第348話 社交会の後始末

「誰かなんか叫んでるよね?」


ポッドと二人で顔を見合わせる。



「で、殿下っ!お待ち下さいっ。そのような所に行かれては困りますっ」


なんだエイブリックがこっちに来てるのか。



「おいゲイル、クレームだクレーム」


エイブリックが厨房に来た事にも驚き、クレームという言葉に全員の顔がサーっと青ざめる。


「だから見知らぬ奴を厨房に入れるのは嫌だったんだ。何をやった貴様っ!」


「エイブリックさん」


ざわっ


「あー、エイブリック殿下。クレームって誰かの口に合わなかったのかな?」


「お前パフェを2種類出したろ?」


「うん、プリンとストロベリー」


「初めのクレームはな、お腹いっぱいでもう食べられないのにこんな美味しそうな物を出すなんてというクレームだ」


エイブリックが笑顔だったからそんなこったろうと思った。


「で、二つ目は?」


「先にプリンパフェを食べた人は次のを遠慮させられたというクレームだ」


「二つ食べた人いるって聞いたよ」


「下位の爵位の分を食べたんだ」


ひでぇ。


「という訳でパフェのレシピだせ」


「いいけど、作れないんじゃない?」


「そんなのは知らん」


ホントにひでぇ。


「エイブリック殿下、すでにまとめてあります」


ポッドよ、優秀だ。


「あと、唐揚げ作ったやつは誰だ?」


「は、ハイッ私であります」


「そうか。腕を上げたな。ゲイルが作った奴みたいだったぞ」


「トンカツとコロッケは誰だ?」


「ハイッ 私であります」


「あのソースは新作か?」


「あの、その、そちらの子供に教えて貰って・・・」


「なんだ、ゲイルか。よし、あのレシピも出せ」


「あんなのレシピ出すほどのもんじゃないよ」


「いいから出せ。色んな奴から聞かれてんだ」


へいへい。


「イチゴのパフェかアイスクリームは残ってるのか?」


「パフェもアイスも売り切れだよ。最後にアイス食ってった人が居てね」


「ポッド、あれは屋敷で作れるか?」


「柔らかめの物なら出来ます」


「わかった。ならいい」


「まだ誰か食べたい人いるの?」


「俺だ」


あ、そうですか。なら帰ってから食え。



「他の者達もよくやった。今年の社交会も大成功だ」


わあぁぁぁぁとコック達の歓声が上がる。


「但し、来年からはどうなるかわからんぞ」


「エイブリック殿下それはどういう意味でございますでしょうか」


「ゲイルが庶民街で店を作って行くからだ。ディノスレイヤ領ではすでにここで出している料理が出されている。貴族共は知らんがな。それが王都の庶民街で食べられるようになる。加えて新しいレシピも庶民街から出るだろう。うかうかしてるとあっという間にお前達の立場が地に落ちると思え。王邸の料理より庶民街の料理の方が旨いとなるからな」


先ほどの歓声はどこへやら。一気に暗くなるコック達。エイブリック邸のコックは平然としてるけどね。


「殿下、お言葉ですが。いくら新しいレシピを作れるからと言って我々より旨いものが・・・」


「おい、唐揚げのコック」


「は、ハイッ」


「お前もゲイルに手解き受けたんだろ?」


「は、はい・・・」


「ウィスパー、お前唐揚げは出来るか?」


「もちろんです」


「ではゲイルを入れて3名で唐揚げを揚げろ。皆で食べ比べてみるがよい」


また面倒臭い事を・・・



何も言わせて貰えず、結局唐揚げを揚げさせられる。下味は全部共通で揚げる腕だけの勝負だ。


料理の勝負ってなんだよ・・・



誰がどれを揚げたかわからないように皿に盛り付ける。


「よし、お前ら食べて一番旨いと思った唐揚げの皿の前に並べ」


一つの皿に全員が並ぶ。


「次に旨かった皿に並べ」


また一つの皿に全員が並ぶ。


王都のコック達は舌は確かなんだな。全員一緒とは。


「どの皿が誰が作ったかは揚げた者がわかっただろう。同じレシピでもこうやって差が出る。常に研鑽せよ」


はっ!


