とかホーリックに送って貰おう。ミーシャ一人でも隠密が居てくれるから問題ないけど。


それぞれの予定と指示を出して今日は終わり。明後日は小熊亭も休みだから皆で観光でもしようか。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る