第330話 なんでそうなる

「無事だったか」


ベントが俺を出迎えてくれた後に皆がそれぞれホッとしたように喜んでくれる。


「あのあと大丈夫だった?」


そう言うと帳簿を見せるベント。


「おぉ、ちゃんと売り上げキープしてんじゃん」


「お客さんがぼっちゃんを助けに行くと大騒ぎだったのをベント君がちゃんとやってくれたんだよ」


チッチャが補足説明をしてくれる。ベントが頑張ってくれたんだな。


「あの賊はどうしたの?」


「捨てて来たぞ」


と、ダンが答える。


魔法解除も治療もせずに捨ててきたのか・・・


「結局どうなったんだ?」


ジロンは状況を知らないからまだ心配そうだ。


「新しい衛兵団長が今回の首謀者だね。そうじゃないかと思ってたんだけど、やっぱりってやつだったよ」


「衛兵団長が?」


「この辺りの土地を狙った悪事だったよ。今騎士団が衛兵団の調査をしてるよ」


「ぼっちゃん、ゴーア商会も衛兵団長の父親も全部グルだ。かなりの大事になったな」


「俺のせいじゃないからね」


「ぼっちゃんが絡むと大事になるんだよ」


それも俺のせいじゃない。


「ちょっと呼ばれてるから今から行って来るよ。ダンも抜けるけど大丈夫だよね?」


「なんとかする」


「じゃ頼んだよー」



ーエイブリック邸ー


「まったく、お前が絡むと何でも大事になる」


エイブリック邸に到着するなりそう言われる。俺のせいじゃないよね?


「で、この後どうなるの?」


昼飯を食いながら話そうということになった。昨日の朝飯食ったきりなのでお腹ペコペコだ。


テーブルに一口サイズのパンと唐揚げが運ばれてくる。ソースはラー油マヨネーズだ。


「社交会で出すパンだ。何が当たるかお楽しみってやつだな」


へぇ面白いじゃん。


順番に食べていくと、クリーム、ジャム、ミートソース、カレー等が入っていた。とても美味しい。


「今回の件はどうなるの?」


「まず首謀者のベンジャミン家は爵位剥奪、当主は永久投獄、衛兵団長は鉱山送りになるだろう。不正に加担した衛兵の内、悪質な者は解雇の上投獄、命令に従っただけのものは減給の上配置替えを行い階級をそれぞれの内容に応じて下げる。こんな所だな」


「衛兵総長ってのもいるんだよね?」


「それはまだ検討中だ。任命責任があるが不正に加担していた様子は無いからな」


「へぇ、じゃあベンジャミン家の単独不正ってことなんだね」


エイブリックはこれには答えずに次の説明に移る。


「庶民街は東西南北に分割されててな、西の庶民街の管轄がベンジャミン家だ。今回その管轄権限も剥奪だ」


「後任はいるの?」


「それが問題でな。西は庶民街の中でも住民の扱いが難しい。やりたがる貴族がおらんのだ」


「へぇ」


「南と東は子爵家の管轄で北と西が男爵家の管轄だ。一番人気が無いのが北で、その次が西だ」


「北はなんで人気が無いの?」


「貧民街だからだ。北の門から王都に来る奴も少ないから税収もほとんど無い。所謂貧乏くじってやつだ」


東が一番人通りも多く、庶民街でも高級路線で一番栄えてるらしい。南は普通、西が下町ってとこみたいだな。


管轄貴族に税収が入り、そこから中枢に税金を納めるか。王都内の領地みたいなもんだな。


「西は一旦王家預かりになるの?」


「そうだ。誰もやりたい奴がおらんからな」


「人通り多いのにね。やり方によっちゃ税収上がるんじゃない?」


「主な収益が野菜と畜産だし、住民の扱いが難しいって言ったろ?今回の事でも暴動になる可能性があったんだぞ」


「そりゃあ衛兵が不正に加担してたらね」


「それが解る前に暴動の兆しがあったんだよ」


「なんで?」


「お前のせいだろがっ」


は?


「なんで俺のせいなんだよっ」


なんでもかんでも俺のせいにするんじゃない。


「お前が連行されたのを取り戻そうと住民が集まってたんだ。お前、たった数日で何をしたんだ?」


「食堂のリニューアルオープンをしただけなんだけど?」


「ぼっちゃん、エイブリック様の言う通りだ。ベントが皆を必死に説得したんだ。食堂に来てた奴が中心になってな大変だったんだぞ」


「そんな事一言も言ってなかったじゃん」


「チッチャが大変だったって言ってただろ?ぼっちゃんが通常通り営業しろってベント達に言ってったのを頑なにやり遂げたんだよ」


そんな大事だったのか・・・


「そこでだ、お前、西の管轄をやれ。成人したら子爵にしてやる。ディノスレイヤ領を継ぐつもり無いんだろ?」


は?


