第334話 文官と王都の屋敷

だいぶ待たされたな。


執事がご飯の用意が整いましたと呼びに来てくれた。ご飯を食べながら今回の結末を聞かされる。


「ゲイル、エイブリックとの話は着いた。今回の話を受けろ」


「嫌だと言う選択肢は無さそうだね」


「お前が撒いた種だからな。やり過ぎるなと言ったのを守らなかった結果だ。お前は色々な者から守られているという自覚を持っておけ」


今は俺のせいじゃないとは言えなさそうだな。


「西の街の発展をすればいいんだね?」


エイブリックに確認する。


「そうだ。一番発展した場所にしろ」


「好き勝手やるよ?」


「構わん。そうしろ」


「父さん、ディノスレイヤ領と競争になるよ?」


「お前が気にすることじゃない」


「母さん、屋敷にいる時間減るよ」


「寂しくなるわね」


・・・・・俺、5歳になったばかりだよね?


「エイブリックさん、壁の外の土地は勝手に使っていいの?」


「開拓したやつの権利だ。空いてる所なら構わんぞ」


「壁に穴を開けていい?」


「壁が崩れないようにすること、門を付けて無断侵入出来ないようにするなら良いぞ」


「他の地区との住民の移動は可能なの?」


「制限はしてないぞ」


「前に捕まえた盗賊が見張りやってたでしょ? あれ復活させて」


「どういうことだ?」


「急に鉱山送りになったって言ってたからあいつら頂戴。うちの見張りをさせるから」


「解った。好きに使え」


もうやるしか無いのなら必要事項に許可を取っていく。西門が閉じている時でも俺の許可があれば出入り出来る権限も貰っておいた。



「今日王様来るんじゃなかったっけ?」


「忙しくて来れないようだから、王都にいる間に会いに来てやってくれ」


「解った」


ドン爺も忙しいようだな。



「話は変わるけど、呪いの件はどうするの?」


「呪い?」


アーノルドとアイナの声が揃った。やはり二人も呪いの事は知らないらしい。


「それはシャキールに調べさせる。何か分かったら知らせる」


そうか、宮廷魔導士のシャキールなら何か知っているかもしれないな。


その夜はエイブリック邸に泊まり、アーノルド達も明日小熊亭に行ってベントの様子を見るとのことだった。



朝飯を食いながらこれからの事を話していると、


「庶民街に戻る前にベンジャミンの屋敷を見ておいてくれ」


「いや、いらないって」


「そういう訳にはいかん。使用人達もいるからな。そいつらの面倒は誰が見るんだ」


「王家扱いでそっちで面倒見たらいいじゃん」


「ベンジャミンの屋敷は西の庶民街に面してるから好きに使え」


「いや、いらないってば。王都に住むわけじゃないから屋敷なんて必要無いよ」


「飯の後、爺に案内させる。その前にもう文官共が来ているから応接室で打ち合わせだ」


まただ。何も聞いちゃいねぇ・・・


「父さん使いなよ」


「アーノルドには別の場所を用意させる。そろそろ王都に屋敷を持て」


「いらん」


「ちっ、お前はいつまでもそう言いやがる。もうこっちで勝手に建てておくからな。後で文句言うなよ」


「使わんぞ」


「好きにしろっ」



応接室に行くと二人の男性が跪いていた。


「顔を上げろ。これからお前達が仕えるゲイル・ディノスレイヤだ。こいつの指示に従え」


「ゲイル・ディノスレイヤ様。これから宜しくお願い致します」


二人はアーノルドに向かって頭を下げた。


「違う。そっちはアーノルドだ。ゲイルはこいつだ」


は?


