第354話 配下が増える

「王都ってめちゃくちゃデカいんやなぁ」


「建物が高いし、人も多いからね」


皆でぞろぞろと小熊亭に向かう。


「ぼっちゃま、この通りに入るとたくさん店が閉まってますね」


「そう、だからこの辺り全部再開発するんだよ。あ、先に仕入れ先に寄るから」



「おっちゃん、帰って来たよ」


「おぉ、やっとか。なんだぞろぞろと?」


「ディノスレイヤの人だよ。観光がてら仕事の手伝いとかしに来て貰ったんだよ」


「べっぴんさんばっかりじゃねーか」


「そんなん言うてもなんも出ぇへんで」


「面白い嬢ちゃんだな。どこの出身だ?」


「めっちゃ東から来てん。今はゲイルの店で働いてるで」


「そうか、そりゃ良かったな。ぼっちゃんの所の店だと何でも旨いだろ」


「もう天国やで。しっぽもつや・・・」


ムグっ


「しっぽ?」


「おっちゃん、もうすぐ屋台始めるから準備はいい?」


「もう冷蔵庫がパンパンだぜ」


「じゃあ、日にち決まったら言いにくるよ。後、貴族街まで配達とかしてくれる?」


「貴族街かぁ、まずくねぇか?」


「何が?」


「普通、あっちは貴族街の商会使うだろ?」


「いいのいいの、うちの屋敷で使うやつだから」


「ぼっちゃんの屋敷が貴族街にあるのか?」


「ほら、俺はいいとこのボンボンだからね。今度うちのコックか誰かを使いに出すよ。宜しくね」


「あぁ、ぼっちゃんが言うなら大丈夫そうだな。任せとけ!」


こいつも出来たということでベーコンを買っていく。昼飯に食べよう。


同じ事を酒屋と八百屋に伝えて小熊亭へ。


「ただいまぁ」


なんとなくこの挨拶がぴったりだ。


「あ、ぼっちゃんお帰りなさい。また大勢ですね。お客さんですか?」


「いや、ディノスレイヤの人達だよ。一週間くらい滞在するからここを手伝って貰うよ」


ミーシャ、ミケに手伝いをお願いする。シルフィードは稽古があるし、ミサはドワン達の手伝いをさせよう。


セレナとジロンも出てきたので皆を紹介する。しばらくお互いの事を色々話してお昼頃ご飯。ブリックとジロンに作って貰うのでベーコンを渡しておいた。


「ちょっと衛兵の詰所とエイブリックさんの所に行って来るよ。もう少ししたらベントも来るから。後宜しくね」



ー衛兵団詰所ー


「何か用か?」


「俺はゲイルっていうんだけど、団長のホーリックさんはもう着任してる?」


「ほ、ホーリック団長のお知り合いですかっ。大変失礼いたしました。こちらへどうぞ」


団長室まで案内される。フォールを水責めにした部屋だ。心がチクっとする。


「ホーリック団長、お客様をお連れ致しました」


「入れっ」


ドアを開けて見ると見たことある人だ。この人がホーリックだったか。


俺を見るなりガタッと立ち上がり、目の前まで来て跪く。


「ゲイル様、この度西の街の衛兵団長の任を頂きましたホーリックでございます。命に代えましてもゲイル様の街をお守り致します」


やめてやめてやめて。


「ちょ、ちょっとちょっと、そんなに畏まらないで。早く立ち上がってホーリックさん」


「ホーリックとお呼び下さい」


「じゃあホーリック、早く立ち上がって」


失礼致しますと挨拶したあとソファーに案内される。


「ごめんね、王家の護衛だったのに衛兵団長とかさせちゃって」


「とんでもございません。志願するものが多く、私を選んで頂いたナルディック様には感謝しております」


「ナルディックさんからも宜しくと言われてるけど本当に良かったの?」


