第293話 エイブリックの罠

「エイブリックさん何するつもり?」


シャキールはエイブリックが来た事で膝を突いて迎える。


「シャキール、こいつがゲイルだ」


エイブリックが頭を上げろとシャキールに言うともう一度頭を下げてから立ち上がる。


「初めまして。私はシャキール。宮廷魔導士よ。ゲイル・・・様とお呼びすればいいかしら?」


「優勝おめでとうシャキールさん。俺の事はゲイルでいいよ」


「あら、ありがとう。じゃゲイルと呼ばせて貰うわ。私の事もシャキールでいいわ。但し、あなたが負けたら様を付けて貰うわ」


は?負けたらってやっぱり・・・



ー貴賓室ー


「ダン殿、エイブリック殿下はゲイル様と何をするおつもりなのでしょうか?」


ナルディックがどうなっているかをダンに聞く。


「王子様のこった、ぼっちゃんとシャキールを戦わせんだろ」


「我々の時もそうでしたな。シャキール殿はお強いがゲイル殿には及びませんでしょうな」


「ナルディック、どういうことか?」


「アルファランメル様、エイブリック殿下は以前シャキール殿にゲイル殿の足元にも及ばないとおっしゃられた事がございまして・・・」


「それで父上にゲイルと闘う事を願ったのか」


「はい、そのようで・・・」



ー闘技場ー


「ゲイル、すまんな。これがシャキールへの褒美だ。遊びだと思って付き合ってくれ」


「別にシャキールさんが一番ってことでいいじゃない。宮廷魔導士で1位2位を争うような人なんでしょ。俺なんかに拘る必要ないじゃない」


「あら、私はゲイルの足元にも及ばないそうよ」


エイブリック、あんた何をいらんことを吹き込んでんだ。俺の事は秘密じゃなかったのかよ?


「ゲイル、こいつはプライドは高いが口も固い。心配せずに遠慮無くやれ。こいつは魔法使いが一番強いと思い込んでるんだ」


ナルディック達と同じで鼻を折ってくれということか。


「あら殿下、剣士を馬鹿にした覚えはございませんわ。殿下やアーノルド様みたいな英雄には敵いませんもの。試してみたことはございませんけど」


「な、ムカつくだろ?初めは剣で戦ってくれ」


「あら、ゲイルは魔法使いと聞いてますけど?」


「魔法勝負なら見んでもわかる。お前に勝ちは無い」


そう言われたシャキールはぶわっと魔力を膨らませる。沸点は低いようだな。すっと収めるスピードも早いけど。


「え~、取りあえず剣で戦えばいいのね?それならダンとかでも良かったじゃん」


「子供に負けるから意味があるんだろ」


負けると断定されて、プチッとシャキールの切れる音が聞こえる。


「ゲイル、魔法でも何でも使いなさいっ!殿下っ!私を馬鹿にするのもいい加減にしてくださいっ!」


あーあー、怒っちゃったよ。


「だ、そうだ。なんでも良いからこてんぱんにやれ。但し、瞬殺するな。シャキールの攻撃を受けてからやってくれ」


面倒くさいなぁ・・・、あのファイアボールの雨も対策考えてあるからいいけど。


「シャキール、お前にハンディをやる。少しの間はゲイルは攻撃をせんからお前から仕掛けていいぞ」


エイブリックはカッカしているシャキールを更に煽る。おいおいシャキールが怒りに震えてんじゃねーかよ。


「殿下に二言はありませんね。聖女様もおられますし死にはしませんものね・・・」


怒ってるのか笑ってるのかわからない表情のシャキール。女性のこういうとこ怖いんだよなぁ。マルグリッドみたいに分かりやすくぷんぷんしてくれるほうが可愛げがある。




「では始めっ!」


開始の合図と共に詠唱を唱えるシャキール。真っ赤なオーラに包まれてるからいきなりあのファイアボールの雨を降らすつもりなのだろう。アーノルドの言った通り隙だらけだな。剣だともう決着付いてたのに。


「食らえっ! 流星っっ!」


やっぱり。


俺は土の小屋を作ってそれを凌ぐ。壁が熱くなると嫌なので二重にしておいた。


ずどどどどどどどどっとファイアボールが降って来るがなんともない。空気が熱いので自分の周りを冷やした風でガードする。これ延々とやられたら酸欠になるよなぁとか考えてたらファイアボールが止んだ。


