第292話 闘技会優勝決定戦 魔法使い部門

「買ってきたぜ」


ダンとミーシャが闘技場周りの屋台から色々なものを買ってきてくれた。ブリックが昨日の酒でダウンしていたから朝飯も昼飯も作って貰えなかった。あいつは自分から飲むタイプじゃないのにガンガン飲まされてたからな。


「屋台で唐揚げが売ってるのか。なかなか旨いな」


唐揚げ大好きエイブリックはさっそくパクつく。


「最近売るところが出来たみたいだね。片栗粉も量産体制が整ったから売ってるし」


「唐揚げのレシピ買っていくやつが出てきておるからの。蛇祭りで食った味が忘れられんかったんじゃろ」


「唐揚げの屋台はすげぇ行列だったぜ。串肉屋も唐揚げ屋になるやつ増えていくだろうよ」


「ソーセージやベーコンまであるのか?」


「それは肉屋から仕入れてんだろ。大きめのソーセージを串に刺すだけだから仕込みも楽だしな」


おお、フランクフルト的なものまで出て来たか。トマトソースだけどケチャップ作ったら売れるかもしれないな。


「まったく、王都の貴族どもが知ったらひっくり返るぞ」


「元々うちのレシピは庶民向けのが多いからね。まさか社交会に出るとは思ってなかったから。チュールの北京ダックとかは社交会に向いてると思うけど」


「ペキンダック?」


あー、しまった。チュールは鴨の揚げ焼きって説明してたのに元の世界の名前で呼んじゃったよ・・・


「お前、あの料理知ってたんだな?」


「あ、いや・・」


「チュールが考えたってのは本当なんだな」


「それは本当。出て来た時にびっくりしたからね」


「なぜ今まで作らなかった?」


「忘れてたんだよ」


「忘れてた?」


「あ、いや、その、作り方をね・・・」


食ったことあるけど北京ダックなんて自分で作らないからな。


「ふん、まぁいい。作り方を思い出したものがあればその都度教えろ」


「はひ・・・」



ふと子供達を見るとみな口の周りがトマトソースだらけだ。ダンは袖が汚れてるのでそれで口を拭いやがったんだな。


「ミーシャ、皆に口を拭く奴を渡して・・・」


ミーシャよお前もか・・・


自分のハンカチでミーシャの口を拭いてやり、皆にも拭けと言っておいた。



「ゲイルはずいぶんとミーシャには優しいのね。」


と、マルグリットに言われる。


「ずっと一緒にいるからな」


娘みたいなものだとは言えない。


「それでも主人がメイドの口を拭ってあげるなんて聞いた事がありませんわ」


そもそも他の貴族は主人とメイドが一緒に飯食うことも無いだろうからな。


「マリさんの口も拭いてやろうか?口の周りがトマトソースだらけだぞ」


俺にそう言われて、かぁぁぁぁっと赤くなったマルグリッドは慌てて自分の口を拭いた。



ー闘技会会場ー


「ただいまより魔法使い部門 優勝決定戦を行います!相手が倒れるか降参させた方が優勝ですっ!」


いよいよ優勝決定戦が始まる。



「二人とも魔力補充して来て準備万端ってところだね」


「あぁ、初っぱなから大技で仕掛けるか小技でスピード重視でやるか見物だな」


「父さんならどっちがやりにくい?」


「大技だと盾役がいないと楽勝だな。動きが速いっても魔法使いの動きなんて知れてるから詠唱している間に倒せば済む。小技で数打ちされたら面倒なのは確かだ。オットーみたいなタイプの方がやりにくいな。罠を警戒しながらの戦いになる」


と言ってもアーノルドのスピードならどちらも問題無いのだろう。


始めに仕掛けたのはルーラの方だった。アーノルドの言ったスピード重視の数打ちだ。シャキールは避けながら詠唱を続けている。初戦と同じようにいきなり大技を出すつもりなのだろう。


