第323話 小熊亭での食事会その2

「これハンバーグっていうんだよ。私も大好きっ」


セレナがハンバーグにソースをかけていく。


「これがミンチという奴で作られているのか」


「こりゃ旨ぇ」


「本当に美味しいですねぇ。これからここに来ればこのような物が食べられると思うと嬉しいですねぇ」


次々と運ばれてくる料理に舌鼓をうつ面々。



「ぼっちゃん、そろそろ酒向きの料理になるか?」


「餃子から行くよ。その次は軟骨の唐揚げとかだね。そこのマルチョウの味噌煮込みを持ってって」


餃子を焼きつつシマチョウを鉄板で焼いていく。味付けは塩とニンニクゴマ油だ


ようやくこれで終わりだな。



「へぇ、お前は王都の学生なのか?」


「そうだよ。僕はあと2年は学生なんだ」


「何を学んでんだ?」


「経営の事とか税金の計算とか色々と」


「はーっ、難しいことやってんだな。それが何で焼き鳥なんて焼こうと思ったんだ?」


「実際に働いてみた方がよく理解出来るって言われて僕もそう思ったから」


「ベント様の焼かれた焼き鳥は大変美味しいですね。どこで覚えられたので?」


「ゲイルにさんざんやらされたんだよ。焼き鳥すら焼けないのかって言われて。初めは父さんと母さんしか食べてくれなかったけど、焼けば焼くほど他の人も食べてくれるようになって・・・」


「それはとても良い修行をなさいましたね。焼き鳥屋になられるとは思いませんが、こうやって大変美味しい物を作られた努力と工夫はこれからの人生を豊かにされますよ」


大番頭はそうやってベントを誉めてくれた。



「あいよ、これは餃子だ。この前食ったろ?タレは自分で調節してくれ」


「餃子?」


「これはこうやって」


チッチャがラー油の説明をする。


「ぼっちゃんが辛いのがお好きであれば下の沈んだ唐辛子も一緒にと教えて下さいましたね。では私は辛いのを」


「おおー、こりゃ旨い。エールが進みやがる」


「はい、これが最後だよ。シマチョウのニンニクゴマ油焼き。肉屋のおっちゃんがいらないって言った牛の腸だよ。そっちの煮込みもそうだよ」


「なんでこんな気持ち悪いもん食うんだ?他に旨い物がこんなにあるじゃねぇか」


「いま食べてる唐揚げは鶏の軟骨だよ。旨いだろ?」


「これが軟骨?」


「そうそう、串焼きでも旨いんだけどね、仕込むの時間掛かるから唐揚げにした。エールに良く合うでしょ?」


そんな捨てる所がとか言いながらこりこりとエールが止まらない。


ダンがシマチョウとエールでかーーーっとやってるのを見てジロンも恐る恐る食べてみる。


「なんだかぐにゅぐにゅして・・・。変な食感が・・・。う、旨ぇじゃねぇか」


「好き嫌いはあるけどね、炭で焼くといいんだけど煙が凄いから今日は鉄板焼きにしたよ。味噌煮込みも旨いよ」


他の皆も食べだした。


「おいおいおい、これって本当に捨てる所なのか?めちゃくちゃ旨いじゃないか」


「鍛冶屋のおっちゃん、その煮込みを蒸留酒のお湯割りで試して。煮込みには唐辛子を少しかけるといいよ」


言われた通りにやるガンツ。


モグモグ、ゴグッ


クワッと目を見開いて俺を見た。


「坊主、なんだこの組み合わせは?」


「寒くなって来た時には最高に旨いだろ?おっちゃんこんなの好きそうだと思ったんだよな」


「そ、そんなに旨いのか?」


「肉屋のおっちゃんも自分で試しなよ」


「ぼっちゃん、ディノスレイヤ領でもこの料理は食べられていますか?」


「バルでは一般客に出してないよ」


「なぜですか?」


「肉屋のミートは内臓が旨いの知ってるんだよ。ただお金の無い人がこそこそ買う様な扱いなんだよね。その人達用に完璧に処理してあってただ同然で売ってるんだ。それが皆に旨いと知れ渡ったらその人達の分が無くなっちゃうだろ?」


