第347話 王家の社交会ヘルプ
「ごめん、こんな事になって・・・」
ドン爺から解放された俺はまだ厨房に人がいると聞いて向かったらまだ皆作業をしていた。
「そうなるだろうと思って準備進めてますよ。マカロンもプリンもほらこの通り」
素晴らしい!流石エイブリック邸の料理人だ。もうマカロンまで用意されてるしちゃんと出来てる。
「アイスクリームはどうしても上手くいかなくて」
「あれは設備のせいだから仕方がないよ。少し作るだけならこうやってね」
と、氷に塩を入れ、ボウルの中にアイスクリームの元を入れてシャカシャカしていく。
「こんな簡単に解決出来るとは・・」
「でもコチコチに固まるまではいかないからその場で作ってとか社交会じゃ無理でしょ。エイブリックさんが食べたい時にはこうやって作ってあげてね。フルーツとか混ぜたらそれだけでも味の変化を付けることも出来るよ。フルーツを凍らせて保存しとけば季節外れでも作れるし」
「わかりました!明日申し訳ないですが、朝ご飯食べたらすぐに出発しますので宜しくお願いします」
「ここでやるんじゃないの?」
「いえ、社交会は王邸で行いますので、皆で馬車で移動します。近いのですぐですよ」
王邸かぁ。どんな所なんだろうか?
俺は当日アイスクリームを作るだけでいいらしく、先に厨房から失礼させてもらった。
朝飯を食べたら出発だ。シルバーで馬車に付いて行くと言ったらこの馬車しか入れませんだって。セキュリティの問題だろう。
「ゲイル殿、社交会のコックは我々と王邸のコックとの共同になります。」
「たくさんいるの?」
「我々はエイブリック殿下の私的なコックですが、王邸は国のコックです。立場は我々の方が下になりますので、嫌な思いをさせてしまうかもしれませんがご容赦願います」
ヨルドの説明では以前までヨルド達は手伝いという立場だったのが、新しいレシピが出来てから指導する立場になり、王邸コックのプライドを大いに刺激しているらしい。
王様、王子様の命令とはいえ指導される屈辱を味わった上に評判が比べ物にならないくらい上がったのが許せないらしい。
「やりにくそうだね?」
「はぁ、まぁ・・・」
目的は社交会の成功なので足を引っ張られたり、わざとヘマされたりとかはないみたいだからいいか。どうせ俺はアイスクリームを作るだけだからな。
王邸に到着すると城かと思うような大きな建物だった。裏口から厨房にいくまでもキョロキョロと中やら天井やらを見回す。
「エイブリック邸もすごいと思ったけど、王邸って凄いねぇ」
「あちらはエイブリック様の部屋でございますから。こちらは王家の家ですからこれくらいのものは当然です」
エイブリックがディノスレイヤの屋敷が馬小屋とか言った意味わかるわ。これに比べたら本当に小屋だ。
掃除するの大変だろうなぁとか思いながら厨房に到着。テレビでやってた大きな高級ホテルの厨房みたいだ。コックもたくさんいてめっちゃ叱られてる人とかいる。
「ヨルド遅いぞっ!」
時間より早く来たのにね・・・
「本日は宜しくお願いします。ウィスパー様」
王邸のコック長はウィスパーというのか。吸水性の良さそう名前だな
「なんだその子供はっ!厨房に部外者を入れるとはどういうつもりだっ」
「こちらはゲイル・ディノスレイヤ様。エイブリック殿下のご命令により、本日のデザートのお手伝いを急遽お願い致しました」
「ゲイル・ディノスレイヤ・・・? もしかして新しいレシピを作ったやつか?」
「さようでございます」
「こんなチビのレシピを作らされてたとはな。チッ」
ヨルドに予め聞いてて良かった。ムカついて何か言い返すところだった。
「アイスクリームだけ作らせてもらいます。宜しくお願いします」
「殿下のワガママにも困ったもんだ。こんな奴を栄誉ある王邸の厨房に入れにゃならんとは。アイスクリームだかなんだか知らんが、邪魔だけはするなよっ!」
「申し訳ありません、ゲイル殿」
「ヨルドさんが謝る必要は無いよ。自分の職場に知らない奴が来ればあんなもんじゃない?コックも職人だし」
「そう言って頂けると助かります」
「パフェは社交会が始まってからでも間に合うよね?出すの後の方でしょ?」
「はい」
「じゃあアイスクリームは先に作れないからその辺でちっこくなってるよ」
「申し訳ありません」
俺が作り出すまで結構時間あるな。セキュリティの問題上一緒に来なければいけなかったから仕方がないけど。
コック達の邪魔にならないように動線から外れて調理をする様子を見ていると、あそこどんくさいなとか慌て過ぎて連携出来てないな、とか良く分かる。
「どけっ、邪魔するなと言っただろうがっ」
