第346話 エイブリック邸その2

また唐揚げ・・・


様々な味付けがされた唐揚げが目の前にてんこ盛りだ。エイブリックはどれだけ唐揚げLOVEなんだよ?


「そうだ、あの盗賊どもを前の通り賊の発見者に戻しておいたぞ。どこに配置するかは好きにしてくれ」


「ありがとう助かる。あと、この前マルグリット・スカーレット嬢が小熊亭に来てね、来年の春に農作業員を派遣してもらうことになったんだよ」


「ほぅ、あのジョルジオの娘か。なんでまた?」


「各地で農作物の育ちが悪くなっててね、王都でも同じことが起こってるんだよ。特に小麦の生産に影響が出てて、各地で生産させてるでしょ?」


「そうみたいだな」


「東の辺境伯領はそれが顕著みたいでね、西の街はそれを改善する為の手を打つんだけど、スカーレット家の農作業員にも教えることになったんだ」


「東のことは東に任せておけばいいだろう?なぜお前が関わる?」


「東うんぬんでは無くて、国民の為だよ。食べるものが減ると争いが起きて国が荒れるでしょ。ディノスレイヤは開拓がどんどん進んでるからまだ問題になってないけど、あらかた開拓が終わった所はこれから同じことが起こるよ」


「国民の為か・・・。お前はスカーレット家に見返りを求めたのか?」


「ただで農作業員派遣して貰うよ」


「それだけか?」


「それだけ。後は米やトウモロコシとかの種を売るくらいかな?」


「そんな物、一度売ってしまえば終わりだろ?」


「こっちは品種改良してより美味しい物を作るからいいよ。まず皆が飢えない状態にするのが先決だから。連作障害って言ってもみんな信じないから、影響力のある東がやりだしたら各地に広がるんじゃないかな?」


「はぁ、お前のやってる事は国策だな。補助金出してやるからそれも使え」


「特別お金が掛かることじゃないから別に補助金はいらないよ。それより聞きたいんだけど、領主とか西の街が税金取って中央に税金払うよね。残った取り分の税金はみんな何に使ってるの?」


「それはそこの領主次第だな。特に国から使い道を指示することはない」


「ベンジャミン家は住民に何もしてなかったみたいなんだよね。住民達がそれぞれ頑張って税金払ってそれでおしまい。全部自分の懐に税金入れてても問題ないってこと?」


「そうだな。それで領地や街が問題なく運営出来ていれば問題ない」


なるほどね。どこもそんな感じなのか。


「あと西の街で生産したものは中央に納めないとダメということはある?例えば紅茶とか」


「いや、現物で税を支払う事も出来るが、中央へ納めるのは基本現金だな。特定の物を納めろというか管理しているのは南の砂糖くらいだ」


「解った」


「何か問題があるのか?」


「いや、紅茶って庶民街で見ないからさ、砂糖みたいに管理されてるのかと思ったんだよ。こっちで売り先を自由に出来るなら良かった。カフェとかしたいんだよね」


「カフェ?」


「ケーキと紅茶とか出す店。あと軽い食事かな。それにハンバーガーとかピザとか。気軽に食べられるお店があるといいでしょ。住民以外向けの店と、住民街向けのやつ」


「住民街向け?」


「これは福利厚生のひとつだと思ってるんだけど、旦那衆は飲みに来るけど、奥様達は来ないから、おばちゃん達向けの店ってところかな」


「なんでそんなもの必要なんだ?」


「おばちゃん達って店の滞在時間が長いんだよ。利益目的の店だと迷惑だから、思う存分くっちゃべる場所を用意してやる方がいいかなって。昼休みとかにおばちゃん達はそこでストレス発散、旦那衆は飲み屋で発散。どっちも金を使えるように皆の収入をあげて、そのうち家族で外食出来るようにしていこうと思うんだ。これで街の中でお金がぐるぐる回るし、街の整備や新しい物へ投資していけば発展間違いなし」


「農民達が家族で外食か。そんな事が可能なのか?」


「作付け面積の単価アップすれば問題ないと思う。壁の外にも領地確保したし」


「もうやったのか?」


「柵作って看板立てただけ。冒険から帰って来たら本格的にやるよ。今年は牧草の種だけ蒔いて牛達の餌場にする。ソドムから壁に門つける申請上がるから却下しないでね」


「来年の春にはどうするんだ?」


「他の農作物を作るよ。で今作ってる場所は牛達の餌場にする。そうやって作物を植える場所を休ませるローテーション場所を作っていくと連作障害が無くなるんだよ。今年はこの作物、次はこれで、その次は牛の餌ってね」


「住民達の土地の管理が難しそうだな」


「後は小麦と米の二毛作とかもあるし、トウモロコシとかイチゴとか新しい作物もやっていくから。住民達がここは俺の開拓した土地だからダメとかならないように住民説明会で皆に伝えたいんだ」


「なるほどな。全部上手く行けば思ってたより早く発展しそうだな」


「どれくらいで想定してたの?」


「お前が成人する時だ」


10年か・・・


「あ、5年で一番になるつもりだから。温泉が出れば確実だね」


「ふっ、まぁ後は好きにやってくれ」



話が終わった後にデザートが運ばれて来た。ポッドは彩りの寂しさを感じたのか、イチゴのスライスをグラスの側面にあしらい、上にも載せておいてくれた。素晴らしい。


「変わったデザートだな」


「こちらはゲイル様がお作りになられたものです」


「お前が作ったのか?」


「お詫びの品と思って。他に渡せるもの無いし、二人とも甘いの好きでしょ?」


「ワシらの為に作ってくれたのか?ゲイルは本当に優しいのぅ」


そう言って食べ始めるドン爺とエイブリック。


ほほぅ、ほほぅ、と一口食べては感心するドン爺。


「これはうちの奴も作れるのか?」


「アイスクリームが難しいかなぁ。腕の問題じゃなくて設備の問題だから」


「どんな設備が必要なんだ?」


「冷凍室の温度がもっともっと低くなれば作れるんだけどね。今のじゃ無理なんだ。これも魔法で冷やして作ったからね。今の設備でも出来なくはないんだけどめちゃくちゃ手間と時間かかるね。エイブリックさんの分だけとかなら可能だと思うよ」


「お前なら大量に作れるんだな?」


「まぁ、一応・・・」


「よし、明日の社交会手伝え。これを作ってくれ」


「え?、明後日には帰るんだけど・・・」


「なら、明日はいるじゃないか。これは詫びの品なんだろ?」


「あ・・・うん・・・」


「じゃ、決まりだ。明日ここを手伝って、明後日の朝ここから出発しろ。いいな?」


「はい・・・」


「ぼっちゃん、皆に伝えておくわ。明後日の朝迎えに来る。」


あ、酷ぇ。ダンのやつ俺を見捨てて帰りやがった。



「ゲイル、今から闘技会の話を聞かせてくれ。エイブリックの奴だけ観てきおったんじゃ。ワシも行くと言ったんじゃが・・・」


そして生贄にされたゲイルはそのまま遅くまでドン爺に闘技会のお話をし続けたのであった。



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