「シャキールは余裕ありそうだね」


「あいつの着ているマントは対魔法防御に優れてるやつだからな。多少当たった所で影響ないだろうから余裕があるんだ」


へぇ、そんなマントなんだ。


「おやっさん、そんな防具作れる?」


「どういう方法で防御してるか知らんが、ワシのは受け流すような作りにしてあるわい」


なるほど。ドワンの防具にもそういう工夫がされてるんだ。


細かい攻撃を数打つルーラのファイアボールがシャキールに何度か当たったがほとんどダメージを受けていない。


「あのマントかなり防御力が高いっ」


自分の攻撃が効かないことに渋い顔をするルーラ。


シャキールはファイアボールを食らった後、火炎放射器みたいな炎を出して杖を横払いする。


「なぎ払えっ!」


ぶわっと炎の波がルーラを襲う。


とっさにルーラは氷の柱を出してそれを防いだ。


おおぉぉぉっ~


会場から一斉に驚いた歓声が上がる。


「あのルーラってのもなかなかやるな。いい判断だ」


エイブリックは対戦相手の防御を見て誉める余裕がある。シャキールの勝ちを確信しているのだろう。


「くっ」


ルーラの顔が苦悶の表情を浮かべたかと思うと少し長い詠唱を始めた。小さなファイアボールは何発撃っても無駄だと判断したのだろう。


その隙を狙ってシャキールは小さなファイアボールの連打を繰り出す。詠唱させずに押しきるつもりか?


その内の何発かがルーラに当たるがこちらもダメージは受けていない


「ほう、あいつのマントも高い防御力だな」


アーノルドも感心している。ルーラもシャキールも少々食らうのは前提のようだ。


「ちいっ、舐めてたわ。あのマントがあんなに防御力が高いなんて」


シャキールは当たった時に決まったと思ったのにダメージが無かった事に驚いていた。


「いけっ!アイスランスッ!」


ルーラが放ったのは無数の氷の槍だ。氷の槍だと物理的にも攻撃力がある。


「小癪なっ!」


そのアイスランスをファイアボールで撃ち落として行くシャキール。


今度はルーラ優勢だ。ドンドン繰り出されるアイスランスにシャキールはファイアボールで迎撃するのに精一杯だ。


「まずいな・・・」


エイブリックが呟いた。


「シャキールが負けそうなの?」


「いや、あいつイラつき出してやがる。アーノルド、ここの闘技場はどれくらいの魔法に耐えられる作りだ?」


「いや、知らん・・・」


アーノルドは建築に携わってないからな。


「土台と壁は俺が土魔法でかなり丈夫に作った奴だから大丈夫だと思うけど、観客席に直接飛んだり木造部分に当たるとまずいかも」


「一応、どこに当たっても受け流す仕組みはしてある。観客に直接当たると知らんがな」


ドワンはミゲルと相談してそんな工夫をしてくれていたらしい。知らなかったな。


「それなら大丈夫か・・・」


そうボソッとエイブリックが呟いた後、


「キャッ!」


アイスランスの1本がシャキールの肩を貫いた。


ルーラのチャンスだ。ここで叩き込めれば優勝というところでマジックポーションを飲みだした。あれだけ撃ったら魔力が切れてもおかしくない。


攻撃を食らってぶるぶると震えるシャキールがゴゴゴゴゴゴと真っ赤なオーラに包まれながら詠唱を唱えている。


魔力が回復したルーラが引き続きアイスランスを繰り出し始めトストスとシャキールに当たって手や足が貫かれているがお構い無しに詠唱を続けている。


「あれヤバくない?」


ドンドンと赤いオーラが膨れ上がっている。


「来るぞっ!」


エイブリックがそう言った時、


「食らえっ! 流星っっっっ!」


ずどどどどどどどどっ


ルーラの頭上からファイアボールが雨のように降り注ぐ。


「きゃぁぁぁあっ」


闘技場一面に降り注ぐファイアボールに逃げ場は無い。ルーラは氷の屋根で防ごうとするがお構い無しにファイアボールが降ってくる。


ついに氷の屋根が砕けちりファイアボールがルーラに直撃した。


その瞬間アイナがピンク色の光を纏いながら闘技場に飛び出して来てルーラに治癒魔法を掛けた。


黒焦げになったルーラがみるみる内に元通りになっていく。


「勝者!シャキール!」


そう宣言された後にシャキールも膝を突く。アイスランスにやられた所も自分で治癒したようだが魔力が残って無いのだろう。


うわぁぁぁぁぁっ!

すげえ、すげぇ戦いだ!

聖女様もやっぱりすげぇ!あんな黒焦げになった女の子・・・を・・?


