第345話 エイブリック邸

翌日以降ソドム達は現地調査と事務仕事に明け暮れ、俺は1の付く日にエイブリック邸に訪れた。


エイブリックとドン爺は夕食時に来るとの事でダンは寝室に、俺は厨房へと向かった。



「ゲイル殿お待ちしておりました。」


「めちゃくちゃ忙しそうだね」


「明日は社交会ですので仕込みが大変なのです」


「ごめんね、そんな忙しい時に来ちゃって」


「いつでも歓迎しておりますので問題ありません」


ありがとうと言って厨房を借りる。


「何をお作りになられるのですか?」


「パフェを作ろうと思って。晩御飯のデザートに出してくれるかな?」


「パフェ?」


「ドン爺とエイブリックさんに大きな迷惑かけちゃってね。お詫びの品でデザートでも作ろうかと。自分で作るから大丈夫だよ。最後の盛り付けは教えるからそれだけやって貰っていい?」


「それはかまいませんが・・・」


まずプリンを作っていく。次ぎにアイスクリームだ。余った卵白は後で使う。バニラビーンズがあったので牛乳に香り付けして冷ましてから卵黄、生クリーム、バニラ風味の牛乳を混ぜながら冷やしていく。混ぜるのも冷やすのも魔法なので全自動のように見えるだろう。ネットリとしだしたが更に冷やしながらまぜていく。途中でスプーンでバットに取り分け、さらにコチコチになるまで冷やす。魔導冷蔵庫の冷凍室はそこまで温度が下がらないのでかなり硬めだ。


次に余った卵白を泡立て、砂糖を入れてを繰り返す。ヘラで余計な泡を潰すようにして絞り器で鉄板に丸く出し、オーブンへ。


出来たマカロンをコップの下に敷いて生クリーム、アイスクリーム、生クリームプリン。生クリームでデコって上からカラメルソース。その横にもマカロンだ。白と茶色だけで見映えは悪いが味はいいだろう。


「ゲイル様、これがパフェですか」


製菓担当のポッドが興味津々だ。


「マカロン以外は教えたやつばっかりだろ?マカロンは間にクリーム挟んで食べたりするんだけどそれほど美味しいものじゃないからね。こうやって組合せに使うといいと思うんだ。食べてみる?」


ポッドに試食させると。


「このマカロンはサクサクしてて不思議なお菓子です。美味しいですよ」


そうか、個人的にはあまり好んで食べなかったので美味しいイメージがないけど、初めて食べるとそういう反応になるんだな。


「アイスクリームと生クリーム、プリンの組合せは食べていて幸せになりますね」


「今回カラメルソースを使ったけど、キャラメルソースとか練乳とか色々アレンジするといいよ。イチゴのシーズンになればイチゴ乗せて練乳がいいかな」


わかりましたと大喜びするポッド。


その後、晩飯のデザートとして盛り付けをお願いしておいた。



しばし部屋で休憩してると執事が呼びに来てくれた。食堂ではなく応接室だ。



「ドン爺、エイブリックさん。この度は俺の軽率な行動で大変な迷惑を掛けてしまってごめんなさい」


「なんじゃいきなり」


「そうだお前らしくない。あんなもの迷惑に入らん。こっちの借りの方がデカいからな」


「でも、準王家とか・・・」


「ワシは養子で良いと言ったのにコイツが反対しよったんじゃ。準などと中途半端なことを」


ぷんすかと想像してなかった方向へ怒るドン爺。


「父上、養子にしたら後継争いに巻き込まれて大変だからと何度も言ったでしょう」


「お前はアルがゲイルに負けるのが嫌で反対したんじゃろ」


「ゲイルが王を目指すなら構わんと言ったでしょうがっ!」


やめてっあたしの為に争わないで・・・


「ドン爺、王様なんてとんでもないよ。そんな大変な仕事」


「おーおーおー、ゲイルはワシの大変さを分かってくれておるのじゃな」


「父上より私の方が大変なんですっ!」


「聞いたか?実の親に向かってこうやっていつも怒鳴るのじゃぞ。」


「まったく父上はすぐそうやって・・・」


「二人とも仲いいね。うちはじいちゃんがいないから父さんのそんな姿見たことないや」


「あ、うん、なんかスマン」


「それより、俺になんか話あったんじゃないの?」


「おうそうだ。こっちの報告とそっちの状況を聞きたくてな。まずは呪いの件だがな、シャキールでもわからんようだ。それらしき文献はあるらしいのだが古代語で解読出来んと言っておった。それがこの本だ。お前読めるか?」


