第326話 事件ですっ

「そんな事があったんだ」


ベントが食堂にいる皆の雰囲気をようやく察知した。


「ぼっちゃんがいなけりゃ相手の言うがままにされてただろうな。俺達もああいうのは分からんからな」


「ゲイルはなんでそんな事を知ってるんだ?」


「ほら、バルとかあったからね」


嘘だ。


「そうか」


うん素直で宜しい。


「さ、準備しよう。お客さんには関係の無い話だからね。チッチャも笑顔で宜しくね」


「うん」



いつものように開店し、いつものように売上を上げていった。


1の付く日は定休日にした。


「あれ?ベント学校は?」


「学校も休みなんだ。だから仕込みをしようと思って」


「そっか。俺は肉屋にベーコンとソーセージの作り方を教えに行って来るよ。昼頃帰ってくるから」


ダンはすでに調査に出てくれている。あの取り立てに来たゴーア商会は前に怪しい動きの男が入って行った商会だ。意図的にこの地域の評判を落とし、店を手放させてるのだろう。持ち直した小熊亭にはあんな強引な手段を取って来た。次は何してくるかな?裏で貴族が手を引いてるならエイブリックの手を借りる事になるかも知れないな。



肉屋に到着するとすでにミンサーが届いていた。ロドリゲス商会が持って来てくれたらしい。


「俺たちも見てていいか?」


酒屋と八百屋も見に来た。


まずミンサーの使い方やミンチに入れる塩の量と胡椒などの説明。粘り気が出てからミンサーにアタッチメントを着けて腸に詰めていく。


「これ屋台で売りたいから豚の腸で大きくしてくれないかな?」


サイズを指定する。ソーセージはすぐに燻製をしても問題がない。


「ベーコンは塩と胡椒をして布にくるんで冷蔵庫で一週間くらい寝かしておいて」


その後にカルヴィンの家まで案内して貰うとすぐ近くの住宅街だ。



「ここにこれくらいの小屋作っていいかな?」


「小屋を作る?」


いいけどよ、と言われたのでひょいひょいと作る。


「今何をしたんだ、なんだこれは?」


「俺、土魔法得意なんだよね」


「なんなんだよそれ?」


「ほら俺はいいとこのおぼっちゃんだから」


「そんなの関係ないだろっ!」


「実は魔法使いなんだよ。便利だよ魔法使えると」


「なんなんだよ・・・」


解せぬ顔をするが気にせず説明していく。


「ここにこうやって吊るしていくでしょ。でスモークチップをこれくらい入れて火を点けて煙が出なくなるまで放置すればいいから」


「あぁ、ああわかった」


「これ月に500本は欲しいんだよね。1本銅貨2枚で卸してね」


「そんなに数が出るのか?」


「マックス1000本くらい出るんじゃないかと思う。まぁやってみないとわかんないけど。ベントが屋台で売るから売れ行きを見て相談しながら作って」


「人増やさなきゃならんなぁ」


「1年経ったら爆発的に売れる可能性あるからね。今から準備整えて行って」


「本当に人増やして大丈夫なんだな?」


「もしダメだったら他の売り物も考えるからなんとかするよ」


「よし、やってやる」


「おい、野菜はなんか売り上げが上がる方法あるか?」


「どっから仕入れてんの?」


「農家から直接だ」


「わかった。新しい野菜の種を卸すからそれを栽培して売ればいいよ。数作れるならロドリゲス商会も買ってくれるだろうし」


「さ、酒はなんかあるか?」


「酒はちょっと待ってね。いま何種類か開発してるから、高級酒みたいな感じの奴で値段下げたやつ考えるから。それもロドリゲス商会経由になると思うけど」


庶民向けで数出る商品も必要だからな。



「じゃあ、今日はここまでにして、また改めて来るよ。ソーセージ練習しておいてね」



さて、小熊亭に戻って昼飯食ってからエイブリックの所に行くか。



ー小熊亭ー


「休みなんて知らねーよっ」


「ここは食堂だろっ、せっかく来てやったんだから酒と飯出せよ」


「お前ら、今日は休みだと言ってるだろ。また明日来てくれ」


「うるせえっ!」


バキッ


「きゃあーーーっ!」


ジロンがチンピラに殴られセレナが悲鳴をあげる。


「お前ら、乱暴は許さんぞっ」


ベントがセレナとチッチャの前に立ち剣に手を乗せる。


「ほぅ、子供の癖に俺達とやるつもりか?」


ベントは護衛対象を逃がすことを一番に考えろとゲイルに言われた言葉が脳裏を過る。


(裏口から出て)

(でも)

(早くっ!)


「何ごちゃごちゃ言ってやがるっ」


「早くっ!」




ゲイルが小熊亭の近くまでくると嫌な気配が漂ってきた。


ダッシュで中に入るとベントが早くっ!と叫んでいた。


「おい、お前ら。女子供に剣抜きやがって。いい覚悟だな」


チラッと中を見るとジロンが倒されてベントがセレナとチッチャをかばって裏へ逃がそうとしていた。


よくやったベント。


さっとジロンに治癒魔法をかける。血も出てないから殴られただけだろう。


「おーおーおー、チビの癖に一人前の口を利くじゃねぇか」


「お前ら誰に雇われたんだ?素直に言えば殺さずにおいてやるぞ」


「生意気な口を利きやがって、そのくそ生意気な口をふさいでやるっ!」


はい、正当防衛成立。


ガゴンッ


土魔法で顔面を強打してやるとブッと鼻血が飛ぶ


「野郎っ!何しやがったっ!」


こいつは誰の指示か聞き出す必要があるので拘束する為、まず足枷で転ばせる。


ビタンッ


こけた所を剣ごと踏み潰す。身体強化しているので粉々に砕けただろう。


「うぎゃぁぁぉぁ」


叫ぶのを構わず後ろ手にして拘束した。


土魔法で倒れた奴も手足を拘束する。


「いでぇぇぇ」


「うるさいぞ」


反対側の肩を蹴って砕き、顔を近付けて囁く。


「次、許可なく声出したら殺す」


じょわ~


ちっ、小便漏らしやがった


伸びてる奴に水を掛けて目を覚めさす。


「ぶはっ! て、てめぇ何しやがるっ」


ドゴン 折れた鼻にもう一発食らわす。


「俺の質問だけに答えろ。誰に頼まれた?」


「しっ、知らねぇ」


ドゴン


「これで最後だ。誰に頼まれた?」


「し、知ら・・・」


背中の剣を抜いて首にあてる。


「お前ら人を殺したことあるだろ?俺はそういうのがわかるんだよ。そんな奴には情けをかけないことにしてるんだ。あの世で頼まれた奴に義理立てしとけ」


「げ、ゲイル止めろっ!チッチャが怯えてるっ」


ちっ、まだ外に出してなかったのか。


「ベント、チッチャを外に出せ」


そう言ってからスパッとチンピラの耳を落とした。


「うぎゃぁぁぁぁ」


「俺はディノスレイヤの人間でな、盗賊はゴブリンだと教えられてんだ。ゴブリンは討伐するもんだろ?」


斬り落とした耳をプラプラさせて見せる。


腕と肩を砕いた奴の方に歩くとひぃぃと悲鳴をあげようとするのでこっちも耳を落とした。


「誰に頼まれた?」


「そ、それは・・・」



バンっ


「なんの騒ぎだっ!」


衛兵二人がやって来た。ずいぶんと来るの早ぇな・・・


「衛兵さん、こいつら盗賊なんだよ」


「たっ、助けてくれ。俺達何もしてないのにこのチビにやられたんだっ」


「きさまっ!その剣と持ってる耳はなんだ?」


「盗賊を討伐したんだよ。こいつら早く連れてって。人も殺してるからちゃんと調べてね」


「剣を捨てて大人しく付いて来いっ!」


ガシッ


あれ?