「もちろんです。ゲイル様が支配する街の衛兵団長の任を頂けたのは光栄でございます」


支配とか言うなよ


「どこに住んでるの?」


「貴族街の東の方です」


王邸と比べたらめっちゃ遠いじゃん


「独身?」


「はい」


「じゃあうちに住む?大通りの突き当たりだから家より近いよ」


「ゲイル様の城にですか?」


「城じゃないけどね。うちの家族はディノスレイヤに居るし。俺もずっと居る訳でもないから、開発を手伝ってくれる文官の事務所に使ってるんだよ。衛兵団長が住んでくれたら治安も安心だし、仲間の護衛が非番の時とか遊びに来てくれていいから。ご飯もこれから教えて行くから美味しいのが食べられるよ」


「本気でおっしゃってますか?」


「もちろん」


「お、お願い致します。すぐに準備致します」


「じゃあ今日仕事終わったら裏通りの小熊亭に来てくれる?早くに終わるなら小熊亭で食べて帰ればいいし」


「早くに終わらせます」


「あと、衛兵団長さんって書く仕事は多い?」


「はい、報告書を書くことが多いので」


「じゃあこれあげる。インクを付けなくても書けるペン。万年筆っていうんだよ。インクが無くなったらここに補充すればいいから」


使い方を説明する。


「おおおぉ、このような素晴らしい物を私に頂けるのですか」


「そのうち販売するけどね。よかったらどうぞ」


ミサが作った黒の万年筆だ。木目調のより高級感がある。


「ゲイル様より頂いたこのペンは家宝に致します」


「いや、消耗品だからちゃんと使ってね」


詳しい打合せはまた改めてというとで詰所を出た。



「ホーリック団長、ゲイル様とはいったい・・・」


王の護衛をしていたホーリックがあれほどまで敬う子供は何者だと衛兵副団長は不思議に思った。


「ゲイル・ディノスレイヤ様。我が国の英雄のご子息であり、この世を統べる方だ。くれぐれも粗相のないようにな。ゲイル様が降臨された以上この街は貴族街より発展する。今後忙しくなると思え」


ホーリックは腕輪ではなかったが配下の印の万年筆を貰い、同じ城に住まう許可までされたことにこれまでに無い喜びに包まれていた。



次はエイブリック邸だ。


「執事さん、王都に戻って来たことをエイブリックさんに伝えて貰っていいかな。あとこれはお土産。執事さん書き物多そうだから。こっちは王様、こっちはエイブリックさんに渡しておいて」


万年筆の使い方を説明する。


「私にまで頂けるのですか」


ミサの試作品、黒の本体に金で縁取りされた豪華仕様だ。


「いつもお世話になってるからね。じゃあお願いします」


「ゲイル様、もしお時間があるようであればエイブリック様をお待ち頂けませんか。本日は早くにお戻りになられる予定ですので。間も無くお戻りになられると思います」


「皆を待たせてるからあまり時間無いけど」


執事がこういうのはなんか話があるのかもしれない。



応接室に案内されてしばらく待ってるとエイブリックが来た。


「おう、戻ったか」


「うん、戻った報告とお土産だけ渡しに来たんだけど、なんか話あるの?」


「いや、相談だ。ちょっと厨房に来てくれ」


厨房?また料理でなんかあるのかな?ひょっとしてアイスクリームか?



「エイブリック様、それにゲイル殿」


「ヨルド、あいつらを連れて来い」


エイブリックがそういうとヨルドが男3人と女の子1人を連れて来た。


王邸のコック、揚げ物3人衆とアイスクリームを食べたメイドだ。


「こいつら王邸のコックを辞めて来やがったんだ」


えっ?


