第290話 決勝戦前夜
「じゃ、まず火魔法と水魔法で岩を割るね。試しにこの岩を攻撃してみて」
ジョン、ベント、アルが攻撃してみるがびくともしない。アイナなら砕けるかもしれないがそれは黙っておく・・・・
ぐわっしゃっ!
「割れるわよ」
「か、母さん向けにはこっちで」
アイナには気の済むまでやってもらえるように小さくて硬いのを渡しておく。
ガゴンガゴンとあり得ない音が聞こえてくるが気にしないようにしよう。
もう一度ふつうサイズの岩を作るとアーノルドが斬りやがった。
「斬れるじゃないか」
「父さん達は別なのっ!実験にならないじゃないか」
まったくもうとぶつぶつ言ってるとエイブリックもうずうずしていたのでやめろと先に言っておく。
「え~、父さん達はカテゴリが違うから気にしないで」
ナルやビトー達も見に来ていたので目を丸くしていた。
「岩をまず火魔法で焼く」
だんだん赤くなる岩。
「みんな離れててね、今から水をかけるから」
水をかけると爆発したかのように一気に水蒸気が周りに立ち込める。
「うわっ!」
「だから離れろって言っただろ。火傷するぞ」
ベントが水蒸気を浴びて顔が赤くなったが火傷するほどでもなかったようだ。
「はい、攻撃してみて」
3人が攻撃するとがらがらっと岩が崩れた。
「本当だあっけなく崩れた」
「ガラスとかだと熱湯と氷で割れたりするんだよ。岩も同じ原理だね」
「へぇ、面白いな。あの水を凍らせるやつはどうなんだ?」
次は岩に少し穴を入れて作る。
「あのパーティーは少しずつ削ってこんな風に穴かヒビを入れたんだと思う。そこに水を染み込ませてから凍らせると・・・」
ピギッと音がして岩にヒビが入って割れた。
「こうやったんだと思うよ」
「すごいな。こんな簡単に割れるのか。なぜこうなる?」
「岩とか鉄とか何でもそうなんだけど温めると膨らんで、冷やすと縮むんだ。水もそうなんだけど、他とはちょっと違っててね、凍ると膨らむんだよ。岩の隙間に入った水が凍って膨らんで中から岩を割ったんだよ」
縮む?膨らむ?
目では見えない膨張率を説明してもわからないか。
棒と穴の空いた輪っかを作ってギリギリ入らないように加工していく。
「じゃ、これでもう一度実験しよう。誰か棒も輪っかも壊さずにこの穴に入れてみて」
ガゴンガゴンやってたアイナはあの硬い岩も砕いたようでこちらを見に来たので壊さないように先に言っておく。絶対力ずくでやるからな。
「穴が小さくて入らんぞ」
「じゃ輪っかを温めて、棒を冷やすよ」
火魔法で輪っかを温めて、棒を氷魔法で冷やす。輪っかは熱いので触らないように注意してからジョンに試させた。
「あ、簡単に入った」
「輪っかは温めたから膨らんで大きくなって、棒は冷やされて縮んだから入ったんだよ。そのまま置いておくと抜けなくなるから」
少し時間が経ってから棒を持ち上げると棒はがっちり輪っかにはまって抜けなくなっていた。
「へぇ、本当だ。見ただけでは分からなかったが本当に膨らんだり縮んだりしてるんだな」
「物によって膨らみ方や縮み方は違うけどね。こうやって実験するとわかりやすいでしょ」
「ゲイル、岩の目ってなんだ?」
ベントはそれも気になってたようだ。
「今度おやっさんの所に行った時には鉱石で試してみよう。俺が作った岩より天然のやつの方がわかりやすいと思うから。きっとおやっさんなら岩の目のこと知ってるよ」
「ドワンが?」
「自分で鉱石採ってたからね」
ビトーやナルも俺の説明を聞いて感心していた。こういう理科的な実験を学校でやればいいのに。義務教育が午前中の2年間だと文字と計算くらいしか出来ないのかな?
