第308話 イベントの難易度が上がる

ベントにサラ宛の手紙を書かせた。学校が始まるまで寮には戻らないと。俺はドワーフのジョージ宛に炭酸強化のエールの発注とドワンに調理器具一式とガチャポンプを手配だ。


「チッチャ、今まで仕入れってどこでしてたんだ?」


「え?仕入れ?」


ん?


「ここで出す料理の仕入れだよ」


「お母さんに聞かないと・・・」


え?


「お母さんが倒れてからどうしてたんだ?」


「知り合いの人が持って来てくれたの」


「支払いは?」


「え、いつもいいからいいからって」


「誰が持ってきてくれてんだ?」


「お父さんの友達・・・」


なんだそれ?


チッチャに帳簿を探して持ってきて貰うことに。



帳簿を見ると母親が倒れるまでキチンと記載されてるな。支払い先を見て細々と支払いをしてるやつは食材の仕入れかな?明細が無いからよくわからない。


毎月5日に銀貨20枚の支払い。これはたぶん宿屋を建てる時の借金の支払いか。商売の支払いとしてはそこまで大きくないが今の売り上げだと払えないな。

帳簿は9月から記載がない。借金の支払いはどうなってるんだ?契約書がないから払い終わったのか滞納してるのか・・・ 十中八九滞納だろうけど。


売上は宿の売上が月平均銀貨30枚程度。それが徐々に下がって母親が倒れてからは酷い。食堂も父親が死んでからどんどん下がって今年は母親が倒れる前もあまりないな。料理は母親もダメだったみたいだ。借金払ったら利益はほとんど残ってない。王都でよくこの利益で生活出来てたな。


これ、ここを売ってやり直す方が良かったんじゃないか・・・


あー、助けるをタップするの早まったなぁ。


「ゲイル、帳簿を見て動かなくなったけどどうなんだ?」


「ベント、実地研修だ。この帳簿を見て何が問題かを見つけて対策を考えておけ」


「う、うん」




「おーい、チッチャちゃんいるか?」


「あ、おじさんが来たっ!」


食べ物を持ってくるという父親の友達か。ちょっと話を聞いてみよう。


「良かったなぁ、お客さん入ってるみたいじゃないか」


「うん、そのお客さんがここで焼き鳥出してくれるんだって」


「客が焼き鳥?」


「こんちは」


ゲイルはそこに顔を出した。


「この坊主が客か?」


「そうだよ。ちょっと教えて欲しいんだけど時間ある?」


父親の友達という男、ジロンと言うらしい。屋台で串焼き屋をやってるとのこと。


「バードンが死んでからセレナにも宿を閉めたらどうだとは言ってたんだがそれは嫌だと」


バードンとはチッチャの死んだ父親だな。


「セレナさんが倒れたのは知ってるんだよね?」


「あぁ、調子が悪いとチッチャちゃんから聞いて心配はしてるんだが大丈夫だと言われたら部屋まで押し掛けるわけにはいかねぇ」


「この食材は?」


「食べるもんくらいは援助出来るんじゃないかと思ってな。俺もそんなに金があるわけじゃねぇからこれくらいしか・・・」


なるほどな。チッチャは自分達の食べる物を客に出してただけなのか。


一応売り上げが減ったとはいえその金はどこにいったんだろ?


「ジロンさんありがとう。10日間くらいはここに泊まってるから。3日後にここで焼き鳥売るから良かったら食べに来て」


あぁ、分かったと返事をしたジロンは帰っていった。



「なぁ、チッチャ。お母さんが倒れてからの売上のお金はどうしてる?」


「治癒士の人に診て貰うのに使ったの。何度か来て貰ったけどお母さん元気にならなかったの」


どこで診て貰ったんだろう?金だけ取ってまともな対応してないんじゃないのか?


