第296話 闘技会決勝戦 剣士部門その2

ー救護室ー


「はい、終わったわよ。失った血は戻らないから、ジュースでも飲んでゆっくりしていきなさい」


アイナに治癒してもらった銀の匙、ジャック。


「た、助かったぜ・・・」


服や防具は斬れているがちぎれ掛けた足は元通りになっている。シリアの言っていた通りこの聖女様ってのはすげぇ・・・

こいつがいれば戦場でバンバン兵士どもを突っ込ませることが出来る。


「なぁオバサン、うちに・・・」


ドゴンッ


「あら、疲れて寝ちゃったみたいだからあっちに寝かせておいて」



ー貴賓室ー


「お、ナルさんの登場だ。どんな戦い方なんだろね?」


「どうだろうな。訓練相手は護衛同士だろうし、冒険者とはやりにくいかもしれんな」



「始めっ」


開始の合図と共に冒険者二人がナルディックに襲い掛かる


フンッ!


「うぎゃぁぁぁぁ」


二人まとめて斬ったナルディック。圧勝だ。


「ダン、あれは大剣?」


「いや大剣ではないが、かなり大きくて太いな。あれなら受けても折れることはないだろうから多数の賊相手にするのに向いてるだろう」


斬れ味よりパワー重視か。護衛の最後の砦としてふさわしいかもしれない。


勝ち名乗りを上げたナルことナルディックは俺達のいる貴賓室に手を振っていた。


「ナルディック様も凄いですね」


ビトーは今の戦いに驚いている。


「護衛対象を守るのに特化した剣だな。あれを振り回されてたら賊も近付けんだろ」


「ナルディックはあれから剣の稽古は勿論、身体も鍛えてたからな。相当パワーが上がってるぞ」


鉈とか持たしたら似合いそうだなぁ、とか思っていたら3組目が出てきた。




「なぁ、筆頭護衛さんよ、本当にその鎧着たままやるのか?」


「平民が馴れ馴れしく話しかけるなっ」


「へいへい」


シックが親切で声を掛けたがシムウェルはスカーレット領と違って平民が気軽に話し掛けてくるディノスレイヤ領にイラついていた。


スカーレット家の護衛のシンボルである赤色で描かれた剣と盾が胸に刺繍された服を見ても気軽に話し掛けてくるディノスレイヤの領民達。東の町で食事をしていてもその都度シムウェルは怒鳴っていたのだった。



「始めっ」


予想通り鎧姿のシムウェルをランネルという冒険者が狙って攻撃した。


「そんな攻撃がこの盾と鎧を通すと思うかっ!」


ガキンガキンと盾に阻まれるランネルの攻撃。



「鎧と盾って守備力高いね」


ゲイルが今の戦いを見てアーノルドに解説を求める。


「まぁそうだな。あの攻撃してる冒険者は鎧の奴とやったことがなさそうだからああいう奴には有効だな」


シムウェルの攻撃も当たらないがランネルの攻撃も効いてはいない。


ガツンっ


「あっ」


ランネルの剣が盾に阻まれて折れてしまった。剣を失ったランネルは棄権だ。


「あんなまともに盾に向かって剣を打ち付けたらそりゃ折れるだろ」


と、アーノルドは呆れていた。



二人の戦いを黙ってみていたシックが動く。


剣を大きく振りかぶったシックに対してシムウェルは盾を構えて備える。


が、シックは剣を振り下ろさず盾の下を押し込むように蹴った。


テコの原理で盾が水平になり顔面ががら空きになったところに剣の持ち手で顔面を強打した


ブッと鼻血を出すシムウェル。


「き、きっさまぁぁぁぁ」


逆上したシムウェルは剣を振り上げる。


シックは振り上げられた腕の付け根の鎧で覆われていないところを下から斬り上げた。


ザシュッッ


「うがぁぁぁぁっ」


シムウェルの右腕が斬り落とされてうめき声をあげ、斬られた所から血が吹き出る。シムウェルは左手で吹き出る血を止めようと押さえながらシックをにらみ付けようとした時に喉元へ剣先を当てられた。


「それまでっ!救護員急げっ」


救護員二人に連れられていくシムウェルは許さんっ!許さんぞぉぉぉっと喚いていた。


「勝者 シック!」


うぉぉぉぉぉっ!


