第338話 再開発の決意

考え過ぎて眠れなかった・・・


セレナは断ったがアーノルド達は律儀に宿泊代金を払って帰っていった。


朝飯を食べた後、ジロンは焼き鳥の仕込みを始めたが俺は頭がボーッとしているので糖分補給をすることにした。


「チッチャ、プリン作るから手伝って」


「プリンってなぁに?」


「オヤツだよ。簡単に出来るから」


チッチャに教えながらプリンを作って行く。


「これ甘いの?」


「白砂糖貰ったからこれ使おうか。それともハチミツがいい?」


「さ、砂糖がいい」


白砂糖がバカ高いのを知ってるので緊張気味に返事するチッチャ。


卵液に砂糖を入れ、蒸している間にカラメルソースを作る。


「わぁ、香ばしくていい匂いがする」


「これはカラメルソースっていってね、砂糖が焦げたほろ苦さと甘さがあるやつなんだよ。出来たプリンにかけると美味しいんだよ」


ほどよく蒸し上がったプリンを冷やしてカラメルソースを掛けて完成だ。


「簡単だろ?蒸し過ぎないように気をつけてやればいいだけだから」


ジロンも仕込みを中断して一緒に食べようとすると誰かが来た。文官達が来たのだろうか?それにしては時間が早いな・・・


「坊主、出来たぞ」


入ってきたのは鍛冶屋の親父、ガンツだった。


手に持ってるのは圧力鍋だ


「あ、もう出来たの?」


ガンツをよく見るとあちこち火傷や傷がある。


「もしかして爆発した・・・とか?」


「難儀なもんを作らせおってからに」


やっぱり・・・


爆発迄はいかなかったみたいだけど勢いよく蒸気が吹き出したりとかしたらしい。治癒魔法を掛けて火傷や傷を治しておく。


「ぼ、坊主今なにやった?」


「治癒魔法掛けたんだよ。もうどこも痛くないでしょ」


・・・

・・・・


「す、すまんな」


ガンツはどう答えていいか分からなかったようだ。


「今からプリン食べるから一緒に食べよう」


プリン?


聞きなれぬ言葉に戸惑いながらも一緒に食べた。


「うわぁ、美味しい!こんなの初めて食べた」


チッチャのこの顔、ミーシャとそっくりだな・・・


ガンツは酒だけでなく甘いものもいけるようで嬉しそうに食べていた。


「これはなぁに?」


プリンを食べ終わったチッチャが聞いてくる。


「圧力鍋っていってね、硬い食べ物を短時間で柔らかく煮込む事が出来るんだよ。早速試してみようか?」


鶏肉と豆のシンプルなもので試す。


「こっちの普通の鍋と、圧力鍋で同時に作るからどれくらい違うか試そう」


どちらも同じ分量を入れて炊いていく。灰汁を掬ったら圧力鍋の蓋を閉めるとしばらくしてシュッシュッと音がし始めた。


「なんか鍋が怒ってるみたい」


「水が蒸気というのになってそれが出て来てるんだよ」


「蒸気?」


固体、液体、気体の説明をするがみなちんぷんかんぷんだ。


しばらく煮込んでから、蒸気を抜くとシューーーーっと激しく出てくる。


「この蒸気はめちゃくちゃ熱いから絶体触っちゃだめだからね」


シューという音が収まったので蓋を開けて試食だ。


「どう?」


「普通の鍋のは豆も鶏肉も硬いな。それに比べて新しい鍋はちゃんと柔らかくなってる」


ジロンは食べ比べて驚いていた。


「完璧だね。これで煮込み料理が短時間で出来るからメニューに加えよう」


今後、牛スジの煮込みは小熊亭名物になるだろう。


ガンツに代金の銀貨5枚と蒸留酒の瓶を渡した。


「こいつは・・・?」


「昨日、父さん達が来ててね、父さんの奢りで飲み放題食べ放題だったんだよ。おっちゃん来なかったから蒸留酒取っといたよ。これ以外飲み尽くされたから置いといて良かったよ」


「いいのか?」


「これ作ってて来れなかったんでしょ。父さんからお金貰ったから大丈夫」


「そうか、親父さんに礼を言っておいてくれ」


ガンツは微笑みながらそういって受け取った。




「セレナさん、ジロンさんもチッチャも言っておきたい事があるんだ」


「ぼっちゃん、なんでしょう?」


「俺ね、西の庶民街の責任者になったんだよ。」


「責任者ですか・・・?」


「うん、この街を治めて再開発することになった」


「ええええええっーーー?」


「ぼぼぼぼ、ぼっちゃん。それはどういうこった?」


「言った通りだよ。まずこの通りを再開発して色々と手を付けていく。小熊亭を立て直していくみたいに、この街全体を立て直すってことだね。王都で一番発展した街にするから協力してね」


