第353話 元ベンジャミン屋敷の改革

王都に着くのが夜になるけど気にしない。馬車にはライトがあるし、身分証があるから門が閉まっていても大丈夫。


門の衛兵に身分証を見せると最敬礼されて門を開けてくれる。なんとなく俺の事を知っているのかな?


そのまま大通りを馬車で進むと思いっきり凝視される。まぁ恐ろしいわな。煌々としたライト。トゲトゲの怪しい馬車、見たこともない巨体の馬。前に来た時は早朝だったけど、夜だとまた違ったように見えるだろう。



屋敷に到着するとカンリムも驚きながらも出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ」


「お客さんというか仲間を連れて来たから一週間くらい泊めるね。それぞれに寝室を案内してくれる?あとご飯も食べたいけど食事の時間過ぎてるから勝手に作るよ」


「いえ、コックに作らせますので」


「あ、僕が作ります」


「こちらの方は?」


「ディノスレイヤ家のコック、ブリックだよ」


ついでに皆を紹介する。


「あと荷物がたくさんあるから手伝ってくれない?」


皆を寝室に案内したあと、使用人達がドヤドヤとやってくる。


「これは厨房でこの樽は使用人の食堂に持って行って」


「我々の食堂ですか?」


「そう、お土産だよ。ものすごく強いお酒だから水やお湯とかで割って飲んでね。これはリンゴのお酒。冷蔵庫に入れて冷やして飲んで」


「我々の食堂には冷蔵庫がございません」


は?


「今までどうしてたの?」


「普通にですが」


こいつらの普通ってどのレベルだ?


「ちょっと使用人の食堂とか見せてくんない?」


えっ?と驚かれたが見せて貰う。バタバタしだしたので片付けに行ったのだろう。ちょっと時間を与えるのに先にブリックを連れて食堂に向かう


「只今より準備致しますので」


コックのパリスが慌てて何かを用意しだしている。


「ごめんね、こんな時間に帰って来たから。あと少しの間だけどディノスレイヤのコックを連れて来たんだ。名前はブリック。こっちはここのコックのパリス。お互い違う料理を作ると思うから打ち合わせて作って。簡単な物でいいよ。ブリック、任せていいか?」


「はい、パリスさん宜しくお願いします」


「あ、はい。こちらこそ」



俺はカンリムと使用人の建物に向かう。


「こちらでございます」


食堂に案内されるととても質素な食堂と建物だ。母屋からは想像できない。


厨房も一般家庭みたいな感じだ。


「ちなみにさぁ、使用人達の風呂ってある?」


「そのような物はございません」


やっぱり。


「カンリム、使用人達の食堂を建て直すわ。それと風呂も作るから。リンゴのお酒はメインの厨房で冷やしとくから飲みたい時はパリスか誰かに言って出して貰って。蒸留酒は常温で大丈夫だからここで好きに飲んで。飲み過ぎて翌日の仕事に差し支えないようにしてね」


建て直す?風呂?


ぽかんとする使用人達。


「ゲイル様、使用人の食堂と風呂とは?」


「言った通りだよ。ダメだよこんな扱いしちゃ。屋敷との差が有りすぎる。ちょっとそこの名前なんだっけ?」


「庭師をしております、コングと申します」


「じゃあコング、お前の部屋見せて」


「は、はい・・・」


部屋を見せて貰うと8畳くらいのワンルームだった。綺麗に整理されてるというかベッドしか無い。


「これ皆同じ作り?」


「はい、同じでございます」


ベッドにマットはなく毛布が何枚かあるだけだ


「よし、全部の部屋のベッドも入れ換える。こんな所に寝てたら疲れが取れないだろ。全使用人のベッドの入れ換え、男風呂と女風呂の建築、食堂の改築をやる。ちょっと時間かかるけどね」


「ゲイル様、お言葉でございますが使用人にそのような贅沢な物を・・・」


「こんな奴隷みたいな扱いしちゃダメだよ。同じ所に暮らす仲間なんだから。カンリムのベッドも入れ換えるからな。あと部屋を明るくしてやる。その工事が出来る職人を連れて来たから明日見てもらうわ」



