第301話 闘技会 パーティー部門決勝戦その2

パーティー部門決勝戦第二組の戦いが始まる。


「こいつぁ可哀想だが灼熱の鳥の勝ちだ。赤ヒゲのやつらは採掘専門でたまたま予選があいつら向きだったというだけだからな」


戦いが始まる前からアーノルドがそう言う。


「戦いはぜんぜんダメってこと?」


「そんな事は無いがな、相手が悪すぎる」


「そんなに実力差があるの?」


「まぁ見てりゃわかる」



第二組の戦いの開始が告げられた。


赤ヒゲは旗を奪われないように周りの岩を素早く組み上げて砦を作り出そうとした。


そこにファイアボールが飛んで来て、岩を組んでいる人が蹴散らされたと思ったら剣士の一人が素早く旗を奪った。


「勝者、灼熱の鳥!」


ブーブー ブーブー


一瞬で終わってしまった第二組。観客からブーイングが上がる。


「速かったねぇ、あの旗を取った人」


「あいつはホークって名前だ。リーダー兼剣士だな」


アーノルドがパーティーの名前と構成を説明してくれる。


「なんか父さん達のパーティーと似てるね」


「あのパーティーはエイブリックに憧れて結成されたんだ。炎の魔剣を探して各地を冒険してるんだ」


「へぇ、じゃあ遺跡探索してるのかな?」


「そうだろうな」


「あれだけ強いならおやっさんに頼めば作ってくれそうなのにね」


「いや、探しだすのがロマンだそうだ。面白いやつらだろ?」


夢を追い求める冒険者か。楽しそうだな。


「表彰式で賞品の授与をお前がやるか?」


アーノルドが笑いながらエイブリックにやるか?と聞く。


「馬鹿言え、俺はお忍びで来てるんだぞ。表彰式なんかに出たら問題になるだろうが」


それに灼熱の鳥のメンバーがエイブリックを見る目が怖いらしい。強烈な信者ってな感じなのだろう。



今日の昼飯はピザだ。俺が焼き直すからブリックは軽くしか焼いていない。


何も聞かずに皆の分をこんがり焼いていく。


アーノルド、エイブリック、ダンは唐辛子の粉をかけて食べる。


あ、アルとか好きそうな食べ方がある。


「アル、もっと美味しくしようか?」


なんだなんだ?とワクワクしながら食べ掛けたピザを持って来たのでマヨビームを掛けてもう一度焼いてやる


「はいどうぞ」


「うまーーい!」


アルはピザもマヨ焼きも大好きだからな。この組み合わせはハマるだろう。


何かを閃いた顔のミーシャがハチミツをテロテロっとピザに掛けて食べ出した。口いっぱいに頬張って、んーー!と幸せそうな顔をする。


元の世界で鴨肉のローストにジャムとかの組み合わせがあったが俺はダメだ。ミーシャはきっと好きだろう。俺の作る飯は俺が好きな物しか出ないからそうやってみんな好きに考え出してくれたまへ。


「ぼっちゃん、これカレー味に出来るか?」


貴賓室にも調味料と酒は色々と持ってきてあるから大丈夫だ。


次のピザにペペっとカレーパウダーを掛けて焼いてやる。マヨはいらないと言われた。


ベントとマルグリットはミーシャの真似をしてハチミツを掛けていた。


それぞれが好みの味にカスタムしたピザを楽しんだ後、優勝決定戦が始まる。



「さぁ、森の風の奴らはどこまで灼熱の鳥に抵抗するかな」


「勝てそうにはない?」


「まぁ厳しいな。あいつらがとんでもないかくし球を持ってて灼熱の鳥が相当舐めてたらわからんけどな」


実力差が大き過ぎるということか。



「始めっ!」


開始の合図と同時に矢の雨を降らす森の風。それをものともせずに灼熱の鳥の剣士二人が剣で払いながら森の風の弓使いと魔法使いの首に剣を当てた。


あっけない・・・


しかし司会は終了宣言をしない。


「ホークっ早く旗を取れっ!」


えっ?と驚きながら旗を取った灼熱の鳥のリーダー、ホーク。


その時、森の風の獣人の血が入っていると言われていた女の子も灼熱の鳥の旗を握っていた。


ざわざわ ざわざわ


司会はどちらが早かったのか判断が付かないようだった。それを見てアーノルドが会場に向かった。


俺が見た限りほんの一瞬、灼熱の鳥の方が早かったがアーノルドはどう判断するのかな?



アーノルドが会場に降り立ったことで観客から歓声があがる。


「アーノルドは相変わらず領民から人気あるなぁ」


エイブリックはアーノルドが出ただけで喜ぶ観客を見て笑う。


「おい、両方のリーダーこっちへ来い」


それぞれのリーダーがアーノルドに呼び出された。


「いまの勝負はほぼ同時だ。どうする?同じ方法でやり直すか?それとも違う方法で決着を付けるか?」


「アーノルドさん、ほぼと言うことは差があったんですよね?」


灼熱の鳥のリーダー、ホークはそう尋ねた。


「あぁ、そうだな」


実力差が劣る方が早かったならアーノルドさんは迷わず相手の勝ちと宣言しただろう。ということはうちの方が早かったと言うことか。と、ホークは今のアーノルドの言葉を理解した。


