第303話 小屋のマスパーティー

「これは血が増えそうですなぁ」


復活したナルディックはマスパーティーでレバーのニンニク炒めをばくばく食っていた。パーティー戦の決勝戦をしている頃、用意しておいたスペシャルドリンク、<回復・治癒・身体強化水>に塩とレモンで味付けしたやつが効いたのか、身体が異常にタフなのか普通に飯が食えるくらいにまで復活していた。


「王都に戻ってからもしばらくレバーやほうれん草とかよく食べておいてね」


ナルディックはもちろんですともと返事した。



「ほれ、こいつをお前にやろう。これで刀に遅れをとることはあるまい」


ドワンがナルディックの身長よりやや短めの薙刀みたいな武器を手渡した。


「これは・・・?」


「お前が身に付けた戦い方にはこいつが向いとる。ちょっと振ってみろ」


丈夫そうな棒の先にやや反りの入った片刃の剣が付いた特注品だ。ナルディックの回転させるような戦法はこれだと威力が倍増するそうだ。こいつを持って構えるナルディックは正に弁慶みたいだな。


「ど、ドワン殿・・・、この様な武器をわざわざ自分に・・・」


「鎧とこいつがあれば王を守れるじゃろ。しっかりと責任を果たせ」


うぉぉぉぉっ!と雄叫びをあげたナルディックはブォンブォンと振り回したあとふらついた。


「ナルディック、まだ血が少ないのに無茶をするな」


ったく、と言いつつもエイブリックも嬉しそうだった。



しかし、今回のマスパーティーは満員御礼だな。


いつものメンバーに加えてマルグリットと護衛達、6名パーティーが二組、ミケとか人が入り乱れている。


ミーシャとミケが運んで来るカルパッチョがバンバン無くなっていく。


ダンとベントがマスの塩焼きを焼きだしたので、俺も何か手伝いに行こう。ムニエルでも作るかな。



「こんな生みたいな食べ方初めてですわ」


「ゲイルが釣りに行くと毎回作ってるわね。タマネギのスライスを乗せてマヨネーズを付けても美味しいわよ」


マルグリットとアイナは食べ方をアレンジしながらカルパッチョを消費していく。


「はい、ムニエル。ゲイルが作ったやつやで。レモンかタルタルソースで食べや」


ビトー達も喜んで食べている。


「エイブリック様、森の中の小屋でこんな料理が食べられるなんて信じられません。このマスもとても新鮮で旨い」


「ここは旨い物の発信基地だからな。ぜんぶゲイルの仕業だ」


「あのゲイルとは一体何者ですか?俺達が全く敵わなかった・・・」


「当たり前だ。あいつはどんなに強くなっていっても自慢したりもしないし、慢心もしない。毎日進化していきやがるからな。お前らとは違うんだよ」


灼熱の鳥改めヒヨコのメンバーはエイブリックにべったりだ。



「アーノルド様、骨酒とはどのように・・・?」


ビトーは気になって仕方がなかったマスの骨酒はいつ出て来るのか待ちきれずに聞いてしまった。


「お、もう骨酒に行きたいか?じゃあ、今食ってた塩焼きの骨を炭で炙れ」


「塩焼きの骨ですか?」


ビトーはマスを骨ごと食っていた。


「骨まで食ったら出来んだろうがっ!もう一匹焼いてもらえっ」


マスを焼いてくれたダンもベントも自分達のを食べ出していたのでビトーは自分で焼くことにした。真っ黒に焼けたマスを食べるが、焼いて貰ったものとは比べ物にならない・・・


「ベント様に焼いて頂いたマスの方がはるかに旨かったです」


それを聞いたベントは嬉しそうだ。


酒飲み連中は骨酒に取りかかったようだ。骨酒と塩焼きのコンビネーションを堪能するためにベントに塩焼きのコツを教えてもらっている。誰かに何かを教えるというのが初めてのベントはとても嬉しそうだった。


ジョンとアルはナルディックの新しい武器に興味があるらしく、触らせてもらいながらワイワイしている。



俺は森の風メンバーに話し掛けた。


「食べてる?」


「はい、こんな旨いもの初めて食べました」


近くでみるとやっぱりかなり若いな。成人してないんじゃなかろうか?


