第351話 万年筆は意外と難しい
ー翌日ー
「ごめん、シルフィードの稽古はダンが見てくれる?」
「じゃ行ってくるわ」
俺は商会に缶詰だ。ガリ版とそろばんは比較的簡単に出来た。問題は万年筆だ。簡単と思っていたのがやたら難しい。
素材選びをドワンにしてもらってる間にサイトに紙の作り方を教える。うろ覚えだけどこの少ない情報で研究してくれたまえ。5年くらいで物になるといいな。
ジョージが芋の酒の作り方を教えてくれと来たので、芋を蒸して醸造するんだよと教える。他の酒作ってるからなんとかなるだろ。エールの蒸留も頼んで置く。ウィスキーも作らないとね。これが物になったらトウモロコシでも挑戦してもらおう。
「ペン先はこいつでどうじゃ?」
なんの合金だろう?なんか硬いやつみたいだけど。
「字を書くのはこれでいいけど、全体はある程度柔軟性がないとだめなんだよ。それとこれを合体させていくってのはどう?」
「これをくっつけるのか?」
「そうそう。ここは字を書くからすぐにすり減らないように。ここは毛細管現象でインクを吸わないとだめなんだよ。こうやって力を入れたら少し開くでしょ?」
金属をくっつけるのは錬金棒があるから比較的容易に出来る。作っては滑り具合を確認しての繰り返し。ミゲルは先にペン本体を硬い木で作ってくれている。ドン爺とエイブリックの分をミサに渡して先に装飾を施してもらおう。
「飯を食うぞ」
唐突にドワンがそう言うのでバルに移動。お、マヨピザとフライドポテト、ジュースをもらおう。タマネギとマヨの組み合わせ好きなんだよね。
「おやっさん、炭酸になる粉だけどあれ量産出来るの?」
「もう始めてるぞ。好きなだけ持ってけ」
「いや街の飲食店で使いたいから販売して欲しいんだよ。エール以外でも使おうかと思って」
「ジュースにでも混ぜるのか?」
「そう。まぁ店が出来てからだから1年後とかだけど」
「なら、一袋銅貨50枚でいいぞ」
「わかった。ロドリゲス商会に発注するよ」
「そうか、なら銅貨30枚で卸してやる。それなら50枚以下になるじゃろ」
「あと馬車も作って欲しいんだけど」
「どんなのじゃ?」
「10人乗りくらいので考えてる。王都の住民街に定期馬車を走らせるんだ。街の再開発が終わったらディノスレイヤと定期馬車を出すつもり。こっちは大型で30人乗り」
「新型で考えとるのか?」
「荒れた道を走るわけじゃないからそこまで高性能じゃなくてもいいんだけど」
「わかった。今年の冬に何台か出来てたらいいんじゃな」
「うん、利用客の状況を見ながら追加していくよ」
「王都に温泉は出るのか?」
「掘ってみないとわかんないね。井戸って人力でも掘れるけど温泉は魔法でやらないと無理だね。地下1000m以上掘ってみて出るかどうかだってところ。王都もディノスレイヤもどこ掘っても水出るでしょ?可能性はあると思うんだ」
「ここで試してみるか?ここで出るならバルブ1本じゃ足らんじゃろ?」
「まぁそれは出てからでも間に合うけど」
「いいから掘ってみろ」
なんだ温泉に入りたいだけじゃんか。
バルの裏庭にバルブを用意する。しばらく掘ってからバルブをさして土魔法で固定。その下をゆっくり掘っていくとバルブからぶしゃーと水が出る。パイプ代わりの壁を作りつつ掘り進めると水が止まる。
「地下水脈を越えたみたいだね。次に出るのがお湯だといいね」
どんどん掘り進めるもっと深く深く・・・
本当に掘れてるだろうか?手応えもなければ見えもしないから完全に想像だ。
しばらく掘り進めるとフシューと湯気が出だした。
「バルブ閉めて。吹き出すかもしれない」
念のためバルブを更に強化して固定。下手したら爆発したみたいに飛び出るからな。
もう少し掘り進めてから少しずつバルブを開けると熱湯が吹き出した。
「あちちちちちっ」
慌ててバルブを閉める。
「やっぱり出たよっ!」
「このままだと熱すぎるじゃろ」
「水のバルブも作ってちょうどいい温度にするんだよ。このバルブにパイプつないで風呂まで引き込めばいいよ」
「よし、バルブを何本か作っておく。こいつの先に配管を繋げられるようにしておくぞ」
やった。これでディノスレイヤでも王都でも温泉に入れる。屋敷にも温泉もひこう。もう西の街の発展は確定だな。
バルの温泉は勝手にやってくれるだろうから万年筆の続きだ。
あーだこーだとドワンとやってると時間が経つのが早い。ダンが迎えに来てしまった。
「ぼっちゃん、帰るぞ」
「おやっさん、明日又来るよ。チュールから誘われてるから明日の晩御飯をバルで食べよう」
そう約束して屋敷に戻る。
晩飯を食いながらアーノルド達にドワンとミゲルを王都に連れて行ってくると報告。
「あと明日おやっさん達とバルでご飯食べる約束したから。父さん達も行くでしょ」
「あぁ、わかった。それならブリックも連れていくか。
「ぜんぜんオッケーだけど、父さんがブリックを連れて行こうと言うの珍しいね」
「ブリックが最近元気が無いのよね。どうしたの?と聞いても大丈夫としか答えないし・・・」
そうなんだ。あとで厨房に行って話を聞いてみるか。
ー厨房ー
「おいブリック、なんか元気無いみたいじゃないか。ポポ相手に恋わずらいでもしたか?」
軽く冗談でジャブを打つと驚いた顔をした。まさか本当にそうじゃないだろうな?ポポはまだ7歳だぞ?