そりゃそうなるよね。


「殿下、何かのお戯れでございますでしょうか?私には小さな子供に見えるのですが・・・?」


若い方の文官が質問する。


「戯れでもなんでも無い。ゲイルに色々と教えて貰え」


「しかし・・・」


「ゲイルには西の庶民街を一番発展した庶民街にしろと言ってある。お前らはゲイルのアイデアを実行すればいい」


「あの・・・」


「畏まりました。殿下のお心のままに」


食い下がろうとする若い方の文官の口を遮り、年寄りの文官がそう答えた。


「ゲイル・ディノスレイヤ様。私はソドム・ステート。こちらはフンボルト・デーテでございます。宜しくお願い申し上げます。なんなりとお申し付け下さいませ」


「ゲイルだよ。こちらこそ宜しくね」


「ゲイル、では爺に案内させる。こいつらとの打ち合わせは明日からにしてくれ。どこに行けばいい?」


「あ、じゃ、じゃあ小熊亭で。昼ご飯食べた後くらいに来てくれるかな」  


ゲイルは小熊亭の場所を説明する。


「承知致しました」


「ゲイル、取りあえず二人用意したが足りなければソドムに言え。好きなだけ引っ張って行けばいいぞ。頭でっかちな奴等が多いから鍛え直してくれ」


なんで文官の教育までせにゃならんのだ。


「まぁ、様子見てからにするよ」



その後、執事に案内されて元ベンジャミン屋敷に来た。


「あまり大きくはございませんが、西の庶民街へ行き来するには便利な場所でございます」


執事はそういうがディノスレイヤ家の5倍はありそうだ。


門をくぐると使用人達が立って頭を下げていた。


「ゲイル・ディノスレイヤ様。使用人一同お待ち申し上げておりました」


執事であろう初老の男性がアーノルドに挨拶をする。


「カンリム、そちらはアーノルド・ディノスレイヤ辺境伯様でございます。ゲイル・ディノスレイヤ様はこちらです」


は?


執事を筆頭にポカンとする使用人達。


「ゲイルです。あまりここには来ないかもしれないけど宜しくね」


・・・

・・・・

・・・・・


「よ、宜しくお願い申し上げます」


長い間が空いて皆が頭を下げた。


エイブリックの執事が屋敷の執事に何やら説明をした後、エイブリック邸に戻っていった。



「ゲイル・ディノスレイヤ様。中へご案内致します」


やっぱり広いよなぁ。王都の貴族の屋敷らしく、マンガとかで描かれているような屋敷だ。


広間で使用人の挨拶がされたけど誰が誰だかよく分からない。


取りあえず執事はカンリム・トトスというのは覚えた。後は家名が無かったので庶民出身ということだな


「ゲイル、アーノルドより出世したんじゃない?」


「そうだな。うちより断然大きいな」


「父さん達が使えば?」


「まぁ、王都に来ることがあれば泊めて貰うわ」


アーノルド達もほとんど王都に来ないからな。実質使う事はほとんど無い。


「カンリムさん、俺ここあまり使わないかもしれないんだけど・・・」


「カンリムとお呼び下さい。先ほど殿下の執事よりその件は伺いました。いつでもどうぞご自由にお使い頂ければ結構でございます」


「いや、暇じゃないかなぁって」


「私を含めて使用人もご自由にお使い下されば結構ですので何でもお申し付け下さい」


「屋敷の仕事でなくても?」


「ご自由にどうぞ」


それなら庶民街の仕事を手伝って貰おう。


「庶民街の再開発をすることになっているからそれを手伝って貰うけどいいかな?」


「もちろんでございます」


ならいいか。


ベンジャミン家の当主やフォールが使ってた部屋、家族が使ってた部屋のベッドは処分するように言っておいた。なんか怨念とかこもってそうだしな。中古で売れるみたいだから、売れたお金は使用人達で分けてくれと言うと目を丸くされた。


「今日はこれから出掛けるから、後は宜しくね。みんなの給料とか食費とかはどうすればいいの?」


「私にお申し付け下さい」


執事が会計とかもしてるんだ。月末までにお金を渡して、そこから給料やら食費やら払っていくらしい。資産と現金など執事が管理していてまだ十分残ってるので問題ないとのこと。


「じゃあ詳しくはまた改めて聞くよ。今日はこれで帰るからあと宜しく」



旧ベンジャミン邸を出て、アーノルド達を連れて小熊亭に行く。


「あ、ぼっちゃん、ダンさん。お帰りなさい。えっと、そちらの方は・・・?」


「俺の父さんと母さんだよ。昨日王都に来たんだ」


「いらっしゃいませ。ぼっちゃんには大変お世話になっています。今母を呼んで来ますね」


チッチャがセレナを呼びに行ってくれた。


セレナがやって来るのと同時に厨房からジロンが出てきたのでアーノルド達を紹介する。


「本当にぼっちゃんには命を助けて頂いたばかりか宿の建て直しまで・・・」


「元気になったなら良かったじゃない。ゲイルが好きでやってることよ。気にする必要はないわ」


アイナがそう言ったがセレナは何度も頭を下げていた。



昼飯はジロンが作ったクリームシチューだった。


「ベント遅いよね?」


しばらく待ってたが来ないので先に食べる事にした。しかし、食べ終わってもベントが来ない。


「チッチャ、ベントは今日来れないとか言ってた?」


「何にも言ってなかったよ」



なんか気になる・・・


「ダン、ちょっとベントを探しに行こうか?」


「そうだな。あんな事があったばかりだから気になるな」


「父さん、ベントを探しに行ってくるよ」


「それなら俺達も行こう」


俺達4人はベントをそれぞれの馬に乗って探しに行くことになったのだった。


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