第295話 闘技会決勝戦 剣士部門その1
剣部門決勝戦は3人一組で一人が勝ち残り。くじ引きで組合せが決まり、組合せと共に決勝戦参加者の紹介がされた。
【第一組】
フランク(ディノスレイヤ領 衛兵団 団長)
マーキー(ディノスレイヤ領 衛兵団 副団長)
ジャック(スカーレット領ギルド所属 冒険者)
【第二組】
ナル(冒険者 所属無し)
ビッケ(ディノスレイヤ領ギルド所属 冒険者)
トタン(冒険者 所属無し)
【第三組】
シムウェル(スカーレット家 筆頭護衛)
シック(ディノスレイヤ領 冒険者兼講師)
ランネル(ディノスレイヤ領 冒険者)
ざわざわ ざわざわ ざわざわ
おいおい、スカーレット家って東の辺境伯様だよな?
そこの筆頭護衛だとよ。
そんなやつまで参加してたのかよ。
もう優勝決まったようなもんじゃねぇか?
シムウェルの紹介にざわめく観客。
「ナルさんは愛称で登録したんだね」
「個人参加だからな。身分を明かす必要も無い。それに比べてお前のとこ大丈夫か?」
エイブリックはマルグリットに聞いた。
「問題でしょうね。本人が希望して領主が許可した以上、仕方がありませんわ」
「予選は乱戦で倒れなかったものが勝ち残りだったけど、決勝も鎧着るのかな?狙い打ちされそうなんだけど」
「ゲイル様、決勝戦は真剣勝負なので鎧の方が有利なのではないですか?」
「守りだけならね。でもスピードが遅くて攻撃当たらないだろうし、二人から狙い打ちされて終わると思うよ。同じ組にシックがいるから鎧脱いでもスピードで追い付けないかもしれないけどね」
「あの組にはそのような者がおられるのですか?」
「あのシックは冒険者ギルドの講師もしててね、ダンより少し弱いくらいなんじゃないかな?父さんどう思う」
「そうだな、スピードはダンの方が上だろうな」
「スピードはって?」
「あいつもオットーみたいな戦術を取りやがるからな。それにはまるとダンも苦戦するかもしれんな」
へぇ、学校で立ち合いした時には分からなかったな。
「第一組は身内同士になっちゃったね」
「あの副団長は冒険者上がりだからな。面白い戦いになりそうだぞ。副団長が勝ったらフランクは悔しがるだろうな」
はっはっはっはとアーノルドは笑った。
「アーノルド、その副団長はフランクと同じくらい強いのか?」
「まぁタイプの違いだな。フランクは騎士系の剣、副団長は冒険者の剣だ。強さはどちらも同じくらいだな」
「エイブリック殿下、ディノスレイヤ領の衛兵までご存知なのですか?」
「あいつは元々王都の衛兵団長だった奴だ。平民だったから王都の騎士にはなれんかったが、腕だけで団長まで登りつめたやつだぞ。ゲイルに盗られちまったがな」
盗ったとか言うなよ。
「そのような方をディノスレイヤ領に行くことを許可されたのでしょうか・・・」
「あいつが望んだ事だ。王都にいるより居心地はいいだろ。あいつの上は貴族ばかりで肩身が狭かっただろうし、やっかみも多かっただろうからな。下のやつらからは泣かれたみたいだが」
殿下の料理人や王都の衛兵団長まで・・・
マルグリットは有能な人間がディノスレイヤ領に流れているのに驚いていた。
「お、始まったぞ。多分あのジャックてのが狙い打ちされてフランクとマーキーの一騎討ちになるな」
アーノルドの予想はよく当たる。
「けっ、田舎領の衛兵ごときにやられるかよ」
「団長、準備運動してくるぜ」
ふふんと笑ったフランクはその場で動かず見ていた。
「お前わざわざスカーレット領からやられに来たのか。ご苦労なこったな」
「うるせぇ、田舎の大将様よ」
ジャックが斬りかかったがマーキーはひょいと避ける。
「残念ながら俺は大将じゃねーよ。まだなっ!」
マーキーは変な剣の軌道でジャックを斬る。
「なんだ、その変な剣は?ろくに剣も振れねぇ癖に決勝戦に出てんじゃね・・・」
ガクッとその場で倒れこむジャック
えっ?
「聖女様に治療して貰え」
「うぎゃぁぁぁぁ」
ジャックの右足から血が吹き出る。その右足は膝から下が取れ掛かってあらぬ方向を向いていた。
救護員が慌てて飛んで来て傷口を縛って止血して運んでいく。その間もジャックの叫び声が会場に響き渡っていた。
「団長、お待たせ ニコっ」
「ニコっじゃねぇ。気持ち悪い」
軽く言葉を交わした二人から笑顔が消え、構えながら向かいあった
「副団長の剣筋がなんか変だったね?」
「顔への横斬りから斜め袈裟斬り足元への横斬りだな。円を描くようにやりやがった。顔と胴はフェイントだったみたいだがジャックは何も反応出来てなかったから、実質足元への横斬りだけで十分だったろう」
円を描く?そんなこと出来るのかな?
剣を持ったつもりで素振りしてみるけど上手くいかない。
ジョンとアルも同じようにしている
「おい、あれは決まった型がないから真似するな。本来のスタイルが崩れるぞ。特にジョンとアルは覚えなくていい」
マーキーの剣は我流なのだろう。決まった型が無いというのはやりにくいかもしれないな。さて正統派のフランクはどう対応するだろう?
マーキーは様々な攻撃を繰り出しているがフランクもうまくいなしていく。
「団長は上手いね。攻撃読んでるの?」
ゲイルはアーノルドに解説を求める。
「決まった型は無いが癖はあるからな。日頃の訓練で立ち合いもしてるから読めるんだろ」
慣れって奴か。それでも凄いな。
マーキーも癖を読まれているのが解ってるのかいなされても焦っている様子はない。
「ありゃなんか狙ってやがるな。読まれた癖を逆手にとってなにか仕掛けるぞ」
アーノルドの解説があるから非常に分かりやすい。ジョンとアルは窓にしがみついて見ている。
マーキーがいきなり軌道を変えて顔面を狙った。フランクは足元に攻撃が来ると予想した裏をかいたようだ。
「決まったっ!」
ブンッ ドシャッ
マーキーの攻撃が決まったかに思えたがフランクはすっと腰を落としてマーキーの脇腹を斬った。足元へ剣を下げたのは顔へ攻撃させる為の誘いと居合の型に持っていくためだった。
バッとマーキーの鮮血が飛び散る。
「痛ってぇぇぇ。やっぱ真剣で斬られると痛みが違うわ」
その場で膝を突いたマーキーは即座に救護員に運ばれて行った。
「第一組 勝者 フランク!」
うおぉぉぉぉぉっ
「最後の居合だったよね。いつの間に覚えたんだろ?」
「あいつは衛兵団の中で一番刀を気に入ってたからな、教えてやったんだ」
「剣でも出来るんだね」
「剣でも出来るさ。刀の方が様にはなるがな」
ジョンとアルは二人の戦いを見てめっちゃ興奮していた。
こうして第一組はフランクが勝ち残ったのだった。
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