第309話 宿屋の立て直し
「取りあえず色々買って来たぞ」
「いい仕入れ先あった?」
「普通だな。ミートみたいな肉屋はねぇし、野菜も冬だからあんまりねぇぞ。ぼっちゃんの方はどうだ?」
「粉関係と炭酸強化エール、調理器具一式とガチャポンプ、あと蒸留酒を樽で頼んで来た。パン種も貰ってきたよ」
「蒸留酒をここで出すのか?」
「試しに置いてみて売れそうならね。無理なら仕入れにはいれずにダンが買った事にすればいいんじゃん」
割高で買うのかよとか文句を言うダン。金持ってんだからケチケチするな。今まで樽以上ただで飲んでんだろ。
「あのお客さん、今から何をするんですか?」
「まず借金をなんとかしないとダメだからね。俺とダンが10日泊まる分を先払いしてあげるからこれで2ヶ月分払える。その間に売上を上げて宿を立て直すよ」
???
「お客さんを増やす方法を考えるってことだよ」
「お客さん増えるの?」
「そうなるように考えるんだよ。2ヶ月あればお母さんも働けるようになってると思うからね。」
そう言うとぱぁっと顔が明るくなるチッチャ
「ぼっちゃん、やっぱりここは借金があるのか?」
「あったよ。ベント、帳簿を見て何か気付いたか?」
「売上が減ってる」
「なぜ減ってると思う?」
「客が来ないから」
「対策は?」
「お客さんを増やす」
「どうやって?」
「頑張る」
「何を?」
「・・・・・」
まあ、こんなもんか。
俺は帳簿を見ながらベントに今までの状況と売上が減った原因、資金繰りの問題を説明していく。
「帳簿を見ただけでそんな事が分かるのか?」
「そうだね、後は母親から詳しく話を聞かないとダメだけど、チッチャから聞いた話だとまあ間違いないよ。さっき借金取りが来てたし」
「どんな感じだ?」
「悪い感じはしないけど、5ヶ月滞納して支払いの目処も立たないから来月滞納したら宿の差押えか借金を他の商会へ売るって言ってたよ」
「他の商会に売られるのは不味いな。それなら差押えの方がマシだ」
「ダン、どういう意味だ?」
ベントはこういう事をまだ知らない。
「他の商会が金貸した権利を買う時は大抵悪い条件にされる。例えば宿を差押えた上に借金が減らないとかだな。差押えだけならこの宿を諦めりゃ済むがな」
「どうしてだ?」
「借金を払わない方が悪いってやつさ。向こうも払えないのが分かってて残りを払えと言う。当然払えないから母親もチッチャも娼館に売られたり、男なら鉱山に売られたりとかだな」
ダンは淡々と答える。
「ベント、借りた金は返さなきゃいけねぇ。返せる当ても無いのに金を借りたりするとこうなるんだ。金は空から降ってくるわけじゃねぇからな」
ダンはベントに現実を教える。
「ベント、そうならないようにするには頑張るだけじゃダメなんだ。チッチャとお母さんも頑張ってただろうからね」
「じゃあどうすればいいんだよ」
「今回は父親が亡くなるという不幸があった時の対処の仕方を間違えたんだ。そこで宿を売って精算していたら住み込みとかでやり直せた。だけど父親の残した宿を守りたいという気持ちで頑張ったけど無理だったということだ。帳簿を見る限り料理が原因だね」
ベントに宿の売上の推移と食堂の売上の推移を説明していく。
「食堂の売上が減った後に宿屋の売上が減っていってるだろ?あそこは料金も高いし飯もいまいちって評判が広がって行ったんだと思う」
それ以上に宿の客が減ってるのは嫌がらせが原因だろうな。
「ダン、ちょっと周りの店とか宿が場所を明け渡すようにされてないか調べてくれないか?」
「なんかあるのか?」
「この宿って嫌がらせされてるとチッチャが言ってたろ?ここだけの問題なのかこの辺り一帯の問題かで対処方法が変わるからね」
「なんかよくわからんが調べりゃいいんだな?」
「お願い。俺とベントは問題の料理をなんとかするよ」
ダンと俺達は手分けしてそれぞれの事をやることに。
「ゲイル、ダンに指示したのはどういうことだ?」
「この宿は意図的に客を減らされてるんだ。チッチャが嫌がらせされてると言ってたし、この時期は他の宿はどこもいっぱいなのに俺達以外誰も泊まってないのは不自然だろ?」
「それで」
