第311話 身体強化は使える

朝ごはんも食べられたセレナの様子を見に行くことに。


コンコンっ


ノックをするとどうぞと言われたので中に入る。


「具合はどう?」


「お陰様でこうして身体を起こすことが出来るようになりました」


「思ってたより回復が早くて良かったよ。お昼ご飯は少し固形物を入れてみるけど食べられそうかな?」


「はい、食欲もほとんど無かったのが、頂いたスープが美味しくて」


「薄味にしてあるけど味がわかるなら大丈夫だね。あと少し試したいことがあるんだけどいいかな?」


「どういったものでしょうか?」


「いや効くかどうかわからないんだけど、魔法をかけようかと思って。効き目無くても害はないから安心して」


「魔法ですか?」


「そう。俺は魔法が使えるんだよ。お風呂入ってなくても身体がスッキリしてるでしょ?」


「あ、これもそうなのですか。お布団も洗って干したみたいで、身体も拭いたみたいにキレイに・・・」


「クリーン魔法とか洗浄魔法とか呼ばれてるやつでね。冒険者が遠征に行ってて身体とか服が汚れた時に使う魔法なんだ」


「そのような魔法があるのですか・・・ お客さんはまだ小さくてらっしゃるのに魔法が使えるなんて」


「まぁ細かい事は気にしないで。あと診察を兼ねてよく見てみたいんだけど、見られる人はなんかとっても恥ずかしいらしいんだ。それでも良かったら診るけどどうする?」


「恥ずかしい?ですか?」


「そう、そんなつもりはないんだけど、エッチとかスケベとか言われちゃうんだよ」


「こんな身体の女を見ても何もありませんわ。それにお客さんはまだ子供でらっしゃるのにそんな誤解は致しません」


「そう、なら診るね」


「あ、あの・・・」


「あ、やっぱり嫌かな?」


「い、いえ、お恥ずかしながらお金が・・・」


「お金は取らないよ。うちの兄貴がここで修行させて貰うお礼だと思って。屋台でやろうと思ってたんだけど借りられなくて困ってたんだよね。店の立て直しまで勉強させて貰うからちょうど良かったよ」


「立て直し・・・?」


「申し訳ないけどセレスさんが寝ている間に宿の帳簿を見せてもらったんだ。借金返済も滞納になってるから立て直し出来るかどうか分からないけど」


「なんとお恥ずかしい・・・」


「ご主人が亡くなってからずっと無理してたんでしょ。間に合って良かったよ。まぁなんとかして見せるよ」


そう言うとポロポロと泣くセレナ。一人でずっと重いものをしょいこんでいたのだろう。


そして診るとキャッと言われた。


【名前】セレナ

【年齢】28歳

【状態】軽い栄養失調

【魔力】510/511


よしかなり回復している。後は栄養が効率的に吸収されてくれれば治るな。


試しに身体強化魔法を掛けるとセレナの身体が金色に包まれていく。



「どうかな?力が漲ってくる感じはする?」


「は、はい、身体がとても軽い・・・です」


手をニギニギしたり、腕を動かすセレナ。


ぐぅぅぅぅ~


「やだ、私ったら・・・」


やっぱり身体強化魔法は内臓まで強化してくれるみたいだ。魔法水に身体強化もブレンドしておこう。


「良かった。うまく魔法が効いたみたいだよ。いまご飯作ってくるから少し待ってて」


「あの、魔法って詠唱が必要とかではないのですか・・・?」


「あ、うん。これは内緒ね」


そう言って部屋を出た。



お昼ご飯は甘いパンがゆだ。


牛乳に卵黄とハチミツを入れてよく混ぜる。キレイにまざったら少々の塩とパンを一口サイズに切ってことこと煮込んで完成。


少し冷ましてからもう一度部屋に持って行く。


「お待たせ。これが食べられたら晩御飯にはお肉も入れていくから」


チッチャが食べさせようとするとセレナは自分で食べられるとニッコリ微笑んだ。


「とっても美味しい・・・。甘いスープなんて初めて食べました。お客さん、とっても美味しいです」


ようやくセレナの顔に笑顔が出た。やっぱり甘いものは正義だな。


チッチャもセレナから一口貰ってほっぺたを押さえる。薄力粉が届いてるから何かお菓子を作ってやらないとな。


「チッチャ、気に入ったら作り方を教えてやるから。お母さんが食べ終わったら昼飯食べにおいで」


うんっと返事をしたチッチャだった。


昼飯は唐揚げにした。


美味しーとまたほっぺたを押さえるチッチャ。


「ベント、仕入れた物が届くから受け取っておいて。お金は払ってあるから」


「またどっかに行くのか?」


「うん、もう少し調べるよ」


冷蔵庫に入っている焼き鳥を冷凍してから冷凍室に移しておく。ベントはもくもくと作ってるみたいだな。こいつジグソーパズルとかじーっと集中してやるの向いてるんだろな。今度作ってやろうかな。



ー王都の大通りー


「ここだね」


紹介された金の宿に到着した。


「ダン、まだ食べられる?」


食えるぞってことなので食堂に行き、ダンは昼飯、俺はおやつとお茶を頼む。王都では紅茶が普通に出回り出しているようだ。


昼飯はありふれたスープと豚肉を塩味で炒めたもの、硬いパンで銅貨15枚。俺のはボソボソしたあまり甘くないクッキーみたいなもの2枚と紅茶で銅貨10枚。庶民街としてはやや高級というか外の人向けの料金なのだろう。


給仕の女の子に声をかける。


「追加のご注文ですか?」


「いや、ここは泊まったらいくらぐらいなのかなぁって」


「一部屋銀貨3枚で一人増える毎に銀貨1枚必要です。身体をふくお湯とタオルはお付けしますよ。お泊まりもご希望ですか?」


「あ、ごめん。今度来たときの参考に聞いただけなんだ。この時期に部屋は空いてるの?」


「はい、この辺りではうちが一番大きな宿屋なので部屋がたくさんあるんですよ。馬車もお預かり出来ますよ」


食堂も100人は入れそうだしな。


「ありがとう。手を止めちゃってごめんね」


ダンは銅板2枚と銅貨10枚を渡した。


「お客さん、多いですよ」


「残りは取っといてくれ。手を止めた駄賃だ」


満面の笑顔でありがとうございますとお礼を言われた。ダンはチップを懐にいれやすいように銅板と銅貨に分けたのか。相変わらず気の効くやつだ。チップの金額も多すぎないから怪しまれる事もない。子供の小遣い程度の金額だ。



「ダン、普通だったね。ぼったくり宿かもしれないと思ってたんだけど」


「そうだな。客も多いし、支払いで揉めてる様子もねぇ」


「ここを紹介した男もちょっと高いと断りを入れてたし、大きな宿屋だから部屋も空いてた。やっぱり親切で言ってくれたのかな?」


「今の所そうとしか思えねぇなぁ」


親切だとするとなぜ治安が悪いと言ったんだろう?寂れているのは確かだけど、スラム街みたいな感じでもないし・・・


考えてもわからないのでしばらく小熊亭に入る道を遠くから見る事にした。



「時々がらの悪そうな奴が通りの入り口でうろうろしやがるな」


「そうだね。何かするわけでもないけど何してんだろ?」


怪しげな男は路地裏に入ったり、入り口まで来たりと謎の動きをしていた。


気配を消してその路地裏まで付けていくと、途中まで行って引き返してくるだけだ。何もしていない。


「何もしてないね」


「そうだな。本当にうろついては消えていくだけだな」


そのまましばらく尾行を続けるとキョロキョロしてからどこかの店の裏口へと入っていった。


その店の表に回って名前を確認する


ゴーア商会?


そこそこ大きい商会だが物販をしている様子は無い。



「なんの商売してるんだろね?」


「入ってみねぇとわからんが、目的もなく入ると疑われるかもわからんな。しばらくは様子見だな」


特に収穫を得られるわけでも無く、空振りに終わり、小熊亭に戻ると酒と油が届いていた。



「ずいぶんと買ったんだな」


「お客さんが増えたら使うからね」


「なんか作るのか?」


「ラー油ってのを作るんだよ」


「ラー油?」


「ダン、手伝って」


唐辛子を細かく刻んでいって土魔法ですり鉢を作る。


「はい、これを細かく擂り潰して」


ごりごりとダンが唐辛子を擂り潰していく


「ぼっちゃん、目が痛ぇぞこれ」


「だからダンにやって貰ってるんだよ」


ったくとかぶつぶつ言いながらダンは鼻水をたらしながらやってくれた。可哀想なのでクリーン魔法を掛けてやる。


「どうすんだこれ?」


鍋に菜種油を入れて、丸の唐辛子、ネギと生姜をゆっくりと煮ていく。その間にダンがやってくれた唐辛子に少し水を入れて馴染ませておく。次にネギが焦げてきたらざるで濾して油だけに。今度はニンニクを刻んだ物をまたゆっくり煮ていく。焦げだしたらこれも濾す。ここから油の温度を上げてと、熱々油を唐辛子に投入。シュワワワッと激しい音を立てる油と唐辛子。めっちゃ目が痛いっ!自分でクリーン魔法を掛けながら油と唐辛子をぐるぐるまぜる。


