第341話 視察その2

さて壁の外に出て様子を見に行こう。


フンボルトは俺の後ろに乗り、ソドムはダンの後ろに乗っていた。


「と、飛ばさないで下さいっ」


「駆け足程度じゃないか」


フンボルトは馬に乗った事がないらしく、シルバーが歩いてる時もびくびくだったが、駆け足になると怖いようだ。ソドムは馬に乗れるらしく、問題が無かった。



西の街の壁の外まで来ると一面に枯れた草があるだけの何も無い土地だった。春には草原になるだろう。


「めっちゃいいじゃん。なんで誰も開発しないの?」


「馬に乗って農作業をする者はおりませんし。毎日収穫物を運ぶのにも手間がかかります。それに盗みを働く者もおりますので。あと時折コボルト等の魔物が出たりします」


ディノスレイヤならすぐに討伐されるけど、ここはそうでもないのかな?しかし、それでもここは使わないともったいない。


「ここを俺が開拓したらどうなるの?」


「ゲイル様の土地でございます」


「領地みたいなもの?」


「さようです」


「税金は?」


「土地にはかかりません。農作物であれば王都で販売した時に税が掛かります」


なるほど。


「じゃ、取りあえず確保するわ」


え?


「どのように確保なさるおつもりで?」


「柵で囲えばいいでしょ?」


「今から作業する者と資材の手配は・・・」


「いらないよ。すぐ出来るから」


土魔法でだーーーっと柵で囲んでいく。魔力が無くなるギリギリまでやった。


この土地はゲイル・ディノスレイヤの所有地に付き関係者以外立ち入り禁止。


休憩して魔力を少し回復してからこの看板をどんどん立てていく。



「よし完成。これでいいね。その内門を作るから資材の調達と職人の手配お願いね」


あうあうしている二人。


「自己紹介で魔法使えるって言ったじゃん」


「いやしかし・・・・これは・・」


「土魔法だよ。初めの開拓は俺がやってもいいけど、住民がやれる方がいいからね。ここは人を雇って給料制にしようと思うけどいいかな?」


「そ、それはご自由に・・・」


「フンボルトは住民を増やす手段を考えておいて。急がないけど来年の春には本格稼働出来るように」


「わ、わかりました」


「じゃ、戻って町をどういう風にしていくか話そうか。その後良かったら焼き鳥食べて行って。奢るよ!」



小熊亭に戻って街の概要を聞いていく。


「ここの通りは再開発するのは決定だけど、反対側の通りはどうしようね。こっちばっかり客が流れるの良くないし」


「大通りの向こう側は南の管轄でございます」


え?


「大通りを挟んでるんじゃないの?」


「西門から入る大通りは西の街と南の街の間を通っております」



それ南西門って呼ぶべきなんじゃ・・・


ん?


今回のベンジャミン家の不正は西の裏通りの土地を手に入れるため・・・再開発が済むまでは反対側で稼げばいい。そう勝手に思っていた。あっち側が南の管轄だとすると何が目的・・・


「ぼっちゃん、何ぼーっとしてんだ?」


はっ、また考え込んでしまった。もう関係の無いことに首を突っ込むのやめておこう。


「ごめん、あっちが南なら気にする必要ないね。じゃあ、西門から北門までが西の管轄ってことでいいかな?」


「はい、その通りです」


「それじゃ、今考えてることなんだけど、まずディノスレイヤとここを結ぶ馬車の定期便を出そうと思う。外からの人を呼び込むには移動手段が必要だからね。馬車の代金は赤字にならない程度の値段に抑えたい。儲けるのはこの街でする」


「ぼっちゃん、ディノスレイヤからこっちへ来ても新しい料理とかねぇだろ?どっちもぼっちゃんが考えてんだから」


「それはそうかも知れないね。だから王都からディノスレイヤに行く人は物価の安さとかを楽しみにしてもらって、ディノスレイヤから王都へは観光を楽しんで貰うのにエンターテイメントのあるものを・・・」


エンターテイメント?


皆の声が揃う。


「歌とか劇とか漫才とかそういう娯楽ってやつかな」


「劇はわかるけどよ漫才ってなんだ?」


「漫才ってのはお笑いだよ。面白いことをしゃべるやつ」


「まぁ、詳しくはおいおい聞くけどよ。それが定着して評判になるまでそんなにたくさんディノスレイヤから来るとは思えねぇけどな」


それもそうか・・ いきなり毎日他領からの定期便ってのは時期尚早か。


「ゲイル様、まずは他の庶民街から人を呼び寄せるというのはどうでしょう?王都の庶民街には大勢の人がおりますので。ここで販売しているものに人気が出ればディノスレイヤに興味持つ者も増えましょうし」


「なるほど、それもそうだね。大通りってどこの管轄なの?」


「大通りは中央管轄、つまり国の管轄でございます」


国道みたいなもんか。


「そこに馬車走らせてお金とっても問題ない?」


「はい。問題ございません」


「例えば馬車の運賃を東の街でもらって、西まで来たとするとどこの売上になるの?」


「前例がございませんので確認が必要ですが、おそらくその馬車を運営している街の売上ということで問題ない無いかと」


「わかった。じゃあまずは王都内の庶民街で馬車の定期便を走らせるようにしよう。だとすると馬車のターミナルが必要だね」


ここにこういうのと馬や外部からの馬車や馬の預り所を・・・


こうして西の街の再開発の概要を打ち合わせていく。


中央への確認や工事の手配は文官達が、マイクとスピーカーの魔道具が手に入るかは俺が確認することになった。フンボルトは費用の概算を計算してくれることに。


いまの打ち合わせ内容を記録していくフンボルト。文字が多くなるので書くのが大変そうだ。なんせ王都のは薄く作ってあるとはいえ羊皮紙と羽ペンだ。袖もインクで汚れている。試算する為の数字も罫線を定規のような物で手書きだ。


