第349話 ゲイル帰還

「ぼっちゃまお帰りなさい」


ミーシャにぎゅーっと抱きしめられる。もう胸も育ってるからやめてくれ。恥ずかしいんだよ。


「こっちの用件が済んだらまた王都に行かないといけないんだよ。ミーシャも一緒に行く?」


「はいっ、もちろん!」



屋敷に入り、食堂に行くとアーノルドとアイナもいた。


「やっと帰って来たか」


「またすぐに戻らなきゃならないけどね」


アーノルド達にドン爺とエイブリックに詫びを入れたことや、これから西の街でやろうとしていること、マルグリットに農業指導することなど王都での出来事を話した。


「ゲイルはもう本当に領主の仕事を始めたのね」


頬に手を当てながらしみじみと呟くアイナ。


「母さん、治療院の従業員で二人くらいこっちに派遣出来る?ディノスレイヤみたいに怪我人が多い訳じゃないから暇かもしれないんだけど」


あら、それなら私が行くわと言い出したのをアーノルドが止める。本気じゃなかろうな?


「二人でいいの?」


「取りあえずはね。出来れば一人は誰かを指導出来る人がありがたいかな」


「じゃあ、声を掛けておくわ。いつから?」


「冒険から帰って来てからかな。早くて今年の年末くらい。まだ建物も何にもないから」


「なら問題ないわ。誰も行きたがらなかったら母さんが行くから」


やっぱり本気だったか。


「明日からは何をするんだ?」


「おやっさんの所で作って貰う物があってね、それに集中しようかと。あとミーシャとシルフィードを一緒に連れて行くよ。シルフィードの稽古がおざなりになっちゃってるから」


「剣は俺がやってるが上達してるぞ。かなり動けるようになってる。後は魔法やら連携中心でいいと思うぞ」


アーノルドから太鼓判か。シルフィード頑張ってんだな。シルフィードはバルに泊まったり、ここで泊まったりしているようだ。


「あと王都に行くとき馬車使える?」


「なんとも言えんなぁ。使うかもしれないし、使わないかもしれないし。ドワンとこの馬車はダメか?」


「あ、うん聞いてみるよ・・・」


あの覇王が乗る馬車か・・・ あっちの方が荷物乗るから便利なんだけど・・・


「あ、エイブリックさんから身分証みたいなの貰ったんだけど、紋章登録しとけって。父さん達どこで頼んだの?」


「お前に身分証って渡してなかったか?」


「貰って無いよ」


「いつも王都にどうやって入ってたんだ?」


「お金払ってたよ。門が閉まってたら開くの待って」


「そっかすまんすまん。すっかり渡すの忘れてたわ。まぁ、今さらだな。俺が頼んだ紋章屋で良かったら教えてやる」


場所を聞いておく。アーノルドの息子だと言えばぼられる事はないだろうとのこと。デザインは自分で考えておけよと言われた。お任せするとディノスレイヤみたいな恥ずかしい奴になるそうだ。



翌日全く休みをあげてないダンに休みでいいよと言ったけど、心配だから付いてくると言われた。



「おやっさん、久しぶり」


「まったくお前は毎日毎日手紙をよこしおって」


と言いながらも笑顔のドワン。


「早速だけどさ、こういうのを作って欲しいんだよね」


そういうと途端に難しい顔になるが無視だ。時間がない。


「バルブはすぐに出来る。そろばんってのはミゲルに頼め。あとガリ版ってのは何で作るんじゃ?」


「蝋が必要なんだけど、蜜蜂の巣から取るのが手っ取り早いかな」


「この万年筆ってのは?」


絵に描いて説明する。


「こうやってインクを入れておけば何回も浸けなくてもいいんだよ。このペン先も交換出来るようにして、太いのと細い字が書けるようにして欲しいんだ」


「何本くらい必要なんじゃ?」


「取りあえず10本くらい。持つ所は親方に頼んだ方がいいかな?」


「そうじゃな、このペン先と持つ所はミゲルと打ち合わせるわい」


「2本はドン爺とエイブリックさんに献上するからミサに装飾を頼むよ」


「隣にいるから自分で頼め」


へいへい


「おーい、ミサいるか?」


結構賑わってんな。


「あ、ゲイル君久しぶりだねぇ。どこ行ってたの?」


「今王都に行っててね。頼みたい事があるんだけどいいかな?」


概要を伝える。


「オッケー。前にやったデザインと同じでいいなら早いよ」


「じゃあ、それでお願い」



次はシルフィードとサイトだな。


バルの2階に探しにいく。


「シルフィードいるー?」


タタタタっと階段を降りてくる音がしてシルフィードが出てきた。俺を見るなりギュッとする。


「お帰りなさいゲイル様」


寂しかったのだろうか?


