第304話 ゲイルの日常
マスパーティーの翌日、エイブリック達とマルグリット達は王都に帰って行った。ヒヨコもしばらくディノスレイヤ領で拠点を構えて活動し、森の風達も冒険者登録をしてここで活動していくらしい。
今日と明日は連休にした。もう闘技会やらマスパーティーやらでくたくただ。屋敷全員も同じく連休だ。ディノスレイヤ領は年末年始の感謝祭に入り賑わっているけど部屋に引きこもって惰眠を貪ることにした。
静かだな・・・
全員が休みだととても静かな屋敷。昼過ぎまで寝て起きるとだんだん退屈になってきた。なんか食べてシルバーにでも乗りに行こう。
厨房にいって冷蔵庫をごそごそと漁る。材料は色々あるけどなんか作るの面倒くさいな・・・
イチゴに砂糖と牛乳をかけるだけでいいか。器にイチゴを入れ砂糖と牛乳を入れてイチゴをスプーンでぎゅっぎゅっと潰してイチゴミルクにしていく。こうやって食べるのはじじいの証拠なんだっけ?グレープフルーツに砂糖やハチミツかけたりするのも元の世界の若い人達は知らなかったんだよなぁ。自分が子供の頃より格段に甘くなったフルーツしか知らない人達には信じられない食べ方だったらしい。
牛乳はこの世界のものの方が美味しい。加熱殺菌はしてあるものの、何も加工していない牛乳は乳脂肪分がそのままなので、置いておくと勝手に脂肪分が浮いてくる。実に濃厚だ。元の世界だとこういう牛乳って高くてめったに買わなかったからな。
懐かしい味のイチゴミルクを堪能したあとシルバーに乗りに行くと、今朝来なかったからシルバーの喜び様が激しい。
「オーバルコースを走ろうか」
元気いっぱいのシルバーは軽快に走る。ぽかぽかと暖かな日差しと風を切るスピードが実に気持ちがよい。
3周ほど走った後でダンがやってきた。
「ぼっちゃん腹減ったぞ。なんか食いにいかねーか?」
「そうだね。串肉買ってどこかで食べようか」
ミーシャも連れて串肉を買って東の街に向かう。
「こうやって3人でブラブラするの本当に久しぶりですねぇ」
「そうだな。俺が初めてぼっちゃんと串肉食ったのもここだったな」
ダンとミーシャは羊肉、俺は焼き鳥を食べていた。
「明後日から王都に行くんですよね?」
ジョンとベントはエイブリックとマルグリットの馬車に乗せてもらって先に王都に帰っていってたのである。俺とダンはベントの屋台の準備を手伝う為に明後日から王都へ行く予定だ。
「ベントの屋台を手伝いに行くんだけど、どこで何をしたらいいかわからないから早めに行くよ。」
エイブリックの所にも寄るけど今回は屋台メインなので庶民街の宿に泊まるつもりだ。庶民街の事を知らないと屋台での商売なんて出来ないからな。ミーシャとシルフィードはお留守番だ。
「しかし色んな店が出来たねぇ」
東の街にも実に様々な店が出来てきている。食堂や宿もどんどん出来て来ているし、服や日用雑貨の店も増えている。どれも個人店だけど人が増えてると店も増えて活気があるな。
人が多いので馬から降りて街中をぶらつくと手を振ってくれる人やこっそり拝んでいる人がいやがる・・・
衛兵団の詰所、所謂交番に副団長のマーキーが居た。紺の学生服みたいな衛兵団の制服に黒のコートを羽織っている。中々凛々しい。
「マーキー、様になってんじゃねーか」
ダンが声をかけるとマーキーは俺に頭を下げた。
「ダン、この前の賞品の刀っていくらぐらいで買えるか知ってるか?」
「いや、知らん。ぼっちゃんは知ってるか?」
「あの刀だとダンが買ったやつと同じくらいじゃない?」
「そうか。マーキー、ハッキリとは知らんが金貨1枚くらいじゃねーか?俺が買ったのはそれくらいだったぞ」
