第322話 小熊亭での食事会その1

「おい、来てやったぞ」


一番乗りが鍛冶屋の親父だ。


「いらっしゃい、こっち来て」


厨房に案内して調理器具の数々を見せていく。


「これはどんな仕組みだ?」


ミンサーの説明をしたら興味をもったようだ。


チッチャがダンと一緒に実演をしていく。


「こうやって、肉の塊をミンチっていう潰した肉にしていくんだよ。これとかこれとかがそれを使った料理だよ。硬い肉とかでも食べやすくなるし」


「中に刃物が仕込まれてるのか」


「そうだよ」


「この先は何かを取り付けられるのか?」


ソーセージ用の口をつけてうにょにょと出して見せる。


「こうやって、羊の腸の中にミンチを詰める為の道具を取り付けるんだ」


「羊の腸に?なぜそんな事をするんだ?」


作った実物を見せる。


「こんな風に作ってから薫製にするんだよ。それを焼いて食べると美味しいよ。後で薫製にする前のを茹でて試食してもらうよ。あ、これさっきの試しで作ったんだけど金属で作れるかな?」


「なんだこれは?」


「餃子の皮を作るのに作ったんだけどね、そのうち欲しがる人が出てくるかもしれないんだよ。隙間を簡単に調節出来るようにしてくれれば麺とか作るのにも使えるし」


「麺?」


「今日は作ってないけどその内作ってみるよ」


「お前の話とこの道具と料理。まるで異世界から来たみたいだな」


ギクッ


「ディ、ディノスレイヤは王都と全く違うからね・・・」



慌てて誤魔化すと食堂が騒がしい。仕入れ先のおっちゃん達が来たようだ。ジロンも面識があるみたいで食堂で話をしている。


「そろそろ調理にかかるから食堂で酒でも飲んでて。チッチャ、おっちゃんを案内して、先に好きな酒飲んで貰ってて」


「なんでもいいの?」


「高級酒でも何でもいいよ。仕入れ先のおっちゃん達にもそう言って。料理が出来始めたらまた呼ぶから」


「鍛冶屋のおじちゃん、食堂に行こう」


「お、おおぅ」


鍛冶屋の親父も女の子には弱そうだな。まごまごしてやがる。



「ベント、他の料理もあるから焼き鳥は50本くらいでいいぞ」


「わかった」


シチューを温め直しつつ油の用意もしていく。ダンはせっせとポテサラ作りだ。



「お邪魔します」


「も、申し訳ありません、本日は休みでして・・・」


どっしりとした男性が小熊亭にやって来てセレナは店は休みだと伝えると、


「私はロドリゲス商会のドンキと申します。ゲイルぼっちゃんにお招き頂きまして伺いました。この度はリニューアルオープン誠におめでとうございます」


丁寧な挨拶をする大番頭。


「あ、あのそれはご丁寧にどうもありがとうございます」


こんな挨拶に慣れていないセレナとジロンはしどろもどろだった。


「ぼっちゃん、ロドリゲス商会の人が来たよ」


チッチャが俺を呼びに来てくれた。


「ダン、シチューと油も見といて、ちょっと皆に紹介してくるよ」



「ゲイルぼっちゃん、本日はお招き頂きましてありがとうございます。こちらはリニューアルオープンのお祝いでございます」


外からいつもの使用人がえっちらおっちらと大きな袋を持ってきた。


「気を使わせちゃって悪いね。これ何?」


ジロンが袋を受け取ってくれたので中身を見る


わっ!


