第297話 闘技会決勝戦 剣士部門その3

「おやっさんたちどこで観てるのかな?」


「さぁな、剣の勝負はドワーフ全員で観るってたからな。固まって観てんだろ」


そう言ってホットドッグを飲み込むダン。ホットドッグをいくつ食べたんだろうか?全部一口だったような気がする・・・



優勝決定戦は総当たりだ。まずフランクとナルディックの対戦。



「お前どこかで・・・」


「ご無沙汰しておりますナルディック様・・・、今日はナル様でしたね」


「あっ、お前、衛兵団長の・・・」


「ようこそ、ディノスレイヤ領へ。冒険者のナルということなので手加減しませんよ」


「ほっ、抜かしやがる。心置きなく掛かってこい」



「始めっ!」



「団長、剣から刀に替えて来たね」


「鎧が出ないと解ったからだろうな。打ち合わずに一撃で決める作戦だな」


「ナルディックは俺の居合を見たことがあるから、刀を持ったフランクがどうで出てくるか解ってるだろう」


ナルディックはエイブリックの居合を見たことがあるのか。初見で居合抜きされたらまず避ける事が出来ないだろうけど知ってるとまた違ってくるな。


ぶぉんっ ぶぉんっ


ナルディックの剣が唸りをあげて襲いかかるがひらりひらりと避けるフランク。フランクも小さい訳ではないが、ナルディックと比べると華奢に見える。まるで弁慶と牛若丸だな。立場は違うけど・・・


ナルディックの豪腕にフランクの汗がにじみ出る。当たれば一撃で終わりだ。それに刀で受けることすら出来ない。


ナルディックが空振りした後にフランクはくっと腰を落として居合を放った。


「甘いわっ!」


それを読んでいたナルディックが太い剣で受ける。


ギンッ


金属同士の交わる音がしてバッと血しぶきが飛ぶ。



「み、見事だ」


そう言ってドサッと倒れるナルディック。




「おぉ、フランクの野郎、あの太い剣を刀で斬りやがった」


アーノルドもその腕前を見て驚く。


救護員に運ばれていくナルディック。


フランクは剣を刀で斬った勢いでナルディックの腹を斬ったのだった。


フランクは自分の刀を見てはぁーっとため息をつく。


「ありゃあの刀はもうダメだな。折れてはないが歯こぼれもひどいだろうし歪んでやがる」


ダンはガックリ肩を落としたフランクを見てそう言った。


「父さん、あれ数打ちの支給品だよね?」


「フランクのは他の奴等より少し良いやつだがな。まぁ量産が効くくらいの品質のやつだ。それでもフランクは気に入ってたからな。肩を落とすのは分かる」


「でも優勝か準優勝なら剣か刀を貰えるじゃん」


「そうかも知れんが初めての刀だから思い入れがあったんだろ」


そんなものなのか。アーノルドも俺がダメにした剣にもそんな思い入れがあったんだろうな


「ゲイル、俺の剣と同じに考えるなよ。あれはフランクが未熟だから刀をダメにしたんだ。だから落ち込んでるんだぞ」


「でもナルさんの太い剣を斬ったんだから凄いじゃない」


「そこは大したもんだとは思う。が、フランクはナルが反応出来ないと思ってたんだろ。それを想定してたら剣ではなく少し軌道を上にずらして腕を狙えば刀をダメにすることは無かっただろうからな。フランクの甘さが出たって所だな」


