第331話 不思議な水
「おー、ぼっちゃんが帰って来たぜっ!」
小熊亭に入ると客達が一斉に出迎えてくれた。
「心配かけてごめんねみんな。無事に戻って来たから」
「ぼっちゃんって本当に強ぇんだな。賊を一瞬で倒したんだろ?ジロンを一発でやった賊をよくやったもんだぜ」
ジロンの腕っぷしはなかなかの物らしく、それを倒した賊は強いということらしい。
「まぁ、鍛えられてるからね。俺強いんだよ」
と、シャドーボクシングみたいなことをして見せた。
「おー、様になってやがる。その調子で足湯入れてくれ」
なんだよそれ?
仕方が無いので足湯の準備をしに行った。
「お、ぼっちゃん戻って来たんだな。おいみんなに声かけて来いっ」
俺を見つけた常連がそう言うと数名があちこちに走って行く。
「今から足湯するよっ」
ダンが酒と炭、焼き鳥、タレをセットしていく。
「ぼっちゃん、こいつをガチャガチャして薪入れたらいいんだよな?こっちでやるから焼き鳥焼いてくれ」
常連が足湯を勝手に準備してくれるので炭に火を入れていく。
「おー、ほんとだ。ぼっちゃんいるじゃねーか、5本焼いてくれ」
「おいっ、俺が先だ。何勝手に注文してんだっ、人が足湯の準備してる時にっ!ぼっちゃん10本焼いておいてくれ」
「あいよっ!どんどん焼いていくよっ」
その後もわらわら集まってくる常連達。みんな俺の帰還を嬉しそうに喜んでくれた。みんないい人達だよなぁ。西の発展か。ちょっと本気でやらないとな・・・
ーディノスレイヤ邸ー
「アーノルド、王とエイブリックの使者が来てるわよ」
「手紙で無く使者だと?何事だ」
「執務室に案内したから急いで」
使者はアーノルド達に今回の出来事とゲイルに西の庶民街の管轄権委譲、子爵への取り上げを説明した。
「エイブリックは一体何を考えてんだ?」
「付きましては大至急王都へお越し頂けませんでしょうか。王の命令でございます」
今まで王が王都へ来て欲しいと言った事はあるが命令をされたことはない。使者が来たのも初めてだった。
「アイナもか?」
「はい」
「分かった。明日の夜にはエイブリックの所へ行くと伝えてくれ」
「かしこまりました」
使者はすぐに去って行った。
「今の使者は・・・」
「王家の隠密だろう。それだけ急を要すると言うことだ。明日早朝出るぞ」
「分かったわ」
ー王都の肉屋ー
「そうそうそんな感じ。もうバッチリだね」
「まぁコツを覚えりゃな」
俺は朝から肉屋と一緒にソーセージ作りの練習をしていた。
「しかし大変な目にあったな」
「まだ衛兵とかゴタゴタするだろうけど、こっちにはもう関係無いよ」
「騎士団ってあんなに居やがるんだな。驚いちまったぜ」
相当な数の騎士団員達が投入され、衛兵の代わりに西の警備にあたっていた。
「それもそのうち治まるよ」
「そうだと良いがな。いつまでもあんなんだったら商売上がったりだ。ぼっちゃんのお陰で俺達は安泰だけどな」
「そりゃ違いねぇ」
だーはっはっはと酒屋と八百屋も笑った。
「ちょっと今回の件でバタバタしててさ。しばらく来れない事が増えると思うんだよね。もう大丈夫かな?」
「おー、任しとけ。人の手配もしてあるからな。頑張ってたくさん売ってくれ」
「それは任せといて。もう勘弁してくれって言うまで注文するから」
ゲイルは次にエイブリック邸に向かう迄にロドリゲス商会に向かう
「ぼっちゃん、この度は大変な目に・・・」
「それよりさ、西の裏通りに店出す件ってどうなってる?」
「それはまだ検討中でございます」
「なら、一年後には出店出来る様に準備してくれない?どんな店かはまた相談するけど」
「何かありましたか?」
「まだ詳しくは言えないんだけどね。あと、王都とディノスレイヤの定期便の馬車を出すとしたらどれくらいで採算とれるか試算してくれないかな?朝出発夜着で。馬車は新型馬車を新造するから乗れる人数も試算して」
「わかりました。お任せ下さい」
「じゃあ宜しくね」
「ぼっちゃん、何をする気だ?」
「ディノスレイヤと西の街を観光名所にするんだよ。庶民でも行けるくらいの値段でね。人が動くと金も動くから」
「やること早ぇな」
「今から準備を始めて今年の感謝祭に始動、来年の春から本格稼働って所かな。どうせやらなきゃいけないんだ。さっさと基盤作って後は放置出来るくらいにしといた方が楽だ」
「そうなりゃまた次が来るぞ」
嫌なこと言うなよ・・・
ーエイブリック邸ー
「いらっしゃいませゲイル様。エイブリック様がお待ちでございます」
「え?早めに来たつもりなんだけど?」
「エイブリック様をお呼び致しますのでこちらでお待ちを」
「ダン、なんだと思う?」
「さぁな、どっか連れてかれんじゃねーか?」
中に入らず、入口でエイブリックを待っていると、すぐにエイブリックがやって来た。
「ゲイル、すぐに出るぞ。後を付いて来てくれ」
エイブリックは出て来るなり馬に乗りそう言った。
王子がお供も護衛も無しに単独で馬に乗って出掛けるとかフツーするか?
