第332話 無理な時もある

「ぼっちゃん、ここのサンドイッチは屋敷で食うやつみたいだな」


「そうだね。紅茶も美味しいし。エイブリックさん、これどこで作ってんの?」


「サンドイッチは騎士団のコック達にも教えてある。旨い飯は活力になるからな。紅茶はお前の街で栽培してるぞ」


なんですとっ?

と言うことはお茶畑があるんだな。これは朗報だ。紅茶も緑茶も同じものだから緑茶も飲めるし抹茶関係の物が作れるじゃ・・・はっ!?


俺の街と言われてなんの違和感も覚えなかったとは・・・



バンっ!


「誰だっ!ノックもせずに入って来るバカはっ!」


「も、申し訳ありません。フォール・ベンジャミンがっ!」


緊急事態発生だ。


飲みかけの紅茶のカップをガチャンと置き、尋問室に急ぐ。


走りながら受けた報告では自供を始めたフォールを騎士団長がいきなり斬ったらしい。


尋問室に到着すると背中から血を流して倒れているフォールが見えた。部屋に入ると同時に治癒魔法をかけると傷が塞がって行くのでまだ生きている。


もう一人倒れているのはフォールを斬った騎士団長か。こちらにも治癒魔法をかけると腹の傷が塞がっていく。


フォールを鑑定。


【名前】フォール・ベンジャミン

【状態】重症

【魔力】443/910


魔力の減りは止まってるので助かるだろう。


次は倒れてる騎士団長を鑑定。


【名前】ハセン・コールト

【状態】重症・呪い

【魔力】103/912


呪い?なんだこの表示は?


ブホォッ


ハセンが血を吐いた瞬間、一気に魔力が減っていく。


それに負けない様に魔力を注ぎ混むが減るスピードの方が速い。びくんびくんと痙攣したあと、状態が死亡に変化した。


目を見開いたまま死んだ騎士団長の目を閉じてやり、血だらけの身体にクリーン魔法をかけた。


「ぼっちゃん?」


「間に合わなかったよ。もう死んでる」


「ゲイル、フォールはっ?」


「そっちは生きてる。今から治療を続けるよ・・・」



フォールに魔力をゆっくり注いでいくとちゃんと補充されて意識を取り戻した。


途中で入って来た騎士団の治癒士は何もすることが無く、俺が何をしているのかも理解出来きていなかった。



「フォールよ。早く話さないと消されるぞ」


そう言った俺を見てビクッとなったフォールは堰を切ったように話し始めた。


亡くなった騎士団長は他の騎士達が運んでいく。泣くのを堪えているので慕われていたのだろう。



「エイブリックさん、ちょっと・・・」


人払いをして貰った部屋に移動し、エイブリックとダンに今の事を話す。


「今死んだ騎士団長、呪いが掛かってた」


「呪い?」


「うん、呪いというのが何か分からないんだけど、血を吐いたのは呪いのせいだと思う。お腹の傷は治癒魔法で治せてたんだよ。血を吐いたのは呪いが原因だと思う。魔力が一気に抜けて、俺が魔力を補充してもそれを上回るスピードで抜けていったから助けられなかったよ」


「ゲイル、呪いというのは鑑定して見えたのか?」


「そうだよ。初めて見た。というか鑑定魔法はほとんど使ってないから初めてと言っても知れてるけどね」


「人を殺す呪いか・・・」


「エイブリックさん、ハンス・コールト、さっき死んだ騎士団長だけど、フォールを切斬った時の様子とか調べて。このままだと罪人として死んでいった事になるでしょ?せめて疑いを晴らしてあげて」


「どういうことだ?」


「信頼してる人を配置してたんでしょ?絶対とは言えないけど呪いで操られてたんじゃないかな」


「そんな事が出来るのか?」


「俺は呪いについてはまったく知らないんだよ。魔法とは違うものなのかもしれない。魔法なら何かしらの光が見えるから。それが見えなかったから・・・、いや、それも確かじゃないかも。隠蔽魔法とかあるなら見えないとかあるかもしれないし」


「お前が分からない物であるということは理解した。あの騎士団長にフォールを斬る動機があったか、斬った時の様子がどうだったかきちんと調べる。それまでは罪に問わないということでいいな?」


「うん」


全部話したフォールの水と手足を拘束していた魔法を解き、ゴーアの水を減らしておいた。ゴーアも自供をし、調査通りの内容が確認された。




外に出るとすでに日が暮れ始め、エイブリック邸に戻るとアーノルドとアイナが来ていた。


「あれ?父さん達なんでここにいるの?」


「よぉ、ゲイル久しぶりだな。相変わらず色々やらかしてるみたいだな」


俺のせいじゃない・・・のか?


だんだん自信が無くなってきたな。


「まぁ、そうかもね」


「ずいぶんと元気が無いな。なんかあったか?」


「王都で紅茶作ってるんだって。全然知らなかったよ」


「なんだそれ?」


もう何から話していいかわからなくなったのでお茶で濁してみたのだった。



俺達はいつもの部屋に案内され、夕食まで休息を取るように言われた。


アーノルドとアイナがここに居るのはエイブリックに呼ばれたからだろう。俺の件だと思うがそれにしては来るのが早すぎるよな?


ま、飯の時に何の事か教えてくれるだろ。


しかし、呪いってなんだろうか?魔法がある世界だ。呪術というのだろうか?そんな物があってもおかしくはない。人を操れたり殺せたりする呪いがあるのだとすると厄介だ。信用していたものが信用出来なくなる。もしアーノルドやアイナ、ダンとか操られて俺が襲われたら確実に死ぬな。常に鑑定すりゃ防げるけどそんな監視するようなこと嫌だな・・・


知らない物の対策など思い付く筈もなく。考えも何もまとまらなかった。



騎士団長を助けてやりたかったな・・・





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