なんの脈略もなくそう言ったので意味がわからずポカンとしていた。



文官が来たので打ち合わせを行う。今日の所は方針と現在の街の現状把握だ。


ベテランっぽいソドムと若手のフンボルトの二人。フンボルトは機嫌が悪そうだ。挨拶もそこそこにムスッとしたままだ。


「フンボルトはどこか調子が悪いの?」


「いえ、そのような事はございません」


「じゃあなんで不機嫌なの?」


「不機嫌ではありません。もとからです」


ならいいけど、感じ悪いな・・・


あまりやる気の無さそうなフンボルトをほっといてソドムと打ち合わせを始める。


西の街は農業、畜産がメインで貧しくはないが売上の上がる店が少なく税収は低いらしい。


「何か特産品みたいなものはあるの?」


「主食である小麦はどの街でも生産しており、ここで特産と呼ばれるものは紅茶くらいでしょうか。ほとんど貴族街で消費されますので比較的高級品になりますが生産量は多くはありません」


「小麦を他の作物に切り替えても問題にはならない?」


「はい、今のところ問題ございません」


「今のところということは生産量落ちてる?」


「年々少なくなっておりますので、分散して作るようになったのです」


「他の街も生産量落ちてきてない?」


「顕著には落ちておりませんが、作付け面積を考えると少ないのではといった所でしょうか」


これ、連作障害だな。そのうち他の街でも穀高が減るんじゃなかろうか?


「ソドムさん、いずれ王都の食糧問題が起きそうだね。どこも小麦粉が取れなくなると思うよ」


「それはどういうことでしょう?」


「東の辺境伯領地でも似たような事になってるの知ってる?」


「いえ」


「いくつかの村が不作で離村してるんだ。いずれ王都でも同じような問題が起こると思う」


「連作障害とは?」


「同じ場所で同じ物を作り続けると作物が育ちにくくなったり、病気になったりするんだよ。それを防ぐには違う作物を植えたり土地を休ませたりするのが必要になってくる」


「それは本当ですか?」


「皆信じないけどね。取りあえず西の作物は小麦粉から一部違うものに切り替えるよ」


「何かお考えが?」


「ディノスレイヤ領で色々と新しい作物を作ってるんだよ。そこから種を持ってくる。休ませる土地を考えると、生産量を減らさずにするのには開拓が必要だね」


「もう空いてる土地は・・・」


「後で壁の外を見に行こう。開拓出来そうなら外も使うから」


「西門を出て農作業ですか?」


「いや、新しい門を作る。住民専用の門だね。外部の人間は使えないようにして、農作業する人だけ出入り出来るように」


「壁に新しく門を作るのには莫大な費用と申請が必要になりますが・・・」


「費用は扉くらいだからそんなに掛かんないよ。申請はエイブリックさんに事前許可取ってあるから大丈夫だと思う」


「ゲイル様、エイブリック殿下をさん付けで呼ばれるのは不敬ではありませんか?いくら西の街の権限委譲されたとて少々図に乗りすぎでは?」


フンボルトはエイブリックをさん付けで呼ぶのは気に食わないようだ。いちいち言い合いするのは面倒なのでハイハイと答えておく。


「まぁ、エイブリック殿下から好きにしろと言われてるし、門を作るのも言ってあるから大丈夫だよ」


「費用は・・・」


「俺がやるから扉だけなら銀貨数十枚ってとこ?」


「と、扉だけなら・・・」


「門を作るかどうかは外を確認してからにするとして・・・」


フンボルトはますます不機嫌だ?