王邸コック長ウィスパーがやって来てどけと言われた。ここはみんなの動きを見る場所だったか。全体を見渡せるからね。
そっとよけるとムンズと掴まれる。
「なぜここに居た?」
「俺のは作っても溶けるやつだから出番までまだまだなんだ。だから邪魔にならないようにここにいた」
「違う、なぜこの場所を選んだ」
「ここだと全体が見えるから」
「ふん、くそ生意気なガキだ。早くどっかへ行けっ」
お前が引き留めたんじゃねーかとは言わない。他の場所に移動しよう。
揚げ物してるここなら邪魔にならないな。
せっせと最後の仕込みをして油の温度を上げていくコック。唐揚げ、トンカツ、コロッケかな?それぞれ担当が違うようだ。ここだけ見ていると出来立て弁当屋の厨房みたいだな。とても王家の社交会に出すメニューとは思えない。
しかし今から揚げ出したら冷めるよなぁ。ビュッフェ形式だと聞いてるから揚げながら出して行けばいいのに・・・
近くの唐揚げを見てると揚げている時間が短い。二度揚げするのかな?しかしそのまま見てると二度揚げする様子もなさそうだ。揚げすぎなら美味しくないで済むけど揚げたりないのはヤバい。鶏肉はサルモネラ菌とかの危険があるからな。
「そこの唐揚げ揚げてるコックさん」
「なんだっ!?」
「その唐揚げ全部揚げ足りないよ」
「誰だお前はっ!口出しするなっ」
「いや、鶏肉は生だとヤバいんだよ。いいからどれか一つ切って中を見てみろよ。社交会の料理食ってお腹痛いとかになったら大問題だぞ」
ちょっと声を荒げて言うと舌打ちしながら一つ切った。
「あ・・・・」
「だから言ったろ。揚げ初めの油の温度が高いから揚がってるように見えるけど中まで熱が伝わってないんだよ。揚げ物は見た目と揚がる温度で判断するんだ」
「お、お前は何者だ?」
「このレシピ作った者だよ。ちょっと貸してみ、やりながら温度調整とちょうどいい揚がり具合の音を教えてやるから」
あうあうするコックの横に行き、唐揚げの粉を油に落とす。
シュッッと音がなり一瞬で浮いてくる。
「こんな感じですぐに浮いてくるのは温度が高すぎるんだよ。すこし油を足して温度下げて」
様子を見ながら唐揚げの粉を落とす。しばらく沈んでからシュウと浮き上がって来た。
「これくらいで揚げ始めるよ。一度にたくさん入れすぎると油の温度が一気に下がるからこれくらいの量ね」
唐揚げが揚がっていくとパチパチという音からシュワワっと音が変わる。
「今音が変わったのは鶏肉の油と水分が出だした合図。これはまだ中まで火が通ってない」
シュワワーから音が高くなる
「これくらいの音に変わったら中まで火が通った合図ね。ここで一旦取り出して、ちょっと待つと油の温度が上がるからそこでもう一度今の唐揚げを入れて衣をよりカリっとさせて出来上がり。味見してみて」
「うぉっ旨いっ」
「ちょっとしたことで味は変わるから頑張ってね」
隣でトンカツを揚げていたコックに声を掛けられる。
「ぼ、僕にもアドバイス貰えませんか?」
「トンカツは上手に揚がってると思うよ。これはなにを付けて食べる予定?」
「塩、胡椒、マスタードです」
それでもいいけど、ちょいアレンジするか。
「今日、ビーフシチューって作ってる?」
「はい」
「じゃ、それ少しもらってきて。具はいらないからソースだけ。あとハチミツと酢」
持ってきたビーフシチューにハチミツと塩を入れて味を濃くして酸味を加える。なんちゃってトンカツソースだ。
「こんなソースもいいと思うよ。マスタード混ぜてもいいし」
トンカツソース、プラスマスタードの両方を試すコック
「めちゃくちゃ旨いです」
「ビーフシチューが余分にあるならお客さんにも出してあげてね」
「ぼ、僕も何か・・・」
コロッケ担当か。
「コロッケも同じソースでもいいんだけど、オーロラソースを作ろうか。マヨネーズとトマトソースある?」
持ってきた奴をちょいちょいと混ぜて塩胡椒で味を整える。
「このソースは簡単だし、他のと味が被らないからいいと思うよ」
「あ、ありがとございますっ」
「貴様っ!隅で大人しくしてろって言っただろうがっ」
やべっ見つかった。またグチグチ言われるのも嫌なので気配を消してスッと逃げてやった。
「あ、あれ?ここにあのチビが居なかったか?」
「あ、あれ?」
さて、そろそろ準備しますかね。
アイスクリームの原液はポッドがすでに作ってくれてあった。俺は冷やして混ぜるだけだ。エイブリック邸のコックって本当に優秀だよなぁ。
ダーッと冷やしながら混ぜていく。
「ゲイル様、全部同じものにしますか?」
「なんで?」
「イチゴを余分に持ってきたのが余りそうなんです」