刀で剣を斬った腕前は認めるけど刀をダメにしたやり方は未熟ってことか。厳しいな。



「素晴らしいっ!俺の刀をあれだけ使いこなしている奴が他にもいるとは」


リッキーは試合を見て興奮していた。


「あの太い剣は見かけ倒しじゃの。リッキーのへなちょこ刀に斬られおって。エイブリックはあんな物を支給しておるのか。ワシの剣なら刀が折れて終いじゃ」


「何をっ」


ギリギリギリギリと睨み合うドワンとリッキー。お互いの武器の方が上だと言わんばかりに場外戦が始まりそうな雰囲気であった。



次はフランク対シックだ。連戦になるフランクの為にしばらく休憩になる。



「ナルディック様、大丈夫でしょうか?」


「もう治して貰ったから気にするな。しかし見事な腕前だったな。まさかあの剣ごと斬られるとは思ってなかったぞ」


「私もまさか読まれてるとは思わず刀をダメにしてしまいました」


「予備はあるのか?」


「いえ、あの刀は領からの支給品でしてあれ1本だけです」


「そうか、では頑張って優勝してこい。賞品に刀があったではないか」


「はい、そのつもりで頑張ります。ナルディック様はあの剣の予備は・・・?」


「あれは特注品だからな。次は前に使ってた剣でやるしかあるまい」


今の戦いでナルディック、フランクとも自慢の武器を失ってしまったのであった。



呼び出しが掛かって慌ててフランクは闘技場に戻る



「お、予備の刀は無ぇのか?」


「自分の未熟さで失ってしまったからな。その代わり優勝して賞品の刀を頂くっ」


ほぉ、あの太い剣を斬った事を自慢するでなく、自分の未熟さを認めるか・・・ こういうタイプは厄介だな。


シックは直接試合を見ていなかったが他の冒険者から内容を聞いていた。情報戦も戦略のうちだ。


自分の試合内容を知っている事に疑問を持たなかったフランクは元の剣を構えた。



「始めっ!」


シックは様子見に突きから始めた。これでだいたい反応スピードが分かるのだ。


フランクはその突きを大きく避けずに前に踏み込み皮一枚掠める程度に避けてそのまま反撃した。


「うぉっ、危ねぇ」


まさか反撃して来るとは思ってなかったシックは後ろに跳び跳ねた。



「おぉ、いきなり素晴らしい攻防だ。衛兵団長凄いな」


ジョンが二人の初撃を見て興奮した。


「そうだな、シックはフランクの反応速度を見る為に突いたんだろうが反撃されるとは思ってなかったんだろ」


アーノルドの解説が始まる。


「ダンならいきなり突かれたらどうする?」


「まぁ、避けるわな。あんなギリギリの躱し方はしねぇな」


普通そうだよね?


「フランクは決勝の初戦もさっきもそうだったがカウンターが得意なのかもしれんな。本当の殺し合いならあんな危険な真似はせんだろうが、殺さない前提ならではの戦法だ。喉を狙った突きなんて様子見だと読んだんだろ」


そんなの解ってても勇気がいるぞ。フランクは相当肝っ玉が座ってるのか馬鹿なのか・・・


「しかし、あれでシックはうかつに攻め込めなくなったな。自分が決められなければカウンター食らうからな」



シックが跳び跳ねて下がった後、フランクも深追いはせずにじっとり構えてお互い動かなくなってしまった。


息の詰まるような展開だが観客には動かない二人が不満なようでブーイングが上がり始める。



「来ないのか?」


シックがフランクに話し掛ける。


「ベテラン冒険者は何をしてくるかわかりませんからね、怖いんですよ」


ニヤリと笑って答えるフランク。


「やっぱり厄介な野郎だ。お前みたいな奴が衛兵団長ならディノスレイヤ領も安泰だな」


フフっとシックは笑っていきなり攻撃を仕掛けた。


速いっ!


会話もシックの作戦のうちだったのか、いきなりの猛攻だ。


フランクはキンキンっとその攻撃を受けるが返す隙がない。


ガツンと強烈な一撃を受けて膝が落ちそうになるフランク。


「貰った!」


体勢が崩れたフランクを見てシックが大振りになった。


フランクはそのまま崩れるフリをして居合の型で剣を振り抜いた。


ブンッ


「そう来ると思ったぜ」


居合が空振りしたフランクの首にシックの剣が当てられていた。



「勝者 シック!」


司会がそれを見て終了宣言をした。



「フランクの野郎誘われやがった。な、シックは嫌なやり方するだろ?」


「どういうこと?」


「フランクが居合を使うの調べてやがったんだろ。始まる前にも途中もなんかくっちゃべってただろ?あれフランクがどこまで気付いているか確認してやがったんだろうぜ」


「ん?どういうこと?」


「フランクが自分の戦い方を調べられてたことに気付いてたらフランクも居合が警戒されているとわかるだろ?」


「うん」


「それを何気無い会話でシックは確認したんだ」


「それズルじゃない?」


「直接見るのは禁止してあったが調べるのは自由だ。情報も戦いの一つだからな」


アーノルド曰く、得意技を見せすぎたフランクの落ち度だということだった。



休憩を挟んでナルディックとシックの対戦だ。これでナルディックが勝てばまた初めからやり直しになる。ナイター設備が役に立つだろう。




「おや、ご自慢の剣は使わないのか?」


「あぁ、斬られてしまったからな」


「お前は平民に話し掛けられても怒らないんだな?」


「なぁに、ディノスレイヤ領はそういう所だろう。それに俺は冒険者だ」


シムウェルとかいう野郎は貴族臭がプンプンしてやがったがこいつは違うのか?いやどこかの貴族には間違いないだろうが・・・




「始めっ!」


ブオンッ


おっと危ねぇ。剣が軽くなった分スピードも上がってるんだろうな。


ヒラリとかわすシックに構わず襲いかかるナルディック。


シックの返す剣が腕をかすり、血が飛ぶが構わず攻撃を続けてくるナルディック。


ちっ、鈍感な野郎だ。痛くねぇのか。


血を吹きながらどんどん剣を振り回す速度が上がるナルディックの剣にシックは苦戦をする。


「ふははははははっ」


ナルディックは笑いながら剣を回転させるように攻撃を繰り出してくる。シックも躱しながら隙を見付けてナルディックに傷を負わせるがナルディックは止まらずに笑いながら攻撃を続けて来る。


