第327話 信じて平常運転

さっむ・・・


「お前らよくこんな所で平気だな?」


「慣れるしかありません」


こいつらからすっかり嫌な気配が抜けている。本気で反省したのだろう。


牢屋全体とこいつらにクリーン魔法をかける。ここは臭くてたまらないのだ。


その後ふよふよふよふよと牢屋全体を温風で温める。ふぅ、寒いのも臭いのもなくなったな。


「あ・・・」


「お前ら臭いから魔法でキレイにしておいた。俺が寒いから温めただけだ。お前らのためじゃないからな」


「あ、ありがとうごぜいやす」


「コップあるか?」


「こんなもので良かったら・・・」


こいつらガリガリに痩せてんな。コップにもクリーン魔法を掛けてからお湯を入れてやる。


「食い物は出せないからこれで我慢しろ」


「あ、温かい飲み物・・・」


ポロポロと泣き出す。


「何がどうなってるかわかるか?」


「へ、へい。衛兵の上の奴等が代わったらしく、上の者に意見を言う者は居なくなり、新しい衛兵が増えました。俺達の刑罰は決定済みで鉱山送りになるのはおかしいと言ってくれた衛兵もいなくなりました」


ふーん、衛兵団長のフランクがうちに来てから体制が変わったんだな。新しい衛兵団長か・・・


「衛兵団長が代わったのは知ってるか?」


「はい、他の奴等が団長って呼んでたやつは前と違うやつです。後はわかりません。」


「そうかわかった」


「ゲイル様は何をやらかしたんで?」


「世話になってる宿に賊が来てね、討伐したら俺が捕まったんだよ」


「ゲイル様は貴族なのに・・・」


「はめられたっぽいからそのまま捕まったんだけど、なんとなく理由がわかったよ。お前達は本当に反省したみたいだな」


「はい、当時の自分を斬りたいぐらいです。鉱山送りでも仕方がありません。殺した人達の魂に謝りながら行ってきます」


「お前らまた見張りをする気はあるか?」


「そうですね。人の役に立てるという喜びを教えて貰いました」


「そうか。まぁそれならなんとかするわ」


「は?」


「なんとかしてやるって言ってるんだよ。俺の兄貴が王都に居てな。今日みたいな賊が簡単に入って来られちゃ困るんだよ。だからしっかり見張れ」


「し、しかし・・・」


「心配すんな。こんな牢屋いつでも出られる。そのうちなんか動きがあるからそれからでも遅くない。ちょっと待ってろ」



夜になり、床に寝るのは冷たいので、ふよふよ浮いておく。



(ゲイル様、ゲイル様)

(誰?)

(フランク団長の部下だったものです)

(そうなの?団長この前の闘技会で準優勝だったよ。強かったよー)

(そうなんですか?さすが団長です。あ、すぐにここからお出し致します)

(いいよ、責任取らされるからやめておいた方がいいよ)

(しかし・・・)

(いいから、いいから。それより衛兵が入れ代わった理由と新しい衛兵団長のこととか教えてくれる?)

(わかりました)



ー小熊亭ー


「おいおい、ぼっちゃんが衛兵に連れてかれたらしいじゃねーか、何やったんだ?」


「ガラの悪いやつが絡んで来てそれをやっつけてくれたんだ。俺も殴られたんだが気が付いたら怪我も痛みも無くなってた。ぼっちゃんが治してくれたに違いない」


「ぼっちゃん、何も悪くねぇじゃねぇか?」


「そうなんだ。なのに衛兵はぼっちゃんを連れて行きやがった」


「その賊はどうした?」


「ぼっちゃんが退治した後、裏庭に放置してある」


ドヤドヤと常連客達が裏庭に行くと耳を斬り落とされ、肩や顔を潰された賊がそこにいた。


「こ、こりゃひでぇ・・・。ぼっちゃんがやったのかこれ?」


「ディノスレイヤでは賊はゴブリンと同じ扱いらしい。耳が討伐証明になると斬り落とした」


「と、討伐・・・」


「この手足に付いてるやつはなんだ?」


「わからねぇ。何やっても壊れねぇし外れねぇ。多分ぼっちゃんの魔法だ」


「ぼっちゃんってそんなに強いのか?それに魔法って・・・」


「セレナとチッチャを庇ったベントに賊が剣を抜いた所にぼっちゃんが帰って来たんだ。賊に何か言った後にぼっちゃんに斬りかかったと思った瞬間に二人ともやられてた。何が起こったのかわからねぇがぼっちゃんがやったのは確かだ」


「ぼっちゃんは斬りかかられてやったんだよな?」


「そうだ」


「ならやっぱりぼっちゃんは悪くねぇ。おいっ、お前らみんな呼んでこいっ、こいつら連れて衛兵の所にいくぞっ。ぼっちゃんを取り返すんだ」


「おいっ、皆に声掛けろ。なんならここの住民全部連れてこいっ」


「ま、待ってくれ」  


ベントはジロンと常連の会話を聞いて慌てる。


「どうしたっ?ぼっちゃんはお前の弟なんだろ。すぐに助けに行ってやるぜ」


「ゲ、ゲイルは何もするなと言い残した。いつも通り営業しておけと」


「何っ?こんな時に酒飲んでる場合じゃねぇだろ」


「大丈夫だっ!ゲイルは何もするなと言ったんだ。きっと何か考えがあるんだ」


「け、けどよぅ・・・」


「大丈夫。アイツが逃げようと思えば衛兵なんて相手にならない。軍をつれて来ても勝負にならないぐらいだからな」


「お前、軍って・・・」


「少なくともゲイルは騎士団相手でも余裕で勝てるからな。すっごいんだよあいつは。さ、それより焼き鳥焼くから注文して。アイツが帰ってきて売り上げが下がってたら怒られる」


「でもよ・・・」


「チッチャ、ほら席に案内して。今日は足湯が無理だから中で頼んでね」



ーエイブリック邸ー


「何っ?衛兵がゲイルを連れて行っただと?」


「潰れかけの宿の立て直しをしているんですが賊が入りまして、ぼっちゃんが討伐したところ衛兵に連れていかれたようです。その際に何もするなと伝言を残してるので何かをするつもりかと」


「裏があるのか?」


「西門の西側にある庶民街の一角を手に入れる為にゴーア商会というところが動いてます。借金を盾に宿を奪いにきたのをぼっちゃんが契約の内容の穴を見抜き追い返したのです。ぼっちゃんからの調査命令で調べた所、ゴーア商会と繋がりのある貴族が裏にいるのが判明しました」


「ほう、誰だ?」


「はい、王都の貴族・・・」


ダンはエイブリックに調査したことを報告するのであった。


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