第294話 シャキールと魔法談義
「うわぁぁぁぁぁんっ」
「ちっ、ルーラはまだ泣いてんのかよ。男の癖に裸見られたくらいでいつまでもメソメソしやがって」
「ジャックと違ってルーラは繊細なのよ。自分の事を女の子だと思ってるんだから」
「知らねーよそんなこと。準優勝の賞品も受け取らずに帰りやがって」
「ジャックが闘技会に出るって行ったからこんなことになったんでしょ?責任取りなさいよ」
「うるせぇ、ルーラより強いヤツがいるとか誰が想像出来んだよっ!なんなんだよあの攻撃は?まるで兵器じゃねーか?ディノスレイヤ領って化け物の集まりか?」
「でもあの聖女様っての凄かったわね。私はてっきりルーラが死んでしまったと思ったわ。私じゃ無理だったもの」
「そんなにすげぇのか?」
「当たり前じゃない。ルーラは黒焦げだったのよ。それがまったく跡も残ってないし、髪の毛も元通りよ。心の傷は治せなかったみたいだけど・・・」
会場から逃げ出したルーラは宿屋の部屋に引きこもって泣き続けてたいた。
「見られた。見られた。見られた。あんな汚ない物が付いてるのをたくさんの人に見られたっ」
ぐすぐす
「許さない 許さない 許さないっ。こんな目に合わせたあのババァは絶対に許さないっ」
うわぁぁぁぁぁん
「ゲイル殿の動きもよく分からなかったがアーノルド様はなんというか・・・」
「はい、今でも何がなんだかわかりません」
「ゲイルってあんなに強くなってたんだな。ベントは知ってたか?」
「何がどうなったかわからなかったよ。でも凄いやつだというのはわかってきた。勉強も僕よりずっと出来る」
ブリックがまだ復活しないのでバルに来ていた。ゲイル達はシャキールと話があるということで、個室を分けて食事をしている。
「ゲイル、色々とすまなかったな」
俺に向かって頭を下げるエイブリック。
「ほんとだよ。父さんに殺される所だったよ。真剣で頭狙われたんだぞ」
よくよく考えるとアーノルドの剣が頭に当たってよく死ななかったよな。
「頭に当てるつもりはなかったんだがいきなり身体が言う事をきかなくなったんだ。スマン」
剣が溶ける程の電撃を浴びてまだ動けた方が驚異だ・・・
「二人とも無事で良かったわ。アーノルドの剣は残念だったけどね」
「あれは俺の宝物にしようと思う。部屋に飾っておこう。息子にやられた記念だ」
「父さん怒ってないの?」
「道具はいつか壊れる。それが俺のミスではなく相手の実力、しかも自分の息子だ。怒る訳がない」
そう言ってくれるとこっちの心の負担も減る。
想像してたより10年くらい早かったがなと言ってからアーノルドは酒を飲んだ。やっぱり少し悔しいらしい。
「ゲイル様、これまでの失礼な態度をお詫び致します」
シャキールが俺に頭を下げる。
「シャキールさん、俺に様もいらないし敬語もいらないよ。普通にしゃべって。そういうの苦手だから」
でもと言い掛けたシャキールにゲイルの望み通りしろとエイブリックが命令した。
「ではゲイル殿、私の事もシャキールとお呼び下さい」
呼び捨てでと言われて、わかったと返事した。
「ゲイル、これは内密だがシャキールはエルフの血を引いているらしくてな。こう見えても父上より年上なんだぞ。ドワンと同じくらいじゃないか?」
「ハーフエルフ?」
「いえ、そこまでエルフの血は濃くありませんわ。父も母も人間でしたから。なぜか私だけあまり歳を取らないことを不思議に思っていたら母が死ぬ間際にその事を教えてくれましたの」
先祖返りってやつだろう。身体は人間でも魂はエルフなのは確定だな。しかし身体も魂に影響されるのかな?
「ゲイル、シャキールに雷の事を教えてやってくれるか?」
シャキールが気絶している間に皆にした説明をする。
「そういうことでしたの・・・」
「そう。シャキールさんの究極魔法って言うのはかなり効率が悪くて魔力をたくさん使ってるんだよ。発動にも時間が掛かるから父さんみたいに対策取られることもあるしね」
「ゲイル殿はどのように?」
「単に魔力を電気に変換しただけ。ファイアボールとかウォーターボールとかと同じだよ」
「ファイアボールと同じ・・・?」
「そう。魔法ってさ自分の魔力を違う物に変換するんだよ。だから元々は同じもの。変換したいものをよくイメージして魔力を込めれば変換されて具現化されるんだよ。だから詠唱もいらない。多分詠唱はそのイメージを高める為にやってるんだと思うんだよね」
「ゲイル殿は無詠唱の使い手ですわね?どこでそれを?」
「なんかこうなればいいなっと思ってやったら出来たから誰かに教えて貰ったわけじゃないんだよね」
えっ?