「ば、馬鹿な・・・」


「もう終わり?」


俺は土の小屋を解除してシャキールに聞いた。女の人には攻撃しにくいのだ。このまま諦めてほしい。


「えぇえい黙れっ!」




「ゲイルは何したんだ?」


ジョンはファイアボールだらけになった闘技場で何が起こっているのかわからなかったが、誰も騒がないのでゲイルが無事ということは理解していた。


「ぼっちゃんは単純に土の小屋作っただけだ。しょっちゅう小屋作ってるから慣れたもんだな。あれ物理攻撃でも壊すの苦労するぜ」


「あ、あのお宝探しの岩と同じか」


「そういうこった。防御用だから岩の目とか作ってないだろうからな」


「ではシャキールが今水をかけると不味いのではないか?」


「ぼっちゃんは二重で作ってるだろ?水掛けられても外側だけしか壊せん。あの瞬間でよく思い付くもんだ」


「げ、ゲイル様はいつの間にかあのような戦法を・・・」


「さっき一回見てるからな。そん時に対策考えてたんだろうよ。まぁ初見でもなんとかしてるとは思うけどよ」


ビトーは改めてゲイルの能力に驚愕した。護衛訓練の時もそうだったが瞬時の判断が異常に早い


「なぜゲイル殿は反撃せぬのだ?」


ナルディックがダンに聞く。


「王子様になんか言われてんだろよ。初めは攻撃受けてやれとか。ほれぼっちゃんがめっちゃ面倒臭そうな顔してるじゃねぇか。俺があそこにいたらまず俺とやれとか言ってたぜ」




「マジックポーション飲んでもいいよ。さっきの賞品なら全快するし」


シャキールは俺をめっちゃにらみつけながら自分のマジックポーションを飲んだ。


「もう容赦しないわよ」


今もしてなかったよね?


またぶつぶつと詠唱を唱えだすとシャキールの身体が金色の光に輝き出した。ここで身体強化?いや、金色じゃ無いな。薄い黄色ってとこか?なんの魔法だろ?


さっきまで明るかった空がみるみるうちに曇って雨がパラッと降ってきた。天井が無いからなと空を見上げると闘技場の上以外は明るい。


やべっ!


慌てて土の柱を何本かズンッと闘技場より高く伸ばした。


ピカッと光った瞬間 ばーーーんっと鼓膜を引き裂く様な音が響く。


危っぶねぇ、こいつ雷落としやがった。土の避雷針なかったらやばかったな。


避雷針を伝って会場に流れた電気はドワンが工夫した魔法を受け流す仕組みに吸いとられ感電することは無かった。


「な、何故平気な顔をして立っていられる・・・」


はぁはぁ言いながらシャキールが俺を見て呟く。


「当たってないからね」


「あ、あの魔法は避けることが出来ない究極の魔法なのよっ!」


長い髪を振り乱したシャキールがめっちゃ怖い。くるーきっとくるー♪とか聞こえてきそうだ。


ちらっとエイブリックを見るとコクンと頷いたので残り少なそうな魔力を吸いとった。


ぎゃあぁぁぁぁと悲鳴を上げて気絶するシャキール



「なんだったんだ?今のは?」


貴賓室にいる全員が何が起こったのか分からなかったのでとりあえず会場へ向かった。



シャキールはゲロゲロしながら気絶している。可哀想なのでクリーン魔法をかけてゲロまみれから解放してておいた。そのうち目を覚ますだろう。


「ゲイル、あの魔法はなんだったんだ?」


「あんな魔法初めて見たけど雷だね。あれ発動したら父さんでも避けられないと思うよ」


アーノルドも初めて見た魔法らしく俺に何の魔法か聞いて来た。


電気という概念が無いから荒天魔法とかでもいうのかな?雷雲を発生させてからの電気だからめちゃくちゃ魔力使うのだろう。単純に魔力を電力に変換したら効率がいいのに。



「エイブリック、お前は知ってたのか?」


「いや初めて見た。ゲイル、仕組みは解るか?」


「雷は静電気の凄い強いやつなんだよ」


「静電気?」


「物と物が擦れ合うと電気ってエネルギーが作られてね、それが溜まると行き場が無くなってどこかに行こうとするんだよ。それが落ちて来るのが雷」


???


