第317話 リニューアルオープン2日目その2
「昼飯にしようか。ダン何買ってきたんだ?」
ドンっと牛肉の塊をおくダン。
「ステーキが食いてぇ」
朝は甘いものだったからな。
「じゃあ付け合わせにポテトサラダ作るからダンはマヨネーズ作って。おやっさんのミキサーあるから簡単だろ?ステーキは炭焼きと鉄板のどっちだ?」
鉄板を希望するダン。
「セレナさん、肉焼いたやつ食べられそう?」
「大丈夫だと思います。」
「じゃあハンバーグにしようか?」
「私はハンバーグがいい!お母さんもそうしよう!」
「で、では私もハンバーグというのを・・」
「ジロンさんはどっちにする?」
「よくわかんねぇから普通に焼いたやつで」
「ベントは?」
「じゃあハンバーグ」
俺はステーキにしよう。
まずじゃがいもとニンジンを茹でておいて、玉ねぎをスライスして水にさらしておく。
「ぼっちゃん、仕入れじゃねぇからいいよな」
トンと胡椒を俺の前に置いた。俺も賛成だ。
ハンバーグも牛肉100%で作ろう。マヨを作り終わったダンにミンチにしてもらう。
刻んだ玉ねぎをかるく炒めて冷ましてからミンチに投入。塩胡椒をしてまぜて成型。1人2個だな。ドライトマトソースを作ってと。
ハンバーグとステーキ同時に焼くと失敗しそうなのでまずはハンバーグを焼く。
その間にポテサラを仕上げる。さらした玉ねぎと細かく切ったニンジン、マヨネーズを入れてまぜる。
焼けたハンバーグを皿に持ってトマトソース、ポテサラを盛り付け。ロールパン2個と共に運んでもらった。運んでもらうダンに先に食べててと伝える。
ステーキは厚目に切ってあるのでローストビーフのような焼き方で焼く。牛脂、バター、ニンニク、塩でソースを作ってと。
ステーキをひっくり返して蒸留酒で蒸し焼きをしたあと、熱した鉄板に牛脂を溶かして油ぎとぎとソースをかける。きっとダンはこういうのが食べたいのだろう。しゅわわわわ~っと周りを揚げたような仕上がりにした。
ポテサラ盛り付けてパンと共に運んだ。
「ぼっちゃん、このハンバーグとても美味しいです」
「おぉ、チッチャに一口貰ったがめちゃくちゃ旨いな」
「ジロンさんには特製ステーキだよ」
ダンはさっそく大きめに切って食べ出している。ジロンも肉を切ると真っ赤な中身が見えた
「ぼっちゃん、これ焼けてねぇぞ。失敗か?」
「焼けてるよ。いいから食べて。どうしても嫌なら硬くなるまで焼いてあげるから」
俺もダンも赤いまま食べてるのを見て恐る恐る口の中にいれた。
「うぉっ、なんて柔らかい肉だ・・・。それにこの油・・」
「おじちゃん、それ美味しい?」
「あぁ、ほら。」
ジロンはチッチャの口の中にステーキを一きれ放り込んだ。
「このお肉美味しいねぇ!」
セレナにも分けてあげるジロン。
「なんて柔らかいお肉。焼いた肉がこんなに美味しいなんて」
いつもの反応なので俺達はそのままステーキを食べきった。
一足先にエールの樽をダンに手伝って貰って土魔法で作った樽に入れ換える。4つあれば足りるだろ。
魔法で炭酸強化して準備完了。
外はセルフサービスにするか。
足湯の所にエールとワインの樽を設置。未使用タオルと使用済みタオルを入れる所を作って動線は網目状にしておく。これで滑って転ぶこともないだろう。詰めたら20人くらい座れるな。
ジロンが外に様子を見に来た。
「これはなんだ?」
「外でもいい人用の客席だよ。ここに湯を張って足を浸けて貰うんだ。寒い外の酒も楽しく飲めると思うよ。まぁこっちは俺がやるからまかせといて。その代わり中は宜しくね」
ガチャポンプで水を張っていく。これにも驚いていたが構ってる暇は無い。薪を入れて沸かしていく。ちゃんと使えるか試運転しておかないとな。
水が循環して湯になっていく。よし完璧。俺が居なくなっても使えるな。
「おい、もうやってるのか?」
「もう少し待ってて、まだ準備中」
「そうか、これはなんだ?」
「足湯って言ってね、足のお風呂だよ。外でも良いよって人にはここで飲んで貰うから。」
「面白そうだな。待ってる間に入っていいか?」
「いいよ、酒だけなら出せるけどどうする?」
「おう、じゃあ飲むぞ」
「今から焼き鳥の準備するから。こっちがエールのジョッキ。ワインはこっちのグラス。どれも銅貨5枚だから自分で入れてここにお金入れといて」
「おいおい、自分でやるのかよ?」
「ここはそうだよ。中は従業員がやるけど。外は俺1人だから手伝ってね」
「俺にやらせたら山盛り入れるぞ」
「いいけどこぼさないでね」
セルフサービスのデメリットとしてそれは覚悟の上だ。
焼き鳥と炭を取りに行く。
「ベント、もうお客さん入り始めたから焼き始めて」
焼き鳥台に炭を入れて詠唱するフリをしながら火を点けていく。
「坊主、お前魔法使えんのか?」
「攻撃魔法も使えるからズルしたらファイアボール撃つからね」
「そいつぁ、怖ぇな」
あっはっはっはと笑う客。足湯もエールも気に入ってくれたようだ。
「焼き鳥は何本食べる?」
「取りあえず3本くれ」
「あいよっ!」
3本焼き鳥台に乗せて焼いていく。
しゅわわわわっと焼け出す匂いに煙に釣られて見に来る人がいる。
「ここは持ち帰りも出来るのか?」
「今なら行けるけど、混んで来たら無理だよ」
「じゃ、5本くれ」
「あいよっ」
5本乗せる。
「中で食えるか?」
また次の客だ。
「もう行けると思うから入って」
初めの3本が焼き上がった。
「焼けたよー!」
「なんだよ、それも取りに行くのかよ」
「1串銅貨2枚だから6枚入れといてね」
「はい、焼き鳥5本、銅貨10枚ね」
酒だけ種類と出た数を記録していく。焼き鳥は売上から逆算していこう。
「おい、焼き鳥10本追加だ。エールも貰ってくぞ」
「銅貨25枚入れといてね。あとテーブルの上に辛い粉を置いてあるから辛いの好きならかけてね。かけすぎると辛くなり過ぎて食べられなくなるよ」
焼き鳥10本ね。ペース早ぇな。
「お、なんだこりゃ?昨日はこんなのなかったぞ」
「中でも外でも好きな方へどうぞ。外は足のお風呂に入りながら飲めるよ。酒も焼き鳥も自分で取りに来ないとダメだけどね」
「おーし、外で飲もうぜ」
二人はエールを自分で注いで足湯へ。焼き鳥は二人で10本。
中にもどんどん人が入り、こっちも混んできた。先にいる客同士が自慢するように勝手に説明してくれる。だんだんと焼くのと酒の勘定と記録するだけで良くなっていく。おせっかい野郎が多いのはこういう時に楽でいい。
初めの客が帰ろうとしたので蒸留酒を出す。いつもの説明をするとロックで飲んでみると言った。全員が注目する。
「なんだぁこいつぁ。こんなの初めて飲んだぜ。これいくらするんだ?」
「銅貨80枚だよ。これ常連カード。これ持ってれば倍の量入れるからね」
「80枚だとーー?」
「これでも安いんだよ。違う領なら銀貨4枚するからね」
「はぁーーーー?」
全員の声が揃った。
「帰る時は声かけてね。ここで高級酒出すから。その時は飲み方も言ってね」
だんだんと冷えて来たのでホットワインを焼き鳥の横にセットする。熱燗みたいなもんだ。
「それは何してんだ?」
「ホットワインだよ。寒くなってきてもこれを飲めば温まるよぉ」
「試してみるか。ワイン貰うぞ」
もう何も言わなくても勝手に注いでお金を払っていく。お釣りがいる人だけ俺がやった。待ってると計算が遅いのだ。俺の計算の早さにおーーっとか歓声があがるのには笑った。
始めにホットワインを飲んだ客がほっこりと幸せそうな顔をしたのでワインもどんどん出るようになってきた。
「おい、坊主来てやったぞ。ここで何やってるんだ?」
「足湯だよ。ここでも中でもいいよ」
「ふんっ、じゃあここでいい」
「おっ、鍛冶屋の親父じゃねーか」
1人の客が口の悪い親父と知り合いのようだ。ここのシステムまで説明してくれる。
「おっちゃん、今説明があった通りだよ。好きな酒いれてって」
「こいつは今日使えるんだな」
ぺらっと常連カードを出す
「いいけど、銅貨80枚だよ?」
「うるさいさっさと入れろ。あと焼き鳥10本だ」
銀貨1枚を俺に渡す。
いきなり蒸留酒を頼んだことでざわつく客達。
言われた通り蒸留酒を渡すと氷だけ入れろとのことなので氷を入れた。
焼き鳥の注文がバンバン入るので必死に焼いていく。
「ぼっちゃん、1人で大丈夫か?」
ダンが様子を見に来てくれる。
「エールがどれくらい残ってるか確認してくれる?少ないようなら交換しておいて。あと焼き鳥とタレも持ってきて」
エールの樽を持ち上げて確認するダン。そのまま持って行ったので残り少なかったようだ。
「ぼっちゃん、焼き鳥はここでいいか?」
片手でエールの樽を持ち、もう片手で大量の焼き鳥を俺の近くに置くダン。
「ありがとう。中はどう?」
「戦場だぜ」
ひっきりなしに客が入ってるからな。
「こっちは大丈夫だから。ベントが対応出来なさそうなら手伝ってやって」
あいよっと返事したダンが中へ戻っていく。
「おい、坊主、お前あの力持ちの男からぼっちゃんなんて呼ばれてんのか?」
「俺はいいところのボンボンだからね。悪いことしたらダンにやられるか俺のファイアボールが炸裂するよっ!」
「護衛付きの焼き鳥焼いてるボンボンか。おもしれぇな」
だーはっはっはっはと大きな声で笑う客達。誰も信用していない。
「焼き鳥焼けたよっ!」
次々に取りに来て金を入れていく。
「坊主、サービスの酒を先にくれ」
口の悪い親父に蒸留酒を入れてやる。
「お湯入れても美味しいけどどうする?」
そうしてくれと言われたのでお湯わりにしてやった。
もう注文聞いてから焼くとか無理になって来たのでバンバン焼いていった。
「坊主、明日また来る。明日もお前が外で焼くのか?」
「そのつもり。1日は店休みにするから」
おう、と返事したあとに、今日の焼き鳥の方が旨かったとぼそっと言って帰っていった。
暗くてよくわからないけど、足湯が汚れてそうだな。焼き鳥を焼くのをやめて足湯を入れ替えるフリをしにいく。
「おい、ぼっちゃん。ちょっと熱ぃぞ」
「すぐ冷めるよ!下町の人なんだからこれくらいがまんしなよっ」
「なんだよそれっ!」
下町の人は熱い湯が好きと勝手に決めつけて温度を上げたけどこの世界では違うようだ。お湯にクリーン魔法をかけてからガチャポンプで水を足しておいた。
日が暮れた後はかなり冷え込んで来たけど客は平気そうだ。俺は正面は熱いけど背中が寒いという状況だ。
注文も一段落ついたので足湯に入ってやる。キレイにしたとこだけどもう一度クリーン魔法をかけた。
「なんだよぼっちゃんも飲むつもりか?」
「休憩だよ、休憩。背中が冷たいんだよ」
「ならホットワイン飲めばいいじゃねぇか」
「ドワーフじゃあるまいし、俺まだ子供だぞ」
「おうそうか、お前ってガキの癖にガキじゃねえと思っちまうからよ。あとよく俺達と平気でしゃべってやがんな。恐くねぇのか?」
「俺と仲いい人みんなこんなだからね。慣れてるよ。酒飲みばっかだし」
「へぇっ、ぼっちゃんはここの住人じゃねえだろ?南の方か?」
「いや、王都に住んでないよ。ディノスレイヤから来てるんだ」
「おー、冒険者の街出身か。なるほどなぁ、そりゃ確かに俺達みたいな奴等に慣れてるってわけだ」
「そうそう、冒険者と職人が多いからね」
「いやぁ、お前みたいな奴がここへ来てくれてよかったわ」
うんうんとうなずく客たち。
「そう言ってくれると嬉しいよ。焼き鳥も酒も旨いだろ?」
「おう、驚いちまったぜ。潰れたと思った小熊亭が焼き鳥やってるとか聞いてよ」
「もう少ししたら、焼き鳥じゃないものも作るよ。どれも食べたことないものばかり出すからね。他の食堂にいけなくなるよ」
「どんなもの出す予定だ?」
唐揚げや餃子とか酒が進みそうな物を説明していかに飯と酒の相性が重要かを説明した。
じゅるっとヨダレを垂らしながら俺の話を聞く客達。
「い、いつから出す?」
「うーん、女将さんの体調が戻ってちゃんと作れるようになってからかな。だからまだ先だよ」
「あー、もうたまらん。焼き鳥を10本くれっ!」
他の客が他の料理の話を聞いてさらに酒が飲みたくなったらしい。
俺も温まったし再開するか。
その後も次々と注文が飛んで来て。最終的にエール2樽と赤ワイン1樽をゲイル1人で売り切ったのであった。
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