「なるほど・・・」


「バルの個室だと裏メニューであるから食べたかったら個室で頼んで。俺から聞いたと言ってくれれば大丈夫だから」


「今度戻りましたらそうさせて頂きます」


「そのディノスレイヤの肉屋はなんでそんな事を知ってるんだ?」


「さあ?初めから知ってたからね。どこの部位を頼んでも下処理を完璧にしてあるから臭みとか全く無いし。スジだけ食べ方知らなかったから教えたけど」


「スジも食うのか?渡しておいてなんだけどよ」


「このマルチョウの煮込みと同じ味付けなんだけどね、あの硬いスジを煮込み続けるとトロっとして旨くなるんだよ。ただ薪使って延々煮込むと高くつくんだよね」


「もしかして俺に作らせてる鍋はその為のものか?」


「あたりっ!あの鍋を使うと普通の鍋で2~3日煮込む料理が鐘1つくらいの時間で出来るんだよ。ただ同然の食材が金の取れる料理に早変わりするんだ。まさに魔法の鍋だよ」


「なぜそんな事を考える?」


「小熊亭は人が少ないだろ。手間隙掛けられる時間が少ないからこういうものが無いと勝負にならないからね。シチューや煮込みを作っておいたらメニューも増やせるし、さっき餃子の皮作るようのやつもそうなんだよ。本来は手で丸く伸ばして作るんだけどあれを使うとやったことない人でも作れる。道具で熟練の腕とか人手不足をカバーしてやるしかないでしょ」


「いや、なぜ小熊亭にそこまで肩入れをする?たまたま泊まった潰れかけた宿じゃないのか?お前には関係の無い話だろ?」


「そうだね。たまたまだよ。でもこの宿はチッチャしかいないのに凄く綺麗に掃除もされてて清潔だったんだ。客も入らないのにこれだけキチンとしてるなら流行ってもいいんじゃないかなと思っただけ」


「そんな理由なのか?」


「正直、同情したってのもあるけど。ベントの修行するのにもちょうど良かったし、本当にたまたまなんだよ。チッチャに声掛けられてなかったら、肉屋のおっちゃん達が良い人達じゃなかったら、口は悪いけど気のいいお客さんがいなかったら・・・。まぁ巡り合わせってやつだね。縁だよ縁」


「縁か・・・」


「そうそう、おっちゃんが俺に声掛けてなければこうやって一緒に飯食う事もなかったろ?」


「そうだな・・・」


「まぁ、ぼっちゃんはトラブル体質だからな。行くとこ行くとこ全部何かが起きやがる」


なんだよトラブル体質って?


「おっと、そういえば他にソーセージとやらはどうなった?」


「あ、忘れてたわ。まだ皆食べられる?」


もちろんと言うことなので茹でるか。


「あ、ぼっちゃん。さっきの砂糖と一緒にヒッコリーチップを置きましたけど良かったですか?」


「持って来てくれてたんだね。ありがとう」


そうか、スモークチップがあるなら簡易スモークにするか。煙出るから外でやろう。ついでに簡易ベーコンもするかな。


豚バラを薄切りにして塩とさっきもらった胡椒を振ってと、


外にでて足湯の焼き鳥台でスモークチップを加えて蓋をする。


モクモクと煙が上がり始め、ソーセージと豚バラが燻されていく。


「お、今日は休みじゃねーのか?」


「休みだよ」


「何作ってんだ?」


「新メニューの試作品だよ」


「ほう、新メニューか。いつから出すんだ?」


「まだハッキリ決まってないけど。これも出せるかどうかもまだわかんないし」


「あ、味見してやろうか?」


「食べたいの?」


「そりゃああれだけ旨い焼き鳥出すんだ、興味あるだろ」


「じゃ少しだけだよ。数作ってないから」


煙が収まったので蓋をどけて、火力を上げて焼く。


「これは簡易的なやつだから、本当のはもっと美味しくなるよ。これがソーセージ、こっちがベーコン」


あちちっと言いながら手掴みで口の中へ。


「旨いじゃねーかっ!」


「なら新メニューに加わるの楽しみにしててね」


「おぅ、早めに頼むぜっ」


大きな声で叫ぶから人がこっちに集まって来そうだ。


「じゃ又来てねっ!」


とっとと食堂に逃げ帰る事にした。


「お待たせ、これがベーコンとソーセージ」


皆で試食する。


「おぉ、旨いぞ。こんなのも初めて食べるぞ」


「ぼっちゃん、いつものより旨くねぇな」


皆が絶賛する中、ダンには不満のようだ。


「これは簡易的な奴だからね。熟成が足りてないんだよ」


「どういうことだ?」


「仕込んでから一週間くらい冷蔵庫とかで寝かしておくと旨味が増すんだよ。それをゆっくり煙で燻すのが本来の作り方なんだ。こういう簡易的な奴で良かったらここでも出せるけど、ちゃんと作るなら手間隙がかかりすぎるんだよね」