なんなんだこいつはっ


「なぜ斬られて笑ってやがるっ!」


「怖かろう!笑いながら攻撃されるのは怖かろう!ふはははっ」




「ナルさん斬られながら笑ってるよね?」


「ゲイルにやられた事を真似してるんじゃないか?お前笑いながら護衛達をいたぶったろ?あれ心底怖かったらしいぞ」


いたぶるとかまた人聞きの悪い・・・



ナルディックの剣は当たらないままシックの剣が少しずつナルディックを斬っていき吹き出す血の量が増えていく。それでも尚笑いながら攻撃してくるナルディックにシックは腰が引けた。


そこへナルディックの剣が襲いかかり決まったと思った瞬間、ナルディックはズンッと倒れた。


しりもちを付いたシックは少し間を置いて立ち上がった。


「勝者 シック」


うぉぉぉぉぉっ!


「お、俺は勝ったのか・・・?」


司会に手を上げられても自分が勝った事が信じられないシック。自分でも震えているのがわかる。


アイナが出て来てすぐさまナルディックの傷を治して血を止めた。



「ナルディックは勝負に勝って試合に負けたか。血を失い過ぎて倒れたんだな。あと少し耐えれば勝てたものを」


エイブリックはそう言いながらも心配そうな顔をしていた。アイナの魔法でも失った血は取り戻せないからだ。


血は止まったが意識を取り戻さないナルディックが救護員に担がれて治療室へ運ばれていく。


「父さん、俺見てくるよ」


ちょっとヤバい気がするので治療室に走っていくと全員が付いて来た。


「母さん、ナルさんはどう?」


「危ないわ、血を失い過ぎている」


「おい、目を覚ませナルディックっ!」


土色の顔をしたナルディックはピクリとも反応しない。


ヤバいヤバいヤバい


ナルディックを鑑定する。


【ナルディック・トロール】

状態:瀕死

魔力 178/1883

スキル:忠心


鑑定しているとどんどん魔力が減っていく。


慌てて魔力をナルディックに注ぐ。減るスピードより補充の速度を上げる。


「ゲイルは何を・・・」


「黙って見てろっ」


ベントが何か言いかけたがアーノルドがそれを遮る。


「誰か賞品の魔力水持って来てっ!」


魔力を注いでも注いでもどこかに穴が開いているかのようにこぼれ落ちていく。魔力を注ぐスピードを上げたらその分抜けるスピードも上がる。ゆっくりと減るスピードより少し上げる感じで注がねば。


ダンが魔力水を取って来てくれたので激甘水を飲んで注ぎ続ける。これを3回ほど繰り返すと少しずつ減る量より増える量が多くなってきた。


魔力と回復魔法を混ぜながら治療を続けるとナルディックの顔にうっすらと赤みが戻ってきた。


状態も瀕死から重体に変わった。もう命の危険はないみたいだがそのまま続ける。


状態が重体から軽症に変わった所でナルディックが目を覚ました。


ふぅ、もう大丈夫だ。失った血が戻った訳ではないが、出血性ショック死は免れたようだ。



「ナルディックっ、ナルディックっ!俺が解るかっ?」


「え、エイブリック様、ど、どうしてここに・・・?」


「お前は血を失い過ぎて救護室にいるんだ、解るかっ?」


「救護室に・・・? ということは・・・自分は・・・負けたのですね・・・」


「試合の事は気にするなっ」


「げ、ゲイル殿に・・・ 自分の成長した姿を・・・」


「ナルさん、もうしゃべらなくていいよ。試合には負けたけど勝負には勝ったよ。凄かったよ」


「はは・・・、そう言って頂けると・・・」


ガクッと気を失うナルディック。


「おい、ナルディックっ! ナルディックっ!」


「エイブリック、もう大丈夫よ。一命は取り止めているわ。少しこのままにしてあげなさい」


「しかしアイナ・・・」


「ゲイルがほっとした顔をしてるでしょ。さっきまであんなに必死だったのに。だから大丈夫よ」


「ゲイル、アイナの言うことは本当か?」


「もう大丈夫だよ。母さん、ナルさんが目を覚ましたらスポドリをゆっくりと飲ませて。回復が少し早くなると思うから」


俺が大丈夫と言ったことでようやくエイブリックも落ち着きを取り戻した。



アーノルドは後はアイナに任せて表彰式に向かったのであった。

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