「大番頭さん、こんなの貰ってもいいの?」


「はい、あともう1つは」


と差し出されたのは胡椒だった。


「ぼっちゃん、この重たい袋はなんだ?」


「それ、白砂糖だよ。めちゃくちゃ高いからこぼさないでね。厨房に運んでおいて」


それから皆に紹介をした。


ロドリゲス商会の大番頭はドンキ、使用人はキリと言うのか。


鍛冶屋はガンツ

肉屋はカルヴィン

八百屋はベジ

酒屋はポート


みんな初めて名前知ったな・・・


「じゃあみんな酒飲んでて、焼き鳥から出すから。そのあと試食メニューをどんどん出していくよ」



「へぇ、ロドリゲス商会って貴族街にあるのか。何扱ってんだ?」


食堂ではお互いに話を始めている。


「ほとんどがぼっちゃんが考え出したものでございます。王都に流通するものはその一部ですけれども。主に食に関するものが多いですね」


「どんなものだ?」


「例えば、薄力粉や片栗粉、蒸留酒等新しく生まれた材料や見たことが無い調理器具類、あとはこのようなライトなどもございますよ」


大番頭は懐中電灯を見せた。


「なんだいこいつは?」


大番頭はスイッチを入れて灯りをつけて見せた。


「元々あった灯りの魔道具なのですが、ぼっちゃんが使い方を考案されたと伺いました。防具に付けるタイプと手で持つタイプがございまして、冒険者が安全に洞窟などに入れるようにと・・・」


「はぁー、冒険者向けにこんなものまで考えてやがるのか」


「はい、ほとんどの物は平民や冒険者が豊かになるように考えられたものですが、あるご貴族様が大変気に入られて王都の貴族街に支店を出させて頂く事になったのです」


「平民や冒険者向け?」


「左様でございます。王都ではそのご貴族様のご意向もあり流通が制限されているものもございますが、ディノスレイヤ領ではそういった制限もございませんからお金さえあれば誰でも購入出来ます。蒸留酒がまさにそれですね」


「坊主がこの酒を考えたのか?」


鍛冶屋のガンツが大番頭の説明に驚く


「はい、実際に作っているところはぶちょー商会というのですが、珍しい物はほとんどぼっちゃんが考えたものです。特に食事関係は素晴らしく、ディノスレイヤ領に半年ほど前に出来たバルという店はほぼぼっちゃんの考案された料理が出されていると伺いまして、それが羨ましくて羨ましくて」


「そ、そんなに旨いのか?」


「それの一端が本日頂けると伺いまして喜んで参ったのです」


「さっき持ってきた胡椒は知ってるけど、白砂糖ってのはなんだ?」


「黒砂糖を精製して甘味だけを取り出した砂糖で貴族街でもあまり出回らない物です」


「ちなみにいくらするんだ?」


「相場により異なりますが、今ですと金貨2枚程です」


はーーーーっ?


「そ、そんな高ぇものを祝いに持ってきたってのか?」


「我が商会はぼっちゃんに返し切れない程の恩があるのです。たまたま使用人が贔屓にしてくれていた我々の商会を知り、商会長の跡継ぎのミスを救って下さったり導いて下さったりと・・・」


大番頭が話をしている途中にチッチャが料理を運んで来た。


「はい、まずは焼き鳥からね。どんどん出て来るからジロンにも手伝わせろーって言ってたよ」


「お、おう今行く」



ー厨房ー


「ベント、焼き鳥終わったなら向こうで食べて来いよ。後はやるから」


「いや、何か手伝うぞ」


「ベントは仕入れ先とこれからも付き合いがあるだろ?飯食いながらしゃべって来いよ。経営の事とか何に苦労してるかとか聞けると勉強になるぞ。ただいきなり聞くなよ。飯食って料理の話とか向こうが喋りたい事を聞いてからだからな」


「解った」


「ぼっちゃんはそうやっていつも客をあしらってんのか?」


あしらうとか人聞きの悪いこと言うなよ。


「会話の基本だよ。仲良くなる前にお前の商売何か苦しいこと無いか?とか聞かれてもなんだこいつ?って思うだろ」


「そりゃあな」


「はい、ハンバーグ持ってって、そこのソースもね」


「シマチョウは焼かねぇのか?」


「最後の方に焼くよ。ダンもその方が落ち着いて飲めるだろ?」


「そりゃそうだ」


「まず食事用のメニューを出すから。酒向けのは後にするよ」


そうしてくれとのことだった。



次はこれでその次は・・・


やっぱり俺は商売で料理屋をするのは無理だな。


一人慌ただしく料理を作ってつくづくそう思ったのだった。


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