「煙?もしかして俺に作らせようとしてたのはこいつか?」


「そうだよ。断られちゃったけどね」


「こ、断ってなんかねーぞ。考えておくって言ったんだ。ディノスレイヤの肉屋はどうしてる?」


「もうやって貰ってるよ。めちゃくちゃ売れてるみたい。どんどん人を増やしてるしね。ついでに肉も飛ぶように売れてるよ」


「ロドリゲス商会もミートから仕入れをするようになってますよ」


そうだったんだ。


「よし、ぼっちゃん。俺にこいつを作らせてくれ」


「じゃあお願いするね。これ作るのに機械とレシピ代金必要なんだけどそれはプレゼントする代わりに小熊亭には安く卸してね。それとここが立ち直るまでというか1年間は専売にするって条件でどう?」


「あぁ構わんぞ。ちなみにその機械とレシピっていくらぐらいなんだ?」


「任せっきりでよく知らないんだよね」


「ミンサーは銀貨30枚、レシピはベーコンが金貨1枚、ソーセージは金貨5枚ですよ」


は?


「ミンサーは分かるけどレシピってそんなに高いの?」


「貴族様向けですから。紹介制で去年はその倍しておりました。徐々に値段を下げて広めるとのことです。庶民街で広まるのは5年くらい先になるのではないでしょうか?」


「うちの領だと肉屋で買って庶民が食べてるよ。闘技会で屋台も出てたし」


「貴族の方がディノスレイヤ領に行かれることはございませんので問題ありません」


なるほどね。


「だって、それでいいかな?」


「そんな高額なレシピをただで・・・いいのか?」


「ベーコンとソーセージなんて元々庶民の食べ物なんだからいいんだよ。貴族は見栄の為に金払うだけなんだから」


「ここに出された料理のレシピも相当高額ですよ。貴族街の一部のレストランでしかまだ出回っておりません。一回の食事で銀貨3~4枚程支払うことになります。蒸留酒を飲むともっと高くなりますね」


「そ、そんなに高いのか・・・」


「はい、蒸留酒はまだ制限が掛かっておりますので特に高いですね。こっそりと他領に持ち込まれた物はかなり高額で販売されたとか。それも今は手に入りませんから」


「坊主がこれを常連向けに銅貨80枚ってのは?」


「ハッキリ言って格安というかあり得ません。王都でもほんの一部の貴族にしか手に入れる事が出来ませんから」


「お前、そんな物をサービスしてたのか?」


「まぁ、勝手に貴族が価値を釣り上げただけでそこまで価値のあるもんじゃないよ。1杯銅貨80枚でも高いなぁって思ってたんだから。だから常連には倍入れてもいいかなって」


「こんな事がバレたら問題になるんじゃないのか?」


「なんで?」


「そりゃあ、ご貴族様の酒を俺達が格安で飲んでるなんてバレたら・・・」


「もしなんか言われたら教えて。その貴族には酒卸さないから。大番頭さんもそれくらい出来るよね?」


「もちろんです。まぁバレる事はありませんよ。表通りならともかく裏通りですし、庶民街で食事をする貴族もおりませんから。」


・・・・・

・・・・・・


「あ、ロドリゲス商会の支店をここに作らない?周りの物件たくさん空いてるみたいなんだよね。庶民向けの商品とか」


「他に商会があるのでは?」


「昨日新型火打石が欲しいって言われてさ、20本ほどおやっさんに手紙で送ってくれって書いたんだよ。鍛冶屋のおっちゃんも自分で販売するの苦手だろ?既製品売ってもらったら?」


「今はぶちょー商会が取り扱いするものでも貴族向けのものしか持って来てませんからね」


「毎日馬車出してるけど毎回毎回荷物がたくさんあるわけじゃないから庶民向けの商品の取り扱いすれば無駄が減るんじゃないかな?人乗せてないところをみるとそれは上手くいかなかったんでしょ?」


「はい、人を乗せると商品の管理も難しくなりますし、時間の制約も出ますので」


「あと何か問題点は?」


「先にこちらで商売をされているところとの軋轢がございます。」


「商品被らなければ大丈夫じゃない?向こうから持ってくるものこっちに無いんだし」


「そうですね、物件等を含めて調査いたします」


「宜しくね」



みなが唖然とするなかどんどん話が進んでいった。




「本日は誠にありがとうございました。どれも大変美味しくて美味しくて」


「なんかかえって気を遣わせてごめんね」


「何をおっしゃいますか。ぼっちゃんの料理が王都でも食べる事が出来るなんて夢のようです」


「新メニューの取り扱い決まったらまた知らせるよ」


「はい、楽しみにしております」


コソッ

(ぼっちゃん)

(何?)

(ヨルド様より伝言が)

(なんて?)

(エイブリック様が王都にいるならさっさと顔出せと。社交会までに来て頂きたいようです)

(わかった。次の1のつく日に行くよ)

(ではお伝えしておきます)



やっぱり行かなきゃダメか。




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