観客から大きな歓声が上がる中、シックは落とされた腕を拾って救護室に向かって走っていった。



シムウェルが腕を落とされたのを見て真っ青になるマルグリット。


「マリさん大丈夫だよ。母さんならあれくらい治せるから。シックが腕持って行ったから生やすより早く治るよ」


「え、えぇそうですわね・・・」


治せるとはいえ、知ってる者が腕を斬り落とされるのを見たら怖いよね。



「ぼっちゃま、アイナ様が居れば食べ物が無くなっても自分の腕食べたり出来そうですね」


ミーシャよなんて恐ろしい事を言うんだ・・・


ミーシャの発言に貴賓室はドン引きしていた。



今日はブリックが復活していたのでお弁当に作って貰っていた。お弁当のカレー味のホットドッグをミーシャが持って来てくれたがみんな自分の腕を想像したのか食べるのに躊躇しているようだ。


冷たいままでも美味しいんだけど温めて食べよう。


ごく弱い火を出してホットドッグを温め始めるといそいそとミーシャもホットドッグを置くので一緒に温めてやる。


それを見たダン、ジョン、ベント、アルも置いていく。ついでにアーノルド、エイブリックもだ。


「マリさんのも温めるからここに置いて」


え、えぇ・・・


まだ青い顔をしているマルグリット。ビトーがマルグリットのホットドッグを受け取り持ってきたのでビトーのも出させた。


ホワホワとホットドッグ達を温めていき最後に強火にしてカリッと仕上げた。


「便利だなこの魔法。こんな魔法の使い方を今度シャキールに教えてやってくれ」


エイブリックはそう言うが微妙な温度の上げ下げをする火魔法は結構難しいのだ。詠唱しながら出来るのだろうか?


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「大丈夫よビトー、ちょっと驚いただけ。鎧を着ていてもあんな風になるのね」


「マルグリット、あれはシムウェルのミスだ。というよりシックにはめられたんだな」


「どういうことかしら・・・?」


「殺しても良い戦いなら顔面を殴らずに喉を刺したらいいが、殺さずに倒すには鎧の無いところを狙うしかないからな。顔や喉以外なら脇しかなかったんだ。だから腕を上げさせた。顔を殴ったのはプライドの高そうなシムウェルを逆上させるためだな」


アーノルドは解説をする。


「シムウェルが勝てる方法はありましたの?」


「シックにどこまで通用するかわからんが、こう鎧で囲われた部分をだな」


アーノルドは身体を使って説明する。要するに鎧の無いところを出さずに剣も身体ごと回転するように振るような仕草を見せた。


「アーノルド様、シック殿が攻撃されてきた時にはどのような対処が正解だったのでしょう?」


「せっかく盾持ってんだから、盾ごと体当たりすれば良かったと思うぞ。あいつはそれをせずに攻撃を待ったからな。そこからもう負けだ。これは何かを守る戦いじゃないからな。シックはシムウェルの戦い方を試す為にわざと大振りするように見せたんだ。あそこでシムウェルが突っ込んでくるようなら戦法を変えてただろうな」


へぇ


「父さんが鎧着てる側ならどうしてた?」


「ん?わざと誘って盾蹴らすだろ?盾がこう傾いたらそのままドンっだ。相手はこっちに向かってくる勢いもあるから盾の先で喉を突いて終わりだ」


「そんなの相手が何してくるか読みきってないと無理じゃないか・・・」


横で聞いてたベントがそうアーノルドに言う。


「読むってのはな、相手の事を良く見ておくってことだ。その上で何パターンも攻撃を予測する。一つしか想定してないと外れたら終わりだ」


「良く見る?そんな当たり前のこと?」


「ベント、良く見るってのは難しいぞ。ぼっちゃんとやるとこっちの呼吸まで見られるからな。息を吐いた瞬間を狙われるとこっちの反応が遅れる」


「そうだ、ゲイルは何も教えてないのにそんな所まで気付きやがったんだ。息を吐いた瞬間に水魔法で顔を包んだりしやがるんだぞ」


アーノルド、それは俺の優しさだ。息を吸う瞬間を狙ったらいきなり肺に水が入って窒息するからな。


「ゲイル、お前そんな事までしてたのか?」


ジョンもびっくりして聞いてくる。


「ボアを倒すのに必要だったんだよ。無傷で暴れさせずに倒すのにね」


ほぉぉぉと感心するジョンとアル。冬休みが明けて学校に戻ったら相手の呼吸を見て立ち合いをやるらしい。


アーノルドはきっと他にも色々見てるんだろうな。



ほどよく温まり表面がカリッとしたカレー味のホットドッグをモグモグしながらゲイル達は優勝決定戦を待つのであった。


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