渡されたのは一冊の本。


『CURSE』


本のタイトルだ。

クルセ?


ペラペラと本をめくるとアルファベット文字だがまったく言葉にならな・・・


って、これ英語じゃん。アルファベットに馴染んでしまってたから気付かなかった。


タイトルもクルセじゃなくカースか。カースって呪いだっけ?


「エイブリックさん、これ呪いってタイトルだよ」


「読めるのか?」


「ごめん、ほんの少ししか意味がわからないや」


英語は苦手だった。しかも手書きの筆記体なんて読むのにも時間が掛かる。日常会話の翻訳ならまだしも専門書の内容なんて翻訳出来る気がしない・・・


「少しは解るということだな?」


「本当にほんの少しだよ。読むのにもめちゃくちゃ時間かかるし」


「この文字はなんだ?」


「今使ってる文字と同じだよ。書くのを速くするために続けて書いてるだけなんだ。ちょっと変化するやつもあるけど」


「内容はわからなくてもいい。どれがどの文字かを研究室の奴らに教えてやってくれないか?」


「いいけど、明後日、一度ディノスレイヤに帰るから、それからでいい?」


「構わんがなるべく早く頼む」


「わかった」


「よし次だ。西の衛兵団長をうちの護衛騎士から出す。あそこまで組織が崩れたら立て直すのに時間掛かるからな。3年くらいの予定だ」


ナルディックの部下か。フンボルトみたいに左遷とか思ってないだろうか・・・


「護衛のやつら、ゲイルが西の街の権限を持ったと聞いたら希望者が殺到してな。ナルディックまでが希望しおった。王家の護衛をなんと思っとるんじゃ」


と、ドン爺がぷんすかと怒る。ナルディックさんあんたって人は・・・


「まぁ、ナルディックのは冗談だ。あいつが希望したことで他の奴が手を上げやすくなった。あいつなりの気遣いと思ってくれ」


「知ってる人が衛兵団長してくれるならありがたいよ。街に衛兵の詰所を何ヵ所か作ろうと思ってるからそれもお願いしたいしね」


「その辺は勝手に打ち合わせてくれ。で、お前は何をしていくつもりだ?」


ソドム達と打ち合わせた内容を話す。


「定期馬車か、なるほどな。あと温泉は出るのか?」


「それはやってみないとわからないね。今掘ってみて温泉が吹き出したら大変な事になるから、おやっさんにバルブ作ってもらってからにするよ。そういうのがあるから戻るんだけどね」


「温泉が出て、宿の値段が他と同じなら根こそぎそっちに行くだろうな」


「宿のキャパもあるからしれてるよ。その代わり常に満室を狙うけど。あ、闘技場に使った声を皆に届ける魔道具って買えるかな?もっと規模の小さな物でいいんだけど」


「何に使うんだ?」


「劇場作ってそこで使う。劇だけでなく、歌ったり、皆を笑わせる芸をしたりとかだね」


「そうか、どれくらいの物が必要か分かったら言ってくれ。なんとかする」


「来月借りれる奴はある?住民説明会で使いたいんだけど」


「そんなことするのか?命令すればいいじゃないか」


「いや、現状とこれからの方針を説明したいんだよ。なぜこれをやるか、やったらどうなるか、どれくらい収入が増えるかとか知ってた方がやりがいあるでしょ」


「よくわからんが、貸してやる。魔石は自分でなんとかしろよ」



「お食事の用意が整いました。」


執事が呼びに来てくれたので続きは飯食いながらとなったのだった。


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