「シルフィード、またすぐに王都に戻らないとダメなんだよ」


そういうと暗い顔をするシルフィード。


「だから、一緒に王都に行こうか。向こうで修行すればいいし」


そういうとパァと明るくなった。


「何々?どこ行くん?」


ミケが耳をピクピクさせながら階段を下りて来た。


「今、王都に行っててな、また戻るからシルフィードも連れて行くんだよ」


「うちも行くーー!」


「あほかっ」


「えー、ちょっとくらいええやんか」


廊下で会話をしていたらチュールが出てきた。


「数日ならかまいませんよ」


「え?いいの?」


「はい、人も増えましたし、ミケはぜんぜん休んでませんので」


ならいいか。


「王都も獣人に馴れてないからちゃんと耳を隠しとけよ」


「獣人ちゃうで、ハーフ獣人や」


「どっちでもええわっ」


あかん、関西弁がうつる。ミケに劇場で漫才させたらええかもしれん。


「あ、そうそう。チュールの北京ダック好評だったぞ」


「本当ですか」


「成り行きで王邸の厨房で手伝わされたんだよ」


「ウィスパー様は・・・?」


「この屈辱は忘れんからなって言われたよ」


チュールはこの一言で状況が飲み込めた様だった。こら、手を合わせるな。俺に合掌するなよ。縁起でもない・・・


「今晩食べに来られますか?」


「何も決めてないや。ちょっとおやっさんと話すよ。小屋に行くかもしんないし」


王都に戻る前に必ず一度は来てくれと言われたので了解しておいた。


「ファムとサイトいる?」


そう大声を出すと二人とも出てきた。


「騒がしいとおもったらぼっちゃんか」


いつの間にファムまでぼっちゃん呼びに・・


「農業は進んでる?」


「今はやることが少ねぇな」


「サイト、紙作り教えるから冬の間に研究しておいてくれるか?」


「本当ですか?やりますっ!」


「じゃあ明日からやろう」



ドワンの元に戻って今晩報告を兼ねてご飯を食べようということにした。


「じゃあ、お前が作れ」


はいはい。


「鍋でいい?焼き肉?」


どっちもですか。はい、わかりました。


シルフィードを連れて屋敷に戻り、アイナとブリックに小屋で飯を食うことを伝える。ミーシャも乗せて買い出しだ。



「ようザック久しぶりだな」


「ぼ、ぼっちゃん。商会長を呼んで来ますので待ってて下さい」


来るなりそう言われて応接室に案内された。



「ぼっちゃん、ようこそいらっしゃいました。この度は・・・クドクド」


「ごめん、先に用件を聞かせてくれるかな?」


「申し訳ございません。ドンキより報告はあったのですが直接お伺いいたしたく」


ドンキ?あぁ大番頭のことか。


「そうそう。王都の西の庶民街を再開発することになってね」


今回の詳細を話す。


「まさか王都に領地を持たれるとはとても信じられなかったのですがさすがでございます」


「出店出来そう?貴族街より単価は落ちるけど数は売れると思うから」


「もちろんでございます。必ずや出店させて頂きます」


「あと、定期馬車の話も聞いてる?」


「はい」


「初めは王都とディノスレイヤの定期便で試算して貰ったんだけど先に王都内の庶民街を走らせる定期馬車をやろうかと思うんだよね。再開発が終わって店が出来始めたらやりたいんだけどそれもお願い出来る?」


「かなり申請が難しいのではないかと・・・」


「それはもう許可取ってあるから後は人、馬、馬車の手配だけ。無理そうなら他をあたるけど」


「やります」


「なら予定だけしておいてね。年末にテスト運用してそれから本格稼働予定で」



本題の野菜を仕入れようとするとお金を要らないと言われたがちゃんと払う。これはこれ、それはそれだ。



肉屋でも色々と話してから森に向かった。ここに来るのもずいぶんと久しぶりだ。


いつもの森に到着すると、しばらく誰も来なくなった小屋は寂しそうだった。


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