そう思いながら後を付いて行く。
「ここは?」
「騎士団本部だ」
馬を預けて中に通され、地下に連れて行かれた。
「こいつの水を減らしてくれ。手足はそのままでいい」
フォール元衛兵団長、同じ部屋に居た衛兵、ダンが捨てた盗賊、後知らない男がそこにいた。
誰も魔法を解除してなかったな。
フォールは口をタコのように突き出し、ストローの様な物を加えさせられていた。顔とかふやけてて気持ち悪い。
「どれくらいまで減らしたらいいの?」
「話せるくらいまででいい」
耳が出るくらいまで減らしてやる
「よし、別の部屋で尋問を行え」
「次は他の者の手足を自由にしてやってくれ」
「衛兵はいいけど、盗賊も?こいつらベントやセレナ、チッチャを斬ろうとした極悪人だよ」
「頼む」
エイブリックが俺に頼むと言ったことで騎士達がざわっとする。
「分かった。後は任せるよ」
手足が自由になった賊と衛兵もどこかへ運ばれて行った。
残るは見知らぬ男だ。
「ゴーア商会の商会長だ。こいつは水で包んでくれるか?フォールにやったくらいに」
言われた通りに水をじわじわと増やしながら包んで行く。何やら叫んでいるが気にしない
「いきなり悪かったな。この水どうやったら減るんだっけな?」
「正直に話すと減るよ。まぁ話せたらの話だけど」
ごぼごぼ溺れかけてはストローの様な物を口にいれられ、落ち着いたら取り上げられている。
「そうか、じゃ減るまで飯でも食おう」
うごごごぉ うごごごぉと溺れながら声をあげようとするゴーアを無視して最上階にある部屋に行った。
「裏は取れてるんだがなかなか口を割らなくてな」
「そういうのって拷問とかあるんじゃないの?」
「拷問は禁止されている」
「さっきのは拷問じゃないの?」
「正直に話さないと減らない不思議な水だろ?話せば減るんだから拷問じゃない」
どんな理屈だよ?
「裁判とかで罪を立証すればいいんじゃないの?」
「時間があればそうするんだがな、自供があった方が早い」
「なんでそんなに急ぐの?」
・・・・
・・・・・
・・・・・・
「消される可能性があるからだ」
俺には言えない所で動きがあるのか。短期決戦でケリをつける必要があるんだな。
「あのやり方で自供しても無理矢理言わされましたとかならない?」
「心が折れるから大丈夫だ。フォールはすでに壊れかけてる。また嘘を吐くと水が増える恐怖に襲われるから自供を覆すことは無いだろう。通常の拷問だと誰かの庇護下に入ればもう拷問されないが、あの水は違うだろ?いつでもどこでも水に襲われる恐怖を拭うことは出来ない」
やっぱり拷問じゃないか・・・
そんな酷い話をしながら飯を食う。ここのサンドイッチも旨いな。そんな事を思いながら。ゴーアの心が折れる報告を待つことになったのだった。
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