「二人ともごはん食べてきた?」


「あいにく食事をする時間がなかったもので・・・」


なんだフンボルトは腹が減って機嫌が悪いのか。


「じゃあ、なんか作って来るよ」


「ぼっちゃん、俺がやるわ。なに作るつもりだったんだ?」


「鶏のマヨ焼きならすぐ出来るでしょ。それとパンとさっきの豆のスープ。俺もマヨ焼き食べる」


了解ってことでダンは厨房へ行った。話を進めとけってことだな。


「ダンが作ってくれる間に話をすすめようか。農作物は主食を含めて新しい物を増やして生産量アップと作付け面積の単価アップをやるよ。どれくらい単価アップするかは実際に生産してどれくらいの金額になるかわかんないけど、今よりは絶対に上がるから。もし上がらなくてもここで加工販売すれば良いだけだし」


「単価アップとは・・・?」


「これだけの土地で作るものが今は金貨1枚になるとするでしょ。それを同じ場所で金貨2枚になるものを作るって事だよ。珍しくて美味しければ高く売れるでしょ」


「は、はぁ・・・」


「いまディノスレイヤ領でそれやってたんだよ。それをここでもやるから大丈夫だって。それで連作障害も無くせるから相乗的に生産量が増えるよ」


「そんな夢物語が出来るならどこも苦労しませんっ」


フンボルトはそう口を挟む。なにプリプリ怒ってんだよ?


「やってみなきゃわかんないだろ?何もやらなきゃ今より良くなることもないし、悪くなる可能性の方が高い。同じ苦労をするなら報われないとね」


「ぼっちゃん、これでいいか?」


ダンは焼き鳥のタレ味とマヨ焼きにした奴を各5本持ってきてくれた。この方が早く出来るからだと。


スープとパンはチッチャが持ってきてくれる。


「話の途中だけど食べようか。フンボルトの機嫌も飯食えばよくなるって」


「こ、こんな庶民の食事などっ」


「お前、何も試さずに頭で考えてやらないタイプだろ?そういうのを頭でっかちっていうんだぞ。この場合は食わず嫌いとも言うがな」


「だ、誰が頭でっかちですかっ」


「いいから食え。庶民の飯と言うがな、マヨ焼きはアルの好物なんだぞ」


「アル?」


ソドムが聞き直す。


「ぼっちゃんが言ったアルってのはエイブリック様の息子、アルファランメルの事だ」


ダンが焼き鳥を食べながら説明する。


「き、貴様、アルファランメル様をアルなどと愛称で呼び捨てにするとは・・・


「フンボルトっ!ゲイル様を貴様呼ばわりするとは何事だっ!慎みなさいっ」


ソドムはフンボルトが俺を貴様呼ばわりした事を叱責する。なるほど腹が減ってるんじゃなしに俺の下に付いたのが不満だったのか。


「も、申し訳ありません。しかしアルファランメル様をアルなどと・・・」


「アルがそう呼べって言ったんだよ。エイブリックさんもそうだし。公式の場なら俺もそんな風には呼ばないからお前がいちいち怒ることじゃない。口出しするな」


「王家に対してそれはあまりにも不敬であり・・・」


「だから口出しすんなって言ってるだろ?さっきからなんだよ、勝手にプリプリ怒って。仕事内容で言い合うのは望むところだけど関係無いことでお前に何か言われる筋合いはない。エイブリックさんは父さんの友達で、アルは兄貴の友達だ。うちに遊びに来て一緒に食べたり狩りしたり、釣りに行ったりする仲なんだよ。お前この仕事やるの嫌ならそう言えよ。エイブリックさんに頼んで外して貰うから」


「も、申し訳ありません」


「やるならさっさと食え。お前が庶民の飯とバカにしたものを食ってから物を言え」


そういうと渋々マヨ焼きを食べた。


目を丸く見開いて次はパン、タレ焼き、パン、スープ・・・


フンボルトが黙ったので俺も食べる。


「ゲイル様、このような美味しい物がこんな・・・、失礼。この宿で出されているのですか?」


ソドムも美味しさに驚いたようだ。


「今のところはタレ焼きだけ。そのうち色々と出すけどね。この宿のようにこの街は農作物と畜産物、美味しいもの、珍しい物、レジャー、こういった物で発展させていく。5年後は一番の庶民街になってるのが目標だ」


「い、一番ですか・・・?」


「何を以て一番というのかは難しいけど、分かりやすく言えば税収だな。税率を上げる事なく税収を上げる。分かったかフンボルト。嫌なら今のうちに降りろ。何もやらずに文句を言うやつには無理だ」


「な、何もやらないわけではありません。出来ることならやってます」


「ふーん、そういや俺もソドムとフンボルトの事を何も知らないからな。仕事の話より先に改めて自己紹介からやり直そうか」



エイブリックの推薦だからお互い名前しかしらなかったな。仕事の前にちゃんと擦り合わせするか。



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