「フンボルト、書くの大変そうだな」


「文官の仕事の大半は書き物です。これぐらいは手慣れたものです」


そうか。それでも手書きは大変そうだな。


「もう少ししたら一回ディノスレイヤに戻るから、もっと便利になるようになんか作って来るよ」


「もっと便利に?」


「ちまちまペンにインクつけるの面倒だろ?その線も毎回同じでいいなら、もっと簡単に線が引けるようにする道具を作って来るよ」


「道具を作る?」


「そうだよ。考えはあるけど、それを実現出来る職人が王都にいるかどうか知らないからね。そんなに難しいものじゃないからディノスレイヤなら多分出来ると思う」


「は、はぁ・・・」



厨房で仕込みをしているベントに声をかけに行く。


「ベント、ちょっと屋台始めるの遅くなるけどいいかな?」


「大丈夫だ。任せる。だけどソーセージはもう作りだしてるんじゃないか?」


「使いきれないならここで出せばいいし、生肉と比べて日持ちするから問題ないよ」


なら問題ないとのことだったので、ディノスレイヤに戻る事に決定。



「ゲイル様、王都内を走らせる馬車ですが、このような大型の馬車にされますか?」


短距離便だから大型で一度に運ぶより小型で数を走らせた方がいいかもな。


「小型で数走らせた方がいいね。それなら普通の馬で十分だし」


乗る人が増えたらおいおい増やして行けばいいし、それも1年後だ。準備する期間もある。



ざっくり予定が決まった所だがまだ弱い。ここで泊まってくれる目玉がいる。格安宿を作るのも手だが客層が落ちるから購買力も見込めない。ここは金の取れるものを考えなくては。



「王都って温泉が出る場所ある?」


「温泉とは・・・?」


なさそうだな。


「ぼっちゃん、温泉って自然の風呂のことか?」


「そうそう」


「冒険してりゃ、たまーに山奥とかにあるけどよ、人の住むところで見たことねぇぞ」


そうか、温泉ってのは珍しいものなんだな。しかし、ウェストランド王国は地下水が豊富だ。どこ掘っても水が出る。もっと深く掘れば可能性があるだろう。この世界の技術で地下1000m以上掘ることは無理だからそんな発想に行き着かないのは当然かもな。


「ディノスレイヤからこっちに帰って来たら一度温泉が出るか掘ってみるよ。もし温泉が出たら勝ったも同然だね」


「掘る?」


「温泉って地下1000m以上掘ると出る可能性があるんだ。まぁダメ元でやってみるよ。俺がやるからどうせただだし」


「そ、そうですか。ではお願い致します・・・」


なんの事かさっぱりわからんようだけど、まぁやってからのお楽しみだ。


さて、そろそろ開店時間だな。


「もうそろそろ店を開けるからここで仕事は終わりね。中でも外でも好きな方で食べてって。蒸留酒は品切れだからエールとワインしかないけど。エールは他で飲むより美味しいと思うからおすすめだよ」



外に出るともう勝手に足湯を始めてやがる。


「ぼっちゃん、この街の責任者になったんだって?」


こっちも準備しながら答える。


「そうだよ。おっちゃんは何作ってるの?」


「俺は小麦だ」


ソドムとフンボルトは外で食べることを選んだようだ。がさつな住民に引き気味だけどこれからこの街で仕事をするなら慣れて貰わないとね。


「おっちゃん、小麦の収穫落ちてない?」


「年々少なくなって来てやがる。そろそろ違う作物を作ろうかと思ってんだよ」


やっぱりね・・・


「今度さぁ、ディノスレイヤから新しい種持って来るからやってみる?植える時期と収穫時期が重なるからめちゃくちゃ忙しくなるけど、収入は倍以上になると思うから」


「そんな夢みたいなことあるのか?」


「多分ね、収入が増える分、人も必要になるけど」


「なぁに、手の空いてるやつらに手伝わせるわ。こっちが手の空いた時はそっちを手伝えばいいしな」


「おいおい、えらく景気のいい話してやがんな。うちにもなんかねぇのか?」


「色々あるよ。今度みんなで打ち合わせしたいんだけど来月あたりにみんな集まったり出来る?」


「お安いご用だぜっ!日が決まったら教えてくんな、皆に声かけとくからよっ」


足湯で重要な事がサクサク決まっていく。


「お、こいつら見ねぇ顔だな。外から来たのか?」


はじっこでちんまりしていたフンボルトに声をかける住民。ビクビクしながら、い、いえ私は・・・とかまともに答えられない。


「おっちゃん、その二人はこれから俺とこの街を発展させていく仲間で中央から来てもらってるんだよ。乱暴しちゃダメだよ」


「話しかけただけじゃねーかよっ」


確かにそうだ。


「なんだよ、中央の偉いさんまでここに食いに来たのか?」


「俺の仲間だと言ったろ。これからみんなの収入を増やす仕事をしてくれるんだよ。ちゃんと挨拶しておいてね」


「本当に俺らの収入を増やしてくれんのか?」


「え、ええ、そうなるように頑張ります・・・」


「よっしゃあ、約束だぜ。よし、今日は俺たちの奢りだ。待ってろ」


ソドムとフンボルトのエールまで持って来て飲め飲めっとやりだした。二人とも飲める口みたいなので、住民達に任せておこう。


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