第287話 闘技会予選 剣士部門

「うわっ、なんだこの参加者の人数?」


今日は剣士部門の予選だ。会場を埋め尽くす参加者の剣士達。


「剣は参加者が多いって言っただろ。本当は最初から勝ち抜き戦でやりたかったんだがな」


驚くゲイルにアーノルドが答える。


「これ、強そうな人が集団で狙われたりしないの?」


「まぁそれも腕のうちだ。優勝出来るような奴はどんな時でも勝ち上がるさ」


強いヤツが勝つんじゃない、勝ったヤツが強いんだってやつか?


これ相当怪我人出るだろうな。治療担当は昨日も救護室に待機だ。シルフィードも昨日から手伝いに行ってたけど出番は無かった。今日はアイナも救護室にいるからさながら野戦病院みたいになるだろう。木剣とはいえ倒したもん勝ちだからな。



「アル、ジョン。お前らならこんな状況だとどう戦う?」


「父上、自分には想像が付きません。いきなり後ろからも狙われるわけでしょう?」


と、アルファランメル。


「自分は全ての人が自分を狙っていると思って戦います」


ジョンは自分の考え方で答えた。


「そうだ。ジョン。周りは全部敵だ。逃走の時に殿しんがりを任されたらこんな状況になる。よく見とけ」


ジョンはおそらく近衛騎士になる。殿しんがりを任される様な状況に陥るとすれば王族が生き残りを掛けて逃走するときだろう。そんな時が来ないように祈る。



「ぼっちゃま、マルグリッドさんをご案内しました。こちらで良かったですよね?」


「遅くなってしまいました。まだ始まってないかしら?」


「あ、マリさんいらっしゃい。昨日の夜に来るかと思ってたのに」


「ん?マルグリッド?どこかで聞いたような・・・」


「え、エイブリック殿下・・・?」


さっと頭を下げて挨拶をするマルグリッド。


「エイブリックさん、東の辺境伯のお嬢様。マルグリッド・スカーレットさんだよ。ベントの友達」


「おぉ、スカーレット家の娘か。どこかで挨拶したことがあったな」


「はい、父と挨拶をさせて頂いた事がございます」


「マルグリッドよ、今日はプライベートだ。頭を上げよ」


「はい、お心遣いありがとうございます。エイブリック殿下」


「マリさん、うちの長男のジョンとエイブリックさんの息子のアルファランメルさんだよ」


「初めまして。マルグリッド・スカーレットと申します」


カーテシーで上品な挨拶をするマルグリッド。


ジョンとアルも挨拶を返す。


「エイブリック殿下、なぜこちらに?」


「闘技会を見に来たからに決まってるだろ?お前こそなぜここにいる?」


マルグリッドはエイブリックの乱雑な言葉使いに驚きつつもここに来た理由を答える。


「はい、我が家の筆頭護衛が大会に参加するものですから見学に参りました」


「何っ?スカーレット家の筆頭護衛だと?家を代表して参加したのか?それとも個人でか?」


「スカーレット家の代表としてでございます」


「アーノルド、なぜ止めなかった?」


「まぁ、それはうちが決める事じゃねぇからな。お前も人の事言えんだろ」


「うちは個人参加だっ!王家の代表じゃないぞっ!」


へいへいと返事するアーノルド。


え?誰が出るの?



うわぁぁぁぁっ!

おおおぉぉぉぉっ!


「始まったぞ」


大きな声と共に一斉に会場に居た剣士達が戦い始めた。


あれ?


「父さん、槍とかハンマーの人もいるけど?剣の戦いじゃないの?」


「別に構わんだろ。最後に立ってりゃ勝ちだ」


なんてアバウトな・・・


どんどん倒れていく参加者を雇われた冒険者達が救護室に運んでいく。ここから見ていても強い人は強い。ハンマー振り回してる人とか誰も近付けんじゃないか。


あ、槍の人が背中から斬られた。距離があると有利な槍も混戦だと不利だな。


あれ?


「あれナルさん?」


冒険者風の姿をしているが王家筆頭護衛のナルディックだ。


「良く分かったな。あいつらあれから死にものぐるいで訓練していてな、あれから随分と強くなったぞ。お前にその姿を見せるんだと張り切ってたから参加を許してやった」


「お、王家の筆頭護衛の方がご参加なさってるのですか?」


「以前、ゲイルにコテンパンにやられてな。それまで慢心してたのが嘘みたいに稽古にはげむようになったぞ。その成果をゲイルに見せたいと懇願して来やがったんだ」


「ゲイルにコテンパンにですの?」


「ゲイルは護衛団全員相手に容赦なく魔法使ってな笑いながらいたぶりやがったんだ」


なんて人聞きの悪い・・・


「あれ、エイブリックさんがやれって言ったんだからね」


「笑いながらやれとは言っておらん。お前に悪魔かなんかが乗り移ったのかと思ったぞ」


たしかにあの時ハイになってたけどさ・・・


「お前らちゃんと見ててやれよ。大分減って来たぞ」


アーノルドにそう言われて会場を見ると1/3くらいに減っていた。


「シムウェルも残ってますわ」


「お、ちゃんとナルディックも残ってるな」


「ダン、あれ銀の匙のリーダーだった人だよね?オークを狩って来てくれた」


「あぁ、そうだな。確かジャックだったか。こっちにもエントリーしてやがったのか」


マルグリッドはジャックこと、ジャンバックの姿を見て小さくやっぱりと呟いた。


約10人が決勝戦進出と聞かされているので確実に勝てる相手を狙ってるのだろう。だんだんと勝ち残りを決めそうなもの達はお互いに壁を背にして距離を取り出した。そこへ複数の者達が群がるがバンバン斬られていく。


「あいつらが勝ち残りそうだな。え~、1、2、3、・・・」


アーノルドが残りそうな者達を数えていく。


「9人か。3人一組で勝ち残りやって、残り3人総当たり戦にするか」


「10人残りそうだけど?」


「いや、あそこのは最後に力尽きるだろ。9人はまだ余裕があるがアイツはもうギリギリだ。相討ちとかで終わるんじゃないか?お前が会ったことあるって奴は上手く戦いを避けて生き残ってきたからまだ行けそうだし、その他のやつらは実力が抜けてるからな」


アーノルドってあんな混戦の中でも全体を把握してたのか。さすがだな。


「ぼっちゃん、冒険者学校のシックも残ってるぞ」


「あ、本当だ。出てるの全然気付かなかったよ」


「テキトーにやってんな。明らかに手を抜いてやがる。指導する癖が出てんじゃねーか?」


「シックって引退して指導側になったんだよね?」


「ゲイル、シックは現役だぞ。マーベリックに頼まれて後輩の育成してるだけだ。あいつは強えぞ」


そうだったのか?確かに強かったな。



あ、アーノルドの言ってたヤツが向かって来たやつを全部倒したのに自分も倒れた・・・


「決まりだな。9人が決勝進出だ」



【剣部門決勝戦進出者】

ナルディック(王家筆頭護衛)

シムウェル(スカーレット家筆頭護衛)

シック(冒険者学校講師)

フランク(衛兵団団長)

マーキー(衛兵団副団長)

ランネル(ディノスレイヤギルド)

ビッケ(ディノスレイヤギルド)

トタン(ディノスレイヤギルド)

ジャック(銀の匙)




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