第316話 リニューアルオープン2日目
翌朝早朝からガチャポンプを設置した。これで水汲みが楽になるだろう。
次に馬小屋の改修だ。昨日は焼き鳥を焼いただけだがここでも飲めるようにしよう。
コの字型に足湯を作っていき、その上にテーブルを設置。俺がいなくても使えるように土魔法で作った薪の釜とガチャポンプを設置だ。人手は必要になるが寒くても足が温ければ冬の外でも対応出来る。それにホットワインが出るかもしれないしな。
「ぼっちゃん、この寒い中何を作ってんだ?」
「足湯だよ。ちょっと試してみてよ」
ダンのズボンを捲らせて足湯の椅子に座らせてみる。
「どう?」
「こいつぁいいな。足だけでも身体があったまるぞ」
「ここはワインだけ出そうかと思ってるんだよ。ちょっとエールに偏り過ぎてるからね。夏になったらキンキンに冷やした白ワインとかも行けるけどどうかな?」
「いいんじゃねぇか」
ということで採用。足拭きには宿のタオルを使おう。
それから部屋に戻ってジョージとドワン宛に手紙を書く。炭酸強化エールを樽で開発してくれと。瓶より炭酸が抜けるのが早くなるだろうが毎日空き瓶が100本以上出るなら廃棄するにしろ回収するにしろ無駄が多すぎる。
朝飯にホットケーキとホットミルクを作る。朝から甘いもの補充だ。
セレナも一緒に食べ、チッチャは大喜びだ。
「お客さん、私にも何か手伝わせて貰えませんか?いてもたってもいられなくて・・・」
「じゃあレジと帳簿をお願い出来るかな?それなら座っててもいいし」
ということでセレナ参戦。
「ベント、昨日の売上、銀貨12枚と銅貨50枚くらいだ。これどう思う?」
セレナとチッチャは1日の食堂の売上がそんなにあった事に驚く。
「あんなに忙しくてそれだけしかないの?」
「酒込みの売上だからな。焼き鳥だけだとだいたい半分だ。ずっと仕込みしてきて当日あれだけ忙しくてやって銀貨6枚だ。稼ぐって大変だろ?」
「利益だともっと少ないんだよな?」
「そうだよ。場所代、炭代、鶏肉代、串代、タレ代、手伝ってくれた人達の給料払ったらお前に残るのは銀貨1枚ってところだな。これを毎日延々やって月にお前が手に出来るのは銀貨30枚だ。まぁ休みを入れて、客も半分くらいになったとして銀貨12~3枚がお前の給料だな。そこから住む所の家賃払って、飯食って、薪代とか色々払って生活していくんだ。言っとくけどこれだけ客が来てくれる保証は無いからな。屋台でやってたら5~60本売って、屋台代払ったらほとんど残らん。厳しいだろ?」
「う、うん・・・」
こういうのを体感して欲しかったんだよね。
「じゃ、仕込みとタレ作っておいてね」
「ゲイルはどこに行くんだ?」
「手紙を出して来るだけだからそんなに遅くならないよ。あとエールが10樽届くからお金払って置いて。銀貨8枚にまけてくれたから。ダンはチッチャと鶏肉の仕入れと俺達の食材買ってきて。支払いはちゃんと分けておいてね」
「俺達の飯は何買えばいいんだ?」
「ダンが食いたい物でいいよ。それ見て作るから。セレナさん、チッチャが戻って来たらタオルをたくさん用意して貰えるかな。小さいのでいいから」
午前中にやることは指示したから俺はロドリゲス商会へと向かった。
「こんちはー」
「ぼっちゃん、昨日は大盛況でしたなぁ。流石です」
「昨日来るかと思ってたのに」
「はい残念ながらエールが売り切れで間に合いませんでした」
「そうだったんだ。ごめんね。想像してたよりエールばっかり売れてね。今日から多めに仕入れたけどちょっと落ち着いてからのほうがいいかな。来てくれたら宿の部屋に案内するから。そこだと別メニューをごちそう出来るからね」
「昨日頂いた餃子と言うものとラー油というタレは大変美味しゅうございました。あれのレシピも販売されるので?」
「まぁ、領に帰ってからかな」
「ラー油はお売りになりませんかな?あれは売れると思うのですが」
「貴族があんなの食べる?」
「はい、きっと需要があると思います。物足りない料理に少し入れるだけで味がぐっと変わりますから」
全部の料理がラー油味になるぞ?
「じゃあ、壺で卸すから小分けするかそのまま売るかは任せるよ。どれくらいの値段が妥当かな?」
「はい、味噌の壺ぐらいですと銀貨10枚で卸して頂ければ」
は?そんな高いの?