ゴホッゴホッ


「ゲイル、なんだこれはっ」


ベントが死にかけてるので厨房全体にクリーン魔法を掛けた。


「ごめんごめん、予想より酷いね。次からは外でやるよ」


ほどよく温度が下がった所にゴマ油をブレンドして、取り出したニンニクを加えて完成。後は2~3日置いて味が馴染むのを待つだけ。出来たラー油を壺に入れて蓋を閉めた。


「しばらくおいておくと味が馴染んで調味油として使えるから。ダンとか好きだと思うよ」


「なんだ、今試さねぇのか?」


「じゃあ少しだけね」


パンを薄く切ってカリっと焼く。そこにかき混ぜたラー油を塩で味付けしたものを乗せてやった。


一口でパクンと食べるダン。


「お、旨ぇぞ」


ベントは真っ赤な油を見ていらないといった。油だけだとそこまで辛くないんだけどね。


晩御飯は鶏肉のミンチと野菜のスープ味噌汁仕立てだ。生姜も入れたので身体が暖まるだろう。


俺達も同じメニューにしたのでチッチャはセレナと一緒に食べるらしい。


「チッチャ、店の裏って何があるんだ?」


ご飯を食べ終えて戻ってきたチッチャに聞いてみる。


「お庭があるよ。洗濯物とか干してるんだ」


いい加減風呂に入りたいので庭を見せてもらう。


なにこれ?宿と同じくらいのスペースがあるじゃないか


「ずいぶんと広いね」


「お父さんが死ぬ前にもっと宿を大きくするんだって言ってた」


増築スペースまであったのか。なかなかお買い得な物件だったんだな。それで無理して買ったのかもしれない。


「ここ使っていいかな?」


「何するの?」


「お風呂を作るんだよ。チッチャはお風呂入ったことある?」


「無いよ」


「じゃあ、男湯と女湯を作ってあげるよ」


うんしょっとお風呂を作る。ちゃんと屋根付だけど見た目は公園の便所みたいだな・・・


「お母さんは歩けそうかな?」


「立ち上がれそうだけど、まだ歩けないかもしれない」


「じゃあダンに連れて来て貰おう。チッチャ、ダンにお母さん連れて来て貰って。あとタオルとかも持って来るんだよ」


はーいと小走りに走って行った。


その間にお湯を貯めていく。



「あ、あのあの、歩けますから」


「フラフラだったじゃねーか」


ダンはセレナをお姫様抱っこしてきた。セレナの顔は真っ赤っかだ。


ダンは風呂の中にランタンをセットして準備をする。


「ゆっくり浸かっててくれ。出る時はまた呼んでくれ。チッチャ、もしお母さんが倒れたり気分が悪くなるようなら遠慮なく呼べ」


「わかった。ありがとうダンおじちゃん」


おじちゃんと呼ばれたダンは渋い顔をしていた。まぁチッチャからみたらおじちゃんだわな。



「これはいつの間に・・・」


「女将さん、ぼっちゃんがすることに疑問を持ったらやってられねぇぞ。こういうもんだと思ってくれ」


「ぼっちゃん・・・?」


「あぁ、ダンは俺の事をそう呼ぶんだ。気にしないで。お湯は少しぬるめにしてあるから。気にしないでゆっくり入ってて。俺も隣で浸かってるから温度調節も出来るからね」


俺とベントは先に入りダンと交代することにした。小熊亭は今日まで閉めてある。いま来られてもどうしようもないからな。



「うわぁ、お風呂ってこんなに気持ちがいいんだねぇ」


「本当に気持ちがいいわねぇ」


きゃっきゃはしゃぐチッチャの声が丸聞こえだ。


「ベント、なに赤くなってんだ?」


「う、うるさいっ!」


まぁ、同じ歳の女の子が隣で風呂入ってんだ。顔くらい赤くなっても仕方がない。



十分暖まったので服にクリーン魔法を掛けて着る。


ベントにもクリーン魔法と温風を掛けて乾かしてやった。


「あー、お客さんもう出てたの?」


「お母さんは大丈夫?」


「中で着替えて座ってるよ」


「そっか、ベント、ダンを呼んで来てくれ。チッチャ、目を瞑って」


素直に目を閉じるチッチャの髪の毛を温風で乾かしていく。服にもクリーン魔法を掛けてやる。


「凄いすごーい。髪の毛が乾いちゃった」


「濡れたままだと風邪ひくからね」


「風邪?」


やっぱり風邪とか引かないのか?言葉自体も知らないみたいだ。



「チッチャ、女将さんは服着てんだな?」


「着替え終わってるよ」


ダンは念の為確認して、風呂に迎えに行くときも入るぞっと声かけしていた。ラッキースケベは回避するらしい。


お姫様抱っこされているセレナの髪の毛を乾かしてやる。


「何から何までありがとうございます」


「いいからいいから。身体が暖まってる間に布団に入って」


ダンはセレナをまた部屋まで連れて行った。その間に女湯を捨て、男湯を入れ換えておいた。



「お疲れダン。お湯入れ換えてあるから」


うーっすと返事しながらダンは風呂に入っていった。



「ベント、色々調査したことを報告するのとお勉強するぞ」


チッチャはセレナと一緒に寝てしまったのか戻って来なかったのでベントだけに色々と教え、これからどうしていくかを説明した。


ダンは炭酸を強化したエールを飲んで、はぁーっとくつろいでいた。


いよいよ明日から食堂のリニューアルオープンだ。お客さんがちゃんと来るといいな。


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