第300話 閑話:シムウェルの処分
「なにっ?負けただと?」
「申し訳ございません」
「誰に負けた?」
・・・
・・・・
・・・・・
「冒険者です・・・」
「きっさまぁぁぁぁっ!何がスカーレット家の偉大さを知らしめるだっ!ワシに恥をかかせおって!死ね、死んで詫びろっ!」
「はっ、そのつもりでございます。誠に申し訳ございません」
「ならなぜその場で自害せんとおめおめと戻って来たのかっ!」
「ご報告とこれを預かりましたのでお届けを致しました後に責任を取ろうと思い、恥ずかしながら戻って参りました」
シムウェルから差し出された手紙をばっと奪い取る東の辺境伯領主、ジョルジオ・スカーレット。
「誰からの手紙だ?差出人が書いておらぬが・・・」
こっ、この封をしてある印は・・・
手紙の封を切って中身を確かめるジョルジオ。
<この度の闘技会は遊びである。よってシムウェルにいかなる罰も与える事を禁じる。遊びにスカーレット家の名前を出す許可を出した領主の責任だと思え>
エイブリック・ウェストランド
追伸
うちのも負けたが良き戦いであった。
「こ、これは誰から渡された?」
「ディノスレイヤ家の使いの物です。こちらの賞品と共に渡されました」
「賞品?」
「予選を勝ち抜いた物への賞品です。こちらはディノスレイヤ領にある食堂のチケットであります」
シムウェルは蒸留酒の大瓶とバルのチケットを渡した。
「しけた賞品だな」
何も飾りの無い酒の瓶と田舎食堂のチケットを見てジョルジオは吐いて捨てるように言った。
「シムウェル、この度の不始末は不問とする。下がれっ」
「ふ、不問とは・・・?」
「言葉通りだ。勝手に自害することも許さん」
あれだけ怒りに震えていた領主がいきなり不問にすると言い出した事を信じられないシムウェル。
「し、しかし・・・」
「何度も言わせるなっ!二度と恥をさらすような真似をするな。鍛え直せっ」
シムウェルは頭を下げて退室した。
シムウェルが部屋から退出した後、ジョルジオはもう一度手紙を見直す。
なぜ、ディノスレイヤ家の使いがエイブリック殿下の手紙を持ってくる?それに追伸に書かれているうちのも負けたとはどういうことだ・・・?この手紙は偽物か?
いや、この蝋印は確かに殿下の蝋印だ。万が一ニセモノだとしても他領の護衛をかばうためにそんなリスクを負うはずがない。バレたら一族処刑の上、廃領になってもおかしくはない不正だ。
ん?
手紙の裏にも何か書かれている。
うちの領には貴族の名前を知るものはほとんどいない。よって問題は起きないものと推測される。
アーノルド・ディノスレイヤ
アーノルドが殿下の手紙にメモ書き?ということはアーノルドと殿下が同じ場所でシムウェルの戦いを見ていたのか?
〈うちのも負けた〉
これは王家関係者が闘技会に出て負けたと言う意味か?
ジョルジオは訳が解らないまま、シムウェルが置いていった酒瓶を眺めていたのであった。
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