「ち、ちちち違いますよっ」
この慌てぶり怪しい・・・
「せめて成人するまで待て」
「だから違いますって」
「じゃあどうした?」
「あの・・・ぼっちゃんは王都に行かれる事が多くなるんですよね?」
「そうだね。春になったら冒険に出て、帰ってきたらしばらく王都にいることが増えると思う。それがどうした?」
「いえ、ぼっちゃんがいるときは大変でしたけど、寂しいなと思いまして・・・」
そうか・・・、今はアーノルドとアイナの飯だけだし、あの二人が厨房に来ることはほとんどないからな。
「そうだな。ブリックの作る飯を食うのも父さん達だけだからな」
使用人の飯も作ってるとはいえ張り合いが減ってるのかもしれない。
「ブリックも一度王都に来てみる?王都に屋敷貰ったんだけどそこのコックに料理を教えないといけないし、世話になってる宿のコックにも料理を教えないといけないんだよ。ずっとというわけにもいかないけど、一週間くらい来てみる?」
「それだとアーノルド様とアイナ様のご飯が・・・」
「一週間くらい自分たちで作ればいいんだよ。晩飯はバルに行けばいいし。明日の晩御飯はバルで食べるから一緒に行こう。そこで父さん達に話してやるよ」
「い、いいんですか?」
「構わないよ。お前このままだと鬱になりそうだからな」
「鬱ってなんですか?」
「心の病気だよ。誰でもなる可能性がある。心がどんどん沈んで何も出来なくなるんだよ。今のお前を見てたらそんな感じがする」
「僕が病気ですか?」
「心の病気は自分では気付かないんだよ。時々ボーッとして時間がいつの間にか過ぎてたりしないか?」
「あ、あります・・・」
「ほら、ヤバいぞ。だけどまぁ大丈夫だ。俺は王都でやらないといけないことが山ほどあるからお前の力を少し貸してくれ」
「よ、喜んでっ」
「じゃ、明日、父さん達と一緒にバルで飯な」
「わ、わかりましたっ」
ブリックは新しい料理を覚えたり、色々な人が来てたくさん料理を作ったりしてたのが急になくなり、俺があまり帰って来ないと聞いてぽっかり心に穴が空いたのかもしれん。こいつ真面目だからな。
アイナからブリックの事を聞かなかったら気付かずに病気になってたかもしれん。今気付いて良かった。
しかし、ずっと王都の仕事をさせる事も無理だし、なんかやりがいある仕事を作ってやらないとな・・・
翌日はミーシャも連れて商会へ来た。ダン達は昨日と同じく二人で稽古。俺はドワンと万年筆の試作だ。ミーシャは見てるのも暇だろうからバルの手伝いに行かせた。
「これでどうじゃ?」
くるくると円を書くように試し書きをする。
「インクが出過ぎるね。手に付いちゃうよ」
「ここをもう少し細くせにゃならんか」
「そうだね」
細くしたやつだと少しするとインクが出なくなる。
「おかしいね、なんでインク出なくなるんだろ?」
「細くし過ぎか?」
「それならもっと早く書けなくなるよ。途中からインクが出なく・・・・」
あ、これが原因かも。
「おやっさん、カートリッジのお尻に小さな穴を開けてくんない?」
「そんなことしたらインクがこぼれるじゃろが」
「それは後で調節するから」
カートリッジのお尻に小さな穴を開ける。
「ほら、これだと書き続けられるよ」
「何が違うんじゃ?」
「空気に引っ張られてインクが落ちて来ないんだよ」
正しくは周りの空気に押されて出て来ないんだけどね。
「昔、おやっさんに魔法を教える時にも言ったやつだね。お尻から空気が入れば解決するから。後はインクが出て来ない穴で空気が入る穴の大きさに調整だね」
これも試行錯誤していくとようやくちょうど良いのが出来た。
「後は量産だね」
「何本くらい作るんじゃ」
「今回王都に持って行くのは10本あれば足りるかな。そのうち2本はドン爺とエイブリックさんの。父さん達やセバスも必要だろうから、それは後からでもいいと思うよ。一般販売はそれからだね」
「これも売るんじゃな?」
「王都の文官達にめっちゃ売れると思うんだよね。ペン先、本体、カートリッジのバラ売りも必要だと思う。特にペン先は消耗品だし。本体はミサに装飾をしてもらえば高額品で売れると思うよ。見栄に金使うから」
「なら登録しとくぞ。売値はどうする?」
「そこはお任せするよ。そう簡単には真似出来ないだろうから高くていいんじゃないかと思うけど」
「そうじゃな。ノーマルのは銀貨10枚程度、貴族向けは金貨1枚以上で売るか」
原価は知れてるから超高利益率商品だ。
「じゃあ、俺は森に行くよ」
「次はガラスじゃ」
はい・・・・
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