ざわざわ


歓声からざわめきに変わっていく



「きゃぁぁぁっ!」


治療が終わって自分が負けた事にぼーぜんと全裸で立ち尽くしていたルーラがいきなりしゃがみこんだ。


服も完全に燃やされたルーラには見慣れた物が付いていた。


「あの娘・・・、男の子だったの・・・?」


「ぼっちゃん気が付いてなかったのか?」


「ずっと女の子だと思ってたよ」


いや臭いが違かっただろ?とダンに言われたが俺にはそんな獣じみた嗅覚はない。



どよめきとざわめきが収まらない会場。ルーラは毛布にくるまれてアイナと退場していった。


会場はあちこち焦げてはいるが壊れてはいない。シャキールも怪我は治っているがボロボロなので少し時間をおいてから表彰式をすることになった。



会場を掃除して表彰式の準備が進む



「アイナはさすがだな。とっさの判断のお蔭でシャキールは相手を殺さずに済んだ。ヤバイと思って詠唱を済ませてくれてたんだろ」


ピンク色に光りながら出て来たからその通りだな。


「あの攻撃何?」


「アイツは一人で大魔法攻撃が出来る。まさかとは思ってたが個人向けに使いやがった。まぁそれだけあのルーラって奴に追い詰められてたんだけどな」


「何本も氷の槍が刺さってたのに凄い精神力だね」


「あいつは宮廷魔導士の中でも1位2位を争う実力だからな」


「そんな人を闘技会に出したの?反則じゃん」


「あいつがどうしても出たいと言って来てな。言う事を聞かなかったんだ」


「わざわざ地方の大会になんでそんなに拘るの?」


「それは後で話す」



「それではこれより表彰式と賞品の授与を行います。」


まず決勝戦に参加したものが呼ばれ、魔力全快ポーションとバルのチケットという板を渡された。



「準優勝 ルーラっ!」


ざわざわ ざわざわ


ルーラの姿がどこにもない。司会が何度も呼ぶがルーラは出てこなかった。おろおろする司会者。


治療院の従業員が出て来て何かを司会者に告げている。


「え~、準優勝のルーラは帰ってしまったみたいですので準優勝を辞退したものと見なします。繰り上げ準優勝としてシシリー出て来て下さい」


シシリーは唯一オットーを倒したということで繰り上げ準優勝ということになったらしい。他の魔法使いは誰も倒してないからな。今からもう一度バトルする時間も無いし。



えっえっえっえっ?と驚くシシリー


「早く行けっ!」


オットーにドンッと付き出されたシシリーは準優勝の賞品をもらっていた。


「第一回 ディノスレイヤ領闘技会 魔法使い部門優勝ぉぉぉ シャキールぅぅぅぅ!」


うぉぉぉぉぉ!

凄かったぞー


うわぁぁぁぁぁっ


凄い歓声の中でシャキールは賞品を辞退しようとした。アイナが居なかったら相手を殺してしまって失格になっていたからだと言う。


おろおろする司会者。


アーノルドがいつの間にか会場に降りて司会者からマイクを奪った。


「シャキールよ、見事な戦い方だった。実際に相手は死んではいないし勝ったのはお前だ。胸を張れ。それが勝った者の役割だ」


おぉぉぉぉっ


アーノルドのマイクパフォーマンスに盛り上がる観客。


それを聞いたシャキールは頭を下げ、賞品を受け取った。


なりやまぬ歓声に手を上げて応えるシャキール。


表彰台から降りた後、賞品の杖をシシリーに手渡した。


えっえっえっえっ?


「本当はあの娘・・・、いえあの男の娘にあげようと思ってたんだけどいなくなっちゃったから貴女にあげるわ」


「こ、これは優勝賞品のとても高い杖で・・・」


「私にはこの杖があるから貰っても使わないのよ。あなたならあった方がいいでしょ?いらないなら他の人にあげるけど・・・」


「いえっ、頂きますっ!ありがとうございます」

 

テレレッテッテッテー♪


シシリーはドワンの杖を手に入れた。



「あれ?シャキールは杖をあげちゃったよ」


「あいつは自分の杖があるからな。他のは使わんだろ」


「そんなにいい杖なの?」


「いい杖かどうかは知らんがあれは形見だからな、たとえドワンの杖の方が性能が良くても使わんだろ」


なるほど、そりゃ自分の杖を大事にするわな。宮廷魔導士でトップクラスならお金も持ってるから売る必要もないし。


「あの杖を貰った娘は何かの加護があるのかもしれんの」


確かにドワンの言う通りだな・・・ 鑑定したらきっとスキル幸運とかあるに違いない。




「魔法使い同士の戦いとは凄いものだな。あれらと剣で対峙する方法が思いつかん」


ジョンは魔法使いとの戦いを想定しながら剣を振る素振りを見せていた。


「ゲイル、すまんが一緒に闘技場へ降りてくれるか?シャキールに褒美をやらねばならん」


ん?俺が一緒に・・・?


「なんで?」


いいから来いと拉致されてしまった。


観客が全員闘技場から出たのを確認してからエイブリックは俺を引っ張って会場に出た。



嫌な予感するなぁ・・・



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