全員が大きな返事をするなかウィスパーはワナワナと震えていた。



「ゲイル様、こちらをお願いします」


ポッドがアイスクリームの原液を持ってきた。次にエイブリックが何を言うのか読んだのか。


「今回はパフェの問い合わせが一番多かった。お前らも機会があれば食って確かめろ」


「殿下、こちらを」


マカロン抜きのパフェと言うよりサンデーだな。バニラアイスにキャラメルソースと生クリームだ。


「もう無かったんじゃないのか?」


「今、ゲイル様に残っている材料で作って頂きました」


「ウィスパー、これを食ってみろ。社交会に出した半分くらいの旨さだが十分に俺の言った事が解るだろう」


渋々パフェならぬサンデーを食べるウィスパー。


あーあー、唇噛みしめてんじゃん




「エイブリック殿下、陛下がお呼びです」


ここに来るのを止めようとした執事っぽい人では無理だと判断してドン爺はナルディックに呼びに来させたようだ。


「あ、ナルさんじゃん。専用武器と鎧姿めちゃくちゃ似合ってるよ」


まさに西洋の弁慶だ。


「おぉー、ゲイル殿。こんな所にいらっしゃったのですか。道理で客達も去年にもまして料理に夢中だった訳ですな」


「いや、俺はアイスクリームを作っただけだから。食べていく?」


チラっとエイブリックを見るナルディック。エイブリックはクイっ顎をしゃくって返事をする。


「もちろんですとも。おー、これはこれは。うちのやつらにも食わせたいものですなぁ」


「また今度遊びに来てよ。違う味のも作るから。それと衛兵団長のこともありがとうね」


「衛兵団長の件は少し本気だったのですが陛下に怒られましてな。ホーリックを宜しく頼みますぞ」


衛兵団長になってくれたのはホーリックというのか。


「こちらこそ。明日から少しディノスレイヤに戻るから。王都に帰ってきたら衛兵の詰所に挨拶に行くよ」


頼みますぞと言ってナルディックはエイブリックを連れて戻って行った。


「ゲイル・・・様」


「ウィスパーさん、俺に様付けとかいらないよ」


「ゲイル殿、今日の屈辱は忘れませんぞ」


あ、ハイ・・・




作ったアイスクリームは食べたい人に食べて貰うように言ってから帰った。


「ヨルドさんごめんね。また風当たりが強くなりそうだね」


「いえいえ、我々が初めてゲイル殿とお会した時も同じような態度を取りましたから」


「それでもすぐに仲良くなれたじゃん」


「ウィスパー様のフランネル家は代々王邸のコック長を勤めている家系ですからな。非常にプライドがお高いのです。あの唐揚げはゲイル殿、コック、ウィスパー様の順番だったのではありませんか?」


「そうだね。代々って事は腕でコック長になったわけじゃないの?」


「小さな頃から料理の修行をされているので腕が無いわけではありません。新しい料理に対して反発心からかあまり携わろうとされないのです」


それで現場にコツとか教えられてないのか。


「まぁ、もう王邸の厨房に行くこともないだろうし、会うことも無いからいいか」


「そうですね。ゲイル殿しか出来ない料理を殿下に食べさせないようにすれば良いのです」


「わかった。そうするよ」


ヨルドの言うことはもっともだ。



エイブリック邸でドン爺の社交会自慢を聞きながら晩飯を食べ、翌朝ダンと共にディノスレイヤ領にシルバー達を走らせた。



えーっと、温泉用のバルブ、万年筆とガリ版とそろばんを作ってこないとな。ドン爺とエイブリックの万年筆はミサに装飾を頼むか。


忘れないように心にメモをしながら帰った。


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