「ここだけが何かの理由でそうされてるならその原因を取り除けばいいけど、この辺り一帯が狙われてるなら大掛かりな動きがあるからね。」
「この辺り一帯が?なんで?」
「王都って空いてる物件がほとんどないだろ?この辺を再開発して新しい商店街とかにするつもりなのかもしれない。門の近くは結構いい場所なんだよ。宿屋をするには客を取りやすいし」
「どうやって対処するんだ?」
「それは内容次第だね。すべて合法にされてたら手の打ちようが無いけど、強引にやってたら付け入る隙はあるんじゃないかな。まぁそれはダンの調査待ちだ。俺達はまずここを飯の旨い宿にすることを考えよう。飯がいまいちで客が減ったなら、飯が旨いとなったらまた客が増えるだろ?」
「わかった」
取りあえず晩飯の用意をする。ベントには焼き鳥の仕込みをさせていき、それを俺が冷凍していった。
魔導冷蔵庫は冷凍室も完備された業務用だが魔石残量が0になっていたので魔力を補充してやる。これはサービスだ。
ベントが仕込んでいる間に晩御飯作り。母親用のスープと俺達の飯だ。貰って来たパン種を使ってパンも作っていく。
玉ねぎを刻んで肉もミンチに・・・
包丁でミンチ作るの面倒臭いな。
チッチャには母親の面倒を見てこいと言ってあるので一人でせっせと作る。一度食べさせてから教える方がいいだろう。
ペンペンペンとハンバーグの形を整えて準備完了。母親用のスープも具が全部溶けたので火から鍋をおろした。
そのスープを持って母親の部屋を訪ねる。
コンコンっ
「はいどうぞー」
「チッチャ、お母さんの様子はどう?」
「お客さん、なにもかも申し訳ありません」
だいぶ話せるようになってるな。昨日と大違いだ。
「これ晩御飯だよ。明日の朝も食べられるようなら少しずつ固形物を入れていくから」
ポロポロと泣き出すセレナ。
「こ、こんなに迷惑を・・・」
「体調が悪い時はお互い様だよ。身体をちゃんと治す事が先決だよ。痛い所はない?」
「はい、頂いたお水を飲む度に元気が出て来てます。あれは高価なお薬なのでは・・・」
「それも気にしないで。さ、冷めすぎないようにスープ食べて」
チッチャにゆっくりと食べさせてねと言って、二人にクリーン魔法をかけてから部屋を出た。
これは思ったより回復が早くなるかもしれないな。スペシャルブレンドの魔法水は薬として使えるなと自画自賛で納得していた。
厨房に戻ってドライトマトからソース作ろうとするが上手くいかない。宿屋で出すには原価を抑えないといけないから香辛料もあまり使えないし・・・
潔くいつものトマトソースは諦める。ドライトマトを細かく切ってオリーブオイルとニンニク、塩で味付けをしていく。これをグツグツして完成だ。
「腹減ったぞー」
ダンが帰って来た。話は飯を食ってからにしよう。
さてパンも焼けたし、ハンバーグを焼いていこう。差し水して蓋閉めてっと。
ベントに出来たパンとハンバーグの特製ソース掛けを一緒に食堂に運んで貰う。
チッチャも既に座っていた。
「わぁ、何これー?」
「ハンバーグって料理だよ」
「ぼっちゃん、いつものと味が違うがこれも旨ぇ。胡椒はねぇのか?」
「宿の料理を想定して作ったからね。胡椒を入れると高くなるから入れてないよ」
「そりゃ残念だな」
「これすっごく美味しい!こんなの初めて食べたよ。あとこれはパンなの?信じられなーい」
チッチャは子供らしい反応で料理を喜んで食べる。見ていて微笑ましい。
「ぼっちゃん、調査結果だけどよ、どこも店売れって言われてるみてぇだったぜ。どんどん客が減ってるみてぇだな」
「嫌がらせは?」
「ハッキリとしたのはねぇみたいだが王都在住じゃない客が減ってるらしい。この両隣も含めて何軒か年が明けたら店を手放すらしいぞ」
冬の間は観光客含めて外の人間が減る。門近くはそういう人達をターゲットにしているからな。潮時ってやつか。
さて、どこの商会が動いてるのか・・・?辺り一帯を地上げするようなところだからそこそこ大きい商会なんだろうな。
どんどん面倒臭くなっていくイベント。達成報酬はなんだろうなぁ?
ドライトマトのアヒージョもどきソースは結構ハンバーグにあっていて旨かった。
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