「じゃあストロベリーパフェとプリンパフェにしようか。社交会に出る女の人って甘い方がいいんだっけ?」
「そうですね。より甘い物を好まれる方が多いです」
昔食べた外国のお菓子とか歯が溶けるかと思うくらい甘かったからな。この世界でも同じか。
「練乳作れたっけ?」
「はい。」
「じゃあ練乳とキャラメルソース作って。こっちはバニラアイスとストロベリーアイスを作るから」
パフェのサイズは昨日の半分くらいらしい。お客さんは色々食べたいからそうなるな。
一旦全部バニラアイスにして半分はコチコチに温度を下げて保冷。残り半分に不揃いではねたイチゴや切れ端を入れて混ぜていく。少し生クリームを足してコクを補充。砂糖も少し足すか。イチゴの水分で薄くなったのを調節して完成だ。コチコチにして保冷しておこう。
「ゲイル様、味付けはどうしますか?」
「プリンパフェは下のマカロンにキャラメルソース、バニラアイス生クリーム、プリン、生クリームにカラメルソース。イチゴはマカロンストロベリーアイス生クリームイチゴに練乳掛けでいいかな。盛り付けは任せていい?」
「はい、こちらのはすべて終わってますので大丈夫です」
さて、後はメイド達が取りに来るの待つだけだな。
ようやく始まった社交会も中盤となり慌ただしくデザート類が運ばれていく。ポッドのやつこんなに色々とプチケーキを作ったのか。凄いな。
一つモンブランを摘まんでやった。旨いじゃん!やっぱり自分で作るより人に作って貰った方がいいな。
好物のモンブランを美味しそうに食べた俺を見てポッドも嬉しそうだった。
パフェもそろそろということなので、せっせとマカロンとアイスクリームを入れてポッドに渡す。プリンと生クリームを入れてと二人の流れ作業だ。
出来たそばからメイドが持っていく。
「メイドさん、こんなスピードで出して行って大丈夫?すぐ溶けるから早くに持っていくと食べられなくなるよ」
「いえ、皆様お待ちですので、出来れば早めに出して頂けると・・」
マジかよ。
ポッドとの連携がどんどん良くなり、出せるスピードも早くなってくる。
「プリン終わりました」
「じゃストロベリーアイスに切り替えるね」
アイスをこんなに固くするんじゃなかったと後悔する。身体強化してやろう。スプーンを持ってる腕と指がヤバいのだ。王邸の冷凍室はエイブリック邸のより温度が下がるみたいで目測を誤ってしまった。
ストロベリーに切り替えた頃、メイドの来るスピードが落ちた。
だいたい行き渡ったのかな?
と思ったら続々とメイドが取りに来る。
プリンパフェを食べた人もストロベリーパフェを欲しがってるだと?歯が溶けるぞ。
「あーー、疲れた。毎年こんなことやってんの?」
「いえ、デザートは事前準備してあるので当日はこんなに忙しくなることはないのですが・・・」
「あ、あの・・・このパフェというのは・・・」
「ごめん、売り切れ」
「あ、あのあの・・・」
おろおろするメイド。
「アイスクリームだけなら大丈夫だから聞いてきて。バニラかストロベリーで。初めに出したのがバニラ、後のがストロベリーだよ」
小走りに走り去るメイド。どこかの貴族婦人に無茶を言われたのだろう。
「りょ、両方だそうです」
「一人分?」
「5人分です」
アイスを2種類入れて、バニラにキャラメル、ストロベリーに練乳、その上から生クリームっと。
「はい出来たよ。同じ人がまた注文するなら太りますよって言っておいて」
「はいっ」
本当に言うなよ・・・
にこやかに返事をしたメイドに不安を覚えたが、王邸のメイドならそんな事は言わないだろう。
しばらくしてさっきのメイドが戻って来た。
「もう大丈夫みたいです。無理を申し上げてすいませんでした」
「大丈夫だよ。こっちより直接接客するメイドさんの方が大変なんだから。これ味見しておいて。次に何か聞かれても知らなかったら困るでしょ」
「え?」
「味見も仕事のうち。もうアイスしか無いけどね。これ今日しか作れないから今のうちだよ」
サーブする前に味見をさせるならともかく、終わってからの味見に意味はない。これはちょっとしたサービスだ。このメイドが一番何度も取りに来てたからな。
キョロキョロしてから小さめに入れたアイスクリームをパクンと食べた。
「うわぁぁぁ、とっても美味しいです」
やっぱり思った通り美味しい物を食べた時の顔がミーシャみたいだ。
「ありがとうございました」
「いえいえ、頑張ってね」
「はいっ」
あー終わった。
片付けを手伝っていると何やら叫び声が聞こえてきた。なんだろう?
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