ーバルー
「結局パーティー戦は残れなかったわね」
「なんだよあの岩は。それより本当にあのチビが作った岩なのか?」
「多分。あの時の草と同じ感じがした」
「魔法であんな岩が作れるのかよ?何しても壊れなかったぞ」
「わからない。あんなの初めて見た」
「あのぼうやあれから見ないわね」
「ディノスレイヤにいるのは分かってるんだ。焦ることはねぇ。それより明日の魔法の決勝戦で優勝できるんだろうな」
「私の心配より自分の心配した方がいい」
「心配すんな、俺も決勝戦では本気だすぜ」
銀の匙は今日もバルで食事を取っていた。
「あーー、また負けたっ」
「よーし、次は俺がゲイルに挑戦だ」
「マルグリッド殿、次は自分とお願いします」
「ジョン様、手加減しませんわよ」
大人達は食堂で飲んでいるので子供達は俺の部屋で五目並べをしていた。
板にマス目を描いて白石と黒石を並べるやつだ。こうやってると親戚が集まってるみたいな感じがするな。
「ま、負けました」
「ジョン様は素直過ぎますわ」
俺は負けなしマルグリッドは俺以外に負けなし、ベントはジョンとアルには勝てる。次にアル、一番負け越しているのはジョンだった。
マルグリッド以外何度でも同じ手で勝てるのが笑える。
「何で勝てないんだよ」
俺に負けてぷりぷりするベント。
「自分の手しか見てないからだよ。相手がなぜそこに石を置いたのか考えずに自分のばかり置いていくから」
「ゲイル、これ面白いですわね。ディノスレイヤではこのような物が販売されてますの?」
「いやさっき作ったんだよ。こんなの販売しても自分で作れるから売れないよ」
板と石があれば出来るからな。もっと単純だと地面に描いても出来る。
「次は私と勝負ですわ」
マルグリッドは少し考えてるがまだまだ単純だ。誘ってやるとすぐ釣られる。
「きーーーっ!なぜ勝てませんのっ?」
あ、マルグリッドってこんな感情的になるんだ。勝負事って性格出るよなぁ。
「ちょっとなんか作ってくるよ。甘いものとしょっぱいものどっちがいい?」
「ぼっちゃま私が取りに行きますよ」
「いや、息抜きになんか作るよ」
全員がどっちもと返事をしやがった。
「何を作るんですか?」
「ポップコーンとポテトチップかな。ミーシャにポップコーン任せていい?」
食堂に降りるとブリックまで酒飲みに巻き込まれてやがる。ナルディック、ビトー、他の護衛達も一緒だ。エイブリックが居ても皆が普通に話しているのが面白いな。
「ぼっちゃま、ポテトチップってなんですか?」
「じゃがいもを揚げるんだよ」
「フライドポテトと何が違うんですか?」
「こうやって薄く切ってね、パリパリに揚げるおやつだよ。ポップコーンはキャラメル味にしよう」
じゃがいものスライスをゆっくり揚げていく間にキャラメルを作る。
ポテトチップは塩味にした。ポップコーンとポテトチップを部屋に持って行こうとすると。
「あら、ゲイル気が利くわね。これは何かしら?」
気が利くわねってなんだよ?
「俺達のおやつだよ」
ポテトチップをひとつまみするアイナ。
「あら、いいじゃない。あなた達はポップコーンでいいわね」
がっちりとポテトチップの皿をアイナに掴まれてしまった。もう取り戻すことは不可能だ。
「ミーシャ、ポップコーンを先に部屋に持って行って。ポテトチップをもう一度作らなきゃ」
早々にアイナに奪われたポテトチップを諦め、もう一度作る事にした。
なんか嫌な予感するよな。このまま延々とポテトチップを揚げ続けるはめになりそうな気がする。なぜなら食堂からこれ旨ぇとか聞こえて来たからだ。
多めに作っているけどあっという間に食べ尽くされて無くなるだろう。
揚げてる間にポテチの代わりに適当なツマミを作っていく。キュウリの短冊と味噌、枝豆、バターコーン、ミンチをピリ辛味噌で炒めた物とレタス、これくらいあればいいだろ。飯食ったんだからな。
揚がったポテトチップを自分達と酔っぱらいどもの分を分けてと・・・
「ぼっちゃん、なんかツマミねぇか?さっきの食っちまったぞ」
「そこに置いてあるから持って行って。足りなかったらブリックがいるだろ?」
「エイブリックさんに飲まされて潰れちまってよ、役に立たねぇ」
酷ぇ、無理矢理連れてった挙げ句役立たず呼ばわりするとは・・・
「ゲイル、これはなんだ?」
エイブリックまで来やがった。王子がこんな所に来るなよ。
「ピリ辛肉をレタスに巻いて食べるんだよ」
「お、旨いじゃないか。よしお前も来いっ」
ちょちょちょっ レタス包みの旨さと俺が連れて行かれるのと何の関係があるんだよ。
「ぼっちゃま、ポテトチップは揚がりました?」
「そこにあるよ」
「じゃ頂いて行きますね」
エイブリックにがっちりホールドされた俺を見てミーシャは何かを察したのかポテトチップだけ持って俺を見捨てて行きやがった。
「おぉー、ゲイル殿!自分の勇姿を見て頂けましたかな?」
ナルディックも上機嫌だ。
「ゲイル様、蛇討伐の時のお話をお聞かせ願えませんか?」
ビトーも飲んでるのか。敬語を崩してないが堅さが取れている。
「ゲイル、お前男にもモテモテだな」
アーノルドも上機嫌だ。アイナはポテトチップを摘まんではリンゴのお酒を飲むという動作を繰り返す。しょっぱいのと甘さのコンビネーションに陥落したらしい。
「あれ?ゲイルは?」
「魔物に捕獲されました。私達では救出困難だと思います。」
ミーシャにそう聞かされた子供達はそっと食堂を覗いた後、全員で合掌していた。
ゲイル、安らかに眠れ。お前の事は忘れない
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