「わかった。じゃそれで。いくついる?あれそんなに日持ちしないから。2ヶ月くらいは大丈夫だと思うけど」
「では10壺お願い致します。ちなみにヨルド様はご存じで?」
「いや、まだ言ってないよ」
「ではこちらからお伝えしておきます」
じゃあ明後日取りに来てとビール瓶の回収と共にお願いしておいた。
あんなに苦労した焼き鳥の売上よりラー油の方が稼ぐこの理不尽さよ・・・
宿に戻るとジロンが小熊亭の前でうろうろしていた。
「あ、ジロンさん」
「おぉ、良かった。誰もいないからどうしようかと思ってたんだ」
あれ?セレナとベントがいるはずなんだけど。
「取りあえず中に入って」
あたかも自分の店のように振る舞ってしまった。
「おーい、ベント?」
ベントは俺に気付かずせっせと仕込みをしている。
「おいベントってば」
「わっ!いつ帰って来たんだよ」
「今だけどさ、セレナさんは?」
「いや知らないぞ」
え?まさか倒れてんじゃないだろうな?
あわててセレナの部屋に行きドアをノックするも返事がない。
バンっとドアを開けると誰もいなかった。
気配を探ると庭に誰かいるからセレナかもしれない。
庭に行くとセレナがせっせとタオルを干していた。
「そんなに動いて大丈夫なの?」
「はい、頂いたお薬を飲めば身体が軽いので」
まるでドーピング薬だな。うっすらと金色だから強化されてんのか。魔法水に依存性はないけど精神的に依存されると困るな。これは濃度を落としていかなければ・・・
「ジロンさんが来てるんだけど。会う?」
「え?ジロンが?も、もちろんです。何もお礼出来てないので」
セレナを連れて食堂に待たせていたジロンの元へ。
「おぉーー、セレナ。もう動けるのか?」
「お客さんのお陰ですっかりよくなったのよ。ほらっ!」
腕をぐるんぐるん回して見せるセレナ。
「ずっと寝たきりと聞いてたから心配してたんだよ。ぜんぜん顔も見れないし、お前がバードンの後を追って逝っちまうんじゃないかと・・・」
ダーーーツ!と泣き出すジロン。
「心配かけてごめんなさいね。本当にもう大丈夫だから。あと私が寝込んでいる間いつも差し入れありがとう。お陰でチッチャも元気よ」
「大したことしてやれなくてすまん」
積もる話もありそうだし席を外そうとすると、
「あ、坊主。昨日の騒ぎはなんだったんだ?」
「昨日食堂のリニューアルオープンしたんだよ。予想以上にお客さんが来てくれてね。最後はエールが売り切れになって早くに閉めちゃったんだ」
「やっぱり噂になってたのは本当だったか」
「噂?」
「うちの屋台にも何人も売り切れで店が閉まってたとか言って買いに来た奴が居てな。それがどんどん噂になってんだよ」
「それで?」
「今日は早めに行くって何人も言ってたぞ」
これ、昨日より混むんじゃなかろうか?ヤバい・・・
「ジロンさん、もし良かったら今日と明日手伝ってくれないかな?屋台の売上見込んでる分支払うから」
「そんなに人手が足りねぇのか?」
「昨日でギリギリだったからそれ以上来たらどうしようもないかもしれない」
「昨日はどれくらい売れたんだ?」
「鐘二つ分の時間で焼き鳥300本とエール120杯」
「300本だとっ?」
「そう、200本が限界かなと思ってたんだけど限界突破しちゃったんだよね。今日は外でも販売するつもりだからもっと売れると思う」
「なんだよそれ・・・俺の5倍以上売れてるじゃねーか・・・」
「エール持ってきましたー」
酒屋がエールの樽を持って来てくれたようだ。ゲイルは「はいよっ」と返事をして中に運んで貰い、銀貨8枚を払う。
「こんなにエールを仕入れたのか?」
「これで3日分くらいだと思う。始まりの日が過ぎたらそこまで売れないとは思うんだけど。今日と明日はヤバいね」
「凄まじいな・・・。わかった手伝ってやるよ。何すればいい?」
「チッチャと注文取って、エールとか運んで欲しいんだ」
「俺は焼かなくていいのか?」
「この焼き鳥はうちの兄貴の修行兼ねていてね、今仕込みしてるから紹介するよ」
ジロンを厨房に連れていくとまったく気が付かないベントの姿があった。
「ごめん、今集中してるみたいだから後で紹介するよ」
「まだ子供なのにすげぇ・・・」
そこへダンが戻ってきた。
「戻ったぞ。お、客かと思ったらこの前のやつだよな?」
「ジロンさん、ダンだよ。いま仕入に行ってもらってたんだ」
二人はお互いに会釈をした。
「おじちゃーん、昨日凄かったんだよー」
「みたいだなー、凄いぞチッチャ。今日からおじさんも手伝うからな」
「ほんとー?やったー!」
「いいのか?自分の屋台はどうすんだ?」
「なぁに、屋台なんざ星の数ほどあるんだ。俺のところがちょっと休んだぐらいで影響はねぇ」
「そうか、なら助かるわ。ぼっちゃんが外でもやるとか言い出しやがるしよ。」
「ぼっちゃん?」
「ダンは俺の父さんの部下なんだ。だからそう呼ぶんだよ」
嘘ではない。
「そうか、なら俺も坊主じゃなくてぼっちゃんって呼ぶわ。なんせセレナを治してくれた恩人だからな」
「じゃあ私もそーする。宜しくねぼっちゃん」
もーどうでもええわ・・・
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