食堂に戻ると料理の支度が出来ていた。


「ぼっちゃん、調味料が少なくて・・・」


「そうだろうな。これから仕入れて行くよ。多分ロドリゲス商会にストックあるから」


パンも昔の奴だ。即席のローストビーフとジャガイモとタマネギのスープ。塩胡椒だけの料理ならこれくらいだな。


何やら騒がしい食堂の様子をソドムとフンボルトが見に来た。


「まだ仕事やってたの?」


「いえ、もう今日は終わりです」


「ご飯は?」


「これから頂こうかと」


「じゃ一緒に食べよう。カンリムもまだ食べてないの?」


「私は後程・・・」


「いや、これからの事もあるから食べながら話そう。早く座って」


改めてカンリムと文官二人に皆を紹介していく。


「ゲイル様にはこのようなお仲間がおられたのですね」


「そうだよ。ちょっと手伝って貰わないといけないから来て貰ったんだ。あ、これは約束してたお土産」


ソドム達に万年筆とそろばんを渡す。


「これは?」


「いちいちインクを付けなくても文字が書けるペン。万年筆っていうんだよ。思ってたより作るの難しくてね」


「まったく、坊主は思い付いたらなんでもかんでもすぐ作れといいよる。そいつはどこにもないペンじゃ。中央で見せびらかして来い」


「インクを付けなくても書けるとは?」


「いらなくなった紙になんか書いてみて」


フンボルトが紙を取りにいって持ってきた。


「あまり力を入れて書くとペン先がダメになるから軽く書いてね」


すらすらすら


「うぉっ、本当だ。インクを付けてないのに字が書けるっ」


「中にカートリッジって言うのが入っててね。そこにインクを入れてあるんだよ。インクが無くなれば補充出来るから」


「本当に頂いて宜しいのですか?」


「そっちの方が仕事がはかどるだろ?あとで魔導ランプも渡すから。部屋を全体を明るくするのは親方にやってもらうから。あとカンリムにも渡しておくね」


万年筆はフンボルトが一番興奮したみたいだ。木目調の飾りの無い奴だが実用的には問題ない。


「せっかく作ってくれた料理を食べよう」



二人は赤い肉のローストビーフに驚くので大丈夫と説明する。


「あ、柔らかくて美味しいですね」


「だろ?俺が料理を教えたコックも連れて来たからここでも同じでような物が食べられるようにしていくよ」


「ゲイル様、パリスを解雇なさるおつもりで?」


「いやそんなことしないよ。パリスに新しい料理を覚えて貰う。ブリックの作る料理は王家の社交会でも出されているやつだから覚えといて損は無いよ」


「王家の社交会の料理でございますか?」


「全部じゃないけどね。新しいのはほとんどそうだよ。今回も大好評だったみたい。俺は厨房で手伝ってただけだから会場の様子は知らないけどね」


「そのような料理をパリスが作れるとはとても思えませんが・・・」


「大丈夫大丈夫、そんな難しいもんじゃないから。パリスがそれを作れるようになったら他の使用人達にも教えて貰うよ。食材は同じものを仕入れてあげてね」


「使用人達がゲイル様やお客様と同じ食材でございますか?」


「食材はどこで仕入れてんの?」


「貴族街の商会からでございます。」


「なら、西の街から仕入れるようにして。みんなの食材を同じにしても値段が下がると思うから」


「庶民街からでございますか?」


「どうせ貴族向けの商会も庶民街から仕入れた物をここに売るだけなんだから無駄でしょ。肉屋とかに言っておくよ。ここまで届けてくれると思うし、そのうち貴族街に卸さないような食材が出てくるから。香辛料とか手に入りにくいものはロドリゲス商会に頼んでおく。白砂糖とかなかなか手に入らないでしょ」


「は、はぁ」


今までのやり方とまるで違う事を指示され続けるカンリムは呆然としていた。


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