第333話 裏話
「アーノルド、今回の事は緊急を要したということは理解してくれ」
「それはうちに来た使者と命令という事で理解している」
エイブリックは今回のあらましを初めから順を追って説明した。
「今回のゲイルがやった事は非常に危うい。衛兵団長が黒だったことでゲイルの正当性が証明されたが、もし白だったら罪に問われてもおかしくなかった。辺境伯の息子とはいえ相手の衛兵団長は貴族だ。爵位は下だがゲイルに罪が確定していない貴族を処分するまでの権限はない。それは分かるな?」
「あぁ」
「ゲイルはなまじ力がある上に頭も切れる。だから何かあっても自分で解決しようとする。これが危うさに繋がるんだ」
「やり過ぎるなとは言ってあるんだがな。これからは自分で解決しようとするのをやめさせるよ」
「いや、あいつの目の前で何かあったら止まらんだろ。あいつが意味も無く力を使うとは思わんが、必要とあれば躊躇しないんじゃないか?」
・・・
・・・・
・・・・・
「ベントや懇意にしている娘に剣を抜いたのを見たゲイルは賊を殺すつもりだったみたいだ。ベントに止められて瀕死の所でやめたようだが、今日もその賊が騎士団に捕らわれているのを見ても拘束している魔法を解くのを渋ったからな」
「ゲイルが賊を殺すつもり・・・・だった?」
「これからも大切な者が危険にさらされた時は躊躇無く殺るだろうな。あいつはあの歳でその覚悟を持っている」
「そうか、今まで何かあっても命を奪おうとまではしなかったんだがな」
「それは今でもそうじゃないかと思うぞ。今回殺そうとしたのはベントが危険にさらされたからだと思うぞ」
「ベントが危険にさらされたからだと?」
「家族が危険にさらされたらゲイルは躊躇しないんだと思う。正しくは血が繋がってなくてもあいつが家族と呼ぶ者が危険にさらされた時だな」
・・・
・・・・
「お前、俺よりゲイルを理解してるんだな・・・」
「俺は他人だからな。親にしか解らん事もあれば親だから解らん事もあるんじゃないか?アルの事は俺よりお前の方が知ってる事もあるだろ?そんなもんだ」
「そんなもんか」
「そんなもんだ」
ふふと二人で笑い合う。
「所でゲイルが成人した時に爵位を与えるとはどういうことだ?」
「現在は1月1日付けでゲイルを準王家の身分にしてある」
「準王家?なんだそりゃ?そんなのあるのか?」
「無い。だから作った」
「はぁ?」
「今回の事件の保険だ。衛兵団長が白だった場合のな」
「その日付はまだ事件が起こって無いだろ?」
「去年申請、1月1日付け発行という事にしてある。これ通すの大変だったんだからな」
「色々動いてくれたんだな」
「王権発動するよりマシだ。父上は逆上して関係者全員処刑しろとか言い出してたからな。それを抑える方が大変だった」
「ゲイルはずいぶんと王に気に入られたもんだ」
「実の孫より可愛いみたいだからな。今回もゲイルを王家の人間にすれば何も問題が無いだろうとも言い出してな。苦肉の策が準王家という特別処置だ。王家の養子にすると王位継承権が発生する。あいつが王を目指すならそれでも良かったんだかな」
「お前、よくそんな事をシレっと言うな。ゲイルが王を目指したらアルと継承権争いが生まれるだろ」
「アルよりゲイルの方が王に向いてるだろ。あいつが王になったらどんな国になるか楽しみでもあるぞ」
「お前、それは問題発言だぞ」
「いや事実だ。あいつの人心把握能力は凄い。魔法よりそっちの方が脅威だな。あいつが西の庶民街に来て数日なのに住民があいつの為に衛兵相手に決起しかけたんだぞ。そんなの信じられるか?」
「住民が決起?」
「ゲイルを取り戻そうと集まりかけたのをベントが止めたらしい。あいつはあいつでゲイルを守ったんだろ。住民が決起して衛兵と衝突していたら騎士団が出動して鎮圧せざるを得ないからな。そうなりゃ決起した住民を処分することになる。本末転倒もいいとこだ」
「ベントも頑張ったんだな」
「話を戻すがゲイルの爵位を与える件だが、自重させるよりこれからも好きにさせる方がいいんじゃないかと思ってな」
「好きにさせる?」
「あぁ、今回の件でもあいつ自身が爵位を持ってればここまで大掛かりに手を打つ必要が無かったからな。自重しろと言っても同じような事が起きないという保証は無い。なら好きに出来るようにしておく方が得策だ。あいつ領主になるつもりはないだろ?」
「今はそう言ってるが将来は解らんだろ」
「もしそうなったらゲイルの爵位をジョンかベントに継がせればいい。爵位は持ってた方が何かと便利だ」
「なるほどな。しかし他の貴族が面白く思わんだろ」
「ゲイルに西の庶民街の権限を委譲する。今回ベンジャミン家の不正でその枠が空くんだ。他にやりたい者もおらんから問題は無い。後はゲイルが西の街を発展させたらその功績として爵位を正式に与えるという流れだ」
「ゲイルを王都に住まわせるつもりか?」
「いや、今まで通りで構わん。時々来て住民共と触れあってくれるだけで十分だ。俺が選んだ文官を置くから実務はそいつらにやらせる。金はベンジャミン家の資産没収したのを使えばいいし、足りなければ俺が出す。ゲイルは時々顔を出して、どう街を作り替えるか、何をすればいいか指示するだけだ」
「ずいぶんと厚待遇だか。なぜそこまでやる?」
「今回の不正事件は根が深い。ゲイルがいなければ発覚しなかっただろう」
これを見てみろとエイブリックは書類をアーノルドに見せる
「なんだこれは?」
「庶民街を管轄する貴族達の金の流れだ。公の書類とうちのが調べた物が完全に一致する」
「なら問題ないじゃないか」
「キレイ過ぎるんだ」
「キレイ過ぎる?」
「通常、公の書類とうちのが極秘調査したのでは必ず差異が出る。ミスだったり目を瞑るような小さな不正とかな。それが今回調べたやつにはない」
「完璧にやってるだけかもしれんじゃないか」
「そうだと良いんだがな、俺の勘は怪しいと言っている。だが証拠は何もない。今回の不正も合法か非合法かスレスレの所なんだ。ゲイルが絡んだことで初めて綻びが出た。あいつが目を付けた商会、衛兵団長。商会はダンに調べさせ、衛兵団長は自分が捕まる事で潜入捜査したんじゃないかと思うくらい調べてあったぞ。それに宿屋の主人が事故で亡くなったのも事故に見せ掛けて殺したというのまで分かった」
「潜入捜査?」
「捕まった時に3日経っても帰らなかったら助けを呼んでくれと言ったらしい。普通ならすぐに俺に知らせるか、ダンがなんとかするだろ?」
「それはそうだな」
「俺もその辺はまだ聞けてないから飯の時に確認するか」
「解った。そうしよう」
「で、ゲイルに爵位を与える件は了承してくれるか?」
「あぁ、了解した」
「エイブリック、西の庶民街の管轄委譲ってどういう意味かしら?」
今まで聞くだけだったアイナが質問した。話が一段落付くのを待っていたのだ。
「簡単に言うと西の庶民街がゲイルの領地になったということだ」
「そういう事なのね。でもその内ゲイルが王都を乗っ取っても知らないわよ」
「そうなったら面白いかも知れんな。貴族とか生まれもった身分の差を無くして全員が庶民になりそうだ」
それいいじゃないと、アイナはノリノリになっていたのだった。
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