「嫌だよ」


「もうそれで話が進んでる。成人するまでは西は王家で預かる。諦めろ」


「なんでそうなるんだよっ」


「お前、西の庶民街を東より発展させろ。お前のやってた宿周辺もお前の土地にしてやる。ベンジャミン家の財産も全部やるからそれを使え。それなら出来るだろ」


聞いちゃいねぇ・・・


「嫌だってば」


「今回の件は王都の中でも大きな問題になっている。根も深そうだからな。そっちに構ってる暇も無ければあそこの住民を王家が手なずけるのも無理だ」


「だから、嫌だってば」


「父上がお前を牢屋に入れた事を相当怒っててな。このままだと命令に従った衛兵どもも皆処刑になるぞ」


「なんでそうなるんだよ」


「当たり前だろ?父上はお前を王家の養子にしようとすらしてたんだからな。それが自分のお膝元で不当に牢屋に入れられたんだ。そりゃあ怒り狂うだろ」


「さっき処分内容が決まった様な事を言ってたじゃないか」


「俺が押さえてるからだ。お前が西の管轄することでそれが可能になるんだ」


「意味がわかんないよ」


「衛兵を大量に処分してみろ、一気に治安が悪化するだろうが。そうなりゃ騎士団が出て鎮圧するような事態にもなりかねん」


「俺が管轄することでなんで防げるんだよ」


「ゲイルに任せておけばなんとかなる。不正に加担した衛兵も改心させられると言ってある。お前凶悪犯も改心させたろ?」


「そんなの衛兵総長がやればいいじゃないか。俺は関係無いよね?」


「さっき根が深いと言っただろ。これから大きく王都の中が動く可能性を秘めてるんだ」


「エイブリックさん、俺はまだ5歳になったばかりだよ?子供に何させようって言うんだよ」


「俺が信用する文官を置いてやるから実務はそいつらに任せろ。お前は西の住民達をまとめればいい。あの通りの改装なんかもアイデアだけ出せばその通りやる。なんなら衛兵団長も任せてもいいぞ」


「だから嫌だってば」


「貴族街のベンジャミンの屋敷もお前の屋敷にしておく。好きに使っていいぞ」


「嫌だってば」


「開発資金が足りなければ俺が出してやるから頼んだぞ」


「だから・・・」


「明日また来てくれ。父上が楽しみにしている」


「俺、春になったら冒険に行ってしばらく帰って来ないんだからね」


「その頃にはあそこら辺が出来上がってるだろうな。楽しみに帰って来い」


あー、やっぱりエイブリックは王家の人間だ。すでに決定事項として進めてやがんだな・・・


「俺の保護者は父さんだから、許可するわけないじゃん」


「心配するな、いざとなれば王権というのがあってだな・・・」


汚っねぇぇぇぇ


「俺が管轄したら最新の料理や酒が貴族街はおろかエイブリックさんの所より先に出るからねっ」


「王都の平和に比べたら些細な事だ」


「権限全部貰うからねっ」


「好きにしろ」


あぁ、何を言っても無駄だ・・・


「ぼっちゃん、小熊亭の周りをディノスレイヤ領みたいにすることになったな」


「そんな規模じゃないじゃないかっ」


「いくら仲が良くても相手は王子と王だ。王家の命令には逆らえんだろ?それとも国を捨ててどっかに行くか?」


「それもいいね。俺が国を捨ててどっかに行く事になったらダンも来てくれる?」


「いいぞ、二人でパーティー組んで冒険者やるか。そうなりゃおやっさんも一緒に来るかもな」


「いいねぇそれ」


「シルフィードも一緒に来るんじゃねーか?」


「4人パーティーか。遺跡探索とかやりたいよね」


「アーノルド様やアイナ様も来るかもな」


「なんだよそれ?」


「ぼっちゃんが国を捨てるということはそういうこった。ミケやドワーフ達も付いて来るだろうし、ミーシャも来るだろう。それだけみんなぼっちゃんと繋がりが深くなってるんだよ。下手すりゃディノスレイヤの住人のほとんどが付いてくるぞ。そうなりゃディノスレイヤ領の独立戦争だな。ぼっちゃんが本気でやりゃ勝てるぞ」


ダンは冗談っぽく言ってるが半分本当にそう思ってるんだろう。顔は笑ってるが目が笑ってない。


「わかったよっ。成人するまでまだ10年あるからそれまでに状況変わるよ。取りあえず西の住民街は発展させてみるよ」


「まぁ、今まで通りやればいいんじゃねぇか?文官置いてくれるって言ってたろ?言うだけ言って後はやらせりゃいい。いつもそうしてるだろ?」


そりゃそうなんだけど・・・



→助ける


このアイコンはタップしちゃだめなやつだったんだろうな・・・

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