「もしかしてコック長にクビにされたの?」


「そこまではされてないんだが、風当たりが強くなって担当を外されたらしいんだ」


ひでぇ・・・


「でな、俺がウィスパーを焚き付けた責任もあるからこっちで引き取ったんだが、うちもこんなにコックいらねぇからな。お前のとこで雇え」


「うちは助かるけど、王邸のコックより全然格が落ちるよ。それにうちもコックと助手二人いるからあまり仕事無いかも」


「か、格なんてどうでもいいんです。僕たち料理が作りたいんです」


「それならいいけど、屋敷のコックと庶民街だけど自分の店持つのとどっちがいい?」


「えっ?自分の店ですか?」


「今西の庶民街の開発やっててね、ウェストランド王国一の街にしようと思ってるんだ。だから美味しい店とかカフェとかたくさん作る予定だからコックは何人いてもいいんだよ。出来る人には店を任せていくつもりだから」


「や、やりたいですっ!自分で店を持ちたいです」


「3人とも?」


「はいっ」


「じゃあそうしようか。研修どうしようかなぁ。うちのコックにもやらないといけないし・・・」


「ゲイル殿、うちで研修を致しましょう。ゲイル殿のコックもこちらから誰か出しますので」


「え?いいの?」


「もちろんですとも。元々レシピはゲイル殿が考えたもの。それをお返しするだけです。ウィスパー様にも少々頭に来ていることもありますので、こいつらを手離したことを後悔させてやります。エイブリック様、宜しいのですね」


「好きにしろ。厨房の事はお前に任せてある」


「あ、あの・・・。女はやっぱり料理はダメですか?」


「お前はメイドだったろう?辞めてきた理由もしらんが、コック志望だったのか?」


「ゲイル様より頂いたアイスクリームがあまりにも美味しくて・・・他のもとても美味しそうで・・・」


「お前の家は伯爵家の名門だろう。庶民街に行くなんて許される訳がなかろう」


「私は正妻の子供でもありませんし、問題ありません。いらない子供なんです。どこかに嫁ぐ価値もありませんし、せいぜい妾の話が貰えたらいいところです」


「いや、うちは男とか女とか気にしないからやりたい人にやってもらうよ」


そういうとばぁーと顔が明るくなる。


「製菓希望ならポッドに研修お願い出来ないかな?」


「構いませんぞ。あいつも製菓担当が増えれば喜ぶでしょう」


「じゃ後は任せたぞ」


うちのコックの研修はいつになるか改めて打ち合わせをすることに。



ー応接室ー


「エイブリックさんのはこれ、ドン爺のはこれ。良かったら使ってね」


「なんだこれは?」


エイブリックのは火の鳥、ドン爺のはディノの装飾が入った万年筆だ。ケースも同じデザインでなかなかイカしてる。


万年筆の使い方を説明する。


「なるほど、これはいいな。これも売るのか?」


「今から量産していくよ。装飾の無いやつは銀貨10枚、装飾のあるやつは金貨1~2枚からってとこかな。ドン爺とエイブリックさんのは非売品。値段付けられないからね」


「ふっふっふ、非売品か。気に入ったぞ。宰相の悔しがる姿が目に浮かぶな」


「うちの文官、執事、衛兵団長、エイブリックさんの執事にも渡してあるから。あと衛兵団長はうちに住んで貰うことになったよ」


「ホーリックがお前の所に住むのか?」


「文官のフンボルトも住むよ。屋敷に誰もいないと使用人の仕事もないし、衛兵団長が出入りしてくれると治安にもいいしね。護衛騎士達も非番の日とか遊びに来て貰うよ」


「そうか、常にうちの護衛らがお前のところに行くのが目に浮かぶわ。そのうち俺も招待しろ」


「分かった。改装が終わったら宴会だね」


「改装するのか?」


「部屋に魔導ライト付けて、ベッドを総入れ替え、使用人の食堂改築と風呂の新築。俺達の温泉を作るよ」


「お前の所に温泉が出るのか?」


「多分。ディノスレイヤは出たよ。ディノスレイヤも王都も同じ水脈だと思うんだよね。違ったら出ないかもしれないけど」


「ここも出るか?」


「多分」


「じゃ、頼んだぞ」


はい・・・



こうして王都でも仲間が増えた。コック3人とパティシエ1人確保出来たのはラッキーだ。ウィスパーに更なる屈辱を与えるかもしれないな。




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