「寒くなるとなんか触った時にパチってすることあるでしょ?」


うんうんと頷く一同。いつの間にかダン達も下りて来ていた。


「あれのめっちゃ強いのが雷なんだよ」


「どうやって雷を防いだんだ?」


「雷は一番近い所に落ちるからね、土の柱を伸ばしてそこに先に落ちるようにしただけ。会場におやっさんの魔力を流す仕掛けがなかったら地面から雷がこっちにまで来てヤバかったかもしれない」


まぁ、避雷針でなくても小屋でも感電自体は大丈夫だったろうけど鼓膜が破れた可能性があるから避雷針で正解だ。


「ワシのお蔭ということじゃな?」


「そうそう、またおやっさんに守られたんだよ」


俺がそういうとめっちゃ嬉しそうな顔をするドワン



「う、う~ん」


シャキールが目を覚ましたようだ。魔力切れから復活するの早ぇな。


「わ、私は何の攻撃を受けたのかしら・・・?」


まだぼーっとしているシャキール。


「お前はゲイルに魔力を吸われて気を失ったんだ。魔法使いも魔力が無くなればどんな魔法を使えても無力だろ?俺に足元にも及ばんと言われた意味が解ったか?」


エイブリックがシャキールにそう言い捨てる。


「魔力を吸った・・・?まさか伝説のリッチーの魔法が・・・本当に・・・」


「伝説じゃないぞい。ワシらは一度リッチーとやりあってるからの。唯一勝てんかった相手じゃ」


エイブリックが皆の前で余計な事を言うなとドワンを嗜める。


「あ、あの魔法はどうやって防いだのっ?絶対に避けることが出来ない究極魔法なのにっ!」


「お前が気絶している間にゲイルが解説してくれたぞ。仕組みも対処方法もな。まぁ、対処方法はゲイルにしか出来んだろうが」


「発動に時間かかるから父さん達にも対処方法はあるよ。避けられないやり方も出来ると思うけど」


えっ?という顔をするシャキール。


「一度見ただけで究極魔法の仕組みと対処方法を?しかも違うやり方ですって?」


アーノルドとエイブリックが対処方法を教えてくれと言うのでこそこそと耳打ちする。


「それで本当に対処出来るんだな?」


「もし失敗しても母さんがいるから大丈夫」


「よし、アーノルド。シャキールとやってみてくれ。まずはお前なりのやり方で。次はゲイルが教えたやり方だ。シャキール、賞品で貰ったポーション飲め。魔力が全快するらしいぞ」


賞品のポーションはとても小さい。こんな物で本当に回復するのかと半信半疑で飲み干すと本当に魔力が漲った。


「す、凄い・・・。遺跡からこんな物が・・・」


俺の作った魔力水ということは秘密だ。



「じゃ準備はいいな」


コクンと頷くシャキール。


「始めっ」


シャキールがぶつっと詠唱を唱えようとした瞬間にアーノルドの剣がシャキールの首に当てられていた。


アーノルド速ぇぇぇ


「う・・・っ」


「勝者アーノルド!」


開始から終了宣言まで1秒無かったんじゃなかろうか?


「英雄ってこんなに・・・」


「シャキール、ぼーっとすんな。解りきった結果だ。ほら2本目に行くぞ。アーノルドは攻撃無しでシャキールはさっきの雷を撃て。当たればお前の勝ち、回避出来たらアーノルドの勝ちだ。いいな」


あうあうするシャキールに早くしろと怒鳴るエイブリック


「始めっ!」


開始の合図とともにスッと動くアーノルドを見失うシャキール。


「アーノルド、じっとしとけ。試合にならんだろ」


もう何がなんだかわからないシャキール。立ち止まったアーノルドに向けてぶつぶつと詠唱を唱えだすと雷雲が発生し、辺りがピリピリしてくる。アーノルドはさっと剣を地面に刺してその場から離れた。


ちゅどーーーーんっ


剣に雷が落ち、その場を離れたアーノルドは無傷だった。


「勝者アーノルド!」


「そ、そんな・・・、私の究極魔法がこんなに簡単に破れるなんて・・・」


「シャキール、世の中には強いヤツが山のようにいる。自分が一番だとか自惚れてると死ぬぞ」


・・・

・・・・

・・・・・


ポロポロと泣くシャキール。


それを無視するエイブリック。


「ゲイル、お前アーノルドとやってみてくれ。解説したくらいだからもう使えるんだろ?」


ぐすぐすしながら、はっ?という顔をするシャキール。


確かにコソッて試したら出来たけど、そこまでシャキールを追い込む必要があるのか?