「何っ?ダンも持ってるのか?」
「ほとんど使ってねぇけどな。お前も支給品の刀があるだろうが。」
「そうなんだけどよ、団長のを見ると欲しくなっちまってなぁ。しかし金貨1枚かぁ・・・」
衛兵達はまだ一度も刀を使う機会はない。領民同士の言い争いみたいなものはあるが盗賊がやってくるような事も無いからだ。しかし、この世界の剣はシンボルみたいなもので冒険者上がりのマーキーは自分も良い刀が欲しいらしい。
「金がねぇなら来年の闘技会で優勝するしかねぇな」
「お前も優勝決定戦見ただろ?あんな化け物みたいなやつらが出てくるような大会で優勝しろとか言うなよ。シックのオッサンでも最後ビビってたじゃねーか」
ナルディックが来年ドワンの武器と鎧を身に付けてたらそうだろうな。
「それならせいぜい金貯めるか腕を磨け」
そう言ってカッカッカッカと笑ったダンにうるせぇと答えるマーキーだった。
ザックの所にも寄っていく。
「あ、ぼっちゃん。ミーシャちゃんお買い物ですか?」
「今日はブラブラと街見学だよ。最近何が売れてるんだ?」
王都支店で薄力粉と蒸留酒が今月大量に売れたらしい。王家派閥の社交会用だな。
「味噌は売れてる?」
「ぼちぼちですね。売れる時はまとめて売れるんですが、それ以外は・・・」
個人で買う人が少ないみたいだ。一般の人は使い方知らないからな。
「ここで試食させてみたらどうだ?美味しいことが解ったら売れるんじゃないか?」
「試食ですか?」
「そうそう、汁物でも作って飲ませたら個人でも買う人出てくると思うぞ」
「どうやって使うんですか?」
ザックには食わしたこと無かったっけ?味噌はボロン村の現金収入の一つだから売れないと困るな。
「よし、今から作り方教えてやる」
大鍋と魔導コンロ、食材を持って来て貰って店の前で調理していく。作るのは豚汁だ。冬にピッタリの食べ物だからな。観客の前で作ると皆も作り方を覚えるし、旨いと思ったら家でも作るだろ。
具材はじゃがいも、タマネギ、ニンジン、豚肉だ。これならどこの家でも作れる。
大きめの声でザックに作り方を説明してながら調理を始めると、なんだなんだと人だかりが出来てきた。
「こうやって灰汁をちゃんと取れよ」
野菜に火が通ったら豚肉を入れてまた灰汁を取り、味噌を入れて味見をする。豚骨とか鶏ガラとかベースの出汁を取ってないので少し物足りない。
「ザック、バター頂戴」
仕上げにバターを入れてやった。これでコクが出るだろう。
「ほら、食ってみろ。これが豚汁だ。味噌をスープにしたもんだな」
ザックはお椀をズズッとすする。
「うわっ!すごく旨いです。」
おぉーっと観客から声が上がる。
「じゃ、食べてみたい人並んで。試食だからタダだよ。気に入った人は味噌買っていってね。味噌は数が少ないから早い者勝ちだよっ!」
うわぁーーーっと並び始める人々。
ミーシャとダンが手分けしてお椀を渡していく。思ったより多くの人が並んだので少なめによそっていった。
その横でザックが味噌を販売していく。他の従業員達も出てきて。回収したお椀を洗っては運びをしていった。
「ぼっちゃん、味噌が大量に売れました。」
「な、味を知った人は買って行くんだって」
実演販売は好評だったので、他の商品でも定期的にやるとザックは言った。調理器具とか目の前で使って調理してやると売れるぞとアドバイスしておく。
後に豚汁が神様のスープと呼ばれる様になったなんて事はゲイルは知らないのであった。
俺は休みに何やってんだ・・・
そしてゲイルは貧乏性の自分に自分で呆れていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます