第289話 闘技会予選 パーティー部門
「ゲイルよ、なぜあのように岩の大きさがバラバラなのだ?不公平ではないか?」
今日はパーティー戦の予選だ。岩の中にお宝という名のプレートが入っている。それを取り出した順に決勝戦へ進む。この予選も参加者が多い。50組くらいいるんじゃなかろうか?
「大きさや硬さとか色々変えてあるんだよ。パーティーには運も必要だろ?」
質問してきたジョンにそう答えると、
「お前は相変わらず嫌らしい設定を考えるな。どうせ簡単そうに見える小さい奴は硬くしてあるんだろ?」
エイブリックが呆れて聞いてくる。
「初めはハズレも用意しようかと思ったけど、当たりとハズレのヒントを考えるの面倒だったから全部当たりにしてあるだけマシだよ」
アーノルドがそれいいな、来年はハズレも混ぜろと言い出した。冒険者には観察力も必要だからだそうだ。
開始の合図と共にそれぞれのパーティーが岩を選んで攻撃を開始する
なんだこの岩は?びくともせんぞ
こっちは削れるけどデカ過ぎて時間が掛かりすぎるっ!
ファイアボールが効かないわ
水でもダメだっ!
それぞれが得意な攻撃をしていくがまったく進んで行かない岩の攻略。
「あれはそんなに難しいのか?」
「まともに攻撃したら時間掛かるよ。ベントならどうやる?」
「そんなのコツコツやるしかないじゃないか」
「それも一つの方法だね。大きめのやつならそれでもいけるけど、小さくて硬いのは無理だと思うよ」
「何か攻略法があるのか?」
「火魔法と水魔法使えるパーティが居たらすぐに攻略出来るね。そうじゃないパーティはベントが言ったように大きい奴をコツコツやるか岩の目を見つけたらすぐに割れる。小さいのには岩の目が無いから物理攻撃しかないパーティには無理だよ」
冒険者パーティの魔法使いは火魔法を使う人が多いし水魔法は遠征の時に重宝する。火と水が一番使い手が多いのだ。
「ゲイルならどう攻略するんだ?」
アルが聞いてくる。
「俺は土魔法を使えるからどれでも瞬殺出来るよ。土魔法の使い手ってほとんど見ないよね?便利なのになんでだろ?」
「地味だからだ」
エイブリックは間髪いれずに言い切った。基準がカッコいいか悪いかなのだろう。土魔法ってめっちゃ便利なのに・・・
ー闘技会会場ー
「くそっ、なんだこの岩は?びくともしやがらねぇ」
「他のに代えた方がいいんじゃないかしら?」
「馬鹿言えっ!こいつが一番小さかったんだぞ。これが一番早くに割れるに決まってる。ルーラ、もう一度火魔法で攻撃しろ」
銀の匙パーティーは一番小さくて硬い岩を選んでしまっていた。
ー貴賓室ー
「土魔法じゃない攻略方法は何がある?」
「火魔法で溶かす勢いで熱した後に水かけて急激に冷やしてやると割れやすくなるよ。小さくて硬い奴ほどそれが効く。下手したら冷した段階で割れるんじゃない?」
「そうなのか?」
「帰ったらやって見せてあげるよ。ここだと危ないから」
ジョンとアルにそう約束して会場に目をやると異変がおき始めていた。
大きな岩をコツコツと削っていたパーティーの岩を横取りしようとする奴らが出始めたのだ。
「父さん、他のパーティーを攻撃するのはいいの?」
「何でもありだ。どうせ決勝戦は戦う事になるだろ?ここでやられるようなら決勝戦に残っても勝てん」
実際の冒険なら手柄の横取りはご法度だがここでは周りがすべて敵だ。
なにすんだこのやろー
うるせぇ、殺しちまう以外なんでもありなんだろっ!
汚いぞお前らっ
あちこちで戦いが始まる中でコツコツやるもの、じっと横取りを狙うものなどパーティーの特色が良く出ている。
「もう何の予選やってるかわかんないね」
「祭りらしくていいじゃないか」
はっはっはっはと上機嫌なアーノルド。これだけ負傷者が出てるから、帰ったらオーガアイナが待ってるぞ。
負傷退場したものは怪我を治して貰っても予選には復帰出来ないのでポーション使ったりしながら戦っている。そんなもったいないことせずにコツコツやればいいのに。
その中の一つのパーティーが大きな岩を割ってプレートを取り出した。
よこせぇぇぇぇ!
一斉に群がる他パーティーをばっさばっさと倒していく。
「あのパーティー強いね」
「あいつらは灼熱の鳥って奴らだ。優勝候補だな」
「父さん知ってるの?」
「あちこち行ってやがるがディノスレイヤギルド所属のやつらだぞ。本当の冒険者ってやつだな。岩の攻略法を見つけたんだろ。ほら」
プレートを取り出された岩を見るとキレイに割れていた
「あ、ちゃんと目を見つけたんだ。正攻法で攻略したんだね」
「あのパーティーからプレート横取りしようとしているやつらはアホばっかりだな。実力差を考えたらまともに岩を攻略する方が可能性が高いだろうに」
アーノルドの言う通り、横取りに行ったパーティーは全滅していた。
決勝戦一番乗りは灼熱の鳥で決定。
どっせいっ!
ぶあっかーーん
大きな岩を砕ききったパーティーが出た。
「おお、力ずくでやりやがった。あのハンマーの威力凄いね」
「ありゃ黒蜥蜴の奴らだな。パワー重視のやつらだからあんなやり方で押しきりやがったか」
ごつい男のパーティーというか集団だ。他の冒険者達もビビって横取りしに行こうとは思わないようだ。
2番乗りは黒蜥蜴で決まりだ。
2組予選突破者が出たことで冒険者同士の争いも収まっていく。アホグループは駆逐され、戦い合ったパーティーは負傷退場で人数が減り、すでに諦めモードだ。
やった!穴が空いたわ
しっ、他の奴らにバレるから黙ってやれ。割れてもそっと動くぞ
空いた穴に水を入れて凍らしていけ
ピキピキピキ
パカッ
やっ・・・・
しーーーっ!
そっとプレートを取り出して持ち込んだパーティー森の風。
「3組目が予選突破しましたっ!残り一組ですっ!」
なにっ?
いつの間にか一組が予選を突破したことに驚く参加者達。
「ゲイル、あれはどうやって割ったんだ?」
「多分隙間に水を入れて凍らせたんだろね」
???
ジョンもアルもベントもなぜそうなるのか理解出来ないようだからこれも帰ったら実験だな。
水色の光が出ていたから多分そうだろう。この世界では珍しく頭脳的な攻略の仕方だ。その後の気配を消しながらの行動も見事だね。
「くそっ、何でヒビすりゃ入らねぇんだっ」
「あと一組よ、間に合うのかしら?」
「黙って見てないで手伝えよっ」
「あら治癒士が出来ることなんて治癒魔法かけることぐらいよ。魔法掛けましょうか?」
「うるせぇ!」
「あっ、この岩、良く見るとあの子の魔法の痕跡がある。魔法で作ったものだ」
「え? あのチビの作った物だと?」
「多分物理攻撃じゃ壊せない」
「ハンマーで砕いたやつとかいたじゃねーかっ?」
「岩によって違う攻略法があるんだと思う。これは魔法で攻略する必要があると思う」
「何で今頃言うんだっ!」
「今気付いたゴメン」
珍しく謝ったルーラにジャックはそれ以上何も言えなかった。この岩を選んだのが自分だったからだ。
「そこまでっ!最後の予選突破者が出ましたので終了です」
最後の突破者はずっとコツコツと岩を削っていた赤ヒゲというパーティーだった。
「なかなか面白かった。パーティーとなると個性がよく出てくるな」
アルは見ていてとても楽しかったらしい。騎士と違いそれぞれが得意な物を生かして違った攻略をするのが新鮮だったようだ。
「勝ち抜けたパーティーはみんな得意分野が違うね。決勝戦楽しみだね」
「あぁ、大会までに遠征が終わって良かった。釣りには行けなかったがこれを見られて満足だ」
「ゲイル、戻ったら岩の説明をしてくれるんだな?水を使ったヤツが全くわからん」
ジョンはずっと考えてたらしい。
いくら考えても知らないことはわからないからな。屋敷に戻ったら理科の実験だ。
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