様子を聞くとポーションを飲ましただけみたいだ。それだと褥瘡の状態がマシになるくらいだろう。死に金だな。まぁそれで延命出来てたかもしれないけど・・・



「ダン、寮とロドリゲス商会に行こう。取りあえず手紙を渡して。サラに会うと面倒臭そうだから受付に渡すこと。その後にベントとダンで一緒に食材の仕入れ先探してきて」


「ぼっちゃんどうすんだ?」


「ロドリゲス商会に行った後にヨルドさんのところでパン種貰ってくるよ」


「俺、ぼっちゃんの護衛なんだけどよ」


「王都で俺に護衛いる?」


「そりゃそうだがよ。なんかあってもやり過ぎんなよ」


俺の身体よりそっちの心配かよ・・・



貴族街に入ってから二手に別れる。


「こんにちは」


「はい・・・・、あっ、ぼっちゃん。どうされたんですか?」


「大番頭さん、この手紙をぶちょー商会にこっちはうちに届けてくれる?めっちゃ急ぎなんだ」


「明日の朝に出ますので夜には届くと思います」


エールは3日後に間に合うか微妙だな。しかしそれは仕方がない。


「それでお願い。あと薄力粉と小麦粉、片栗粉、炭はあるよね?それと蒸留酒はいくらで販売してる?」


「蒸留酒は金貨1枚と銀貨40枚です。ぼっちゃんなら仕入値でお譲りしますが・・・」


「いや、ちゃんとした売値で売ってくれたらいいよ。その代わり庶民街だけど配達はしてくれるかな?」


「庶民街ですか?」


「ディノスレイヤに行く門の近くに小熊亭って宿屋があるからそこにお願い」


地図を書いて説明する


「何か商売を始められるんですか?」


「いや、始めるというか研修というか・・・。軌道に乗り出したらまたお願いしにくるから宜しくね」


あ、お金はダンが持ってるのを忘れてた。


「ごめん、支払いはうちにしておいて貰っていい?お金が入ったら小熊亭で領収証を書いて貰うことになるけど」


問題ありませんよと言ってくれたので頼んでおいた。配達は明日の午前中にしてくれるらしい。



次はエイブリック邸だ。


「おや、ゲイル様ではありませんか」


「こんにちは、突然ごめんね。ヨルドさんにお願いがあって来たんだけど会えるかな?」


いつもの執事が対応してくれる。


「まさかゲイル様お一人ですかな?」


「ダンと来てるんだけど他の用事をして貰ってるんだ。俺もヨルドさんに会ったらすぐに戻らないとダメなんだよ」


「わけありのご様子ですな」



執事は訳を聞かずに厨房まで案内してくれた。


「ゲ、ゲイル殿いかがなさいました?」


「ヨルドさん、突然で悪いけどパン種分けて」


「それはかまいませんが・・・」


急いでパン種を箱に入れてくれる。


「一つ伺っても宜しいですか?」


「何?」


「チュールが開発したレシピなんですが」


「ああ、北京ダック?」


「そう、そうです。その中でネギを巻いて食べるというのが本当かどうか皆目わからず・・・」


青ネギそのまま巻いたのかな?


「それ白髪ネギを巻くんだよ。社交会っていつだっけ?」


「年が明けてから少ししてからです」


「それまでにここに来るから作り方教えるよ。チュールの書いてあるネギは売ってないからその時に作るね。ネギの育て方も教えるからその時まで待ってて。あと新しいお酒がもうすぐ届くと思うから」


「どのようなお酒ですか?」


「リンゴのお酒でね、甘めで酒精が弱いのとスッキリとしててワインくらいの酒精の2種類あるから。届いたら味見をしてみて」


じゃとパン種を貰って帰った。



「ゲイル殿が王都におられるみたいだが、どちらに泊まられてるんでしょうか?」


「何やらわけありのご様子でしたがすぐにこちらにお越しになるでしょう。また陛下の楽しみが増えますな」


「そうですな。王都で何か騒ぎがおこるんでしょうな」


執事とコック長のヨルドはそういってゲイルを見送ったあとニヤニヤ笑っていた。



宿屋に戻ると男がチッチャに何やら詰めよっていた。


「どうしたの?」


「あ、お客さんお帰りなさい」


おろおろしながらも挨拶をしてくれるチッチャ。


「でね、お嬢ちゃん。お母さんを呼んで来てくれないかな?そうじゃないと大変な事になるからって」


「お母さんは体調が悪くて起きられないんです」


「9月からずっとそういって連絡くれないじゃないか。本当に大変な事になるんだよ」


「えっと、もしかして借金取りさん?」


「えっと僕は誰かな?」


「ここの客だよ。訳あって少しの間手伝う事になったけど」


「客?じゃあ関係ない話だからあっちへ行ってなさい」


借金取りといっても強引な取り立てでもなさそうだな。


「いや、ここの女将さんは本当に動けないくらい具合が悪いんだよ。あと数日したら動けるようになるかもしれないけど」


「そうなのか?参ったな・・・」


「おじさんここの宿屋を建てる時にお金貸した人?毎月銀貨20枚支払いの?」


「おや?そんなことまで知ってるのかい?」


「ちょうど良かった。話聞かせてくれないかな?女将さんが話せる状態でもないからどこに聞いたらいいかもわからなかったんだ」


「僕は小さいのにそんなことわかるのかい?」


「チッチャより話がわかると思うよ。支払いが滞ってるんだよね?。あと元本と利子あわせてどれくらい残ってるの?」


そこまで言うとチッチャに話してもいいか許可をとってから話し始めた。


元々の借金が金貨80枚。それを月々銀貨20枚ずつ40年間返していく契約らしい。利率が高いが法律の内だ。


「9月から返済が滞ってるよね?あってる」


「今5ヶ月分溜まってるよ。来月支払いが無かったらこの宿を差し押さえるか、この借金を他の商会に売ることになる。そうすると支払い額が増えるかもしれないからと伝えてくれるかな。うちも慈善事業じゃないから待てるのはこれが限界だよ」


すでに宿屋を買いたいと言って来ている商会があるらしい。


連絡無しにここまで待ってくれてたんだから悪徳金貸しでもなさそうだけど半年滞納になったら差し押さえもやむを得ないな。



「チッチャ、お金は払えないとここの宿屋をお金を払う代わりに渡さないとだめなんだ。いまいくら残ってる?」


チッチャはお金の入った袋を持ってきた。


俺達が払ったお金を含めて銀貨17枚。一ヶ月分の支払いすら出来ないな。すでに詰んでる。


立て替えてやることは出来るが、このままだと延命処置にしかならないしな。


さてどうするか・・・


取りあえず俺とダンの宿泊費10日分を払ってやろう。これで銀貨40枚。2ヶ月分は払える。その先はさっきの商会と相談だな。借金のリスケには応じないだろうけど2ヶ月分払ったらもう少し待ってくれるかもしれない。


最悪俺個人で買うかぶちょー商会で買うか。改装して隠れ家的な高級宿屋とかバルみたいにしたら採算とれるかな?


しかしコック雇ってもレシピ漏らされたら困るしなぁ。



ディノスレイヤ領なら解決しそうな事も王都となるとそうも行かないものだ。





しかし、俺ってベントの屋台手伝いしに来ただけなのに何やってるんだろ・・・



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