「なんで俺を捕まえるの?あっちの倒れてる二人だよ」


「口答えするなっ」


あれ?


「衛兵さん、俺を連行すると大変な目に合うからちゃんと話を皆に聞いた方がいいよ」


「黙って付いて来いっ」


この衛兵達何か変だ。足枷付いてる盗賊に目もくれず俺を捕まえやがった。まぁ斬った耳を持っていたら勘違いしても仕方がないけど。もしかして俺が狙いか?


「ゲイルっ!」


「ベント、俺が3日経っても帰って来なかったら助けを頼む。それまでは何もするな。ダンが帰って来たら今日行けなくなったと伝言しといてって言って。それで分かる。ジロンさんそいつらその辺に捨てて来て。店が汚れるから」


ざっと店にクリーン魔法を掛けて連行されてやった。


「衛兵さん、今なら勘違いでした。すいませんで許してあげるけど?」


「黙って歩け」


「衛兵さん、家族いる?」


「ごちゃごちゃうるさいっ」


「最後にもう一度言うよ。俺をこのまま連れて行くと死罪になるよ。誰に頼まれたか知らないけど、こんなことで死罪になっても知らないよ」


グッ


「そんな訳があるかっ!」


「俺、こう見えても貴族なんだよね。衛兵さん平民でしょ?うちの領ならなんとか出来るけどここだとそれが出来ないからね」


「お前みたいな貴族がいるかっ」


俺の事を知って狙ったわけじゃなさそうだな。と言う事は小熊亭を狙ってる奴か。


「衛兵さん、最後のチャンスね。誰かに命令されて仕方がなくやってるなら咳払い一回して」


「だまれっ」


ゴツンっ


痛ってぇぇぇ。こいつ殴りやがった。これは仕方がなくというわけじゃないんだな。




「ここへ入っておけっ」


ガシャ


何も調べずいきなり牢屋かよ。



「ゲ、ゲイル様では・・・?」


牢屋の中に俺の事を知ってるやつ?


「お前誰?」


「ディ、ディノスレイヤで討伐された者です」


あー、あの盗賊か。


「お前ら外で盗賊の見張りやってたんじゃなかったのか?昼間は牢屋に入ってんのか?」


「いえ、あの役目は終わりました」


「また何かやったのか?」


「いえ、突然鉱山送りにすると言われました。そのうち連れて行かれます」


「なんで?」


「わかりません。衛兵がだいぶ入れ替っていきなりです」


「入れ替わった?」


「顔を知らないものばかりになりました」



ー小熊亭ー


「おいっ、何があった?」


「だ、ダン。ゲイルが衛兵に連れて行かれた」


「なんだとっ?」


「ゲイルからの伝言はダンに俺の事は構うな、3日しても帰らなければ助けを頼む、今日行けなくなったと伝言を頼むって」


「ベント、何があったか詳しく教えろ」


ベントはダンに全部説明した。


「ぼっちゃんは何もするなと言ったんだな?」


「うん」


「わかった。後は俺が動く。ベントは心配せずに明日からも小熊亭を手伝ってくれ。セレナ、チッチャ。お前らもだ。明日からも同じように営業してくれ。ジロン、盗賊どもはどこだ?」


「う、裏に・・・」


ダンは裏に盗賊の様子を見に行った。


両手両足を土魔法で固定され、腕と肩を砕かれたのと鼻を完全に潰されたやつ。二人とも耳を斬り落とされてやがる。その上にシルバーにしこたま蹴られたんだな。


これが原因で衛兵に連れてかれたんじゃねーか?


取りあえずエイブリック様の所に行かなくては。


ダンはゲイルが暴行罪に問われたんじゃ?と思いつつエイブリック邸に急ぐのであった。

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