「いや、他にも火が点いてって思い続けて火魔法使えた人も知ってるからそんなものだと思うよ」
「魔法は詠唱を使ってするものだと・・・」
「うん、詠唱で魔法を覚えちゃうとダメみたい。知らない魔法なら無詠唱で使えると思うよ」
「それならもう私には無理ですわ・・・。ほとんどの魔法を詠唱で覚えてしまってますもの」
ものすごく残念ですそうな顔をするシャキール。頑張って覚えた詠唱が邪魔するとか言われたらねぇ・・・
「ゲイル、お前への詫びにシャキールからなんか教えてもらいたい魔法はないか?」
「それなら結界魔法ってある?」
「ごめんなさい、あれは魔法陣を使うものなの。専門外だわ」
そっか残念・・・
それ以外にも拡張魔法、通信魔法とか便利そうなのは全て魔法陣だった。申し訳無さそうな顔をするシャキール。
「あ、保存魔法ってのは?」
「それなら魔法陣を使うのと魔法と両方あるわ。詠唱はぶつぶつ」
「ごめん、詠唱覚える自信ないわ。ちょっとこの唐揚げに掛けてみてくれない?」
シャキールに俺の腕を杖換わりに魔法を唱えて貰った。なんだろうな?この感じ。光にも色が付いてないし、単純な魔力との違いがわからない。
「どうかしら?」
「うん、魔力が流れているのは解ったんだけど、それ以外はわからなかったよ。残念」
保存魔法は是非とも覚えたかったが目に見えないし、魔力しか感じ取れなかったからな。これはどうしても必要ならば詠唱を覚えるしかないのかもしれない。
「この魔法は詠唱を覚えたら使えるようになるかな?」
「詠唱しても使えない魔法はたくさんあるわ。大抵の人が一種類か2種類の魔法しか使えませんもの」
シャキールは様々な魔法を使えるし威力もあるから宮廷魔導士でトップなんだとエイブリックが教えてくれる。お前は自分が異常なんだと早く自覚しろと言われた。
何気なく保存魔法を掛けられた唐揚げを鑑定してみる。
【唐揚げ】魔力1/1
ぶっ!
「なんだゲイル、汚ないぞ」
「ごめん、ごめん、ちょっとジュースが気管に入っちゃって」
なんだ?唐揚げに魔力?
違う唐揚げを見てみると魔力なんて項目が出て来ない。
試しに普通の唐揚げに魔力を注ぎ込むと同じく魔力の項目が表れた。
なるほど、魔力が無くなると劣化が始まるのか。ということは保存魔法って魔力を与える魔法なんだ。どうりでシャキールの魔法は単純な魔力しか感じなかった訳だ。
「シャキールありがとう。保存魔法の事が解ったよ」
えっ?
「何が解ったのかしら?」
「俺も保存魔法が使えるってこと」
「さっきはわからないと・・・」
「魔法の色が見えなかったから不思議だったんだよね」
「魔法の色?」
あちゃーと顔に手をやるエイブリック。
あれ、これ内緒?
「ゲイルは魔法の色が解るんだよ。信じられんだろ?」
「ゲイル殿どういうことかしら?」
チラッとエイブリックを見ると好きにしろって感じのゼスチャーをした。
「俺、魔法が色付きで見えるんだよね。火魔法なら赤、水魔法なら青、治癒魔法ならピンクって。ちなみに雷は明るい黄色だったよ」
「と言うことは?」
「詠唱の段階でなんの魔法を使うか解る。身体がその色で包まれるから」
えっ?えっ?
「だからあの流星って魔法が来るのも解ったし、雷魔法は見たことが無かったから何だろうこの色はと思って警戒したらいきなり曇って周りがピリピリしたから雷だと解ったんだよね」
「全部読まれてたの・・・?」
「というか見えてたって所かな」
「あらゆる属性の魔法が使えて色々な知識があって発動前に何が来るなんて解ってたら当たるわけないじゃない・・・」
「ゲイルに対処するにはアーノルドみたいなやり方しか無いな。それですら難しくなって来ているからな。もう手に負えん」
「いや、母さんみたいな部位欠損まで治せる治癒魔法とか出来ないよ。なんでも出来るわけじゃない」
あらっ、と喜ぶアイナ。
「あのあのあの、保存魔法が解ったというのは・・・?」
「どうやら、魔力が無いものが劣化していくみたいなんだよね。だから唐揚げに魔力を入れてやるとその魔力が無くなるまで劣化していかないみたいな感じだと思う」
「何故、その様な事がわかったのかしら?」
鑑定の事は秘密だろうな。さてなんて説明しようか・・・?
「か、唐揚げに魔力を感じたからね。他の唐揚げには魔力感じないから」
うんうんと皆が頷いたので良い答え方だったのだろう。
「そう、魔力が・・・」
シャキールはそう呟いて何かを考え込んでしまった。
「ゲイル達はどんな話をしているんだろうな?」
「ジョン、人の事を気にする前に自分の出来る事を励め。そう言ったのお前だぞ」
「ベント、お前少し会わない間に変わったな。何かあったのか?」
「ううん、何も無いよ。現実を知っただけ。昔ジョンが僕に言った事が正しかったと思っただけだよ」
「そうか、それならいい。前よりたくましくなってるし、こうして美人のガールフレンドを連れて来るようになったんだからな」
「そうか、マルグリットはベントのガールフレンドか?」
ジョンとアルファランメルにからかわれて真っ赤になるベント。
「ち、違っ、マルグリットはただのクラスメイトでっ」
シルフィードの前でなんて事を言い出すんだジョンはっ!
慌ててベントが否定すると
「あら、何度殴られても身をていして私を守って下さったではありませんか?他のクラスメイトにも同じようになさるのかしら?」
「あ、あれはマルグリットを守る訓練で・・・」
「おお、ベントよ。お前はマルグリットを守る訓練までしているのか」
「だから違うってぇぇぇっ!」
ジョンとアルファランメルはベントをからかって楽しみ、マルグリットはそれに加担していたのであった。
その子供達の甘酸っぱい青春をナルディック達は微笑ましく見ていたのであった。
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