「いや、うちの負けで良いです。油断した俺達が悪い」


「いいのか?」


「えぇ、優勝するのが目的ではありませんでしたし、これは自分達のミスですから」


「解った。森の風のリーダー、それでいいか?」


「え?、あっはい」


森の風のリーダーは相手が勝手に負けを認めた事がよく理解せず返事をした。


「ただ今の闘技会優勝決定戦 パーティー部門 勝者 森の風!」


おぉぉぉぉぉっ


アーノルドがマイクのような魔道具を持ち、森の風の勝利を告げた。



「あ、森の風の勝ちなんだ」


「なんかごちゃごちゃ話してからの宣言だから灼熱の鳥が引いたんだろ。ちっとも悔しそうじゃねぇしな」


「なんで?」


「さぁな、圧倒的な実力差があったのに俺達にしか解らないような差は負けに等しいとか思ったんだろ」


ふーん、魔法と剣の決勝戦は命がヤバいような怪我人が出たけど、パーティー戦は誰も怪我人が出なかった。冒険者同士の阿吽の呼吸なのか実力差があったから怪我させないようにしたのか良くわからんな。



そのまま表彰式に移るようなので俺達も下に降りた。



アーノルドから賞品と副賞が渡されていき、闘技会はすべての戦いを終えて幕を閉じる。


観客達は興奮冷めやらぬまま会場を後にしたが、灼熱の鳥と森の風はその場に残っていた。


「今日は暇だったわ。これなら貴賓室で見てたらよかったわ。自分達だけで何か美味しいもの食べてたんでしょ」


ぶつくさ言いながらアイナが出てきた。


「アイナさん、お久しぶりです」


「ホーク、何勝手に勝った気でいたのよ。まだまだね」


あははははと苦笑いするホーク。


「お前達、今日の夜は何か予定あるか?」


「貰ったチケットでバルに行こうかと思ってただけで特には」


「そうか、じゃあ森の風の・・・」


「ゼルダと申します」


「ゼルダ達は何か予定あるか?」


「いえ、僕たちも特には」


「そうか、じゃあお前ら今日はうちに飯を食いに来い。マスパーティーをする予定なんだ。ゲイル、足りるだろ?」


「大丈夫だよ」


「えっと、そちらの方々は・・・?」


アーノルドは俺達を紹介し、ホーク達も自己紹介をしてくれた。


続いて森の風達も自己紹介をしてくれる。


【灼熱の鳥】

ホーク/剣士

ボード/剣士

バラン/盾

ジル/魔法使い(女性)

マイン/治癒士(女性)


【森の風】

ゼルダ/弓

しっぽ/斥候(女性)

マリン/魔法使い(女性)

サンド/剣士

ピート/治癒士

リュート/盾



「アルファランメル様ってエイブリック様の息子様では・・・?」


ジルが恐る恐るそう尋ねる。


「そうだ。父上もあそこに隠れているぞ」


エイブリックのチッと舌を鳴らす音が聞こえて来そうだ・・・


「きゃーーっ!」


灼熱の鳥の女性、ジルとマインが黄色い声を上げる。


「おい、エイブリック出て来てやれよ」


めっちゃ嫌そうな顔をして出てくるエイブリック。


ざっと膝を突く灼熱の鳥のメンバー。


森の風達は訳がわからずポカンとしている。


「今はプライベートだ。立てっ」


ハイッと返事して立ち上がる鳥達。もう面倒だから鳥でいいわ。今の見てたら親鳥を見る雛鳥みたいだからな。エイブリックが嫌がるのがよく解った。


「俺達の戦いを見て頂いてたんですか?どうでしたかっ?」


「くそ弱ぇ。なんだありゃ?」


えっ?という顔をする鳥達。


「慢心だ、慢心。お前ら自分が一番強いと思ってるからあんなやり方をするんだ。それに比べて森の風はよくやった。自分達の能力をよく理解して最善を尽くした。お前達はこれからもっと強くなるぞ」


がーーーんという顔をするジルとマイン。


「お言葉ですがエイブリック様。我々は相手を怪我させないようにと・・・」


「それが慢心だってんだ。多少の怪我はアイナがいるから問題無いのが解ってただろ?最後は剣を当てただけで勝手に勝った気になりやがって」


「しかし・・・」


「相手の実力を判断して手加減するようなやり方はゲイルぐらい強くなってからやれっ!」


おいっ!


「ゲイル?アーノルドさんの息子・・・? そのちっこいの?」


「エイブリックさん、俺は今夜のマスパーティーの準備があるから先に帰るよ。人数増えたから・・・」


さっと帰ろうとするとエイブリックにムンズと掴まれる。


「ゲイル、あいつらにギャフンと言わせてやれ」


「そんなのエイブリックさんと父さんがやればいいだろ?シャキールとか父さんともやらされたんだから今度は自分でやりなよっ!」


「俺たちがやっても面白くないだろが」


「エイブリック、アイナもいるしいっちょもんでやるか。アイナも今日暇だったから鈍ってるだろ?」


「えぇ良いわよ。うぬぼれホークに薬をあげなきゃね」


アイナはトンファーを常備してんのか?あんた治癒士だろ?


「しかし、そちらは3人でこちらは6人・・・」


「うはははははっは!面白い冗談言えるようになったじゃないか」


エイブリックはカチンと来たのかやる気になったようだった。


この隙に・・・


「お前は審判だ」


気配消してたのに簡単にエイブリックに捕まってしまった。


「審判ならダンが・・・」


くっそ、いつの間に消えてんだよっ



ダンは【スキル】逃げる とか持ってるんじゃなかろうな・・・

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