第314話 リニューアルオープン
「おっ!今日からやるのか?」
話し掛けて来たのはこの前勝手に入って来た人だ。
「間も無く開店だよ。高級酒1杯サービスだからお得だよ」
「いやぁ、楽しみに待ってたぜ。あの焼き鳥めちゃくちゃ旨かったからな。知り合いも呼んで来るわ」
これは順調な滑り出しの予感がする。
「ダン、ベントに炭の用意始めるように行ってきて。さっきのおっちゃん達の感じだとオープン時間早めないとダメそうな感じがする」
「そうだな。予定より早いが初日ならいいか」
俺が焼いてる焼き鳥もこれで終わりにしよう。ジュワワワッ
焼けた焼き鳥を自分で食べる。我ながら旨い。皮とかナンコツとかも食いたくなるけどベントが一人で仕込む事を考えると無理だしな。
焼けた炭を壺の中に入れて火を消していく。こうすると次にも使えるし経済的だ。
簡易屋台を片付け終わるとうんちくジジイが人を連れて戻って来た。
「坊主、連れて来たぞ」
「おい、ここ潰れかけてた宿屋じゃねーか」
無理矢理引っ張って来られたのであろう知り合い達がぶつぶつ言っている。
「うるせぇ、食ってから文句言いやがれ」
「ありがとう。本当に連れてきてくれたんだね。ちょっと予定より早いけど店開けるよ。」
6名様ご案内~
「いらっしゃいませ、どうぞこちらに」
チッチャが案内役だ。
「なんだ子供だけでやってやがんのか?」
まぁそんなとこだ。
「嬢ちゃん、人数分エールをくれ、焼き鳥は30本だ」
「はーい、エール6人前と焼き鳥30本だね」
「おい、いきなり30本も頼むのか?不味かったらどうすんだよ」
「お前らが食わないなら俺が全部食ってやるから心配すんな」
いきなり大量注文が入ってベントはバタバタし始めた。
エールを運ぶのはダンも手伝ってもらう。
「はいよ、エールだ。よそのよりシュワシュワが強いから一気に飲むとびっくりするぞ」
「エールなんざどこで飲んでも似たようなもんだろ」
ゴッと一気に飲むと、
カーーーッ
「なんだこいつはっ?」
「だから言ったろ。人の忠告は聞くもんだぜ。どこでも飲めるやつがいいなら取り替えてやるがどうする?」
「いや、こいつでいい、というかこいつがいい」
ゴッゴッゴッゴッと飲み干した。
「お代わりだ」
「はいよ」
一人がいきなりエールを飲み干したのを見て他の人も飲み始めた。
「旨ぇ、なんだこりゃ?」
ゴッゴッゴッゴッ
ゴッゴッゴッゴッ
「おい俺達もお代わりだっ!」
6人全員がエールをお代わりした。
「はい、エールと焼き鳥だ。残りの焼き鳥は後で持ってくるぞ」
ダンとチッチャが運んでいく。
なんだこいつはっ!旨ぇとの声が厨房まで聞こえてくる。
「ベント、次々焼いておいてくれ、このままだとどんどん注文入るぞ」
「いらっしゃーい。4名様ご案内~」
「嬢ちゃん、エール4つと焼き鳥20本だ」
匂いに釣られたさっきの人が人を連れて来てくれた。
ベントは必死に焼き鳥を焼いていく。
俺はうんちく親父の所へ行ってみる。
「おっちゃん、エールの味も違ったろ?」
「坊主、なんだこの焼き鳥とエールは?」
「企業秘密ってやつだよ。他で食ったことない味だろ?」
「あぁ、確かに。こんな旨いもんは初めてだ」
「しばらくは焼き鳥だけだけど、その内新メニューも出していくからね。全部新しい料理だから楽しみにしててね。あ、辛いのは好きかな?」
「辛いの?」
「そうそう。この少し甘い焼き鳥にかけるとエールがもっと旨くなるよ。試してみる?」
「わかった。やってみてくれ」
10本ほど残ってる焼き鳥に一味をさっさとかける。
「辛いから気を付けてね」
辛いものに慣れてない人には刺激が強い。
パクっと食べると
「なんだこいつは口の中が焼けたみたいに・・・」
慌ててゴッゴッとエールを飲む。
「こいつぁ無い方がいいぜ」
まぁ、辛いの苦手な人も多いしな。
「ったく、変なもん食わせやがって」
モグっ、ゴッゴッ
「せっかく旨い焼き鳥をよぉ」
モグっ、ゴッゴッ・・・
「なんだよこれ・・・?食うのと飲むのが・・・止めらっ」
モグモグ ゴッゴッゴッゴッ
「おい、焼き鳥5本とエールだっ!」
「皆は?」
俺達もだ!ということで焼き鳥30本とエールの追加注文が入った
他にもチッチャのお客さんご案内~という声が聞こえ始める。客が客を呼ぶとは言うがいきなり来すぎだろ?
「ベント、もうどんどん焼いていけ、注文聞いてからじゃ対応出来なくなるぞ。もし余っても俺達の飯にすればいいから。急いでも丁寧に焼けよ。慌てず急いでってやつだ」
「わかってるよっ!」
俺には目もくれずどんどん焼くベント。
俺はサービスの蒸留酒を用意していく。氷と水、お湯も準備だ。
「はい、サービスの高級酒ね。じっくり味わうならこのままか氷だけ入れて。すっごく酒精が強いから絶対一気に飲んじゃダメだよ。強い酒精がダメなら水かお湯で薄めるよ」
「高級酒ってもこれっぽっちなのか?」
「これはこれくらいで飲む酒なんだよ。試しに一口舐めてみて」
全員がかーーーーっとか叫ぶ
「なんだこれは?」
「蒸留酒って言ってね、特別に作られてる酒なんだよ。まず庶民街だとここでしか飲めないから。どうする?薄める?」
「いや、そう言われちゃ薄めるのはもったいない気がするな。ちなみにこれ金払ったらいくらだ?」
「これで銅貨80枚だよ」
「えーーーーーーっ!」
「だから高級酒って言ったじゃん。これでもかなり安くしてあるんだからね」
「これっぽっちの酒で銅貨80枚ってぼったくりだろ?」
「この酒、東の辺境伯領だと1杯銀貨4枚くらいするらしいよ。しかも貴族街でしか飲めないんだってさ」
「1杯銀貨4枚だと?」
「まぁ、王都から離れてるから高くなるんだろうけどね、俺も酒1杯で銅貨80枚って高いと思うから勧めたりしないよ。でもこんなのがあるよーって知って貰いたかったからサービスで出してみたんだ」
「こんなものタダで出したら俺達が食った焼き鳥やエールの売上なんて飛んじまうだろが」
「リニューアルオープンの3日間は宣伝だからいいんだよ。旨いと思ってくれたらまた来てくれるだろ?」
「それなら半額とかでやっても良かったんじゃねーか?」
「通常商品を割引で売ったら次に来た時に高く感じるじゃん。それだとなんか損した気分になるでしょ?だからそれはやらない。味に割引はしないんだ。その代わりうちにしか出来ないサービスをやる。高くても気に入って高級酒飲んでくれる人が出てくるかもしれないしね」
「あーはっはっはっ。坊主はちっこい癖にすげぇな。気に入ったぜ、ちょくちょく来てやるからまた面白いもん考えとけよ」
「びっくりするようなもの用意して待ってるよ。で、その酒どうする?そのままでいい?それとも薄める?」
「せっかくだからこのまま味わうわ」
全員がストレートをゆっくりと味わって飲んでいた。
常連向けに何かポイントカードみたいな物を作ってもいいな。よしっ
厨房に戻って蒸留酒W銅貨80枚と書いた土魔法のカードを作る。使うこと無いかも知れないけど常連のステータスとしていいかもしれない。ボトルキープとかもいいな。
「おい、坊主。また来るぞ」
「ありがとう。おっちゃん達はここら辺に住んでるんだよね?」
ああと返事したのでカードを渡す。
「使わないかもしれないけど、これ持って来てくれたら同じ値段で蒸留酒を倍入れるね」
「へぇ、割引はしないんじゃねえのか?」
「常連になってくれる人は別だよ。それにあんな高い酒飲まないだろ?まぁ記念品だと思ってくれたらいいよ」
「記念品か、まぁ貰っといてやるよ」
初めての客を見送ると匂いで釣られた客からサービスの高級酒をくれと言われたので持っていく。
「さっきの聞こえてた話は本当か?」
「こんな事で嘘言っても意味ないでしょ?今日はサービスなんだし」
「そりゃそうだな」
「で、薄める?それともそのままでいい?」
味見をしてかーーーーっとなる客。
「氷だけ貰うわ」
氷と水を用意して渡しておいた。
自然と焼き鳥とエールを堪能した後で蒸留酒を飲むような流れになり、それを飲んだら皆帰っていく。今日来た客にはカードを渡して行った。
「おう坊主、銅貨11枚持って来てやったぞ」
「お、いらっしゃい。追加注文は聞かないからね。エールと焼き鳥3本でいい?」
当たり前だと言われたので俺が直接対応する。
「はい、お待たせ。エールと焼き鳥ね。銅貨11枚だよ。追加受けないから先払いね」
ちゃらっと出された銅貨11枚を徴収する。
「生意気な坊主だ。これで不味かったら笑いもんだぞ」
「とっとと食べて席空けてよね、たくさんお客さん来てるんだから」
そういって微笑んでやるとふふんと笑い返してきた。
モグっ・・・ モグモグモグモグ
ゴッ ゴッゴッゴッゴッ
「う、旨ぇじゃねーか・・・」
「追加注文は明日なら受けるよ」
「くそっ」
モグモグ モグモグ ゴッゴッゴッゴッ
一気に食べてエールを飲み干す
「あ、明日は店の焼き鳥全部焼いておけっ!」
「ちょっと、まだサービスの高級酒あるから待ってて」
席を立とうとする口の悪い客を座らせる。
「いい!?絶対これは一気に飲まないでね。酒精がすっごく強いから。これは子供からのお願いだと思って」
飲むなというと飲みそうだからお願いにしておく。
「はんっ、何を大袈裟な。強い酒ったって知れてるだろが」
と言いつつも少しだけにしてくれた。
「ぐっ、なんだこいつは?」
「蒸留酒って言ってね、特別に作られた酒なんだよ。氷か水かお湯入れる?」
「いや、このままでいい」
そういってクッと飲み干したあとじっとグラスを見つめている。
「坊主、明日また同じ時間に来る」
「じゃあこれ」
「なんだこれは?」
「常連向けの記念品。さっきの酒の倍が同じ値段で飲めるよ」
「はぁ?あの酒があれっぽっちで銅貨80枚もすんのか?」
「そうだよ。明日来て来れるならまたサービスで出すから」
とんだぼったくり価格つけやがってとか言いながらカードはしっかり受け取って行った。
「ぼっちゃん、なんだありゃ?」
「口は悪いけどいい人なんじゃないかな?また明日も来てくれるって」
「ふーん、まぁ暴れたりもしねぇしな」
それからも次々と人がやって来てくれたのだった。
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