「で、殿下っ!確かにゲイルには負けましたが見ただけで究極魔法が使えるわけがっ・・・」


「見てれば解る。ほらゲイル構えろ」


あーあーあーもう。アーノルドがもう金色に光ってやがるじゃないか。


「父さん、言っとくけど雷の魔法だけじゃ無いからね」


一応他の魔法も使うと牽制しておく。これで一瞬でも警戒してくれてたらチャンスが増えるのだ。


それに反してあっさりと望む所だと答えるアーノルド。


ヤバいな。俺もがっちり身体強化をしておこう。目もガンガン強化だ。こうしないとアーノルドの動きが見えないからな。


俺が身体強化しているのに気付いたアーノルドはふふんと笑う。


集中しろ~ 集中しろ~


かつての洞窟でやった稽古をイメージしていく。どんどんと自分の気配を周りの空気と同化させて・・・


「あ、あれ?ゲイルがそこにいるのにいない・・・」


ジョンとアルは俺の気配が消えていく事に驚いている。


「ぼっちゃん、また上達してやがる・・・」


ダンは唇を噛み締める。



「始めっ!」


周りがスローモーションみたいに見えてるのにアーノルドはその中でも速いっ!


しかしっ!


ちゅどんっ!


剣に電撃ショックだ。


ビクンと硬直しながらもアーノルドは剣を振り抜きやがった。しまったもっと遠慮なく電撃を強くするんだった。


ガツンとアーノルドの真剣が頭に当たる。おもいっきり身体強化していたので斬られるまではいかなかったが強烈な衝撃と共に俺は気を失った。



はっと気が付くと俺はアイナに膝枕をされて、ミーシャとシルフィードがほろほろと泣いていた。


俺、死んでないよね?


手をぐーぱーぐーぱーしてみるとちゃんと動いたので生きているようだ。


「あーあ、負けかぁ」


「引き分けだゲイル。アーノルドも伸びてるぞ」


エイブリックがそう教えてくれる。


「ゲイル、無事かっ?良かった気が付いたか。死んだかと思ったぞ。しかし、父上と引き分けるとは凄いじゃないかっ!」


ジョンとベントも俺を心配して覗き込んでくれてたようだ。はた目には俺がアーノルドに頭を叩き斬られたように見えたのだろう。


「母さんありがとう。ミーシャもシルフィードも泣くな。もう大丈夫だ。それより父さんは生きてる?」


「大丈夫よ。剣はダメになっちゃったみたいだけどね」


そう言われてアーノルドの剣を良く見ると溶けたような形跡がある。弱かったと思った電撃は想像以上に強かったみたいだ。


「おやっさん、父さんの剣は直せる?」


「もう元には戻らんじゃろ。見た目は同じに出来ても元通りにはならん」


そうか悪いことしちゃったな・・・。ずっと使い続けてた剣だと言ってたからな。



うう~ん・・・


目を覚ましてばっと起き上がるアーノルド。


「うおっ、俺は負けたのか?」


「引き分けだアーノルド。まったくこんな小さな子供に引き分けるとは衰えたんじゃないのか?お前本気出してたろ?」


「ば、馬鹿いえっ!ちゃんと手加減を・・・」


エイブリックがアーノルドの剣を指差す。


「あーーーーっ!」


「父さん、ごめん。思ったより威力が強くて・・・」


「そうか、俺は剣をダメにしちまったか。そうか・・・」


やっぱり落ち込むよなぁと思ったらあっはっはっはっはと笑いだした。


「そうか、俺の剣を初めてダメにした相手が息子か」


ん?


「アーノルドはね、ゲイルの成長を喜んでるのよ。剣がダメになったことよりね」


そしてそのまま、あーはっはっはと大笑いを続けるアーノルドであった


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