「みんなはどこから来たの?うちの領じゃないよね?」


「よくわかりません。」



「どういうこと?」


「森の風のメンバーはみんな森に捨てられてたんです。その森がどこの領地とかは知らないんです」


「みんな孤児なの?」


「って言うんですかね?気がついた時からそうなので」


リーダーのゼルダから聞いた話によると、まず魔法使いのマリンと出会い、あちこちを冒険していた時に捨てられている子供を見つけて仲間にしていったそうだ。


「苦労してきたんだね」


「いえ、楽しかったですよ。狩りをすれば食べ物にも困らなかったし、要らないものは貯めておいたら買ってくれる人がいたし」


「お前らどこで冒険者登録したんだ?」


アーノルドとダンが骨酒を片手にこちらへやってきた。二人とも森の風に興味があるらしい。


「えっと・・・、あの・・・」


ゼルダはどこで登録したか聞かれてマゴマゴしだした。


「どこにも登録してねぇんだな?」


ダンがそう聞くとコクンと頷いた。


「あ、あの、冒険者登録してないと優勝は取り消しですか・・・?」


「別に構わんぞ、冒険者に限定してたわけじゃないからな」


アーノルドがそう答えるとほっとした森の風メンバー達。


「どこかで住民登録してるか?」


首を横に振るメンバー。


「それじゃ困るだろ。うちなら住民登録もしてやれるし、冒険者ギルドにも紹介してやれる。困ってたら相談しに来い」


「あ、あの僕達、普通の人間とは・・・」


「エルフや獣人の血が混じってるってことか?そんなもん気にする必要ねぇぞ。」


えっ?なんで知ってるのという顔をする。


「気配でなんとなくわかるんだよ。お前らどっかで登録しようとしてなんかあったんだろ。ここはそんな事無いから安心しろ」



「ぼっちゃま、マスを甘くしても美味しいと思います?」


ミーシャがハチミツの壺を持って来て甘いマスをどう料理すればいいか聞いてきた。甘い魚・・・?甘露煮とかしか思いつかんな。甘めの味噌煮込とかでもいいか。


「ここで作ってやるから味噌も持って来て。他にも食べたい人いる?」


アーノルドは甘い魚なんていらんと言ったが森の風メンバーは手をあげた。ダンも一応試すらしい。


人数分の魚と味噌を持って来たミーシャ、シルフィードも食べたいとのことでこちらにやってきた。


ここには竃が無いので土魔法でひょいひょいと作っていく。鍋も土鍋だ。出来た竃にスっと炭を入れるダン。よく気が付くね・・・


魚を3枚におろして骨で出汁を取っていく。マスの身を静か入れて、ハチミツ投入。しばらくしてから味噌を入れて弱火でコトコト煮てから針生姜を投入。


「崩れやすいからそっと掬って入れて」


シルフィードにそう伝えて皆に分けて貰う。


「なんやめっちゃええ匂いするやん」


鼻をスンスンさせながらミケがこちらにやって来た。残念ながら取り分け完了してしまったので土鍋は空だ。


早速一口食べていたダンが、


「食いかけだが食うか?」


「そんなん気にせぇへんで」


と言いながら口をあ~んと開けるミケにダンは苦笑いしながら口にマスを放り込んだ。


「めっちゃ旨いやんっ!」


そう言ったミケにダンは皿ごとミケにマスの味噌煮をあげていた。他の皆も気に入ったようであっという間に平らげていた。


「お前らさっき人種がどうとか言ってただろ? シルフィード、ミケ、帽子をとってやれ」


二人は帽子を脱ぐとピンと立ったシルフィードの耳とミケのケモミミがあらわになった。


「あっ!」


「な、こいつらもうちの住民だ。まだ人数が少なくて目立つからこうやって隠しているがそのうち皆も慣れるだろう。あっちはドワーフもいるし、お前らも気にすることはねぇぞ」


「本当にここなら大丈夫・・・なんだ・・・」


ゼルダ達はディノスレイヤ領で冒険者登録する決心をしたようだった。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る